この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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一万文字越えるかもとか言ってたけど全然そんな事なかった。


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『ようこそ、死後の世界へ。────さん』

 

 目の前に、水色の髪をしたまさに女神が目の前に居た。

 その神々しい姿と笑みに思わず息を呑む。

 あの時間で話し、込み上げてきた感情は、例え地獄に堕ちたとしても、決して忘れる事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマ達に言ったように1人城へと向かったダクネスはスズハの関係者という事で鎧と剣を取られた。

 それでもスズハへの面会が承諾されたことに安堵してクレアと数人の騎士に見張られた状態で案内された。

 城の地下にある部屋。

 最低限の明かりしかない部屋の中心に少女は座らされていた。

 扉を開けるとぼんやりとシルエットだけ見えるその姿は怯え、拘束された身体は震えながら小さくする。

 最初はてっきり長時間この部屋に拘束されていた恐怖からだと思ったが、暗い部屋に目が慣れてはっきりと座っているスズハを見えて違う事を理解する。

 叩かれた頬は痛々しく腫れている上に右手の人差し指と中指の爪が剥がされていた。

 もしもここに居るのがスズハ以外で、拘束されているのが見知らぬ誰かならば目の前の状況を羨ましいと思いつつ、剥がされた爪の痛みを想像して興奮出来たかもしれない。

 だが今のダクネスはスズハを拘束している椅子を叩き壊し、大暴れして逃がしてやりたい気分だった。

 しかしそんな事をしても何の解決にもならないので怒りを抑え込む。

 ダクネスが1歩部屋に踏み込みと、スズハの口からヒッ、と掠れた悲鳴が漏れた。

 だから安心させるために出来る限り優しい声音で話しかける。

 

「私だスズハ。ダクネスだ」

 

「ダクネス……さん?」

 

 ダクネスと知って若干力が抜けたようだがそれでも怯えは治まらない。

 大丈夫か、と訊こうとしたが、辛い目に遭わされたのが一目で分かるために止めた。

 

「遅くなってすまない」

 

「ダクネスさん……わたし……は……」

 

 もしかしたら、貴族であるダクネスが自分の味方なのか、測りかねているのかもしれない。

 ダクネスも同じパーティーの自分なら上手く聞き出せるかもしれないという条件で面会を許可されたので、一応の質問をする。

 

「スズハ。お前がアイリス様を刺したというのは、本当か?」

 

 その質問にスズハはビクッと体を震わせたが、それでも搾り出すように答えた。

 

「違い、ます……わたしじゃない……わたしは、知らない……!」

 

 それが精一杯なのか、項垂れて首を下に向ける。

 その体は未だに震えていて。

 傍に寄ってやりたいが、そこまでは許可されていない。

 距離を取ったままダクネスが告げる。

 

「そうだな。分かっている。スズハがそんな事をしないのは。すぐにそこから出してやるから。もう少しだけ我慢できるか?」

 

 後ろにいるクレアが怒りと苛立ちを込めた殺気を向けてきたが無視する。

 そんな中で、普段聞き分けの良すぎるスズハは頷かなかった。

 それも当然で、まだ12の子供が何をされるのか分からない状況で耐えろと言うのが酷な話だ。

 そこでダクネスはカズマからの伝えておいてくれと言われた言葉を思い出す。

 これを言えば、スズハも多少元気になる筈だと。

 言葉の意味は解らなかったが、ここに来るまで何度も忘れないように繰り返した。

 

「スズハ……"――――――――"」

 

 突然のダクネスの言葉にクレアを含めた周りの者達は首をかしげたが、スズハだけはハッとなり、唇をキュッと閉じて何度も感謝するようにコクコクと首を縦に動かす。

 どうやらカズマの言っていたことがデタラメでは無いことにホッとする。

 カズマがダクネスに託した言葉。

 それは『赤ちゃんは無事』という日本語だった。

 それだけでダクネスがカズマと会ったのだと理解して。娘も無事だと確信が持てた。

 

 面会が終わり、クレアの後を付いて今度はアイリスが眠る部屋へと案内される。

 そこでは数名のプリーストが眠っているアイリスを前に意見を言い合っている。

 近づいてきたレインが今のアイリスの状態を説明する。

 

「アイリス様を刺した短剣には呪いが付与されていました。後数日で刺した者を殺さなれば、アイリス様の命を奪う。とても強力な呪いです」

 

 呪い、と口の中で呟くダクネス。

 

「陛下や王子は?」

 

「あの方達は今、魔王軍幹部と交戦中だ。向こうには爆裂魔法を操る手練れの魔法使いが居るらしく、それを防ぐ為に王家が保有する神器の盾が必要な為、すぐには戻ってこれないそうだ」

 

「爆裂魔法……」

 

 爆裂魔法の威力を身を持って知るダクネスは難しい顔をした。

 そこでクレアが告げる

 

「ダスティネス卿。私はこれ以上アイリス様を苦しめるつもりはない。だから明日の昼。アイリス様を呪いから解き放つ為に────シラカワスズハを処刑する」

 

 ダクネスは自分の心臓が冷たくなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。カズマはスズハやアイリスなどの情報が書かれたダクネスからの手紙をミツルギキョウヤの仲間である盗賊職の少女フィオから受け取り、読んでいた。

 魔剣の勇者はここ王都でもそれなりに名が通っているらしく、ダクネスとの面会も思ったよりスムーズに済んだ。

 そこから手紙を受け取り仲間であるフィオを経由してカズマに届けられる。

 アイリスの呪いや明日の昼にスズハが処刑される情報を読んで歯が鳴るほど力を入れて噛む。

 手紙を回して読ませると、皆が一様に似たような表情になる。

 そんな中────。

 

「痛い! 痛いわよヒナ! 私のチャームポイントを引っこ抜こうとしないで!!」

 

 ヒナを高い高いしていたアクアはヒナに頭のチャームポイント(本人談)を引っ張られて痛そうに騒いでいる。

 

 その様子に堅い雰囲気が少しだけ弛緩するのを感じ、めぐみんが質問する。

 

「それで、カズマ。何か案は出ましたか?」

 

「……取り敢えず深夜に、俺とクリス。それからアクアの3人で城内に忍び込む」

 

 クリスとアクアを指差して答えた。

 ゆんゆんが手を挙げて質問してくる。

 

「それって、スズハちゃんを逃がす為ですか?」

 

「いや。アイリスがかかってる呪いをアクアに解かせる。それだけで事態は好転する筈だ。そもそもスズハを奪い返すだけならアクアを連れていく必要無いしな」

 

「ねぇカズマさん。さりげなく私をディスるのやめてほしいんですけど……」

 

 アクアの言葉を無視して話を進める。

 

「向こうだって、まだスズハを処刑するなんてしたくない筈だ。調べなきゃいけない事がたくさんあるからな。でも、アイリスを呪いから救う為に処刑しなきゃならない状況だ。だからアクアにアイリスの呪いを解かせる。うちのアークプリーストはそこら辺だけは規格外だからな!」

 

 ダクネスもアクアを連れて来ようと提案したらしいが、ダクネスはともかく、身元の分からない者をこれ以上アイリスに近づけさせる事は出来ない、と突っぱねられたようだ。

 

「それならいっそ、カズマとクリスの2人であの王女を連れ去ってしまうのはどうですか? 正直、アクアも一緒だと辿り着く前に捕まるような気がするのですが」

 

「めぐみん!?」

 

「いや、流石に城から眠ってるアイリスを連れ出すなんて無理だろ。俺が逃げたばかりで警戒も上がってるだろうし。王女様を連れ出したとなれば、捜査ももっと大規模になるだろうし。それならアクアを連れてどうにかアイリスのところまで行ってアクアに呪いを解かせた方がいい。その際にはもちろん俺らは捕まるだろうけど、アイリスが目を覚ませば話を聞いてくれる筈だ」

 

 それに今夜城に泊まっているミツルギに手を貸して貰っても良い。

 ついでに言えば、ダクネスも城内に居る為、ほんの僅かでもそっちに人員が割かれてる筈だ。

 カズマの説明にクリスが腕を組んで疑問を口にする。

 

「う~ん。王女様の呪いを解くのは良いとして、その後に話を聞いてくれるかな?」

 

「フッ。ナメるなよクリス。俺はアイリスにお兄様と呼ばれる、謂わば義兄妹の間柄だぞ? 絶対に聞いてくれるさ!」

 

「本当に何したの君!」

 

「とにかく! 今は時間が無いし、深夜までに城に忍び込む準備をするぞ! クリスは侵入するのに有効なスキル教えてくれ! めぐみんとゆんゆんはヒナの世話を頼んだぞ!」

 

 ダンッとカズマは立ち上がった。

 

「アクア! 今回はマジでお前が頼りだ! 絶対にアイリスの呪いを解いてくれよ!」

 

「ふっふーん! まっかせなさい! 女神アクア様にかかれば、どんな呪いだってちょちょいのちょいで解いてあげるわ!」

 

 自分が頼りにされていることにアクアは上機嫌に答えた。

 

「ってイタっ!? だから私のチャームポイントを引っこ抜こうとしないでヒナ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからカズマはクリスと2人っきりになり、有効なスキルを教わっている。

 

「やっぱり、このスキルポイントだと有効なのはバインドかな?」

 

「相手を無力化するならゆんゆんにパラライズかスリープの魔法でも教われれば良いんだが、中級魔法を習得するにはポイントがギリギリだしな」

 

 そうなると、ポイントが比較的低く習得出来るバインドの方が良い。

 

「ダクネスが大雑把とはいえ城内の見取図を描いてくれてたのは助かったね。王女様の場所も描いてある」

 

「そうだな。帰ったら、何かお礼でもするか」

 

 そんな風に2人で話していると、耐えられなくなったクリスが訊く事にした。

 

「……ねぇ。さっきからジーッと見てくるけど、何?」

 

「いや、()()()()は何の用事で王都に来てたのかな、と思って」

 

「あぁ。それはですね────」

 

 エリスと呼ばれて反応するがすぐに口を押さえる。

 それでも慌てた様子でしらを切る。

 

「も、もー! いきなりエリス様だなんて不敬だよ!」

 

「……」

 

 クリスの言葉にカズマはただジーッと見つめるだけ。

 暫しの間、動きを止めていると、クリスが嘆息する。

 

「……いつから気付いていたんですか?」

 

「疑問に思ったのは、最初にスズハを連れて来た時ですかね。エリス教のプリーストとかならともかく、冒険者で盗賊職のクリスがなんで? とは思ってましたよ。それからクリスがクエストで得た報酬の殆どを孤児院に寄付してたり、ヒナの父親とのいざこざの時にも、あの刀をやたら欲しがったりしてたのに、自分で使うわけでも売っ払う訳でも無さそうだったし。それと、昨日慰められて一緒の部屋に寝た時に一晩中クリスの寝顔を見てエリス様の髪の長さにイメージし直したら、バッチリ一致したんで」

 

「ちょっと待って! 昨日一晩中あたしの寝顔を見てたの!?」

 

「そんな事はどうでもいいじゃないですか」

 

「良くないよ!」

 

 カズマの言葉にクリスが限界まで吸った息を吐く。

 それから少し考えてクリスとして話し始めた。

 

「君達がこっちの世界に送られる際に貰う神器。その人が死んだり、悪どい事に使われている際には、回収する事があるんだよ。中にはとんでもない能力の物もあるしね。王都には、それらが流れてくることがあるから定期的に調べてるの。まさか、こんなことになってるとは思わなかったけど」

 

「それ、アクアの後始末ですか?」

 

 頭を押さえて苦笑するクリス。

 否定しないところを見ると、まったくの見当違いでも無いらしい。

 互いに冷めた茶と軽食を口にしてからカズマは思い出した事を口にする。

 

「そういや、前にスズハが言ってたんですけど。叱ってくれた時のエリス様が母親みたいで嬉しかったって。何か、おふくろみたいに思われてるみたいですけど、ああいう娘はどうです?」

 

「────ケホッ、ケホッ! な、なんで!?」

 

 むせるクリスにカズマが追い討ちをかける。

 

「あ、ついでにクリスがエリス様だってバラしても?」

 

「やめてよ! 最近実は気付かれてるんじゃないかって不安なんだから!?」

 

 頭を抱えて次どんな顔して会えば、とか悩ませるクリス。

 その姿にカズマはしばらくイジリ回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホーリー・ジョージは滅多に開ける事のない高級酒をグラスに注いで満足気に喉へと流し込む。

 昼間聴いた少女の苦痛の声。それを思い出して肴にした酒の味はいつもより芳醇な気がした。

 そもそもジョージは現在拘束されている少女、シラカワスズハが一目見た時から大嫌いだったのだ。

 

「あれは、俺の20年を否定する権化そのものだ」

 

 誰も気付かなかった秘密を一目で看破し、彼が契約している精霊をも惹き付けた。

 精霊の方から否応なしに力を貸したいと思わせる程の資質。

 そんなバケモノが存在して良い筈がない。

 もしもそれが、後付けに因るものならともかく。天然の才覚など馬鹿にしている。

 だからジョージは徹底的にシラカワスズハを追い詰めると決めた。

 王女の側近である2人を言葉で誘導し、苦痛を与えさせた。

 1枚目の爪を剥がさせた時のあの悲鳴。

 2枚目の爪を剥がそうとした時は拘束されて居るにも関わらず、やめてと憐れに懇願しながら逃げようと身動ぎする。

 2枚目を剥いだ瞬間に痛みによる失禁で意識を失った時は声を出して笑いそうになるのを堪えるのに苦労した。

 残念なのは、流石に幼い少女を拷問するのに気が咎めたのか、クレアが中断してしまった事か。

 だが、あの惨めな姿を見れば劣等感による溜飲も下がろうというものだ。

 そんな風に酒を楽しんでいると、妻であるホーリー・マリィがいつの間にか同じ部屋に居た。

 

「どうした?」

 

 普段の口調とは裏腹に尊大な態度で妻に接するジョージ。

 彼女は手にしている鏡を見せてきた。

 鏡はジョージの姿ではなく、別の物を映し出している。

 マリィは、彼女だけに出来る特別な警戒網を城内に張り巡らせていた。

 それを使い、ジョージは城内へ侵入してきた賊や、仕事をサボっている兵や使用人を報告する事で立場が上の者達からの信頼を得ていた。

 

 鏡から映し出された映像。

 映っているのは城内に侵入しようとする3人の若者だった。

 中には昨日逃げ出した少年の姿もある。

 

「あの子供を奪い返しに来たか?」

 

 ご苦労な事と嗤い、報告しようと立ち上がる。

 そこで、前2人の後に付いている少女に目をやった。

 登った塀から下りるとバランスを崩して顔からコケている少女。

 頭を上げてその顔を見ると、ジョージは体を震わせた。

 

 この世界に来て20年。忘れたくても忘れられなかった顔が映っている。

 

「女神アクア……!?」

 

 手にしていたグラスは粉々になって床に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コケたアクアを起き上がらせてカズマは文句を言う。

 

「何してんの、このバカ! さっさと行くぞ!」

 

「お、置いてこうとしないでよ!」

 

 小声で話しつつも侵入した城内を移動するカズマとアクアにクリス。

 

「まぁまぁ、助手君、アクアさんが王女様のところへ辿り着かないと意味ないんだし」

 

「そ、そうよ! だからカズマ! しっかりと私を守ってよね!」

 

「だったらちゃんとしろよ! それとクリス。助手君は止めてくれ。俺は盗賊行為なんてする気ないからな!」

 

「え~? 助手君って便利だし、あたしと一緒に悪徳貴族専門の盗賊とかになったら絶対成功すると思うんだけどなー」

 

「勘弁してくれ……」

 

 正体が判明したが、この姿でいる時はクリスとして接してほしいという本人の希望をカズマは了承した。

 クリスの姿の時にエリスとして接するには違和感があるし、ダクネスやスズハにバレたら面倒だと思ったのが理由だ。

 

 見回りの衛兵等を掻い潜ったり、バインドで拘束しつつ口を塞いで転がしながら城内を進んでいく。

 ダクネスが渡してきた見取図を頼りに進んでいると覗き込んだアクアが突然勝手な事をし始めた。

 

「ねぇねぇ。ここが今の位置なのよね? なら、そこの噴水を突っ切った方が早くないかしら? 行きましょう!」

 

「あ、バカ!? 暗いとはいえ、そんなとこ移動したらバレるに決まって────!?」

 

「大丈夫よー! 早く王女のところへ行きましょう!」

 

「ちょ! そんな大声出さないで! あぁもう! これだから先輩は!」

 

 どう考えてもバレそうな噴水の庭を突っ切ろうとするアクアにカズマとクリスは冷や汗を掻きながら付いていく。

 

 手を振って待つアクアに殺意を覚えながら追い付くと、突如中心に設置してある噴水の水が爆発するような勢いで噴き上げる。

 

「お、お、おおおおお前っ!? 何しやがった!?」

 

「な、何にもしてないわよ!? 本当よ! 信じてよカズマさん!!」

 

「それより走って! 水で庭が塞がってる!」

 

 噴き上った水がドーム状に庭を塞いで行くのを見て急いで庭を走り抜けようとするが、その前に突っ切ろうとした方向が閉ざされた。

 

「あークソ!! 間に合わなかった! おい閉じ込められたぞ! どうすんだよこのままじゃあ……!」

 

「退きなさいカズマ! この程度、水の女神、アクア様が簡単に破壊してあげるわ!」 

 

 ボキボキと指を鳴らすアクアが水の壁を殴り付けようとした時に、その声が届いた。

 

「まさか、ここで貴女と再会できるとは思いませんでしたよ」

 

 声の方を振り向くと、そこにはこの城の精霊使いが立っている。

 

「ホーリー・ジョージ……!?」

 

 カズマが相手の名前を呼ぶが、無視して小さく息を吐く。

 

「ただの(ねずみ)なら衛兵に任せようと思ったのですが。今更貴女の御尊顔を拝見出来るとは思いませんでしたよ、アクア様」

 

 アクアだけに視線を向けてそう告げる。

 

「アクア、知り合いか?」

 

「知らないわよあんな中ね────ハッ! まさか貴方、敬虔なアクシズ教徒ね! 丁度良かったわ! さ! この水を何とかして私達を王女の下へ案内なさい。そうすれば貴方に、大いなる女神の加護を授かるでしょう」

 

 自信満々にそんなことを言うアクアにカズマは開いた口が塞がらない思いだったがホーリー・ジョージは口元を歪につり上げて握り拳を作った。

 

「ここに来て20年。1日足りともその憎たらしい間抜け面を忘れた事はありませんでしたよ、アクア様」

 

 ジョージの言葉にアクアがずっこける。

 

「ちょっと貴方! どこの誰だか知らないけど、誰が間抜け面よ! 女神を馬鹿にすると天罰が下るわよ!」

 

 ビシッと指差すアクアにジョージは自身の胸に手を当て、日本語を話し始めた。

 

「お忘れなら自己紹介をさせて頂きましょう。堀居(ほりい)丈治(じょうじ)。20年前に貴女によってこの世界へと送られた、転生者の1人ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プハハハハハハッ!? 未成年飲酒した上に、友達の家で素っ裸になって階段から転倒で死亡って! 私、この仕事を永くやってるけど、こんな笑える死に方をした人は貴方が初めてよ! プークスクスクスッ!?』

 

『あん?』

 

 遠慮なく笑う女神。

 自分の死亡をこれでもかと言うほど侮辱し尽くす女。

 この時に感じた恥辱と屈辱。

 

 それは、例え地獄に堕ちたとしても、決して忘れる事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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