この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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面会

 ホーリー・ジョージと水精霊(ウンディーネ)の事件から1週間経過した。

 その間、運悪く死亡した者達をアクアが蘇生させたり、水に沈んで水浸しになった城の点検などで使用人達が忙しく働いている。

 だから城の中が滅茶苦茶となり、とても王族が住める状態ではないという判断からクレアの実家であるシンフォニア家の屋敷にアイリス共々カズマ達も世話になることとなった。

 そして現在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナさん。あーん」

 

「あーう」

 

 スプーンで掬ったヒナ用の雑穀を物凄く良い笑顔で食べさせているアイリス。

 運ばれた食べ物を口にするのをヒナを見てほぅっと熱い息を吐く。

 

「ヒナさん、本当にかわいいです。私の妹になって王族になりませんか?」

 

「……怒りますよ?」

 

 隣でナイフとフォークを動かしていたスズハが鋭い視線を向けるとごめんなさい、と小さく舌を出す。

 そこから黙々とスズハはナイフとフォークを動かして出されたステーキ肉を食べる。

 あの事件で水精霊(ウンディーネ)は9割が元の水源に戻り、残りはスズハと契約した。

 計5の精霊と契約したスズハは許容量を完全に越えてつい2日前まで起き上がるのも困難な程に弱っていた。

 アクアの見立てだが、今までも3体分の魔力しかないのをどうにか4体分で回していたのを、もう1体追加した事で日常生活も送れなくなったらしい。

 そんな訳で、シンフォニア家で体を休めつつ魔力上昇のポーションやら高級食材の料理を食べてレベル上げに努めていた。

 ちなみにポーション等の代金はレイン持ちである。

 それは良いのだが、問題は出される料理だ。

 

(こんなにカロリー高めで脂っこい物を毎日食べてたら絶対に太る……)

 

 昨日は豚カツ。その前はカルボナーラ等と太りやすい料理をメインに出されてスズハは胃もたれと増えるであろう脂肪を考えて内心ビクビクする。

 スズハとて揚げ物や麺類に豪快な肉料理が嫌いな訳ではないが、前の世界からの癖でどうしても栄養バランスの考慮や低カロリーな料理を多く口にしてきた為に、毎日こんな高カロリーな料理を出されて体重を気にしてしまう。

 しかもこの後に態々デザートまで用意されているのだ。

 かと言って作ってくれた物を無下にするのも気が引けるし、何よりも魔力不足は早々に解消する必要がある。

 せっかく契約してくれた精霊達にもこのままでは悪い。

 そう思いながら1日でも早く魔力が増えるように願って食事を続けていた。

 すると部屋の外から大きな音が響く。

 とんでもない爆発音。

 説明するまでもなくめぐみんの爆裂魔法である。

 爆裂魔法による震動が収まり始めるとアイリスが何気なく呟く。

 

「今日は一段と音が大きいですね」

 

「そうですね」

 

 ここ数日毎日撃たれる爆裂魔法にアイリスも慣れてしまった。その内にゆんゆんがめぐみんを担いで帰ってくるだろう。

 撃っているのがクレアの実家の領土の一部。そのところだけ隕石でも落ちてきたのではないかと思うほどに酷い惨状になっているが、スズハは見ない。

 見たら胃が痛くなるので絶対確認しないと決めた。

 今回の件でクレア以下城勤めの者達がホーリー・ジョージに踊らされて王都にもたらした被害やアイリスを守れなかった事。

 そして無実の少女(スズハ)にした数々の責め苦。

 特に最後のスズハの件でクレアとその実家は客であるパーティーメンバーに強く言えなくなっている。

 食後デザートまで食べ終えると魔力上昇のポーションを飲む。

 全てお腹の中に入れ終えるとアイリスはヒナの食事を手伝う手を止めて話しかける。

 

「随分と顔色が良くなりましたね。この屋敷に来たばかりの時は起き上がるのも辛そうにしてたのに」

 

「はい。おかげさまで大分楽になりました。もう動いても大丈夫です」

 

 まだ少し倦怠感はあるが、日常生活に支障がないくらいには調子を取り戻していた。

 ただ、急激に魔力を増やした影響が出るかもしれないのでしばらくは安静にしているようにとめぐみんとゆんゆんに言われているが。

 しかしいつまでも部屋から出ないのも身体に悪い。

 

「それじゃあカズマさん達のところへ行きますね」

 

「あ、待って下さい。私も行きます」

 

 お腹いっぱいになり、ゲップをしているヒナを持ち上げたスズハにアイリスはついていく。

 体調も大分元の状態に戻ってきたので、そろそろ帰る話をしたかった。

 そしてカズマ達が昼食を食べている部屋に入ると────。

 

「オラァ!! もっと酒もってこーいっ!!」

 

 カズマが出された高級料理をガツガツと食べながら瓶酒をラッパ飲みしている。

 

「ぷはぁ!! 仕事を終えた後のお酒は最高ね! こっちにも追加おねがーい!」

 

 その横ではアクアが満足そうにお酒を飲み干した。

 ちなみにアクアが蘇生などの仕事を終えたのは一昨日の話である。

 

「いやー。日頃のストレスが吹き飛ぶなー。タダで飲めるお酒最高!」

 

 カズマとアクア程ではないが、クリスまで遠慮無く飲み食いしている。

 シンフォニア家は上級貴族だけあり、貯蔵しているお酒も当然それなりのグレードの物ばかりで1本数十万~数百万エリスする物ばかりである。

 それらを水のように飲み続けて既に酒の貯蔵を1/4も消費していた。

 今回の件で色々と後ろめたい事もあり、滞在期間中は出来る限りカズマ達の要望を叶えるようにとクレアに言われているがこれは酷い。

 そんな中で仲間と友人のあまりにも傍若無人っぷりにダクネスがテーブルを叩いた。

 

「お前達いい加減にしろ! 遠慮と云うものを知らんのか!!」

 

 ダクネスの怒りにアクアが膨れっ面をする。

 

「なによーダクネス。良いじゃないちょっとくらい。私、今回スゴい数の人を生き返らせてあげたのよ? スゴく頑張ったの!」

 

「俺達は王国の危機を救ったんだぞ? ちょっとくらいのわがままな振る舞いしても罰は当たらないだろ」

 

「そうそう。固いこといわない。ほらダクネスも飲みなって」

 

「お前ら~!」

 

 まったく悪びれない3人にダクネスは青筋を立てて頬筋を動かす。

 扉を開けてその話を聞いているとゆんゆんに背負われためぐみんが戻ってきた。

 

「ただいま戻りましたぁ!! どうです! 今日の爆裂魔法の威力は!! 中々の震動だったでしょう! しかし更地に爆裂魔法を撃ち続けるのも飽きてきましたね。もっとこう破壊しがいのある建造物とかを要求します!」

 

「止めんか!? ただでさえ連日爆裂魔法の爆音と震動で市民が不安がってるんだぞ!! 捕まらないだけ有り難く思え!」

 

 そこで扉の外に居るスズハとアイリスに気付いたダクネスがそちらに意識を向けた。

 

「アイリス様、申し訳ありません。スズハ! ちょっとこっちに来てくれ! カズマ達が手に負え────って、あぁ! 扉を閉めるな!?」

 

 ダクネスの頼みも空しくスズハは部屋の扉を閉めるとアイリスに向けてニコリと笑った。

 

「アイリス様。散歩に出ようと思うのですが、屋敷周辺の案内をお願いしてもよろしいですか?」

 

「あぁいいですね。ここのお庭の花壇には色々なお花が咲いていて綺麗なんですよ」

 

「楽しみです」

 

 厄介事はダクネスに任せてその場を後にすることにした。

 その後、散歩で訪れた庭園で庭師に許可を貰ってヒナに花の冠を作ったりして時間を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明後日にはアクセルの街に帰りますので」

 

「そ、そうか……」

 

 夕食でクレアに頭を下げて告げるスズハにクレアは安堵の息を吐く。

 それに真っ先に異を唱えたのはアクアだった。

 

「勝手に決めないでよスズハ! まだこのお屋敷のお酒で目を付けてたのがたくさんあるんですからね! カズマとスズハは何日もお城で贅沢な生活をしてたんだから、私達も同じくらい贅沢できないと不公平だわ!」

 

 まだ帰らないわよ! と息巻くアクアに呆れから溜め息を吐く。

 贅沢な暮らし、という点ではもう充分だろうと思う。

 

「お酒ならもう充分堪能したでしょう? 明日はアクセルの街のギルドやウィズさん。それにダクネスさんのお父様などにお土産を買って、もう1つ用事を済ませて。明後日の朝には帰りますよ」

 

「まぁ、そろそろアクセルの街に帰りたかったので私は構いませんが、スズハはいいのですか?」

 

 めぐみんが問いは捕まってされた行為の数々。

 それにスズハは苦笑する。

 

「えぇ。その件は既に話し合いで解決してるでしょう? それにこれから大変でしょうし」

 

 今回スズハはホーリー・ジョージに踊らされて捕まり、暴行などを受けた件は慰謝料を貰って解決している。

 暴走した水精霊(ウンディーネ)を静めた功績も含めて、その額は魔王軍幹部討伐に相当する金額が口座に振り込まれる。

 シンフォニア家から。

 それでもやられた事の全てが流れた訳ではないが。

 

「それにこれから、色々と大変みたいですし」

 

 スズハの言葉にクレアが疲れた様子で遠い目をした。

 今回の不祥事の責任を取る形でクレアとレイン。その他数名はとある地に左遷されることが決まっている。

 城や城下町の復興がある程度終わればそこである仕事に就く事となっている。

 左遷先では相当精神的苦痛を味わう事になるだろう。

 アイリスが寂しそうに話しかける。

 

「本当に帰られるのですか? まだ本調子でもないのでしょう?」

 

「ヒナに視線を向けながら言わないでください。えぇ。そろそろ戻らないと、屋敷に戻ったときに掃除が大変ですから」

 

 それにこれ以上、ここの人達に迷惑をかけるのも気が引けるので、と内心で付け加える。

 クリスが話題を少し戻す。

 

「お土産は分かるけど、他に何か用事あるの?」

 

「はい。一応は、と思いまして」

 

 するとスズハはクレアにあるお願いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の地下で1週間前までシラカワスズハが入れられていた部屋。

 そこには入れ替わりで今回の首謀者が拘束されていた。

 軽く身動(みじろ)ぎするくらいしか許されない拘束。

 魔王軍と通じていた彼は自殺されないように猿轡を噛まされている。

 この部屋に続く通路から、複数の足音が耳に届く。

 

 拘束されている扉が開くと、そこにはクレアとアイリス。それとカズマとスズハが現れた。

 アイリスが手で合図をすると、クレアが噛ませている猿轡を外し、舌を噛み切らないようにいつでも指を口に入れられるようにする。

 拘束されている男性、ホーリー・ジョージはスズハを見て鼻で笑う。

 

「おやおや。今更私に何のようでしょうか? あぁ成程。自分がやられた事への報復にでも来ましたか?」

 

「そんなつもりはありませんが。貴方に一応の報告と質問したい事があったので」

 

 ジョージが疑問を口にするより早く、ゆっくりと手を動かすと、この空間に水精霊(ウンディーネ)が現れてる。

 だけどその姿は女性のモノではなく、スズハと同い年くらいの少女に年齢を引き下げられている。

 水精霊(ウンディーネ)は浮遊したままスズハに後ろから抱きつき、ジョージを睨むように鋭い視線を向けている。

 

水精霊(ウンディーネ)の大半は元の水源に戻りましたが、力の一部を私の元に残してくれました。前任の契約者である貴方には一応知らせておこうと思いまして」

 

「……知っていますよ。視ていましたからね」

 

 魔力不足で支配からは逃げられたとはいえ、契約自体が完全に切れていた訳ではない。

 水精霊(ウンディーネ)の主がスズハに変更される瞬間までその視界は共有されていた。

 

「あそこまで暴走した水精霊(ウンディーネ)なら必ず貴女を手にかけると思っていたのですが……」

 

 この結末が本当に納得いかないとばかりにスズハに抱きついている水精霊(ウンディーネ)を見る。

 長い間、従属を強いられていた反動か、大半の力を元の場所に置いてきたせいか、水精霊(ウンディーネ)は顔をスズハの背中に隠した。

 

「この子は、ずっと見守ってきた。この地に住む人々の営みを」

 

 この国が生まれ、王都という人々のコミュニティが出来てからずっと、水という生命を分け与え続けてきた。

 

「長い時間を存在し続ける精霊にとって、高々10年の隷属。強い怒りは有っても憎しみではなかった。きっと貴方はそこを勘違いしたのです」

 

 一度発散されれば治まる怒り。

 ジョージはその強い感情を感じて憎悪と勘違いしただけ。

 そうでなければスズハが今回の件をどうにかするなど出来なかった。

 一度間を置いてからスズハは聞きたかった事を質問する。

 

「ジョージさん。どうして貴方は水精霊(この子)を理解しようとしなかったのですか?」

 

 精霊使い(エレメンタルマスター)なら、スキルで精霊の感情はある程度伝わる筈だ。

 もしも彼が水精霊(ウンディーネ)と心を通わせていたらその時点で詰んでいた。

 10年という月日があれば、可能だったのではないかと思う。

 スズハの質問にくだらないとばかりに目を細めた。

 

「どうしてもなにも。道具に自分の意思など必要ないでしょう?」

 

 ホーリー・ジョージにとって精霊はあくまでも道具でしかなく、意志疎通自体が煩わしい。

 道具は道具らしく大人しく主の思惑通り機能すれば良いのだ。

 道具と心を通わせるなど本当に気持ち悪い。

 

「……」

 

 ジョージの態度にそれでも何か言おうとするスズハに彼は自らの態度を変えた。

 

「あぁ。本当に反吐が出るほど気に入らない良い子ちゃんだなぁ……」

 

 それは日本語で放たれた拒絶。

 

「俺は精霊にも人間にも無条件で好かれて大事にされてるお前が大っ嫌いだ。何の苦労もせずにチヤホヤされてるだけの箱入り娘が。ここまで俺をイラつかせるなら、アイリス王女を刺した罪を被せたとき、早々に殺しておけば良かった」

 

 心底嫌悪感を剥き出しに拒絶するジョージ。

 これが彼の本質で、もしかしたらこの世界にやって来たときから、心の成長が止まっていたのかもしれない。

 ジョージの言葉に青筋を立てたカズマがちゅんちゅん丸に手を掛けるが、鉄の鳴る音を聞いてスズハが止める。

 ちゅんちゅん丸の柄に手を添えて止めたスズハが日本語で返した。

 

「そうですか。ですが、私だって信じていた人に裏切られたことは、あるんですよ……」

 

 スズハは自分をあの男に売った兄の姿が頭に過ったが、瞬きと共に追い出した。

 

「さようなら、堀井丈治さん。もう二度と、顔を会わせることはないでしょう」

 

 最後に日本語でそう別れを告げると、クレアにもう良いですと言った。

 再びジョージに猿轡を噛ませて、部屋の扉はギィと鈍い音が立てて閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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