スズハはお昼ご飯を終えた後に運動を兼ねて箒で広い庭を掃く。
今日はカズマ達もお休みでめぐみんは一緒に庭を掃いており、ダクネスは実家に呼び出され、カズマは部屋で昼寝をしている。
アクアは昼食を食べるとすぐ遊びに出掛けていった。
最近はますます大きくなって体重の増えた娘を背負うのも大変だが、目を離すのも恐いのでおんぶ紐で固定している。
スズハの歩く揺れが心地よいのか今は眠っているが、起きると泣いたり髪を引っ張ってきたりするのが困る。
2人は落ち葉を集めていると、めぐみんが時折こちらに視線を向けてくる。
「どうしました?」
「いえ。スズハのいつも着ている服とは趣が少々異なるので」
「……わたしもコスプレみたいでまだ馴れません」
苦笑いを浮かべるスズハが今着ているのは先日の誕生日でカズマから贈られた服だ。
白衣に赤い袴。髪を結ぶ為の丈長。
俗に言う巫女服である。
いつの間にか用意したのか、贈られた時は驚いたが、今はありがたく着させてもらっている。
(でも、本当に巫女服なんて何処で手に入れたんだろう? サイズも丁度良いし……)
正確には少し大きめ位だが、スズハは現在成長期である。すぐにピッタリになるだろう。
2人で話しながら庭掃除をしていると話題はこの間銀行に振り込まれたお金の話しになる。
「それにしても、口座の金額が物凄い額になりました。この街に来たばかりの頃は無一文でしたのに、何だか実感が湧きません」
宝くじに当選したような気分になる。
「あれだけの事をされた上に王都の危機も救ったのですから当然です。むしろ少ないくらいなのでは?」
「ふふ。そんな事はないですよ。でもあんなにお金があると使い道に迷いますね。ヒナがもう少し大きくなって手がかからなくなったら、将来お店を持つのも良いかもしれません」
娘が大きくなって親の職業を訊かれても答えられるように。
お店を持つかどうかはともかくだ。
屋敷で何か製作して卸すのも良いかもしれない。
それなら今の環境でも問題ないから。
「ちなみにどんなお店を持つつもりなのですか?」
「まだそこまでは考えてませんよ」
などと雑談に興じていると昼寝していたカズマが外へと出てきた。
「ふぁ~。ちょっと寝苦しくて起きちまった……」
シャツの中に手を入れてボリボリお腹を掻きながら現れたカズマにめぐみんが眉を動かす。
「だらけ過ぎですよ、カズマ」
「ここんところ危ない目にばかり遭ってたからな。しばらくはゆっくりさせてくれよ」
「そんな事を言ってると、いつまで経っても動かないでしょう。大体カズマは本当に魔王を倒す気はあるのですか! 私は魔王を倒して最強の魔法使いの称号を得るためにこのパーティーに入ったのですよ!」
このパーティーが結成されたばかりの頃、あまりにも戦力として問題のあるめぐみんとダクネスを追い出す為の口実だったのだが、律儀に覚えていたらしい。
「もう働かなくても生活できるしなぁ。いいんじゃないか? 魔王なんて放って置いて。態々こんな遠くまで攻めてこないだろ」
「この男は……!!」
カズマのやる気の無さにめぐみんが箒を折らんばかりに力を込める。
「そんなに魔王を倒したいなら、もっと優秀なパーティーに加入したらどうだ? その方が現実的だろ?」
めぐみんがアクセルの街の殆どのパーティーから追い出された事を知っていて発言する。
それを素直に認めるめぐみんでもなく。
「ふ、ふん! 私ほどのアークウィザードを十全に活かすとなると、それなりに能力を求められるのです! そう! カズマみたいに小賢しくもド外道な手を躊躇しない頭脳が求められるのです!」
「お前絶対褒めてないだろ、それ」
若干イラついたカズマだが、話題を戻す。
「それで、何の話をしてたんだ? 店がどうこうとか言ってたけど」
「えぇ。この間の件でお金がたくさん入ったので将来的に何かお店でも出せないかなって。お店じゃなくても何か作って卸す形でも良いですけど」
「何かやりたい仕事でもあるのか?」
「残念ながら今のところは。ゆっくり考えてみます」
時間はたくさん有るのだ。
焦る必要は何処にもない。
「とにかく! カズマも暇なら掃除を手伝ってください! ほら窓拭き!」
「……分かったよ」
指示を出すめぐみんにカズマも頭を掻く。
中へ入る前にスズハに話しかけた。
「その巫女服、気に入ってくれたか?」
「はい。白ですから汚れとかが恐いですけど、大事に着させてもらいます」
「そっか」
実を言うと巫女服は半分ネタのつもりで買ったのだが、こうして着られているのを見ればやはり嬉しい。
感想を聞いて満足し、屋敷の中へと入っていくカズマ。
「庭の掃除が終わったら一緒に買い物でもどうです? 今晩何か食べたい物はありますか?」
「そうですね。ここ最近は煮物や魚の料理がメインでしたから、ガッツリお肉が食べたいです」
「なら、ハンバーグはどうです? パン粉がもうちょっとで使い切れるので」
「良いですね! 1番の大きいのを所望します!」
「皆さん同じ大きさですよ?」
動く野菜などを入れる箱を抱えて商店街を歩く。
すると商店街にいる人達が話しかけてくる。
「スズハちゃん。今日は良い鮭を仕入れられたんだ。どうだい?」
「良いですね。でも、今日はもう買う物は決まっていますので。ごめんなさい」
「おー。めぐみんちゃん。スズハちゃんの付き添いかい? ここで魔法を使うなんてやめてくれよ? 商店街が失くなっちまうよ」
「失礼な! 私にだってそれくらいの分別はありますよ! もう警察に怒られたくないですからね」
最後は小声で聞き取れなかったが何かとても危ない事を言っていた気がする。
今日の晩御飯の材料と切れそうな生活必需品の買い足しをする。
そこで2人に寄ってくる子供が居た。
「スズハお姉さん!」
「エルザさん。あ、走ったら危ないですよ!」
近づいて来たのはめぐみんの妹であるこめっこと同い年くらいの女の子だった。
「どうしました?」
「うん! これ、やっと出来たの!」
見せてきたのは折り紙で折られた鶴だった。
少しだけ不恰好ではあるが、キチンと折られている。
それを見たスズハはエルザの頭を撫でる。
「上手ですね。ちゃんと鶴の形になってます」
「えへへ。たくさん練習したんだよ! あたしが1番最初に折れたの!」
「そうですか。すごいですね」
エルザとはこの商店街の買い物に疲れて休んでいた時に他の子供たちと一緒に囲まれて質問責めにあったのが始まりだった。
子供というのは自分に正直で、興味の引かれたモノに対して真っ直ぐに行動する。中には赤ん坊であるヒナにちょっかいをかける子供もいる。
さすがにそうなると周りの大人が叱ってくれたりスズハも注意する。
アクセルの街の子供は素直な子が多いのですぐに止めて謝ってくれるので大きな問題にはなっていない。
その際に子供達の注意を向ける為に折り鶴を折ったのが注目を集めた。
以前外国へ旅行に行った際に折り鶴を折ってあげると大人子供に関係なく喜ばれた事を思い出したからだ。
それ以降、集まってくる子供達に何度か鶴やらハートやら薔薇などを折ってあげると子供達の間では折り鶴がちょっとしたブームになっていた。
スズハがエルザを褒めていると耳に響く声が届く。
「めぐみ~んっ!! スズハ~っ!!」
泣きながらアクアが走ってくる。
「どうしよう、2人共っ! 私、お金取られて今月のお小遣いが無くなっちゃった!」
「え! もしかして盗まれたのですか!? 早く警察に行かないと」
めぐみんの指摘にアクアがブンブンと首を横に振る。
「そうじゃないの! 今日冒険者ギルドに行ったらね!」
何でも外からやって来た冒険者とアクセルに在住する冒険者がカードゲームに興じていたらしい。
それも勝てば賭け金が貰えるギャンブル形式の。
外来の冒険者は幸運値が高いのか、連勝重ねてそれなりの額を懐に入れていた。
「そこでね、皆のお金を取り返してあげようと私もそのゲームに参加したの! でも……」
そこからは言葉にせずとも理解できた。
「それで全額巻き上げられてしまったと……」
呆れた様子のめぐみんの言葉にアクアは指をツンツンさせて頷いた。
「自業自得じゃないですか……」
「私だって頑張ったの! ゲーム前に
「むしろアクアがイカサマと言われてもおかしくないのですが……」
幸運を上げる魔法とか明確なイカサマでなくとも相手に卑怯と言われても仕方ない行動である。
まぁ、そこら辺は相手次第だろうが。
「お願い! 仇を取ってよ! お金を取り返して! 私のお小遣いはカズマが管理してて、最近は前借りも許してくれないの! 今月はもう使えるお金がないのー!!」
「お、落ち着いてくださいっ!?」
スズハの肩を掴んで揺さぶってくるアクア。
めぐみんが引き離すとスズハは自分の財布の中を確認する。
「わたし、今日はもう買い物を済ませたばかりであまりお金は有りませんよ?」
ギャンブルである以上は此方もお金を賭ける必要がある。
しかし、必要額以上は持ち歩かないようにしているスズハの手持ちはそう多くはない。
それにアクアがフフンと鼻を鳴らした。
「それなら大丈夫よ! スズハみたいな子供からお金を巻き上げるなんていくら何でもしない筈だわ。例えしたとしても、アクセルの冒険者達が黙ってないんだから!」
「最低ですね!」
確かに、スズハからお金を巻き上げれば周りの冒険者から冷たい視線くらいは浴びせられるかもしれない。
「ねぇ! お願いよ! 荷物持ちでも何でもするから助けてよー!」
しがみついてくるその姿はとても女神とは思えない。
結局は2人が折れる形になる。
「分かりました。負けても文句言わないでくださいね?」
スズハの言葉にアクアの顔がパアッと明るくなる。
続いてめぐみんに小声で話しかけた。
(めぐみんさん。賭け金が足りない様でしたら貸してください。後で返金しますので)
(……仕方ありませんね)
内緒話をして上機嫌のアクアの後ろに付いていった。
ダクネスは父に呼び出されて私服姿で椅子に座っている。
父であるイグニスの横には最近秘書としてダスティネス家で働いている、前領主の養子であるバルターが立っていた。
口を開いたのはイグニスからだ。
「よく来てくれたね、ララティーナ」
「いえ。それより急な呼び出しでどうしましたか?」
ダクネスの質問に少しだけ言いづらそうに間を置いてから話す。
「実はここ最近多くのお見合いの話が────あぁ、待て待て! 今回はお前のじゃない! だから無言で立ち去ろうとするな!」
立って踵を返すダクネスにイグニスが引き止める。
自分のではないという話にダクネスは椅子に座り直す。
ダクネスのお見合いの話でないのなら誰のだろうか?
もしや父は再婚を考えているのかとも思ったが、内容はダクネスの予想の斜め上を行っていた。
「実は、シラカワスズハさん。彼女に多くの貴族。その息子とお見合いをして欲しい。もしくは養子に来ないかと手紙が来ていてね。我がダスティネス家にその仲介を、という要請が多く舞い込んで来てるんだ」
「…………………………はぁっ!?」
父の言葉にダクネスが内容を時間をかけて咀嚼し、変な声を出してしまった。
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他