「あの……それはいったいどうしてそんな事に?」
動揺を隠しきれないままにイグニスに質問をすると彼は逆にダクネスに問いかける。
「最近、アクセルの街に普段とは異なる冒険者や、商人などの業者が出入りしているのは気付いていたかい?」
「えぇ、まぁ……見慣れない冒険者が増えたな、とは」
「それらの大半はお前達の事を調べるために各貴族から雇われた者達だ」
「私達を?」
疑問に思うダクネスにイグニスが説明を続ける。
「最初はシラカワスズハさんだけではなく、君達全員が婚約の申し出をする対象だった。しかし調査を進めて行く内に、彼女だけに狙いが絞られたようだね」
手で指示を出すとバルターが纏められた書類をダクネスの前に置く。
「捕まえた何人かの調査員から聞き出した君達に関する調査報告書だ」
一応言っておくと、本当に話を聞き出しただけで捕まえる事は勿論、報告書の押収もしていない。
彼らの調査方法が違法だった訳ではないし、彼らが持っていった情報の大半がこの街に住む者なら周知の事実である内容だったからだ。
書類にはダクネスを除いた他のメンバーとゆんゆんに関する内容が纏められていた。
先ずはサトウカズマ。
アクセルの街を襲った魔王軍幹部やデストロイヤーなどの討伐に実質的な指揮官として活躍。
本人は最弱職の冒険者ではあるが、指揮官としての適性は高いと思われる。
しかし、公衆の面前で女性の下着を剥奪や王族貴族に対して礼儀を酷く欠いており、王都滞在時には多くの問題を起こしていた。
婿養子として取り入るには性格に難ありと判断。
続いてアクア。
王都で多くの死傷者を癒した極めて優れたアークプリースト。
問題点として自身を女神アクアだと吹聴しており、敬虔なアクシズ教徒な上に妄想癖有り。
また、散財癖とアルコール依存症の可能性も有り。
そして毎日のようにアクセルの街でトラブルを起こしているため、貴族として迎え入れるには不適切な人物だと思われる。
次にめぐみん。
紅魔族のアークウィザード。
しかし修得している魔法は爆裂魔法のみであり、本人も喧嘩っ早く、住民とのトラブルが絶えない。
また、毎日街の周辺で爆裂魔法を使用する危険人物。
問題外と言わざる得ない。
そしてゆんゆん。
紅魔族のアークウィザード。
極めて優秀な冒険者であり、単独で多くの依頼をこなす少女。
人格面での問題は見られないが、本人は紅魔族族長の娘と名乗っており、婚約の話を持っていった場合には紅魔族とトラブルになる可能性も有るため、留意されたし。
最後にシラカワスズハ。
複数の精霊と契約しているエレメンタルマスター。
冒険者資格を得ているが、冒険者として活動している様子は皆無。
アイリス王女と個人的な文通を行う交流が有るほど親しい関係の模様。
アクセルの街での評判も極めて好意的であり、前領主であるアルダープの不正暴露に貢献。
但し、実子かは不明だが赤子を抱えている。
報告書を読み終えたダクネスは渋い顔を見せた。
確かにこの面子ならヒナの事があってもスズハに最も注目が集まるだろう。
何よりも、アイリス王女と親密な関係なのが大きな理由になっているようだ。
それでも反論しようとダクネスは言葉を吐き出す。
「しかし、スズハは言ってしまえばただのアクセルに住む1市民ですよ? 貴族からこうもお見合いの話が持ち上がりますか?」
「彼女が王都の危機を救ったのは既に周知の事実だ。この国では優秀な人材が王族貴族に招かれるのは珍しくないからね」
魔王軍との最前線であるこの国は優秀な人材なら積極的に取り込みにかかる。
王族もそうして戦闘の素養が高い子供を産んでいる。
それでも感情が納得出来るかは別であり、ダクネスが眉を中央に寄せているとイグニスが苦笑した。
「優秀な人材を入れて血を残そうとするのは貴族として当然の義務と責任だよ。勿論私も含めてね」
今の言葉は暗に、お前も早く身を固めろと言われているような気がした。
今回、スズハだけでなくおそらくはダクネス────ダスティネス・フォード・ララティーナにも見合いの要請が来ているのだろう。
今それを口にしないのは親としての甘さか。
ダクネスはそれに丁重にスルーしてスズハに見合い申し込んでいる貴族の書類に目を移した。
スズハと年齢の近い者は少なく、1番多かったのはカズマやダクネスと同じくらいの年齢の貴族の子息。
中にはダクネスの父であるイグニスと近い年齢の者もいる。
逆に5歳くらいの子供まで。
更に驚くべき事に。
「あの、お父様。この中には私が知る限り、既にご結婚されている方や婚約者がいる方も混じってるようですが」
「……どうやら、今回シラカワスズハさんとの婚約が通ったら今の婚約関係の解消や奥方と別れるつもりのようだね。望まない婚約だったり、散財癖のある困った奥方を持つ家は特に強く要望してきているよ」
読み進めると婚約の際に色々と条件を付けている者もおり、中にはヒナの養子先は此方で用意しておくなどと書かれている家もある。
そこでイグニスが少しだけ険しい顔をして話し始めた。
「見合いの話は今すぐどうこうという話ではない。先日の王都での事件もあるしね。だから当面の問題は、彼らの婚約者達の方なんだ」
「と、言うと?」
「自分の婚約者が突然現れた小娘に奪われるかも知れないんだ。彼女達も気が気でないだろう。当人同士で話が終わるなら良いが、中には怒りの矛先がシラカワスズハさんに向く可能性もある」
スズハが現れなければ何事もなく夫婦になれたのに、と考える者もいるだろう。
それにスズハはアイリス王女の覚えが良いと言ってもアクセルの1市民でしかない。
貴族の婚約者とどっちが攻撃しやすいかと言うと────。
(スズハ。お前本当に何かに呪われてるんじゃないか?)
「さぁ! 今度はこのスズハが相手よ! 私の仇を取ってくれるんだから! スズハも、こんな奴ヤッつけちゃって!」
先程有り金を全てむしり取った水色髪のアークプリーストが今度は小娘2人を連れて戻ってきた。
それは彼にとって大変都合の良い展開である
実はカードゲームで小遣い稼ぎをしていたその冒険者はとある貴族令嬢に雇われてアクセルの街にやってきた盗賊職である。
その貴族令嬢の婚約者が目の前にいるシラカワスズハに見合いの話を持っていった事で彼女の素行調査────というより、粗探しをするためにこの街にやってきた。
だが聞き込みなどをしてもシラカワスズハの悪い噂はまったく出てこない。
白い服を重ねるようにして着て、赤いスカートを履いた、この国では珍しい民族衣裳に身を包んだ少女。
少しばかり聞き込みをすれば好意的な噂ばかり聞こえてくる。
(それなら、悪い噂を作ればいいしな)
例えば今反対側に座る少女に負けさせ続け、そこから煽ってゲームを続けさせる。
そうすればシラカワスズハはギャンブル狂いの気があると悪い噂の種が出来る訳だ。
その情報を持っていくだけで噂好きの令嬢達が話を大きく尾ひれを付けて流してくれるだろう。
(それだけで50万エリス。悪く思うなよ、お嬢ちゃん)
そんな事を考えていると、スズハが控え目に手を上げた。
「すみません。ルールの説明をお願いしても?」
「あぁ。分かった」
ゲームのルールを説明すると納得した様子で頷く。
「わたしの知っているポーカーとルールは同じですね。はい、大丈夫です。ありがとうございます」
軽く礼を言われて公平を期す為に適当な誰かにカードの配りを任せた。
そしてカードが配られる。
2人共何枚かのカードを交換して手にしている5枚を開示した。
「フルハウスだ。降りるかい?」
「いえ、わたしはフォーカードです。わたしの勝ちですね」
「お、やるじゃねぇか。ほら賭け金だ」
「ありがとうございます」
盗賊職の男は最初の賭け金をスズハへと移す。
(ま、最初くらい華を持たせてやらねぇとな)
彼とて冒険者として各地を周り、活動してきた。
そこではこうしてゲームを興じて情報を得たり、貧窮している時に生活費を稼いでいた。
つまり冒険者としてだけでなく、この手のゲームでも彼はプロと言える。
故にこれからは彼の独壇場で────。
「フォーカード。フォーカード。ストレートフラッシュ。フォーカード。フルハウス。フォーカード。ストレートフラッシュ、です」
「ふっざけんなぁ!? どう見てもイカサマだろっ!! フォーカードが連続する上にストレートフラッシュなんてくるかぁ!!」
次々と出される強い役に盗賊職の男がキレた。
そしてディーラーをしている冒険者を睨む。
「おいアンタ! まさか故意にこの娘へ強い役をを渡してるんじゃないだろうな!」
「そんな事をするか。いや、俺もビックリだけどな」
肩を竦めてディーラーは苦笑している。
既にアクアの負け分は取り返しており、逆に盗賊職の男は自分の持ち金を失いかけている。
「そういえばスズハって、カズマより幸運値が高いんでしたよね」
「ここのところスズハは散々な目に遭ってたから忘れてたわ……」
後ろで何か言っている2人を無視して次のカードが配られた。
「あ、ロイヤルストレートフラッシュです」
「いい加減にしろぉ!? ロイヤルストレートフラッシュなんて65万分の1じゃねぇか! イカサマだろイカサマッ!!」
このままでは貴族令嬢から報酬を貰う前に無一文になってしまう。
そう思って騒ぎつつもギャンブルでイカサマを行う程手癖が悪いと報告するかと八つ当たり的な思考が過る。
すると遠くで様子を見ていたダストが酒を片手に後ろから盗賊職の男の肩に腕を回す。
「おいおい。負けが込んでるからってみっともねぇぞ。それにもしもスズハちゃんがイカサマしてたとしても、バレなきゃイカサマじゃないんだぜ?」
ダストの言葉に観戦していた周りの冒険者達も同調する。
それに小さくなっていると、スズハが立ち上がった。
「それでは、わたし達はそろそろお暇します。晩御飯の準備もありますし」
そしてアクアの負け分だけ纏めて、後は返金した。
「おい!?」
「これが今の全財産なのでしょう? こちらは取られた分だけ返ってくれば充分です。冒険者は危険な職業です。せっかく稼いだお金をギャンブルに注ぎ込まない方が良いですよ」
スズハからすれば余計な恨みを買いたくないと思っての返金だった。
それに無いと思うが有り金を奪われて犯罪に走られても迷惑だ。
アクアとめぐみんに向かって笑顔を見せる。
「それじゃあ帰りましょうか。アクアさん、約束通り荷物を持ってください」
「えー! 何でお金返しちゃうのよ! そのお金で帰りに何か買って帰りましょうよ!」
「アクア。あまり駄々をこねないでください」
3人の少女がギルドから去っていくと、盗賊職の男は返されたお金を見る。
(50万エリスは諦めるか……)
「そういう訳で、彼女への説明を頼む」
「それは構いませんが、何故私から? 今日スズハも呼んで話せば良かったのでは?」
「私から話すと形だけでも見合いの話を受けそうだからね。ララティーナからの方が彼女も気を使わなくて良いだろう」
つまりはスズハの本心が知りたいという事だ。
「分かりました。スズハには私から聞いておきます」
「頼むよ。仮に見合いを承諾したとしてもそう悪い話じゃない。
「分かりました。伝えておきます」
そう言ってダクネスは念のために見合いの書類を手にして部屋を後にした。
「あーずっと窓を拭いてたから腰がイテェ……」
「運動不足なんじゃないですか、カズマ」
「んー! やっぱり勝った後のご飯は美味しいわね~」
「最近、モンスターによる家畜への被害が多いらしくてお肉が高いんですよね」
4人がそれぞれ話をしている中で黙々とダクネスは食事を進めていると、スズハが不安そうに話しかける。
「あの、ダクネスさん。もしかしてお口に合いませんでしたか?」
「ん? い、いや! そんな事はないぞ!! うん。スズハの料理はとても美味しい。ちょっと考え事をしてただけだ」
「なんだよダクネス。もしかして今日家に呼び出されて親父さんに何か怒られたのか?」
茶化すようなカズマの態度にダクネスはそんな訳があるかと返す。
このまま悶々と悩んでいても仕方ないと話を切り出す事にした。
「スズハに訊きたい事があるのだが」
「はい? わたしですか?」
「うん。その……スズハは故郷に婚約者などは居たりするのか?」
「……居ませんが。どうしたんですか、突然?」
ダクネスの質問に瞬きして答える。
もしかしたらスズハとカズマの遠い故郷にそうした相手が居るかもしれないと念の為の確認だった。
実はスズハの知らないところでとんでもない人物が仮とはいえ婚約者とする話が進んでいたのだが、今となっては関係のない事である。
「うん。実は、スズハに各貴族からお見合いの話がダスティネス経由で来てるらしいんだ」
その話題にスズハは事の原因を考えて口にする。
「王都での件が原因ですか?」
「そうだ。あの件でスズハは色々と頑張ってくれたからな。アイリス様への覚えも良い」
そこでアクアが疑問を口にした。
「それっておかしくないかしら? あの事件では私もたくさん活躍したんですけど。スズハにだけお見合いの話が来るなんてこの国の貴族はロリコンばかりなの? 普通ならこの美しくも気高い女神アクア様にこそ真っ先にそういう話が来るのが当然じゃないかしら?」
立ち上がって腰と胸に手を当てるポーズを取るアクア。
そんな女神にカズマとめぐみんは白けた視線で見た後にダクネスに問う。
「それって、受けなきゃ駄目な話なのか?」
「いや、断るなら断ってくれて構わない。お父様もスズハの意見を尊重すると言っている。だから遠慮なく本心を言ってくれ」
ダクネスの言葉にスズハは申し訳なさそうに返した。
「ならお断りさせて頂きます。今はヒナの世話で手一杯ですし、ここでの生活が好きですから」
「そうか……そうだな……」
実を言うと、スズハが内心はどうであろうとこの話を受けるのではないかと少しだけ思っていた。
だから正直に答えてくれた事に安心した。
隣に座っているヒナに食事をさせながら話を続ける。
「正直、大きな家に縛られるのはもう遠慮したいので。この子にとっても……」
言いながらヒナの汚れた口を拭く。
出来ればヒナには伸び伸びと育って欲しいと思う。
「分かった。お父様には伝えておこう」
「はい。よろしくお願いします」
「ちょっと良いか?」
「えぇ。どうぞ」
ノックに対して入室の許可を出すとジャージ姿のカズマが入ってくる。
「少し話してもいいか?」
「はい、かまいません。あ、でも、ヒナが眠ったばかりですのでお静かにお願いします」
「おう」
部屋にある椅子に座るとカズマは晩御飯での話を蒸し返した。
「お見合い、断って良かったのか?」
「今は住む家もお金も有りますから。貧窮してたなら飛び付いてたかもしれませんけど。それに────」
「それに?」
一瞬、スズハが小さく笑ったかと思うと、頬に手を当てて心配そうな表情に変わる。
「わたしがここを出ていったら、皆さんがどんな生活をするのか不安で不安で」
「お前は俺らの母親か!」
そこまでだらしない連中だと思われていたとは心外だ。
思い当たる節はたくさんあるが。
すると、スズハがカズマの手に触れる。
触れている手は小さく震えていた。
「……まだ、男の人は怖いって気持ちも有って。結婚と言うなら、
もしもまた男の人に押し倒されたら。気が動転して暴れて、精霊の力を使って相手を傷付けてしまうかもしれない。
だから今のところスズハの中で異性と一緒になるという選択はなかった。
カズマもスズハの答えに納得したのか、椅子から立ち上がる。
「悪かったな。ヒナが寝たばかりなのにお邪魔して」
「いいえ。わたしも話せて頭の中が纏まってスッキリしましたから。カズマさん。おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
挨拶をすませるとカズマはスズハの部屋の扉を閉めた。
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他