「おーい、スズハァ。お前宛に手紙と小包が届いてるぞ」
「わたし宛に、ですか?」
この世界に実家が存在しないスズハには正直心当たりが無いのだが、宛名を見てあぁ、と声を漏らす。
「アイリス様からですね」
「アイリスから、ですか」
手紙の封を開けて目を通す。
「はい。クレア様達、王都が落ち着いてアルカンレティアに送られた事と、アイリス様自身の近況。それから────」
そこでスズハの表情が一瞬だけ無になった。
「どうした? アイリスに何かあったのか?」
「いえ。ヒナはどうしてるかとか、どれくらい大きくなったのか、とか。そういう質問責めの文が書き列ねてあるので」
手紙をカズマとめぐみんに見せると、そこにはヒナに対する質問がズラリと並んでいる。
こんな手紙を貰っても鬱陶しいし、正直恐い。
そこで小包を持っていたアクアが勝手にそれを開封する。
「ってお前何やってんの!? 人の荷物勝手に開けんなよ!?」
「え? だってこれって私達皆に宛てた物でしょう? なら、私にも開ける権利が有るじゃない」
「それならアイリス様は私達全員の名前を書くと思うが」
ダクネスが呆れていると、小包の中身が開封された。
「本?」
中に入っていたのは1冊の本だった。
スズハが手に取ると、中身と手紙を交互に見る。
「どうやら、ホーリー・ジョージさんの研究を纏めた物。その写本みたいですね。原本は王都の図書館に禁書として保管されるようです。精霊使いのわたしの役に立つかもしれないとアイリス様が特別に送ってくれたみたいです」
「禁書って……何か危険じゃないのか?」
書いた人間が書いた人間なだけにカズマは警戒するが、杞憂だとスズハは笑う。
「禁書扱いになったのは、あの人の罪状を鑑みての事のようですし、問題はないかと。それに紙に書かれている知識自体に貴賤はないですよ。要は学んだ事をどうするかです」
スズハが本を閉じると、アクアがつまらなそうに興味を失う。
「どうせなら、ドラゴンを育てる為の本を送ってくれたら良いのに。さ! 私は、いつ産まれても良いように、ゼル帝の卵を見てくるわ!」
去って行ったアクアの背中を見ているカズマは最早達観したように目で呟く。
「アイツ最近、ホントに卵の世話しかしてなくね?」
「そ、そう言えばカズマさん。この間失敗した道具の作成はどうなりました?」
アクアのせいで、と言わない辺りがスズハなりの気遣いである。
「それか? 何とか形にはなったけど、使えるかはこれから試さねぇとな。さすがに屋敷でやると危ないから、適当なクエストを今度受けようと思う」
クエストと聞いてめぐみんが目を輝かせた。
「クエストですか! 最近は外へ出る機会も減ってカズマもアクアも魔王討伐の目標を忘れているのかと思いましたよ! どんなクエストを受ける気かは知りませんが、任せて下さい! カズマのアイテムが役に立たなくても、わたしの爆裂魔法が必ずや倒して見せましょう!」
「いや、魔王討伐はもうどうでも……まぁ、いっか。その時は頼むぜめぐみん!」
煽るように親指を立てる。
ダクネスもクエストを受けることには賛成ではあるが、カズマの発明が気になるので質問する。
「いったい何を作ったのだ、お前は?」
「当日のお楽しみだな。上手くすれば、大きな戦力強化に繋がる上に、何よりも、またバニルに売り込めばデカい金が入る筈だしな」
今更金に困っている訳ではないが、自分が作った物が大金に換わることを思い描いて口元をつり上げるカズマ。
「お仕事はいつ頃に?」
「まだ用意したい物もあるし、明後日かなぁ?」
「そうですか。どうかお気をつけて」
それが目を覚ますと、感じたのは強烈な破壊衝動だった。
10年もの間、湖の中で溜めこんだ魔力を発散させたくて仕方がない。
毎回毎回、人間の騎士団に邪魔されて結局はろくに暴れられずに魔力切れで終わる。
今回こそは、と少しずつ湖から這い出る。
それは思考ではなく本能。
暴れたい、壊したい、喰らいたい。
その衝動への歯止めは一切なく、クーロンズヒュドラは深い湖からその頭を見せた。
「イーヤーよっ! ゼル帝がいつ産まれても良いように、私は家を離れないわ!」
クエストを決めた当日に、アクアはソファーに囓りついて動こうとしない。
アクアを置いていく、という選択もあるが、何だかんだで回復魔法を含めた補助魔法のエキスパートだ。何か遭った時の為について来てもらわないと困る。
ついでに言えば、1人だけ家でぐーたらしてるなんて身勝手は気にくわない。
「アクア。最近は本当に生活態度がヒドイですよ。そろそろ動かないと、また太りますよ」
「前のダイエットで泣きながらジャイアントトードに追いかけられただろう。またそうなりたいのか?」
以前自堕落的な生活を送り続けた結果、体重が激太りしてカズマにダイエットを強要された事がある。
その時に天敵であるジャイアントトードに追いかけ回される毎日を送る羽目になったのだが。
そんな事はもう忘れたのか、幼子のような反論をしてきた。
「女神は太らないわよ! カズマもカズマよ! そんなやる気を出してクエストに向かうなんてカズマさんらしくないわ!! ヒキニート魂は何処へ行ったの!!」
「お前は俺に魔王退治をさせたいのか、このまま堕落させたいのかはっきりしろ! とにかく! 今日はクエストに行きます! これは決定事項だ!」
ビシッと指を差すと、アクアは目に涙を浮かべてスズハにしがみついてきた。
「スズハァ! 同じママ友としてスズハなら分かってくれるわよね!? 我が子と離れたくないっていう母親の気持ちがっ!!」
「……アクアさん、そろそろ卵とヒナを同列に扱うの、止めてもらっても良いですか?」
スズハの言葉にアクアは地団駄を踏む。
「何よスズハまで! ゼル帝が人間じゃないから下だって言うの! 種族差別だわ種族差別っ! 貴女がそんな子だとは思わなかった!」
なおもクエストに行くことを嫌がるアクアに全員が呆れて息を吐くと、街に警報が鳴り、放送がかかった。
『アクセルの街に住む冒険者の皆さんっ!! 緊急クエストです! 冒険者資格を持つ方は至急冒険者ギルドまでお越し下さい!!』
本当に緊急なのだろう。切羽詰まった声の放送にカズマ達は顔を見合わせた。
この緊急事態警報。
つい先日聞いたダクネスの話も含めて心当たりが有りすぎる。
「おいおいマジかよ……おいアクアッ! いつまでも駄々こねんじゃねぇ! このままだと街が無くなって、その卵も潰れちまうぞ!」
「うぅ……でもぉ……痛い痛い!? 髪を引っ張らないでぇ!?」
まだ動こうとしないアクアの長髪を引っ張って連れていくカズマ。
ダクネスもスズハに家で大人しくしてるように言い含めるが、本人が首を振る。
「いえ。事態を把握したいので、ギルドまで御一緒します。邪魔はしませんので」
「来るな、とは言いませんよ。まぁ、クーロンズヒュドラなど、我が爆裂魔法で木っ端微塵にしてやりますよ! だから安心してスズハはヒナと待っていて下さい!」
自信満々なめぐみんの啖呵にスズハは「はい」と頷いた。
クーロンズヒュドラに関しては数日前から知らせが既に行われていた為、冒険者達は緊張しながらも混乱は起きていなかった。
「それでは御説明します。クーロンズヒュドラを監視を請け負っていた冒険者の方の情報に依るとターゲットは既に山を降り、真っ直ぐこの街を目指しているようです」
「いつもの騎士団はやっぱり間に合わなかったの?」
若い冒険者の質問に、ギルド職員は苦い表情で頷く。
「王都の軍の建て直しは終わりましたが、今すぐにこちらに騎士団を派遣できる余裕はないそうです。アクセルの戦力で対処して欲しいとのことです」
「始まりの街に要求する事じゃねぇだろ……」
「デストロイヤーの討伐が成功して、王都からアクセルの街の冒険者への評価が上がってるんです」
ギルド職員が息を吐く。
重たい雰囲気にギルドで鉢合わせたゆんゆんが緊張した様子でめぐみんに話しかけた。
「何だか、大変な事になってるね」
「ゆんゆん、臆する事はありません! 私達には最強の爆裂魔法があるのですから! 修得して置いて良かったでしょう?」
「う~……認めたく無いけど実際切り札になってるから反論できない……」
肩を落とすゆんゆんの横でスズハが苦笑して娘をあやしていた。
赤い髪の女性はアクセルの街に建てられた高台の上に座っていた。
「さて。どうするべきかしらね……」
少しだけ困った様子で眉間に皺を寄せてクーロンズヒュドラがやって来る方角を見据えていた。
未来編の情報。
ダクネスはスズハがカズマとの子供である双子の男子を身籠った時期に観念して結婚する。
めぐみんはスズハの第4子の次女が産まれた時に勝手に名前を役所に提出(受理はされてない)をした結果、スズハと大喧嘩となり、数年間行方不明となる。
ヒナは13歳で冒険者資格を得た後に、めぐみん捜しを兼ねて世界を見て回る旅に出る。
読者さんがこの作品で好きな話は?
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他