今年もこの小さな母娘に幸福を!をよろしくお願いします。
「それでは皆さん。どうかお気をつけて」
クーロンズヒュドラの対策会議を終えてギルドを出ると娘を抱っこした状態でスズハはクーロンズヒュドラの討伐に赴くカズマ達の身の安全を口にしつつ送り出す。
カズマは頭をボリボリと掻きながら肩から下げているバッグに触れた。
「ハァ……適当にゴブリン退治でも引き受けて、コイツを試そうと思ったのに、まさかヒュドラが相手とは……」
「アレですよね? 扱いには充分に気をつけてください。危険物ですので」
「分かってるよ」
今回扱う新アイテムの開発に協力したスズハは戒める意味でも忠告する。
協力と言ってもスズハが持つ知識を教えただけだが。
それでも扱い方を間違えれば、味方に大きな被害を与える可能性もある。
カズマなら上手く扱えるだろうが、何事も絶対はないのだ。
「ねぇ、2人して何の話をしてるの? カズマの新兵器ってそんなに危険なの? 恐いんですけど」
「いや、今回はあくまでも試作のつもりだったし、威力は抑えて作ったつもりだ。ホントのところは使ってみるまでわかんねぇけど」
このパーティーは色々な意味でバランスが悪い。女性陣はそれぞれが一芸特化。カズマのような器用貧乏。スズハは非戦闘員。
特に攻撃面の格差は酷かった。
だからそれを解消する意味合いでも今回の新兵器だ。
「まぁ倒すのは無理でも、ダメージくらいは与えられる筈だ」
そう締め括る。
スズハはめぐみんとゆんゆんの方を向く。
「ゆんゆんさん。めぐみんさんが暴走した時はお願いしますね。下手したら味方ごと爆裂魔法を撃ちかねないので」
「あはは。うん、自信は無いけど任せて! その時は全力で止めるから」
「……スズハ。どうしてそんな事をゆんゆんに頼むのか、理由を聞こうじゃないか」
ほっぺを引っ張るめぐみんと視線を合わせずにいると、ダクネスが話しかけてきた。
「お前もだぞ、スズハ。もしも街に危険が及んだら、ウィズに王都までテレポートして貰えるように頼んである。そこからアイリス様を頼るんだ」
「はい。でも、そうならないように祈ってます」
「そのつもりだが、お前はいざという時には自分を顧みないからな。分かってると思うが、スズハが優先しなければいけないのは────」
「はい。分かってます。この子の安全を最優先に動きます」
「あー」
母親の頬に触れるヒナ。
ウィズにはアクセルの最後の防衛ラインとして街に残ってもらう事となった。
その際に、カズマ達が個人的にスズハを王都までテレポートしてほしいと頼んである。
他の住民を裏切るようで気が引けるものの、やはり娘が最優先なのだ。
そこでカズマが割って入ってくる。
「ちげーよ! スズハとヒナの2人の安全が優先だろうが! いや、ホントやめてくれよ? 紅魔の里や王城での二の舞はごめんだからな?」
カズマからすれば、内臓がモロ出しとか、濡れ衣で処刑されるスズハをまた見るなどゴメンである。
カズマの言葉にスズハは一瞬顔を呆けさせたが、すぐ後に嬉しそうに口元を小さく上げる。
「はい。私もこの子を置いて死ぬ訳にはいきませんから」
「そうよ。私が近くに居ないと蘇生出来ないんですからね! あ、でも逃げる時はゼル帝の卵もお願いね! 私の可愛いドラゴンなんだから!」
そう言って持って来て有った、タオルに包まれた卵を渡してくる。
やや複雑そうな笑みで受け取るスズハ。
アクアには以前蘇生してもらった恩が有るので卵を預かるくらいは構わないのだが。
(やっぱり、鶏の卵と私の娘を同等の扱いにするのはやめてほしいな)
この件は終わった後に確りと話し合う事にしよう。
するとヒナが卵を取ろうと手を伸ばしてくる。
ブンブン動くその手に卵を落としてしまいそうでスズハはヒナの届かない位置に卵を離す。
「うー! うーっ!」
卵を離された事で不機嫌になるヒナ。
「ダメよ。これはアクアさんの。めっ」
「……本当にゼル帝を頼むわよ、スズハ! もし卵を割ったら女神の天罰を喰らわせますからね!」
「大丈夫ですよ……アクアさんでもあるまいに」
「ん? スズハ? 今、何か言ったかしら? 小声で聞こえなかったんですけど」
「いえ、特に何も」
ボソッと呟いた一言を有耶無耶にするスズハ。
ここ最近、アクアにママ友扱いされたりでストレスが溜まっており、こういうところで不満が漏れたのだろう。
そこで締め括るようにめぐみんがマントをたなびかせた。
「我が名はめぐみん!
高らかに宣言するめぐみんにこのクエストに参加する冒険者は苦笑しつつも、その威力を知るだけに、一種の安心感を覚えていた。
「それじゃあ、行ってくるわ!」
「はい。行ってらっしゃい、皆さん」
カズマがいつものように正門の方に向かうと、スズハもいつものように見送った。
警報を受けて家や避難所に閉じ籠る中で、赤い髪の女性が1人街の通路を歩いていた。
ついさっきまで活気付いていた街は突如現れた
「本当に、どうしたものかしら……」
彼女はこの街である調査をするためにやって来た。
しかしもしもクーロンズヒュドラによってこの街が滅ぶのであればと、どうするか決めかねている。
街を歩きながら悩んでいると、聞き覚えのある声が後ろから自分を呼んできた。
「バクさん?」
温泉街で出会い、この街で再会した少女が赤ん坊を寝かせた台を押していた。
「まだこの街にいらしてたんですね。危ないですから、避難所に行きましょう」
前回のデストロイヤーでの反省点から街の地下に人間が隠れる為の避難所が建設されている。
まだ未完成だが、それでも上に居るよりはマシだろう。
「大丈夫よ。私はテレポートの魔法が使えるの。いざとなれば1人で逃げられるから」
女性の言葉に現れた少女、スズハは胸に手を置いて安堵の息を吐く。
「なら、安心ですね」
「えぇ。貴女こそどうしたのよ? 避難しなくて良いのかしら?」
「こういう危ない時に、大人の言うことを聞かないで飛び出しちゃう子供とかも居るんですよ。冒険心って言うのか。それに純粋に家族とはぐれて迷子になった子も居るかもしれませんし。せめてそれくらいは手伝えたらと思って」
だから一応見回っていたと言う。
それは立派な事だが逆に心配になる。
「赤ん坊を連れ回して1人動き回るのはどうなのかしら?」
見つけたのが子供ならまだ良いが、こういった緊急時に犯罪行為を行おうとする者もいるだろう。
そうした不埒な輩に襲われたらと考えてつい苦言を呈する。
その言葉にスズハはバツが悪そうに苦笑する。
「一応、この子に警戒してもらってますから」
ベビーカーで眠る赤ん坊のお腹に乗っている小人を指差す。
人形か何かだと思っていたそれは、小さく首を動かした。
「これ、精霊?」
「はい、風の。私が契約してる」
「へぇ……なら安全かしら?」
意外、という様子でスズハを見る。
「それにしても大事ね。クーロンズヒュドラの討伐に向かった冒険者達も気の毒に」
この街は冒険者にとって始まりの街と呼ばれるだけあり、多くの冒険者を生み出してきた。しかし、その実力は他の────例えば、魔王軍などと常日頃から戦っている者達と比較するとやはり見劣りする。
おそらくは、今回の
その考えを見透かしてか、スズハは首を小さく振ると、落ち着いた声で話す。
「大丈夫ですよ、きっと……」
当たり障りのない励ましのようにも聞こえるが、どこかその声には信頼があった。
「わたしがお世話になっている冒険者パーティーの方々なんですけど、普段はちょっと抜けてるというか、色々と問題を起こすんですけど、こういう大きな事件では負けないです」
「……これまで上手く行ったからといって、今回も大丈夫と思うのは危険じゃないかしら?」
それは赤い髪の女性なりの気遣いだった。
信じるという事は、それが深ければ深い程に違う結果になった時の失望が大きい。
そう思っての苦言だ。
スズハもそれを理解している。
「そうなんですけど。あの人達なら、なんとかしてくれそうなきがするんですよね。だって……魔王軍幹部だって倒してしまう人達ですから」
スズハの言葉に赤い髪の女性は大きく瞬きをした。
カズマ達は馬車に揺られながら今回の作戦について話し合っていた。
クーロンズヒュドラがアクセルに近付いているとはいえ、その速度はデストロイヤーと比べれば遅く、広い場所で戦うよりも、ある程度行動が制限出来る場所で迎え撃つ事にした。
幸い、クーロンズヒュドラが眠っていた場所からアクセルの間にはちょっとした渓谷があり、そこを陣取って迎撃する事に決めた。
巨体なら、狭い場所で戦う方が犠牲を減らせると考えて。
「取り敢えず、場所の問題から爆裂魔法の同時撃ちは控えたい。遮蔽物が盾になって威力が削がれるかもしれないし、周りの被害も洒落にならないからな」
爆裂魔法を使えば地形まで影響を及ぼす。
それにクーロンズヒュドラ1体に爆裂魔法2発同時では攻撃範囲的に広すぎる。
カズマは地図を広げて迎撃場所を指差した。
「俺達はヒュドラをここで迎え撃つから、敵が見えたら先ずはめぐみんの爆裂魔法。それで倒せれば良いが、再生能力も有るらしいしな。可能性は低いと思う」
クーロンズヒュドラは首などの肉体の再生に魔力を使う。
要するに、これまでの騎士団同様に再生させまくって魔力切れを狙えば良いのだ。
もちろん倒せるならそれに越した事はないが。
カズマは1発目に撃つ爆裂魔法の位置とそれより少し手前の位置に✕印を付ける
「そんで、この位置に今度はゆんゆんの爆裂魔法を頼む」
「は、はい! 頑張ります!」
「ちょっと待ってください。それじゃあ私がクーロンズヒュドラを倒せなかったら、ゆんゆんにドラゴンスレイヤーの称号が持っていかれてしまうではないですか!」
作戦内容に抗議するめぐみん。
予想通りなのでカズマは落ち着いて対応した。
「どうせ1番槍は自分だー
「理由?」
「正直、2発目の爆裂魔法でも倒せるかは微妙だと俺は思ってる。だから、もしそれでも仕止め損なったら、周りの冒険者達に足止めしてもらって、その間にアクアの魔力をドレインタッチでめぐみんに送って3発目で仕止めるんだよ! もちろん足止めしてる皆を逃がした後でな!」
素人考えだが、もうこれしか思い付かない。
そしておそらく、4発目を撃つ余裕は無いだろうとも思っている。
そこで今度はアクアからブーサインが出た。
「えー! また私の神聖な魔力をリッチーのスキルでめぐみんにあげるとか嫌なんですけど! 私、めぐみんの魔力電池じゃないんですけど!」
「うるさーい! 何の為にお前を連れてきたと思ってんだ!」
いがみ合い始めるカズマとアクア。
ダクネスは自分の役割を確認する。
「私は、めぐみんが3発目の爆裂魔法を使う際に、撤退する冒険者を援護すれば良いんだな?」
「あぁ。最悪、ダクネスだけなら爆裂魔法を喰らっても(爆裂魔法による)死人は出たりしないからな」
「ふふ、そうか。クーロンズヒュドラの攻撃とめぐみんの爆裂魔法……お前はいったいどこまで私を悦ばせるつもりなんだ!」
「いや、逃げろよ? 巻き添え喰らうのは最悪の事態だって言ってんだろうが!?」
頬を染めて身をくねらせるダクネスにカズマは声を上げてツッコミを入れた。
渓谷に辿り着き、それぞれが確認しながら決められた位置に着く。
すると、地響きと共に9つの首を持つドラゴンがこちらに近付いてきた。
「来たっ!? めぐみん、デカいのを1発頼むぜ!!」
「任せてください! ゆんゆんの出番もなく、この1撃で終わらせて上げましょう────エクスプロージョンッ!!」
今、開戦の爆炎が放たれた。
読者さんがこの作品で好きな話は?
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他