この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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エレメンタルマスターについてはこの作品の独自設定です。

スズハの過去。チマチマ欠片を出して行こうと思いましたが止めた。
この前後で一気にやる。


忍び寄る過去・前

 日本のとある一軒家。

 表札に佐藤と書かれた家には夫婦と息子1人というごくありふれた家庭であり、晩御飯の光景がそこに在った。

 少しばかり違うのは、その家では少し前に引きこもりだった長男が事故によるショック死で亡くしており、葬式などのゴタゴタがようやく片付いて以前の生活リズムが戻ってきていることか。

 

 その晩御飯中に痛ましいニュースが流れていた。

 それは実の娘を含めて3名を殺害した母親がパトカーに乗せられている映像が流れているニュースだ。

 

『今日昼頃。○○市○○○町で白河涼葉さん(11)とその娘である生後三ヶ月の赤ん坊が包丁で殺害されているのが発見され、殺人容疑の疑いで白河涼葉さんの母親である白河静香さん(43)がパトカーに乗せられています』

 

『同時に、赤ん坊の父親と思われ、事件当時白河家に訪れていた森岳誠さん(22)が鉈で頭を割られて殺害されているのも発見されており、今回の事件動機は白河涼葉さんの出産が原因ではないかと見て警察は捜査を続けており────』

 

 それからは小学生の出産やら児童ポルノやら。

 その時、家族は何をしていたのかと憶測が飛び交っている。

 ただ、そのニュースを見ていた息子を失ったばかりの母親はあることを思っていた。

 

(もしも死後の世界なんてモノが在るなら、うちのバカ息子とこの子たちが出会うなんてことがあったりしてね)

 

 そんな益体の無い思考は即座に切り捨てて料理を並べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、カズマさん。めぐみんさん朝食の用意はもうすぐ終わりますので」

 

「あぁ。ただいまー。おらめぐみん! もう歩けるだろ! 降ろすぞ!」

 

 背負っていためぐみんを降ろすとバランスを崩して尻を打つ。

 

「カズマ。もう少し優しく降ろして欲しいのですが! 女性に対する扱いがなってませんね!」

 

「喧しい! 爆裂魔法撃って動けないお前を、家まで運んでやっただけありがたく思え! 大体女性って誰だよ? 俺の目の前にはロリッ子が2人いるだけだろうが!」

 

 尻餅をついためぐみんを指差して鼻で笑うカズマ。

 それにピキッと青筋を立てた。

 

「スズハはともかく、私はもう14で大人です! 結婚だって出来る年齢ですよ! 子供だって作れます!」

 

 などと息巻いているめぐみんの肩にスズハが手を置く。

 

「めぐみんさん。子供を作る作業も産むのもとても大変なんですよ?」

 

「あ、はい。すみません」

 

 しみじみというか、歳に似合わない実体験を滲ませた声音で言われてめぐみんが即座に謝る。

 何事もなく出来た朝食を皿に移しているスズハを見てめぐみんはカズマに確認する。

 

「……い、今のは、スズハなりの冗談だったのでしょうか?」

 

「分からねぇよ。だとしても重いっつの!」

 

 何せ、11歳子持ちの台詞だ。

 その話題を出されたら押し黙る他ない。

 

「ま、なんにせよ、明るくなったよな。スズハの奴」

 

 最初は捨てられまいと笑顔で居てもどこかよそよそしい感じだったが、今では自分から話しかけて意見も言う。

 文句が有ればちゃんと口にする。

 たまに、今のようなちょっとした冗談? だって口にする。

 それはきっと、スズハがここでの生活に馴染んできた証なのだろう。

 それに、アクセルの街にはスズハを可愛がっている街の人間は多くいる。

 今ならもしここに住めなくなっても生きていけるだろう。

 

「あれ? スズハより俺たちの方がヤバい状況なのは何でだろう? 主に借金で」

 

 首を傾げると食卓の椅子に座ってるアクアが呼んでいる。

 

「ほらカズマ! 早く席に着いてよ! ごはん食べられないじゃない!」

 

 そのアクアの姿を見てカズマはピキッと青筋が立つ。

 

「お前のせいじゃねぇかぁああああああっ!!」

 

「な、なによ朝っぱらからいきなりぃ!? ワケわかんないんですけどぉ!」

 

 カズマがアクアの頬を引っ張り、騒がしい食卓になる。

 いつも通りの朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男は、期待の新人冒険者である。

 腰に下げた日本刀と呼ばれるこの世界で珍しい刀剣を持ち、動きやすいように軽装の鎧を身に着けた長身中背の男。

 顔立ちは整っており、中々のイケメン。オールバックにした黒髪黒目の20代前半の男だった。

 アクセルで冒険者のソードマスターとして登録し、数々の高難易度クエストを成し遂げた。

 同じくソードマスターで名を上げている魔剣の勇者、ミツルギキョウヤにいずれは追い付くだろう人材として冒険者ギルドや王都で期待されていた。

 そんな彼は気紛れから始まりの街であるアクセルに戻り、買ったばかりの酒を昼間から煽っている。

 

「久々にアクセルに戻ったのに録なクエストも無しかよ。なら、適当に頭の悪そうな女でも引っ掛けて宿に────」

 

 などとこれからの予定を頭の中で立てていると、小さくガラガラと鳴る音に意識が向く。

 

 音の方を向くと、そこにはベビーカーを押した、やはりこの世界で珍しい着物を着た10歳前後の少女が商店街を歩いている。

 ここアクセルでは日常になりつつある光景だ。

 その少女を見てソードマスターの男はポツリと呟いた。

 

(すず)ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそいわよスズハ! もう私、お腹ペコペコなんですけど!」

 

「お前のワガママで無理して来てくれてんのになんつうこと言ってんの、この駄女神は!?」

 

「あはは。いいんですよ。お待たせしました。今日のお弁当です」

 

 安全かつ実入りの良いクエストが無かった為に次のクエスト更新まで土木のアルバイトをしているカズマとアクア。

 アルバイト中の2人に昼頃お弁当を届けるのがスズハの仕事だった。

 前までは出かける際に渡していたのだが、アクアが出来るだけ温かいお弁当が食べたいと言い始めた。

 電子レンジのないこの世界でどうするのか? 

 要は、ギリギリで作った温かいお弁当を持って来てくれと言い出したのだ。

 まだ寒さの続くアクセル。それも外作業をする者が温かい昼食を食べたいと思うのは当然。

 なら、店に入れば良いのだが、生憎と彼らにそんな時間的余裕はない。

 そこでアクアがスズハに出来立ての弁当を持って来てくれと頼んだ。

 ここに来るまでに少し冷めているが、まだ温かさを残した弁当がその手に置かれる。

 

「ホント、悪いな。助かる」

 

「好きでしている事ですから」

 

 最初はそこまでする必要はないとアクアの要求を却下していたカズマだが、何だかんだで温かな弁当はありがたい。

 ちなみにこの行動で、親方などの土木仲間たちにもスズハの存在が認識されて可愛がられてたりする。

 アクセルの街中で着実にコミュニティが広がっていた。

 

(これじゃあ、どっちが世話になってんだか……ちょっとは何か返さないとな……)

 

 そんなことを考えていると、あることを思い出す。

 

「スズハ。バイトが終わったらちょっと付き合ってくれ」

 

「え?」

 

「なに? カズマさん、スズハをどうする気なの? さすがに小学生をデートに誘うとか引くんですけど」

 

 カズマのいきなりの提案にスズハは驚き、アクアは犯罪者を見るように後ろに下がる。

 しかしそれをカズマは全力で否定した。

 

「ちっげぇよ! スズハがエレメンタルマスターについて知りたがってたから、知ってそうな奴に会わせようとしてるだけだっての!!」

 

 雪精と契約してエレメンタルマスターについて出来るだけ知識を得ようとしているスズハだが、今のところは上手くいっていない。

 現在アクセルの街にエレメンタルマスターがいないのと、図書館で調べようにも記述がほとんど見つからない。

 精々書いてあるのは、エレメンタルマスターの活躍を書いた記録書くらいである。

 精霊と会った際にどう接して契約した後もどうすれば良いのか。知りたいそこら辺の情報は見つからないのだ。

 

「なによ! そんなアテがあるなら最初から教えてあげれば良いじゃない! 誰なの、それ?」

 

「ウィズ」

 

 カズマが出したのは売れない魔法具店の店長だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレメンタルマスターについて、ですか?」

 

「もし何か知ってるなら教えてくれないか? こいつがその職でな。でも、情報が少なすぎるんだ」

 

「あぁ。貴女がシラカワスズハさんですね。お噂は聞いていますよ」

 

 どんな噂なのか聞こうとしたスズハだったが、その前にカズマの質問に答える。

 

「お教えしたいのは山々なんですが、私もエレメンタルマスターについてはあまり詳しくなくて」

 

「そっか。色んな冒険者を知ってそうなウィズなら或いはとも思ったんだけどな」

 

 期待半分だったためにアテが外れたこと自体にはあまり気落ちしていない。

 すみませんと再度謝りつつウィズは自分の知っていることを話す。

 

「彼らは基本、精霊。自然の声に耳を傾ければ傾けるほど人里を離れる傾向にありますから。書物などの記録に残りにくいのもそれが原因です」

 

「人里を離れる?」

 

「はい。精霊たちと強く結び付いたエレメンタルマスターは、より精霊と繋がり、寄り添って生きるために、自然に近い場所で世捨て人同然の生活をすると聞いたことがあります。高名なエレメンタルマスターが力を貸すのは、人の手では負えない災害や強力な魔物や魔族の相手を国から要請を受けてというパターンが多いそうです。それすらも拒否する人が大半だとも言われていますが」

 

 精霊と繋がって生きるために人の世を捨てる。

 自然と一体となって過ごすことこそが、精霊を身近にする最短の道

 もしくは精霊の声を聞き続けたことで人の世に嫌気が差したのかもしれない。

 何にせよ、スズハがそんな生き方をするとは思えないが。

 

「私が話せるのはこのくらいです。ごめんなさい、お力になれなくて……」

 

「いや。為になったよ。急に押し掛けて悪かったな」

 

「ウィズさん。とても参考になりました。ありがとうございます!」

 

 ペコペコと頭を下げるスズハにウィズは穏やかな笑みを浮かべていえいえと返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日の終わりが近づき、スズハに支えられる形でヒナもお風呂に入り、近い位置でめぐみんがその様子を見守っていた。

 

「もう一月二月もすれば歯も生えてくるでしょうね」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ。こめっこ……あくまでも私の妹の時はでしたが」

 

 こうしてめぐみんは年の離れた妹の時の経験からヒナの子育ての手伝いやアドバイスをしてくれる。

 パーティー内で最年少であることからお姉さんぶれるのが嬉しいのかも知れないが。

 最近では人見知りも激しくなり、アクアやカズマ、ダクネスにも恐がるような素振りが表れていた。

 だからスズハが手を放せない時はヒナの面倒はめぐみんが見ている。

 

「~~~~♪」

 

 スズハの口から聞いたことのない歌が紡がれる。

 歌詞からしておそらくは子守唄の類いなのだろう。

 本人の様子からもしかしたら無意識に口ずさんでいるのかもしれない。

 温かな湯船に少女の声が紡ぐ心地良い子守唄。

 めぐみんにしてもこの場で眠ってしまいそうだった。

 しばらくその歌に耳を傾けていると目蓋が落ちそうになる。

 しかし、そうなる前に歌は止まってしまった。

 

「そろそろ、上がりましょうか」

 

「……そうですね」

 

 もう少し聴いていたかった気もするが、そうしたら本当に眠ってしまいそうだった。

 

(流石に、それはマズイですね)

 

 スズハの提案通りにめぐみんも浴槽から出る事にした。

 

 ヒナの体を丁寧に、宝物を扱うように拭いていくスズハ。

 その表情は過去、めぐみんの母が妹のこめっこの世話をしていた時の表情と重なり、だからこそ不意に哀しくなってしまった。

 まだ11。

 勉強も遊びも全力で取り組むべき子供が、子を産み、育てる。

 出会った時からそうだったからいつの間にかそれが当たり前で。いつしかその歪さを忘れてしまっていたのかもしれないとも。

 だからこそふと直視して気付いてしまう。

 

「スズハ」

 

「はい?」

 

 めぐみんはタオルを巻いたままスズハの横に腰を下ろす。

 

「私は、スズハが過去に何があったのか、知りたいと思ってます」

 

 めぐみんの言葉にスズハの肩がビクリと跳ねる。やはり、知られたくない何かがあったのだろう。

 

「細かなことは分かりませんが、きっととても大変なことがあったのだということくらいは、私でも分かります」

 

 それは、何も分かっていないのと同じなのかもしれない。だけど、断言できることはある。

 

「スズハがどんな過去を抱えていようと、私たちはスズハの味方です。だから、スズハが自分から話してくれるのを待つことにします」

 

 スズハが瞬きする。

 

「貴女が話したいと。私たちになら話しても良いと思ったら教えて下さい。どんな過去でも、私たちは貴女の味方です!」

 

 もう一度強く断言した。

 

「紅魔族随一の天才は、仲間を見捨てたりはしないのですよ!」

 

 スズハの頭を撫でてあげると、その顔が赤く染まった。

 それはきっと風呂場から出たばかりだからではない筈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄様! 開けてください! ここから出してください!? どうしてっ!?」

 

 声を張り上げて固く閉ざされた扉を何度も叩く。

 しかしいくら叫び、扉を叩いても向こうにいる筈の兄はまったく応えてくれない。

 閉じ込められた部屋で中に居た男が舐め回すような視線と笑みでジリジリと近づいてきた。

 扉が開かないことを悟った少女は狭い部屋の中で男から距離を取る。

 だけど、成人男性と年齢が二桁を越えたばかりの少女ではすぐに動きを止められるのは道理。

 足を引っかけられて転ぶと、少女が頭を床に押さえつけられる。

 

「あ……!」

 

 そして、男は着物の帯に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、胸糞シーンあり。

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