「イテテ……めぐみんのやつ、本気で殴りやがって。お前の貧乳を見たかったわけじゃないっつーの」
鼻を押さえながら玄関の作業に戻るカズマ。
板に縄を括り付けていると、アクアがやってきた。
「ねぇ、カズマ。私はこれからお風呂に入るの」
「いや、勝手に入れよ。作業の邪魔すんな。つーかその前に手伝え」
板をアクアに支えさせる。
カズマの態度に不満そうに頬を膨らませる。
「もう! さっきみたいに覗かないでねって言ってるの! 女神の裸なんて見たら、天罰が下るわよ!」
プリプリと怒るアクア。
その台詞にカズマはハッと鼻で笑う。
「あのな。馬小屋で生活してた頃からお前を女として意識したことなんて1回もねぇよ。自惚れんな」
「なんですって~!! カズマのくせに!」
「おい! 板離すなよ!」
「イタイッ!?」
肩を揺さぶるアクアに頭突きをお見舞いして黙らせた。
馬小屋生活の時に健全な青少年として見た目だけは美人なアクアで自身の境遇を紛らわせようとしたこともあったが、カズマのカズマさんは全く反応しなかった。
サキュバスによる淫夢を利用する際にもアクアが出演したことは1回もない。
つまり、異性として全く意識してないのだ。
怒ったアクアが立ち去ると、カズマは1人作業に戻る。
「アイツが壊したのに邪魔しにきたのかよ……」
ブツブツと文句を言いながら作業をする。
所詮間に合わせだとちゃっちゃと終わらせようとする。
『でも最近は母乳も出てきた、かな……?』
先程の会話を思い出して顔を赤くする。
(そういや最近、胸の辺りが微妙に膨らんでたな。寝間着の浴衣の時とか特に……)
そこまで想像力を滾らせていると、板に頭を打ち付ける。
「って、違うだろぉおおおっ!?」
考えるならあっちのお姉さんで、何でスズハの胸を想像して興奮してるのか。
いや、大きくなったのは喜ばしいことだが。
悶々としていると、ヒナを背にしたスズハが冷たいお茶を用意して持ってきた。
「お疲れ様です、カズマさん」
「お、おう……」
お茶を受け取って一気に流す。
汗を掻いていたので冷たい飲み物はありがたかった。
スズハにコップを返すと胸元に視線がいく。
ダクネスやウィズとは比べるまでもないが、そこには確かな膨らみが────。
突然ボーッとしだしたカズマにスズハは1歩近づく。
「どうしました?」
心配そうにカズマを見るスズハ。
対してぐちゃぐちゃな思考のままカズマは反射的に返す。
「いや……母乳って、どんな味がす────」
途中で何言ってんだと思い、口を塞ぐ。
案の定、先程覗きに来たのを知っている事もあり、スズハから向けられる視線は冷たかった。
「ここは頬を張ったりした方が良いのでしょうか?」
「……すみませんでした」
カズマは速攻で頭を床に付けた。
めぐみんは赤い髪の女性と話している。
爆裂魔法を教わったあの日から、爆裂魔法を覚える為にスキルポイントを貯め続けたこと。
故郷を出てアクセルの街での今日までの暮らしも。
「私は、貴女にとても感謝しています。貴女に爆裂魔法を教わらなかったら、他の子達と同じような普通のアークウィザードに成っていたでしょう」
皆と同じような上級魔法を修得して。
冒険者になって、それなりのパーティーに所属する。
その可能性のめぐみんは、きっとこのパーティーには居なかっただろう。
魔王軍の幹部だって倒せなかったかもしれない。
何よりこの日々が楽しいのだ。
冒険者としてクエストに行き、達成したり失敗したり。
本音でぶつかって喧嘩をしたり、ふざけあったり、心の底から笑い合う毎日。
その何と刺激的で愛おしい日々か。
「ありがとうございます。あの日に貴女と出会えて、私は"私"に成れた気がします」
爆裂魔法を愛するアークウィザード。
大変な時期もあったが、今はとても充実していた。
それを聞いていた赤い髪の女性は曖昧に笑った。
朝。
トントントンとまな板の上で食材を刻む音と鍋から良い匂いが厨房からする。
今日もスズハは横にいる娘を見ながら朝食を作っている。
「あぁ、おはようございます。朝、お早いですね」
スズハが小さく頭を下げると、彼女もクスリと笑ってはいけない。
「そういう貴女の方が……毎日準備してるの?」
それはこうした朝ごはんの準備についてか。
「はい。最初は大変でしたけど、今は慣れました。皆さんも手伝ってくれますし」
小皿にスープを盛って味見する。
最初の頃は流石にスズハ1人では手が回らない事も多く、何だかんだで手伝ってくれた。
スズハの1番の仕事が娘の子守りという事もあるが。
元々適応力の高いスズハは1、2ヶ月もすれば屋敷の家事を殆んど1人でこなせるようになった。
そうなると当然あの堕落気質というか、面倒臭がりの面々も次第に怠けるようになったが。
ちなみにダクネスは手伝おうとしても、生来の不器用さから家事の戦力に成らず、めぐみんは爆裂魔法を撃つ日課のせいで、スズハがお願いするか、夜くらいにしか手伝えない。
朝昼晩決まった時間にご飯が出て、クエストから帰れば風呂が沸かされ、屋敷の使うスペースは常に掃除されている。
楽を覚えたこのパーティーはスズハが居なくなったら屋敷を数日で汚屋敷に変えるかもしれない。
「もしかして眠れませんでしたか?」
「いいえ。ここ最近で1番の快眠だったわ」
「それは良かったです」
冗談混じり答えにスズハもニコニコと笑って返す。
「時間が取れたらで良いのだけど……」
「はい?」
「今日は貴女の話を聞かせてくれないかしら?」
鍋の火を止めてスズハが振り返る。
「わたしですか? それは構いませんけど。でもわたしはこのパーティーには名前だけ籍を置いているだけで、実質はただの家政婦ですよ?」
スズハからすれば、普段からクエストに参加している訳でもない自分に取材する価値が有るとは思えない。
しかしそこで相手から意外な名前が出る。
「ホーリー・ジョージ……王城で精霊使いとして招かれていた精霊学の第一人者。私ね、少し前に起きた王都での大事件についても調べてるのよ。貴女の名前も、当時新聞に出ていたし」
「……そうらしい、ですね」
スズハ自身その新聞は読んでないが、大々的に報じられたのは知っている。
事件解決後はアイリスの指示によりシラカワスズハは濡れ衣である事も大々的に広められたが。
「その件については貴女に聞いた方が良いとあの子から聞いたから。もちろん無理にとは言わないけど……」
「いえ、大丈夫ですよ。王族の方から話さないように言われている部分も有りますので、そこら辺は無理ですけど」
「えぇ、もちろん。王家が絡んでいるのなら口止めは当然ですものね」
「それじゃあ、今日はカズマさん達はお仕事に出かけますので、その後にでも」
カズマ達をギルドに送り出した後に茶と茶菓子を用意する。
正直に言えば、あの事件を思い出すのは少々辛い。
日本で普通にしていればまず経験しない体験のオンパレードだったのだ。
そこでスズハは女性の膝で丸くなってるちょむすけを見る。
「ちょむすけ。ダメでしょう? こっちおいで。すみません、ウチの猫が……」
「あぁ……良いのよ、別に」
と言ってくれるが、このままでは仕事の邪魔になるかもしれないので、退いてもらう事にする。
「ちょむすけー、おやつよー。こっちおいでー」
ササミのジャーキーを出すと膝からビシッと立ち上がり、その翼でスズハのところまで飛んで、器に入ったジャーキーを貪り始めた。
その様子に何だかショックを受けているように見える赤い髪の女性。
「い、いつもそうなの? その子……」
「えぇ、はい。まぁ……娘が起きている時は尻尾や翼を引っ張られたり、抱きつこうとして押し潰してくるので近付かないんですけど。娘が寝てる時はおやつ欲しさに私にベッタリ何ですよ」
ちなみにめぐみんの肩に乗っていた時に同じ事をして大きくショックを与えていたりする。
動物を手懐けるには胃袋を掴むのが手っ取り早いのだ。
「え、と……じゃあ取材を始めます?」
「……そうね」
目元を覆っている相手を見て、そんなに動物が好きなのかな? と思いつつ質問は開始された。
王都での事件。
第一王女であるアイリスの気紛れから始まった食事会。
その際にカズマとスズハ。そしてヒナが気に入られ王城まで招待されたこと。
交流を重ねて親交を深めたが、帰宅を決めた時にホーリー・ジョージによってアイリス王女への刺殺未遂の犯人に仕立て上げられたこと。
それから色々とあり、彼の精霊である
ホーリー・ジョージが日本からの転生者であることや、拘束中にクレアなどにされた諸々に関してはカットして話した。
「大変だったわね……」
「えぇ。でも、そう悪いことばかりではありませんから」
同情的な視線にスズハはそう返した。
辛いこともあったが、アイリスと友人になれた事は彼女の中で良い思い出として刻まれているのも事実だ。
「質問の最後になるけど……ホーリー・ジョージは魔王軍に関して何か言っていたかしら?」
魔王軍の情報。
彼が魔王軍と精通していたのなら、何かしらの情報を口にした可能性。
「いえ。わたしの知り得る限りでは特に。王城の方で取り調べは続いていると思いますが」
だが、それはスズハには預かり知れぬことだ。
「そう……そうよね……」
すると女性は立ち上がった。
「少し、情報を纏めさせてもらうわね」
「えぇ。どうぞごゆっくり」
サトウカズマの屋敷を訪れた数日後。
赤い髪の女性は宿屋の窓から鳥に偽装された使い魔から手紙を受け取っていた。
手紙の内容は短くこう記されている。
『件のパーティー。これ以上魔王軍に損失を与える前に排除を要請する。手段は問わない』
読者さんがこの作品で好きな話は?
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他