この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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遅くなってすみません。


悪魔の囁き

 魔王軍幹部であるウォルバクは、アクセルの街にある高台に居た。

 深夜の暗闇からでも見える屋敷を指差す。

 つい先日、取材という名目で訪れたアクセルの街では珍しい大きな屋敷。

 組織のトップから、彼のパーティーを潰せと命じられた。

 だから彼女はその命令を実行しなければならない。

 しかし────。

 

「ウォルバクさん……」

 

 後ろから現れたウィズにウォルバクは小さく息を吐く。

 

「どうしてここに?」

 

「バニルさんに教えてもらって」

 

「あぁ、やっぱり生きてるのね、アイツ……」

 

 仮面を被り、腹の立つ笑いを思い出して額に手を当てるウォルバク。

 ウィズが不安そうに口を開いた。

 

「ここで、何を為さるつもりですか?」

 

「そうね。例えば、魔王軍幹部を数人討伐した冒険者パーティーを爆裂魔法で始末しよう、とかかしら」

 

 ウォルバクの言葉にウィズの握られていた手が開く。

 その視線も普段の彼女からは想像出来ないくらい鋭いモノに変化していた。

 ウィズの様子にウォルバクは握っている杖を構える。

 

「確か契約では、冒険者や騎士などの戦いを縄張りとする者以外に危害を加えた場合は敵対する、という条件だったわね。今私が討とうとしているのは魔王軍幹部を倒した冒険者パーティーよ。さて。ここで敵対するなら、貴女の方こそ契約違反ではないかしら?」

 

「それは……」

 

 ウォルバクの言葉に口ごもるウィズ。

 確かにサトウカズマのパーティーは魔王軍幹部を数名倒している。

 大なり小なりシラカワスズハも加担している限り、ウィズが介入する事ではない。

 ある1つの見落としを除いては。

 

「いいえ、ウォルバクさん。もしも貴女があの屋敷を攻撃するのなら、私は全力で貴女を止めます」

 

「それは、此方との契約を反故するという事?」

 

「いいえ。あの屋敷には赤ん坊(ヒナさん)がいます。まだ物心すら付いてない小さな子です。あの子に危害を加える気ならば、私も黙っていません」

 

 手の平から魔力によって生み出される冷気。

 それを見てウォルバクはクスリと笑って両手を上げる。

 

「安心なさい。ここからあの屋敷を攻撃する気は最初からないわ」

 

「え?」

 

「あの屋敷から、取り返さなきゃいけないモノがあるからね」

 

 そう言って、ウィズの横を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、珍しくカズマ達はアクセルの街に在るレストランで昼食を食べ終えていた。

 

「たまには外で食べるのもいいわね~!」

 

「つーか、アクアお前ぇ……レストランで酒場感覚に酒を注文するなよ。お前だけ値段が3倍じゃねぇか」

 

「だってカズマの奢りだったから」

 

「こんのアマ……っ!」

 

 青筋を立てるカズマにダクネスがまぁまぁと宥める。

 昨日のクエストでそれなりの報酬を得たカズマ達。

 それでたまにはと知り合いの冒険者から美味い店を聞いて外で昼食を食べることにしたのだ。

 

「しかし何故いきなり外食をしようなどと言い出したんですか? 今までそんな事なかったじゃないですか」

 

「はっはっはっ! 何を言うんだめぐみん! 俺はいつだってパーティーメンバーの事を考えて行動してるよー!」

 

 明らかに目を泳がせて話を逸らすカズマ。

 それにダクネスが反応してカズマの肩を揺さぶる。

 

「カズマ! まさかまた借金かっ!? 私達の知らないところで借金をして、食事を奢った代償で私達に払わせようとしてるのか! くっ! 何て鬼畜な!」

 

「おいふざけんな! アクアじゃあるまいしそんなこと言うかっ! つーか、ちょっと嬉しそうにすんじゃねぇ!」

 

「私じゃあるまいしってどういう意味!? 謝って! 私がそんな酷いこと言うって決めつけた事を謝って!」

 

 ギャーギャー騒ぎ始めたカズマ達にスズハが会話に入る。

 

「でも、ビックリしましたよ。いきなり外食なんて言うから。てっきりわたしの料理に飽きて外で食べたいって意思表示かと思いましたよ」

 

「おいやめろよ。その倦怠期が始まった夫に不安を抱く嫁さんみたいな台詞。てか何でお前らを労おうとしてこんなこと言われてんの俺?」

 

「普段の行いのせいですよ……アイタッ!?」

 

 めぐみんの額にデコピンを喰らわせるカズマ。

 

「普段の行い云々でお前にとやかく言われたくねぇんだよ」

 

「なにをー!」

 

 カズマとめぐみんがじゃれていると、丁度屋敷が見えてきた。

 すると玄関口で見知った顔が立っていた。

 

「バクさん!」

 

「あぁ、やっぱり留守だったのね」

 

 腕にはちょむすけを抱えているのを見てめぐみんが手を伸ばす。

 

「ちょむすけがすみません。ちょむすけ、こっちへ来なさい」

 

 めぐみんの呼びかけにちょむすけがプイッと顔を逸らす。

 

「ちょむすけ!」

 

「ごめんなさい、バクさん」

 

「いいのよ。今日は半身であるこの子を迎えに来たのだから」

 

 抱いているちょむすけの頭を撫でる。

 彼女の発言が理解できないまま相手は此方に向いて小さく笑う。

 

「さてと。魔王から何人もの幹部を倒したパーティーである貴方達を始末するように命じられているわ」

 

「あの、何を言って……」

 

 状況が呑み込めないスズハ。

 それを無視する形で彼女は続ける。

 

「私の本当の名はウォルバク。暴虐と怠惰の女神にして魔王軍幹部の1人よ」

 

 魔王軍幹部と名乗る女性に困惑するカズマ達。

 真っ先に反応したのはアクアだった。

 

「はぁあああぁあああっ!? ちょっと貴女! この世界には私とエリス以外の女神は居ない筈なんですけど! 女神を騙ろうだなんて罰が当たるわよ!」

 

 ビシッと指を差して噛み付くアクアにウォルバクは不快そうに眉間にしわを寄せる。

 

「失礼ね。私はれっきとした女神よ。怠惰と暴虐という少し印象の良くない感情を司ってるし、魔王軍に所属するようになってからは邪神を名乗る事もあるけれど……」

 

「嘘吐いた! この女嘘吐いてるわよカズマさん! 謝って! 勝手に女神を自称して清く美しいも尊い女神の名を穢した事を謝って!」

 

「ちょっと。いきなりどうしたのよ。確かにアクシズ教徒とか言う頭のおかしな連中には勝手に邪神認定をされたりはしたけど、一介のプリーストにそんな事を言われる筋合いは無いからね!」

 

「頭のおかしい! 今ウチの子達を頭のおかしいって言ったわね! 大体ウォルバク何て言うマイナー女神、全然聞いたことないんですけど! 信者だってちゃんと居るのかしら? プークスクスクス!」

 

 挑発行為をするアクア。

 それからウォルバクとアクアによる段々しょーもない口喧嘩に発展する。

 

「そもそもこの世界で知らない者のいないアクシズ教団の御神体にして水の女神アクアに、マイナー女神が意見するなんて烏滸がましいわね!」

 

「……貴女、勝手に女神を騙ると罰が当たるわよ」

 

「謝って! 騙りとか言ったことを謝って!!」

 

 それからも本当に下らない口喧嘩を続けるアクアとウォルバクにカズマが声を上げる。

 

「だぁあああああああっ!! 話が進まねぇ! アンタいったい本当に何の用だよっ!」

 

「あ、あぁ……そうだったわね」

 

 コホンと咳払いしてから話題を戻す。

 

「さっきも言ったけど、何人もの幹部を討ち倒してきた貴方達を消すように命を受けているわ。2日後、この街に私の隊が到着する予定よ」

 

「マジかよ……」

 

 あまりの急展開に目を覆うカズマ。

 2日で魔王軍幹部の部隊がアクセルにやって来る。そんなのどう考えても自分達の手に余る事態だ。

 ウォルバクがちょむすけの頭を撫でる。

 

「この子を保護してくれていた事には感謝しているけど、魔王軍側の者としてこれ以上貴方達に損害を出させる訳にはいかないわ。それに、伝説の勇者の子孫まで居るとなればね……。そうでしょう? 勇者サトウの末裔の冒険者さん」

 

「へ?」

 

 カズマが間の抜けた顔を晒す。

 

「惚けるつもり? それとも昔過ぎて今は忘れ去られているのかしら? でもサトウなんて珍しい名が早々あるとは思えないけど」

 

(いや、それどう考えても別のサトウさんだろ!)

 

 恐らくは過去に送られた転生者がたまたま勇者と呼ばれるようになったのだろう。

 何にせよ、日本では珍しい名前ではないし、カズマとの血縁関係はありえない。

 妙な勘違いが生まれた事に頭を抱えていると、めぐみんがちょむすけに再度呼び掛ける。

 

「ちょむすけ! こっちに来なさい! 怒りますよ!」

 

 めぐみんの呼びかけにやはり小さく鳴いて顔を反らす。

 ちょむすけの態度に眉間にしわを寄せるめぐみん。

 

「まぁ待て。ここは俺に任せろ」

 

 めぐみんの肩に手を置くカズマ。

 その自信にその場にいる全員が頭に? を浮かべた。

 

「ほ~らちょむすけー。おやつだぞー」

 

 懐から容器を取り出して開ける。

 中にはちょむすけ用にスズハが作ったおやつが入っている。

 

「何を出すかと思えば……仮にも私の半身がそんなのに釣られるワケ────」

 

 するとウォルバクに抱かれていたちょむすけが暴れだし、その腕から脱出すると、脇目も振らず容器に飛びついた。

 

「どういう事よ仮にも私の半身が食べ物に釣られるなんて!」

 

「プークスクスクス! ねぇ見た! あの自称女神、ちょむすけにあっさり手の平返されてるんですけど!」

 

「飼い主と同じで食い意地が張ってるからな。ちょむすけ用の食い物作ってる時、いつも足下でウロウロしてたし」

 

「おい。私を食い意地の張った卑しい子扱いするのはやめてもらおうか」

 

「て言うか、なんでカズマさんがそれを持ってたんです?」

 

「いや、出かける前にちょむすけにおやつやって遊んでたから」

 

 そんな会話をしていると、ウォルバクがワナワナと震えている。

 アクアが片眼を閉じ、もう片方の眼で望遠鏡で見るようなジャスチャーをする。

 

「貴女、女神を名乗るにしては神格が低いと思ったら、ちょむすけに何かの封印が施されているのかしら? 私のくもりなきまなこが見通したわ!」

 

 フフンと自慢気に鼻を鳴らすアクア。

 カズマがちょむすけを首で持ち上げる。

 

「さてと。アンタの半身は取り返したとして、こいつに何かされたくなかったら大人しく退いて貰おうか!」

 

「くっ」

 

 苦い表情をするウォルバク。

 

「カズマ、流石にそれはどうかと思うのだが……」

 

「うるさい! 代案も無い役立たずは黙ってろ!」

 

「誰が役立たずだ! ぶっころすぞ!」

 

 半泣きのダクネスがカズマの首を掴んで大きく揺らす。

 

「残念だけど、私も今更退く訳には行かないわ。その子も返して貰う」

 

 何らかの魔法を行使しようとするウォルバク。

 カズマは舌打ちして別の案を出す。

 

「なら! 俺達だけで白黒(ケリ)付けるのはどうだぁ!」

 

 ウォルバクの動きが止まる。

 

「決闘って事だよ! もしも俺達が勝ったらアンタは自分の部隊を退かせる! そっちが勝ったら好きにすればいい!」

 

「それを承けるメリットがこっちにあるとでも?」

 

「要するにアンタの目的は俺達だろ? ならそれを達成した時点で任務完了の筈だ。それにアンタは知らないかもしれないが、アクセルの街には冒険者はともかく、一般人に手を出したら怒る魔王軍幹部が居るんだぜ! そいつを相手にしたら、お前さんの部隊もタダじゃ済まないからな!」

 

 遠回しにウィズの事をほのめかす。

 ウォルバクもこの街にウィズがいる事を知っている為、眉間のしわが深くなる。

 

「いいわ。その決闘を承けましょう。場所は……そうね。クーロンズヒュドラを討伐したあの渓谷が良いかしら? あそこなら邪魔は入らないでしょうし。明日の午後までに来なさい。もしも反故にすれば、此方も予定通り私の部隊共々この街を攻め込ませてもらう」

 

 そこまで言うと、スズハが哀しそうな顔でウォルバクの名を呼ぶ。

 

「ウォル、バクさん……」

 

「……貴女も、赤子を巻き込みたくなければここで大人しくしていなさい」

 

 テレポートを使って消えるウォルバク。

 ガシガシと頭を掻くカズマ。

 

「なんだってこんなことにぃっ!!」

 

「ごめんなさい、わたしのせいで……」

 

「気にするな、スズハ。この街にいる以上、向こうは私達に辿り着いていたさ」

 

 ウォルバクを引き合わせた事に責任を感じるスズハにダクネスが励ます。

 それでもスズハは顔を俯かせているが。

 

「ま、安心なさい! あんな神格の低いなんちゃって女神なんて、本物の女神であるこのアクア様がケチョンケチョンに返り討ちにしてやるわ!」

 

「お前……あの人が爆裂魔法使えるのを忘れてるだろ?」

 

 カズマの指摘にアクアが固まる。

 

「ほ、ほら。そこら辺はカズマさんの小狡い作戦で……ね?」

 

 アクアの言葉に渋い顔をするカズマ。隣にいるめぐみんも表情が暗い。

 

「めぐみんも、今回は気が進まないか?」

 

「い、いえ! 大丈夫です! 相手は魔王軍の爆裂魔法の使い手! 相手にとって不足無し、です……」

 

 どう見ても強がっている様子のめぐみん。

 爆裂魔法を教えたのはウォルバクだと言うし、精神が不安定になっている。

 

(クソッ! 魔王軍の幹部と決闘とか! 俺達がやるようなイベントじゃないっつーのっ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の時間に間に合うように出発したカズマ達。

 念の為に街に居るゆんゆんにも手伝って貰うらしい。

 スズハはヒナの相手をしながら待っている。

 

「うーあー」

 

「あ……ごめんね、ヒナ」

 

 お手玉を見せていたが手が滑ってヒナの頭に落ちてしまう。

 スズハの頭の中は今回の件で混乱していた。

 もしもカズマ達に何かあったらどうしよう? 

 ならウォルバクが倒されれば良いのか? 

 考えが纏まらず、悶々と帰りを待っている。

 不安に惑っていると、修理した玄関からノックする音がした。

 

「カズマさん?」

 

 まだ早い気がするが、それでも逸る気持ちを抑えきれずスズハは玄関の扉を開ける。

 

 

「ふはははは! あの間抜け面の小僧だと思ったか! 残念! 吾輩でしたー!」

 

「……」

 

 高笑いと共に現れたバニル。

 スズハは妙に苛つきを覚えてそっと玄関を閉めようとする。

 

「待て待て! 客を追い返そうとするな! 最近子育て以外にも悩みが増えた娘よ! 吾輩は貴様の為に良い話を持ってきたのだぞ!」

 

「話、ですか……」

 

 それなら無理に追い返すのもアレなので、中に通す。

 

「それで、御用件は?」

 

「決まっておろう。例の決闘の件だ。貴様はこのまま見て見ぬふりをするつもりか?」

 

「それは……」

 

 スズハとて、今回の件は色々と責任を感じているし、どちらにも嫌な結末になってほしくないと思っている。例えそれがスズハの我が儘でも。

 

「そんな貴様にこれを授けよう。もしかしたら、貴様の望む結末を引き寄せるかもしれんぞ?」

 

「これ」

 

 バニルが魔法の道具をスズハの手に落とす。

 それは以前、説明された道具だった。

 

「でも……」

 

 娘を見る。

 決闘の場に連れていく訳にはいかないし、ここで1人放置するのは論外だ。

 それに気付いたバニルがあろうことかヒナを持ち上げた。

 

「ならば、貴様らが帰ってくるまで、吾輩が面倒を見てやろう。なに、これでも子供の扱いには慣れている。心置きなく行ってくると良い」

 

 笑いながら玄関から出ていくバニル。

 当然追いかけるが、そこには既にバニルの姿はなかった。

 

「人拐いーっ!?」

 

 スズハの絶叫がアクセルの空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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