爆裂魔法の影響なのか、急に雨が降り始めた。
小雨から大降りになるのに時間がかからずめぐみんを濡らす。
雨に全身が濡れてもめぐみんはベト付く髪や衣類は気にならず、今見た絶望の光景に茫然としていた。
赤い髪の女。魔王軍幹部ウォルバクは鬱陶しそうに雨を受けていると、めぐみんの方に視線を向ける。
「う、あ、あ……」
みんなが爆裂魔法に呑まれて跡形もなく消えてしまった。
その跡を見つめるめぐみんとウォルバクは目が合い、面倒そうに魔法で空を飛んで此方に向かってくる。
着地する音が雨に掻き消されめぐみんの前に立つウォルバク。
手にしている杖を向けてきた。
「なにか、言い残すことはあるかしら?」
ウォルバクの質問に仲間を失ったショックでめぐみんは答えることが出来ない。
その状態を理解してウォルバクは最期の別れを告げる。
「さようなら」
杖から魔法が撃たれて────。
「セイクリッド・クリエイト・ウォーターッ!!」
突如洪水が2人に襲いかかった。
ウォルバクは魔法で浮遊し、回避し、めぐみんだけが洪水に流される。
それをやったのはもちろん。
「あれ?」
「こぉんの、駄女神ぃ!! めぐみんを流してどうすんだよぉおおおおおっ!?」
「だってピンチに見えたんだもん! 怒らないでよぉっ!」
髪を引っ張るカズマにアクアが目に涙を溜めて言い訳をする。
「ブクブクブクッ!?」
「めぐみ~んっ!?」
流されていくめぐみんをゆんゆんが助けるために洪水に飛び込んでいった。
その様子をウォルバクは信じられない様子で見ている。
確かに彼らは爆裂魔法で消滅した筈だ。
なのに何故、まだ生きているのか。
混乱しているとダクネスが
「くっ!?」
剣を振り下ろそうとするダクネスにウォルバクは咄嗟に炸裂魔法で撃退しようとする。
爆発系の魔法では最弱だが、1人の人間を屠るには充分な威力ある。
本来ならば────。
しかし相手は爆裂魔法にすら耐え切る防御力を誇るダクネスだ。その程度では倒せない。
しかし、驚いたのはその事ではない。
ダクネスの体に隠れていたスズハが身を乗り出し、ダクネスを飛び越えてウォルバクに向かってくる。
「
風を操り、ウォルバクに体当たりして地面へと叩き落とした。
「うあっ!?」
地面に女の子1人分の体重を乗せて叩きつけられたウォルバクは痛みで声を上げる。
上半身を起こして後ろの腰に差していた剣────カズマのちゅんちゅん丸を抜く。
逆手に持った刃は震えたまま、ウォルバクの心臓の辺りに当てられた。
「ウォルバクさん……貴女の魂は、わたしが貰います……!」
今にも泣き出しそうな顔と声で宣言するスズハ。
どうしてあのパーティーが無事だったのか。理由は分からないが、きっと彼女が何とかしたのだろう。
納得出来ない部分はあるが、戦いとはそういうものだ。
だから、そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。勝者にそんな顔をされたらこっちはどんな顔をすれば良いのか分からない。
「仕方ないわねぇ……」
「っ!!」
苦しみを堪えるような顔のまま、小さな精霊使いはウォルバクの胸に刃を突き刺した。
ウォルバクを殺害すると、どういう事か、その身体が光の粒子となって消えてゆく。
それを見届けるとスズハはちゅんちゅん丸から手を離した。
「スズハ……」
事態を見守っていたカズマが近付いて声をかけると、スズハがカズマの胸に飛び込んでくる。
肩が震えているのは当たる雨の冷たさからではないだろう。
なんだかんだでウォルバクとは仲が良かったのだ。
自分から言い出した事とはいえ、相当堪えただろう。
スズハの頭を撫でようと腕を動かす。
すると────。
「○✕△◎▽□◇ッ!?」
「うおぉいっ!? コイツ吐きやがったぁ!!」
自分の体に吐瀉物をぶちまけられたカズマは驚いてスズハの体を押して距離を取る。
青ざめた顔のままハンカチで口元を押さえるスズハ。
「すみません。色々とトラウマが刺激されてしまって……」
ウォルバクを刺した時に自分が母親に刺されて殺された時の事がフラッシュバックしてしまった。
「うわっ! カズマさんバッチィ! こっちに近付かないでよね!」
「うるせー! ぶん殴るぞこの駄女神ぃ!!」
「すみませんすみません」
半泣きのカズマの謝り続けるスズハ。
そこで救出されためぐみんがゆんゆんの肩を借りてやって来た。
「ど、どういうことですかっ!? 爆裂魔法でみんな……!」
頭がついてこないめぐみんに、カズマが乾いた笑いをする。
「さっきのは流石に死んだと思ったなぁ」
「そうよ、スゴく恐かったんだから!」
アクアがスズハの肩を揺らす。
混乱しているめぐみんにゆんゆんが説明する。
「簡単に言うとね、スズハちゃんが助けてくれたの。地面に落として」
爆裂魔法が当たる直前に
ウォルバクがめぐみんのところに向かっていた最中にカズマ達を地面の中から出して、めぐみんを助けたところに繋がる。
そこでダクネスが疑問を口にした。
「それにしても、よくあのタイミングで助けに入れたな? いつ頃ここに居たんだ?」
「皆さんがくる少し前ですね。
『……』
平然とずっと戦闘を見ていたと言うスズハに全員が視線を合わせてコクンと頷いた。
カズマがスズハの頭を握り拳で挟み、グリグリと攻撃する。
「だったらどっかで教えろやぁ!! それならそれでやりようは有ったんだぞぉ!!」
「いたぁっ!? ごめんなさい! どうにも出てくるタイミングか分からなくて!」
自分達が必死こいて戦っていたのに観戦してましたと言われればそりゃ怒るだろう。
次にめぐみんが質問する。
「そう言えば、ヒナはどうしたのですか? まさかほったらかしにして出てきた訳ではないでしよう?」
「……バニルさんに連れて行かれました」
『……ハァッ!?』
「ちょっとスズハッ! それ大丈夫なの! あの自称大悪魔にヒナを連れてかれて! 身体を変な風に弄られたりしちゃうんじゃない!?」
「恐い事を言わないでください! ウィズさんにもバニルさんの捜索に協力して貰ってますし! 大丈夫ですよ! ……きっと」
最後の方が自信無さげなのだった。
そこでくしゅん、とめぐみんがくしゃみをする。
「取りあえず、アクセルに戻りませんか? 雨の中ここに留まっていたら風邪を引いてしまいます」
「そうね。ゲロまみれのカズマさんが可哀想だし」
「うるせー!」
アクセルに戻ると先ずはウィズ魔法具店に顔を出した。
「おぉっ! どうやら上手くいったようだな! 感心感心!」
ハッハッハッ! と
すると懐から何かを取り出して叩きつけるようにバニルに手渡し、逆に娘を奪い返す。
「次やったら本当に怒りますよ」
低い声で告げるスズハにバニルは手渡された物を眺めておーこわいこわい、と肩を竦めるだけだった。
そんなバニルの態度にウィズも怒りを露にする。
「もう! バニルさん! ちゃんと謝ってください! いくらなんでも今回は酷すぎます!」
「喧しい。○○歳のくせに未だに男ッ気がなく子供の世話をする機会のない哀れな貧乏店主よ。さて吾輩は忙しいのでこれにて失礼する」
「な、な、な、な、なぁっ!? バニルさんっ!!」
店の外へ出ていくバニルをウィズが追っかけるが、ヒナを拐った時と同様に既にその場から消えていた。
「じゃあ俺らも帰るわー」
疲れた表情でカズマパーティーは帰路に着いた。
首を刺されて死んだウォルバクが目を覚ましたのは、狭いような広いような。不思議な空間だった。
意識もハッキリしているか。それとも夢を見ているのかも判断出来ない。
そんな空間の中を漂っていると、突如不快になる笑い声が聞こえてきた。
『ふはははは! どうやら意識を取り戻したようだな!』
「バニル!?」
『何か言っているようだが、そちらの声はこちらには届かんのだ。だから疑問の内容は推測で答えさせてもらう。先ず今の貴様は魂だけを魔法具に閉じ込められている状態だ。あの貧乏店主もたまには役に立つ物を仕入れてくる』
バニルがスズハに与えた魔法の道具。それは対象が許可を出して殺されると瓢箪の中に魂だけを封じる魔法具だ。
「許可って! 私は────」
言いながらウォルバクはスズハとの最期の会話を思い出す。
確かに彼女はウォルバクの魂を貰っていくと言った。そしてウォルバクもそれを了承した。
命、ではなく魂という表現に疑問を抱くべきだった。
数時間前の会話を思い出して唖然とするウォルバク。
『貴様の存在の殆どは半身に持っていかれたぞ。魔王城の結界も貴様の分は消えたようだ。吾輩と同じく魔王幹部からは除外された訳だ』
「……私をどうするつもり?」
『なに。丁度使い勝手の良い助手が欲しかったのだ。幸いこの街の近くに在る遺跡で貴様の新しい身体を造ってやろう。少し時間はかかるがな』
アクセルの街の近くに在る遺跡はかつてデストロイヤーを生み出した伝説の魔法使いが人造生命を造り出す為の物。
新しくウォルバクの身体を用意することも出来よう。
『お前の魂を移し替えた後はしっかりと働いて貰うぞ。ふははははっ!』
哄笑するバニル。
ウォルバクはなんて奴に自分の
読者さんがこの作品で好きな話は?
-
序盤
-
デストロイヤーから裁判まで。
-
アルカンレティア編
-
紅魔の里編
-
王都編
-
ウォルバク編
-
番外で書かれた未来の話
-
その他