この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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お祭りの準備。

 こめっこの態度があまりにも酷いと判断した姉のめぐみんによる再教育が開始された。

 めぐみん自身の素行が普段から良いモノなのかはさておき、こめっこの将来が不安なのは共通認識だった。

 

「いいですか、こめっこ。食べ物を与えられたからといって簡単にそれを貰ったりしてはいけません。ここは紅魔の里ではないのですから。はい、復唱」

 

 パンパンと手を叩いて妹に言い聞かせるめぐみん。

 それに対してこめっこの返答は──―。

 

「ことわる」

 

「ことわる、じゃありません! 今のこめっこを見てると食べ物に釣られて誰にでもホイホイついて行きそうで不安なんですよ!」

 

 腰に手を当てて叱るめぐみんだが、当の本人はどこ吹く風、と言った感じで聞き流している。

 

「もちろんついていく。そしてやしなってもらう」

 

「バカなこと言うんじゃありません! もし連れ去られても助けになんて行きませんからね!」

 

 真面目に聞こうとしないこめっこが唇を尖らせた。

 

「ねえちゃんのおこりんぼ」

 

「こめっこ! どこへゆくのですか! 話は終わってません!」

 

 こめっこはめぐみんに背を向けて逃げていく。

 めぐみんも捕らえようとするが、すばしっこくて失敗してしまった。

 そうしてこめっこが逃げ込んで鍵を掛けたのは食料の置いてある台所だ。

 めぐみんが鍵の掛けられた扉を叩く。

 

「開けなさい、こめっこ!! 逃げて閉じ籠もるなんて卑怯者のやることですよ!」

 

「食べるものがなくなったらでるー」

 

「こめっこーっ!!」

 

 ドア越しに出てくるように促すが、こめっこは食糧室から出てくる気配がない。

 というか、何かを漁っている音がする。

 

「おっきなチョコみつけたー!」

 

「ってそれ私が取って置いたチョコじゃないですか! こめっこ! それに手を出したら許しませんからね!!」

 

「いただきまーす!」

 

 めぐみんの忠告など聞きもせず、こめっこはめぐみんのチョコに手を付けている様子だ。

 それを紙に何か書きながら見ていたカズマが呆れた感じで話しかける。

 

「手玉に取られてんなめぐみん」

 

「ぐぬぬ! こめっこ。いつからあんな反抗的な子に……」

 

 悔しそうに歯軋りするめぐみんに、カズマが頬を掻いて提案する。

 

「なんだったら、俺が出てくるように仕向けさせてやろうか?」

 

「姉である私が苦労してるのに、カズマに出来るとは思えませんが?」

 

「いや〜、意外と簡単だとおもうぞ?」

 

 めぐみんの言葉に特に怒りもせずに簡単だと言うカズマ。

 

「そ、そこまで言うならやって見せてもらおうじゃないか!」

 

 姉としての矜持から素直に頼めないめぐみんが偉そうに要求してくる。

 仕方ないと息を吐いてからカズマはこめっこが閉じこもっている部屋に聞こえるよう、声を張り上げた。

 

「こめっこが台所に立て籠もっちまったー! しかたねーから俺らは高級レストランにでも行って飯にしようぜー! こめっこは置いてよー!」

 

 態とらしいカズマの言葉にめぐみんが目をパチパチしていると、ジェスチャーでお前も合わせろと指示を出す。

 

「そ、そうですね! こめっこが台所から出てこないのなら仕方ありませんもんね!」

 

 カズマの意図を察してめぐみんも話を合わせる。

 

「そんじゃ、アクアとスズハも呼んで行────」

 

 そこで、バンッと台所の扉が開く。

 

「ずるいー! わたしもいくーっ!!」

 

 両手を上げて同行を希望するこめっこにめぐみんが頭を鷲掴みにした。

 

「そういうところですよこめっこぉ。私のチョコを食べた事も含めてお説教タイムの延長です」

 

 逃げようとするこめっこを即座に椅子に座らせてから縄で巻いて拘束する。

 それにこめっこがジタバタと足をバタつかせた。

 

「ねぇちゃんのひきょーものーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで! みんなには今度のアクシズ&エリス祭で我がアクシズ教団を賑わせる出し物を考えてもらうわ!」

 

 ボードに議題を書いたアクアがバンッと叩いた。

 それに真っ先に手を上げたのがこめっこだ。

 

「たべものがいいです!」

 

 目を輝かせて意見を出すこめっこにめぐみんが少しだけ眉を動かしたが、今は様子を見る事にした。

 

「うんうん。確かに食べ物は定番よね! なにが良いかしら? はい、スズハ!」

 

「え? わたしですか?」

 

 ヒナの相手をしていたスズハが急に指名されて固まる。

 

「この中で1番料理に詳しいのはスズハじゃない。我がアクシズ教の売上がエリス教の奴らにギャフンと言わせる案を、さぁっ!!」

 

 期待大な視線を向けられて、スズハは膝に抱える娘に自分の手を遊ばせながら考える。

 

「う〜ん。たこ焼きとかどうです?」

 

「いや、アクセルでタコが流通してないだろ」

 

 スズハの回答にカズマが意見する。

 それにスズハは首を横に振った。

 

「別に中身はタコじゃなくても。そうですね。例えば、小さく切ったお肉やチーズ。それと柔らかくしておいたお芋なんかを2つずつの6個入りで売るとか。名前もボール焼きみたいに名前を変えて」

 

 たこ焼きと言ったのはあくまでも分かりやすく説明する為だ。

 そこでめぐみんが手を挙げる。

 

「そのたこ焼きというのはどういった食べ物なのですか? タコは分かりますけど、イカ焼きのように火で炙るだけの料理ではなさそうですが」

 

「あぁ、たこ焼きってのは俺やスズハの故郷の食べ物で────」

 

 カズマがたこ焼きについて説明する。

 専用の鉄板で溶いた小麦粉を小さなボール状にして中にタコの切り身を入れた食べ物なこと。最近ではタコ以外の具を入れることもあったと。

 そんな風に説明していると涎を垂らしたこめっこが声を上げる。

 

「たべたい! たべたい! たべたい! 作って!!」

 

「コラこめっこ。わがまま言うんじゃありません!」

 

「まぁ、たこ焼き用の鉄板がないから無理だしな。スズハは調達出来るアテはあるのか?」

 

「あぁ、ごめんなさい。とっさに思いついた物を提案しただけなので、道具に関しては考えてませんでした」

 

「だよな」

 

 たこ焼きの名前が出た瞬間から道具どうするんだよ、と思ったが、そこまで頭は回ってなかったらしい。

 しかしアクアがカズマに提案する。

 

「そこはほら。カズマさんのスキルでどうにか、ね?」

 

「流石に全部用意すんのは無理だ。俺だって他にやる事あるし、時間が足りねぇよ。鉄板は鍛冶屋に依頼して作ってもらった方が早いと思うぞ。他の部分は何とか自作出来ると思うが……」

 

 そんな風に話が纏まっていくと、アクアがうんうん、と頷く。

 

「なんだかたこ焼き屋が実現出来そうじゃない! それじゃあスズハ! 当日のたこ焼き作り、よろしくね!」

 

「へ? 無理ですよ」

 

 アクアのお願いを秒で断り、アクアの額が机に衝突する。

 

「な、なんでよー!?」

 

「いえ。流石にお客様を相手にしながらヒナの様子を見るなんて器用な真似は出来ませんよ。屋台なら外ですし、ヒナをおんぶしながら火を扱うのも怖いですから」

 

「うっ!」

 

 赤ん坊の事を出されてはアクアも流石に強くは言えない様子だ。

 

「アクアが作ればいいだろ。お前器用だし、たこ焼きくらい鼻唄混じりに作れるだろ」

 

 アクアは素で手先が器用だ。作り方を知らなかったとしても教われば1日で作れるようになるだろう。

 それと、スズハは別の理由でも手伝える余裕がなかった。

 

「ふははははっ! お邪魔するぞ!」

 

「ちょっと何の用よ、この貧乏悪魔! お呼びじゃないんですけどー!!」

 

 突然現れたバニルにアクアが食ってかかる。

 

「ふん。吾輩こそ貴様になぞ用はないわ! 最近また余分な肉が増えてきた肥満女神! 吾輩はそこの小娘に呼ばれたのだ」

 

 と、スズハが座っていた席を指差すが、当の本人はいつの間にか席を立って消えていた。

 全員がアレ? と思っていると、自分の部屋から何かを持ってきた。

 

「バニルさん。これがお話ししてあった試作品です」

 

 バニルに渡したのはカズマが使っているくらいのサイズの外套だった。

 

「どれどれ。ふーむ」

 

 スズハが渡した外套を鑑定し始めるバニル。

 

「なんだそれ?」

 

「ホーリー・ジョージさんが遺した研究書を参考にして作った精霊の力を宿した外套です」

 

 以前の件のお詫びとして渡されたホーリー・ジョージの研究書。

 それを読んで縫った試作品の外套だ。

 魔道具製造職人の娘だからか、めぐみんが興味深そうに見る。

 

「ほう。それは凄そうですね」

 

「いえ。精霊の力を宿していると言ってもそう大きな効果はありませんよ。この外套には雪精(シロ)の力を込めていて、これからの暑さが和らぐくらいです」

 

「この街の冒険者は全体的に質が高くないからな。あまり効果の高い道具では手が出せんし必要もない。需要を考えれば、これくらいの効果が丁度良いのだ。それなのにあの貧乏店主ときたら」

 

 ブツブツとウィズに対する文句を言いながらも鑑定を終える。

 

「充分売れるな、これは。エリス祭までにどれくらい用意出来る?」

 

「あまり多くは。15枚程、でしょうか」

 

「魔力の消耗も考えたらそんな物か。良いぞ。上手くすれば目玉商品になるな!」

 

 ふははははっ!! と上機嫌に笑うバニル。

 しかしアクアがその笑いに水を差す。

 

「ってちょっと! そんな物作ってたなんて聞いてないんですけど!! それもこんな奴の店に卸すなんて正気!」

 

「貴様がとやかく言う事でもなかろう。赤子を抱える小娘に火を扱わせようとした鬼畜女神よ。それと吾輩はこの娘にまだ話があるので借りていくぞ」

 

 と、猫でも持つように持ち上げてスズハの部屋に入っていくバニル。

 後ろでアクアが文句を言っているが、鍵を閉めて無視をする。

 

「あの、お話とは?」

 

 売る金額と分前の話だろうか? と考えていると、まったく違う話だった。

 

「もうすぐ、あの女の新しい肉体が出来上がるぞ。そうだな祭りの後くらいか」

 

 その言葉にスズハは心臓が跳ねる。

 スズハ自身が手を下した魔王軍幹部の女性。

 魂は目の前の悪魔に渡してある。

 

「と言っても以前程の力はなく、蘇ったからと言って今更消えた分の魔王城の結界が戻る事もない」

 

「そう、ですか……」

 

 良かったとホッとする反面、こうなってしまった責任で胸が痛むのも事実だ。

 どう顔を合わせたら良いのかまだ分からない。

 

「ありがとうございます。その、色々と」

 

「こちらとしてもタダ働きさせる店員が手に入って万歳だったからな、礼を言われる事でもない。これは一応の報告だ」

 

「はい」

 

 タダ働き、というところが気になるが今は追及しないでおく。

 

「それと、あのぐうたら男にやる分に集中するあまり、こっちの方を疎かにするなよ? 最低15枚、しっかりと買い取らせて貰うからな!」

 

 何もかも見透かした様子でそれだけを告げて部屋を出ていくバニル。

 部屋の外ではアクアとなにやら言い合っているが、飽きればバニルが帰るだろう。

 スズハは小さく息を吐いて机に置いてある作りかけの外套を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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