閲覧注意とあるように、めぐみん好きの人は読まない事をおすすめします。
ダクネスことダスティネス・フォード・ララティーナは久々に仲間の暮らす屋敷にやって来ていた。
その腕には1月前に産まれた男の子を抱いている。
お産での体力が戻り、貴族関係への息子の顔見せなどを終えて今日ようやく仲間にも顔見せする時間が取れた。
それには、力持ちかつ不器用なダクネスが赤ん坊を抱き上げる力加減を覚えるのに時間がかかったという事実を話すつもりはない。
また、本来は仲間達の方から駆けつけて来そうだが、スズハの出産が近づいていたのもあり、そちらにかかり切りになっていたというタイミングの悪さもあった。
スズハも2日前に無事4人目の子供である娘を産んだらしいが、出産直前で体調を崩して産後も伏せっていると使用人から聞いている。
(なんというか落ち着いたな。色々と……)
スズハは出会った時から変わらず屋敷の管理と家事。そして子育てに追われている。
カズマと結婚しても生活の変化はそう大きくない。
娘のヒナは冒険者に興味を持ち、その進路について度々スズハと口論になっていると聞く。
カズマの方は自作した製品の知的財産権をバニルに売っており、もう冒険者業は引退しているに等しく、芸術家みたいな生活とはスズハの弁。
めぐみんもアクセルの街の冒険者では手に余る大型モンスターなどの討伐に駆り出されて塩漬けクエストにならないよう爆裂魔法を撃っている。
ダクネス自身も父の勧めというか、懇願に折れる形で結婚し、貴族夫人として動く事が多くなった。
顔を合わせる機会がめっきり減ってしまったのは残念だが、時折顔を見せれば変わらず接してくれる。
未だに屋敷でダクネスが使っていた部屋をそのままにしてくれているのも嬉しかった。
屋敷の扉を付き添いの使用人に開けさせてから、少しの緊張とむず痒さの中でダクネスは声を出す。
「ただい────」
「なんてことしてくれたんですかっ!?」
屋敷中に響いた聞いた事のないスズハの大声。
それも泣きそうな声だった。
声のする方へと足を進めると、ドアが開けっ放しの部屋の外でヒナと今年で2歳になる双子の兄弟が対峙している。
ヒナがダクネスに気づいて困った様子で部屋の中とダクネスに交互に視線を移す。
「ダクネス姉さん……」
ヒナはいつの頃からか、周りの女性をさま付けではなく、さんと呼ぶようになった。
おそらくは同い年の子供達と一緒に過ごす中で、さま付けが畏まり過ぎていると感じたようだ。
今ではスズハの事もお母さんと呼んでいる。
「どうしたんだ? 只事ではないようだが……」
部屋の中で言い合いをしているのはスズハとめぐみんのようだ。
カズマは隅の方で産まれた娘を抱きかかえている。
「なんでそんな勝手なことをしたんですか!」
「スズハがずっと体調が戻らずに伏せっていたからでしょう! その子の名前が無いのも不便だと思って気を利かせたんじゃないですか!」
「余計なお世話です!」
ここまでスズハが激怒するのも珍しい、というか、初めてかもしれない。
なんやかんやで相手に非があってもスズハは自分から必要以上に衝突するのを避ける傾向にある。
「名前がどうとか言ってるが……」
「えっと……どうやらあの子の名前をめぐみん姉さんが勝手に決めて役所に提出しちゃったみたいで……お母さんも女の子が産まれて名前を付けるのを楽しみにしてたから」
ヒナの説明にダクネスは思わず、うわっと声が出た。
ダクネスの視線が抱いてある我が子に移る。
ヒナもそれに合わせてダクネスの子供を見た。
「その子がダクネス姉さんの……おめでとうございます」
「あぁ、ありがとうヒナ。そう言ってもらえて嬉しい。しかしまさか、帰って来てあの2人がケンカしているとは思わなかったが……」
だがそれならスズハが怒るのも納得だ。
いくら家族同然とはいえ、勝手に産まれた子供の名前を決められたら怒るだろう。
ましてや紅魔族のセンスからおそらくはかなりおかしな名前を付けたのではないだろうか?
とうするかと考えて喧嘩している2人の声がこちらまで届く。
「大体スズハもそろそろこっちに合った名前を付けようとか言ってたじゃないですか! だからこの私が気を利かせて名前を付けてあげたんですよ!!」
「どうしてそうなるんです!? 大体、紅魔族の方々の名前ってこっちでは全然一般的じゃないでしょう!!」
「なっ!? 言いましたねスズハァ!!」
そんな感じに2人が言い合っていると、小さい子らがぐずってきた。
同時にカズマも、よぉ、と少しうんざりした顔で部屋の外へ逃げてきた。
「よぉ、じゃないだろおいカズマ。いい加減2人を止めてこい。この子は1度泣き出すと中々泣き止まないんだ」
「……分かった仕方ねぇ。うちの双子のチビッ子共も怖がってるし、そろそろ止めてくるわ」
小さい子供には大人のケンカは想像以上に怖く見えるものだ。
言い合いにしても、子供らが寝静まった後でもいいだろう。
「悪い、ヒナ。この子も頼む」
「はい……お父さん……」
カズマとスズハが籍を入れて数年。最近ようやくヒナもカズマをお父さんと呼ぶようになった。
これはヒナ側もだが、カズマも父と呼ばれる事に複雑な気持ちになり、双方の心の整理がついたのがつい最近という話。
新しい家族をヒナに預けてカズマは2人がケンカをしている部屋に再び入る。
すると、口喧嘩があらぬ方角に向かっていた。
「大体ポンポンポンポン子供を作って! 部屋の前を通ると2人のそういう声が聴こえて居た堪れない私の身にもなってください!」
「そ、それは今関係ないじゃないですか! 子供が出来るのもカズマさんが避妊────」
「ストォォオオップ!! ガキ共の前でそういう話すんじゃねぇ!!」
手をパンパンと叩いてカズマは2人の口喧嘩を止めに入る。
これ以上はこっちにも色々と飛び火しそうだった。
「カズマさ────ケホケホ……ッ」
「ほら見ろ。まだ本調子じゃねぇのに、無理して声を張り上げるからだ」
「あ、りがとう……ございます……」
水瓶に入っている水をコップに注いでスズハに渡す。
コップを受け取ってスズハはゆっくり水で喉を潤した。
コップの中身が空になったのを見届けてカズマはめぐみんに問いかける。
「で? どんな名前で提出したのかまだ聞いてないんだがぁ……」
最初からめぐみんのセンスに期待はしてないが、せめて彼女の母や妹。もしくは
それを味方を得たり、と捉えたのか、めぐみんが不敵な笑みを浮かべる。
「流石分かってます! カズマの剣に名付けた時も気に入ってくれましたものね!」
「気に入ってねぇよ! 過去を勝手に捏造すんな! 二代目の相棒まで変な名前付けやがって!」
魔王討伐の時に魔王をカズマは自分の剣で討ち、名実共に魔王を倒した剣となったちゅんちゅん丸。
だが、その際に刀身が失われ、今は残った柄と鍔に新しい刃を拵えていた。
と言っても、ここ数年クエストに出かける事など滅多にないので、使用する機会も無いのだが。
ちなみに二代目もちゅんちゅん丸同様に珍妙な名前にされたと追記しておく。
「とにかく、なんて名前で提出したんだ?」
「げれちょんです」
「……………………今なんつった?」
「げれちょんです!」
腰に手を当てて胸を張り、自信満々に告げるめぐみん。
部屋の外で聞いていたダクネスもこれには口を挟もうとする。
「おいめぐみん。それは流石に……」
スズハの事を一瞥すると、顔を手で覆って項垂れている。
その様子に気付いてないのか、めぐみんはダクネスの方を向く。
「久しぶりですねダクネス! ダクネスも言ってやってください! 良い名前だと思うでしょうっ!!」
「んな訳あるかぁっ!!」
カズマがめぐみんの頭を思いっきり
「なにをするんですかカズマ!?」
「うるせぇええっ!! こっちの予想を大幅に下回ってきやがって! なんだげれちょんって!? イジメられっ子ルート確定じゃねぇかっ! なんでお前ら紅魔族は厨二病の集まりのくせに名前のセンスだけは絶妙に外してんだよっ!!」
我慢の限界を超えて捲し立てるカズマ。
叩かれた頭を押さえつつめぐみんも反論する。
「私の付けた名前のなにが不満なんですか! ちょんとか女の子らしくて可愛いでしょう!」
「ざっけんなよテメェ!? それ以前の問題だっ!!」
ケンカを止める筈がカズマの方が大声を出す始末。
それに反応して小さな子供達が一斉に声を上げて泣き始めた。
ダクネスとヒナがあやすが、険悪な空気を察してか中々泣き止まない。
どんどんカオスになる状況。
そこでスズハがベッドからゆらりと降りる。
「めぐみんさん……」
「なんですか! スズハまでグチグチ────」
そこでパシンッと音がなる。
スズハが、めぐみんの頬を張った音だ。
その行動にこの場に居た小さな子らを除く全員が言葉を失った。
見ると、スズハは目尻に涙を溜め、口元を震わせながらめぐみんを睨んでいた。
無言の圧にめぐみんは数歩下がる。
すると眉間にしわを寄せて負けじと反発する。
「そんなに気に入らないなら、勝手に変えたらいいでしょう! もう知りません!」
「めぐみん姉さん……っ!」
そう言って部屋を出て行こうとするめぐみん。
ヒナが止めようと声をかけると、1度だけ振り返った。
「もうほとんど冒険にも出ない! 育児の手伝いばかりやらされるのにもうんざりしてましたからね! こっちから捨ててやりますよ! こんなパーティー!!」
そう告げて最低限荷物を電光石火でまとめて屋敷の扉が乱暴に閉められる音が響く。
騒ぎが収まると少しずつ子供達が泣き止んできた。
「なんであいつは一言ごめんなさいが言えないんだ」
頭をボリボリ掻いて面倒そうにボヤく。
ヒナが不安そうにスズハに話しかける。
「お母さん、めぐみん姉さんは……」
「放っておきなさい。しばらくしたら戻ってくるわよ」
それよりも今は産まれた娘の名前の方が問題だ。
「うし! ちょっくら役所まで行って撤回してくるわ。職員もなにかおかしいと思って通してねぇかもしれないしな。スズハは本調子じゃないんだから休んでろ」
「はい……よろしくお願いします」
「他人行儀はやめてくれ。俺もせっかく産まれた娘をげれちょんなんて呼ぶのは嫌だし、大きくなって恨まれたくねぇ……」
苦笑しながらカズマは外へ出て行く。
入れ替わる形でダクネスが入ってきた。
「お久しぶりです、ダクネスさん。すみません、せっかく来てくれたのにお騒がせしてしまって」
スズハが寄ってきた双子の頭を撫でながらダクネスを迎える。
「今回は仕方ない。あれは誰でも怒る。それよりも身体は大丈夫か?」
「まだお産の疲れが残ってますけど、少しずつ調子は戻ってきてます」
「それは良かった。それにしてもカズマが真っ先に娘の為に動くとはなぁ」
「カズマさんは良いお父様をしてます。もうオムツを換えたりするのは、私より上手なんですよ」
そうなのか、とダクネスが驚いていると、そこで会話が途切れ、沈黙が部屋を支配する。
口を開いたのはダクネスからだった。
「めぐみんが帰ってきたら、あまり責めないでやってほしい。ここ数年、私達全員が集まる回数も減ってきたし、以前のように気軽に冒険へと行く事も出来なくなって淋しいんだ、きっと」
カズマは昔から冒険者なんて長く出来る仕事じゃないと言っていたし、ダクネスは実家の方優先になりがちとなり、アクアもたまにふらりとやってくるだけ。
スズハに至っては元から冒険者業に積極的ではないし、ゆんゆんも紅魔の里に戻って族長をしている。
その変化にめぐみんがやや取り残され気味なのは否めない。
「分かってます。私も、熱くなりすぎましたから」
体調不良と重なって冷静ではなかったと反省する。
めぐみんを叩いた手の平に残る感触が思った以上に不快だった。
「お母さん……」
「大丈夫よ。めぐみんさんが帰ってきたら、ちゃんと仲直りするから。約束する」
「うん」
ヒナはホッとした様子を見せた。
その後にカズマが帰って来て、娘の名前の届け出は受け取っていた職員が後々両親に確認するつもりでまだ受理してなかった事が判明した。
娘の名前は後日正式に届けるという事で話がまとまったのである。
「めぐみんがアクセルの街を出て行った〜!!」
数日後、話があるとダクネスがやって来て、めぐみんがアクセルの街を離れたという情報を持ってきた。
「えっと……帰省、ですかね?」
めぐみんがこの街を出て真っ先に向かいそうなのは故郷である紅魔の里だが、ダクネスは首を横に動かす。
「いや、方向が違う。ここ数日、その子の名前の件を酒場で愚痴っていたらしくてな。だが、話した相手全員に総スカンを喰らったらしい。それで暴れてこの街を出て行ってしまった」
「なにしてんだあいつはぁ……」
後で迷惑をかけた酒場に平謝りしに行こうと決めた。
「まぁ、めぐみんなら1人でも大丈夫だと思うが……」
「え? どうしてですか? ダクネス姉さん」
ダクネスの呟きにヒナが首を傾げた。
ヒナからすれば、爆裂魔法の1発で倒れるめぐみんが1人で出て行くなど心配なのだろう。
冒険者に興味のあるヒナには説明して損はないかと話す。
「うん。私達がパーティーを組み始めて活動していた時は、めぐみんは爆裂魔法でのトドメが役割だったからな。そのお陰と本人の資質もあって、魔法だけじゃなくて身体能力も相当なモノなんだ。今では、ステータスの数値だけならそこらの戦士系より強い筈だぞ」
それになんだかんだでめぐみんは頭が良い。
1人で行動するなら、少しは慎重に動くだろう。
その意見にカズマも同意する。
「なんにせよ、俺らもめぐみんを追っかけてる余裕はないよな」
冷たく見えるかもしれないが、産まれたばかりの子供の世話に手一杯。とてもじゃないがめぐみんに構ってられる状況じゃない。
「……」
表情に翳りを見せるスズハの頭をポンポンと触れてくる。
「だからお前のせいじゃねーって。めぐみんもいい大人なんだし、自分の事くらい自分でなんとかすんだろ」
「私もダスティネス家の伝手を使ってめぐみんの動向は探っておく。だからあまり心配するな」
「はい……」
2人にそう言われてスズハはぎこちない笑みで返事をする。
そこで、ダクネスの子供がぐずってきた。
「すまない。お腹が空いてるのかもしれない。少し席を外す」
「部屋はそのままにしてありますので。どうぞ」
時折部屋の埃を拭いているが、ダクネスの部屋はそのままにしてある。
その事にお礼を言って席を立つと、カズマが話しかける。
「遠慮する事ないぞダクネス。早く授乳してやれ。こっちにはお構いな────くぅっ!?」
それをカズマの足を踏んでスズハが黙らせた。
この少し後、めぐみんがこの国を出た、という報告を貰う事となった。
それから月日は流れて────。
「よし! やっと終わったぁ……」
洗濯物を全て干し終えて一息つく。
ここ数年は穏やかに時間が流れていたが、それなりに変化もあった。
先ずは、半年前にヒナが冒険者になってアクセルの街を出た。
正確には1年前に冒険者になり、それなりに経験を積んでから半年前にこの街を出て気の合う仲間と旅に出て行った。
「お母さん……」
「ん? どうしたの?」
末っ子の娘が不安そうに話しかけてくる。
双子の男の子も末っ子の娘も容姿はカズマに似ていた。
それで娘は、自分も母や姉のような髪質が良かったと最近ボヤいている。
「お腹空いたの? お昼ならもうちょっと待ってね」
母親の言葉に娘はブンブンと首を左右に振る。
「えっとね。おそとに変なひとがいるの」
「変な人?」
「うん。おそとでこっちをずっと見てるの」
外、というのは塀の外だろう。
まだ昼前で変質者などは出ないと思うが。
「とりあえず私が見に行くから。お兄ちゃん達と家に入って、お父さんを呼んで来てくれる?」
「分かった」
頷いた娘は駆け足で兄達の下へ向かった。
「さて、と……」
一応安全策として、契約している精霊達に助力を乞う。
「
精霊にそっと様子を見てきてもらう。
視界を共有して確認する。
「ん?」
見えたのは、見覚えのあるトンガリ帽子だった。
それを見て慌てて精霊を呼び戻す。
急いで塀の入口に行き、名前を呼んだ。
「めぐみんさんっ!?」
名前を呼ぶと彼女はビクッと肩が跳ねた。
バツが悪そうにトンガリ帽子を深く被る。
反対の手には2歳くらいに見えるめぐみんによく似た子供と手を繋いでいた。
訊きたい事や話したい事はたくさんある。
だけど今は────。
「おかえりなさい、めぐみんさん」
施錠してある塀を開けた。
子供たちの名前を出してないのは敢えてです。
読者さんがこの作品で好きな話は?
-
序盤
-
デストロイヤーから裁判まで。
-
アルカンレティア編
-
紅魔の里編
-
王都編
-
ウォルバク編
-
番外で書かれた未来の話
-
その他