この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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誘拐

「それではこれからたこ焼き改め、アクシズ焼きを作り始めようと思いまーす」

 

『おー!!』

 

 屋敷の庭で完成したアクシズ焼きの屋台でスズハが調理するのを見る一同。

 

「アクセルの街にはタコが無いので具はジャイアントトードの肉と蒸して柔らかくした芋。あと、餡子を用意しました。コレを2つ×3の計6個販売……でいいんですよね?」

 

「そう! お手本お願いね」

 

「はーい」

 

 窪みのある鉄板を温めるながらテキパキとアクシズ焼きを作り始めるスズハ。

 予め用意していた生地を熱した窪みのある鉄板に注ぎ、天かすなどをバラ撒く。

 具を落としたらピックでひっくり返しつつ繋がっている生地の部分を切る。

 何度か回してボール状になるまで形を整えてると────。

 

「アクシズ焼の完成です」

 

 容器にアクア焼きを詰めて。ソースを塗って渡す。

 その工程を見ていてめぐみんやダクネス。たまたま遊びに来ていたクリスがお〜っ! と拍手した。

 容器に入ったアクシズ焼きを受け取ってカズマが感心と呆れが交じった声で質問する。

 

「よくたこ焼きの作り方なんて知ってたな」

 

「日本に居た頃に、友達とタコパって言うんですかね? を何度かやった事があって。最後には結局、わたしが1番上手く作れるから任されんですよね。わたし、1度習えば大抵の事は出来ますし」

 

 アクシズ焼きを回すピックを手の中で回しながら答えるスズハ。

 誰かに教わったり、本を読めば大抵の事は100点とはいかずとも50点から60点くらいは形になる。

 そこからはスズハの興味次第と言ったところだ。

 

「あっつーっ!? ふーっ!!」

 

「熱いですから気をつけないと舌が火傷しますよー」

 

「それ早く言ってください! こめっこ! 水です!」

 

 一気にアクシズ焼きを口に入れたこめっこが回りながら口の中でアクシズ焼きを冷ましている。

 それを見たダクネスもアクシズ焼きを1つ口の中に入れる。

 

「〜〜〜〜っ!?」

 

 舌が火傷する痛みに恍惚な表情で身体をくねくねと悶えるダクネス。

 それを見たクリスが呆れた表情で注意する。

 

「これはそういうのを楽しむ料理じゃないと思うよ?」

 

 少し冷めるのを待って、クリスも食べる。

 

「うん、美味しい! これ、アクセルの名物料理に出来るんじゃない?」

 

 アクセルの街は冒険者の生まれる街であり、数多くの人がこの街で冒険者登録をし、適度に腕を上げて巣立っていく。

 その環境が整っていた。

 ただ、名産品と呼べる物は乏しい。

 クリスの案に真っ先に反対したのがアクアだった。

 

「ダメよクリス! この料理はアクシズ教の名産に加えるんだから! 今度のお祭りでこの料理を食べたアクセルのみんなが、こぞってエリス教徒からアクシズ教徒に宗派替えするに違いないわ!」

 

 などと夢を語るアクア。

 

「とりあえず見本は見せましたし、次はアクアさん、よろしくお願いします」

 

「まっかせなさい! もっとお客さんが喜ぶパフォーマンスを見せてあげるわ!」

 

 胸をドンッと叩くと、スズハからピックを受け取りアクシズ焼きの調理を始める。

 途中まではスズハがやっていた事と同じだが、生地を回す瞬間に。

 

「よっ! はっ!」

 

 生地がまったく崩れる事なく窪みから飛び出し、別の窪みへと移る。

 まるで鮭が川を飛び跳ねて進むが如くアクシズ焼きが別々の窪みに収まっていく。

 

「どう! ざっとこんなもんだわ!」

 

 素直にパチパチと拍手するスズハ。

 

「やっぱりこういうのはアクアさんの独壇場ですね」

 

「そうでしょうそうでしょう! ほら次はカズマよ! 当日はカズマにも焼いてもらうんだから!」

 

「え? 俺も?」

 

「当たり前でしょう! カズマも作らなかったら私がお祭り回れないじゃない! めぐみんやクリスにも手伝ってもらうわよ!」

 

「あたしもっ!?」

 

「アクアの都合じゃないですか!」

 

 やいのやいのと騒ぐ面々。

 それを眺めながら、スズハはカズマに話しかける。

 

「あの、カズマさん……」

 

「あ? どした?」

 

「はい。空いてる時間で良いので、お祭りを一緒に────」

 

 と、スズハが言いかけると、ダクネスがカズマを呼ぶ。

 

「カズマ! そういえば、私はお前に訊きたい事があったのだ!」

 

「お、おう! どうしたダクネス?」

 

「どうしたじゃない! なんだこの催しは!!」

 

 ダクネスが見せた1枚のビラ。

 

「ミスエリス祭……?」

 

「あ〜。ついでだからな! エリス祭って教会に行ってエリス様にお祈りするのが主な行事って地味すぎんだよ。ちょっとは住民が楽しめるイベントを用意してねーとな」

 

 そう言って胸を張りつつ主張を強める。

 

「俺らの故郷の浅草って町じゃあ、サンバカーニバルっていう女性が煽情的な衣装で踊り狂う祭りだってあんだぞ!」

 

「そんな祭りがあるかぁ!! 大体祭りとは本来神聖で厳かな物だろう!?」

 

 ダクネスがそう言ってスズハの方に視線を向けると困ったように頬に手を当てて微笑っている。

 

「ありますね。一度だけ行ったことがあります」

 

「え? 実在するのか? 本当に?」

 

「なんで俺の説明では反発するのにスズハが言うと信じるんだよ……」

 

 不満そうに腕を組むカズマ、

 ダクネスは焦ったようにしかし! と続ける。

 

「男性器を模した置物に女性が跨って行進するなんて破廉恥な祭りは流石に嘘だろう? 私は騙されないからな!」

 

「え? なんですかそれ?」

 

 顔を赤らめながら、説明するダクネスにスズハは引いた様子でカズマに訊く。

 

「ほだれ祭りを知らないのか?」

 

「知りません」

 

 キッパリと口にするスズハにアクシズ焼きを作りながらアクアが話に入ってくる。

 

「カズマ。女の子相手にそういう冗談はよくないと思うの」

 

「助手くん。その手の嘘はちょっとさぁ」

 

「こめっこの教育に悪いのでやめてください」

 

 などと次々と女性陣から冷たい視線を向けられるカズマ。

 だがカズマも諦めずに主張する。

 

「いや、本当に在るんだって! くそ! ネットが繋がれば……おいやめろ! そんな蔑んだ眼で俺を見るなぁああぁあ!」

 

 カズマの叫びがアクセルの空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセルの街に住むアクシズ教とエリス教が合同で行われるお祭り。

 その朝早くに、スズハはウィズ魔道具店に約束の品を卸しに来ていた。

 

「すみません、結局ギリギリになってしまって」

 

「構わん。その分、当初の予定より枚数は増えておるからな」

 

 当初は精霊の力を宿した外套(マント)の製作は15枚の約束だったが、思った以上にスズハの魔力の数値が伸びていて、20枚まで増やしていた。

 その関係で祭りの当日に納品する、という事態に陥ったが。

 値段としては、多少割高だが、手が出ない程ではない。

 ここ最近は大きな事件として魔王軍幹部やデストロイヤーの破壊などで冒険者の懐も潤っている。

 きっと完売するだろう。

 そのついでに他の商品も買ってくれれば万々歳だ。

 

「それで、あのロクデナシの小僧を祭りを回るのに誘おうとして失敗した小娘よ。貴様の頑張りに免じて1つ我輩が忠告してやろう」

 

「はぁ……」

 

 なにか引っかかる言い方だが、この人? のアドバイスは大変貴重なのでありがたく聞く事にした。

 こめかみの辺りを指で叩きながら話し始める。

 

「厄介事に巻き込まれたくなければ、祭りの間はあの頭のおかしい爆裂娘の妹とは距離を取れ」

 

「こめっこさんと?」

 

「そうだ。貴様が関わろうと関わるまいと結果はさして変わらん。なら、下手に危険に近付く必要もあるまい。むしろ、貴様が関わる事で失う物もあろう」

 

「それは、どういう……」

 

 もっと具体的に聞こうとしたが、バニルが肩をすくめてはぐらかした。

 

「さて。我輩も準備があるのでさっさと行くが良い。精々軽率な行動は控えろよ?」

 

 口元をニヤリと歪めながら、仕入れの代金を渡し、スズハを帰らせるバニルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の女神を祝うお祭りは初日から賑わいを見せていた。

 そんな中でアクシズ焼きはというと────。

 

「は〜いっ!! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! アクシズ教名物アクシズ焼き! 舌が落ちるくらい美味しいわよー!」

 

「それを言うならほっぺじゃね?」

 

 舌が落ちてどうする舌が。いや、ほっぺが落ちても困るけどな? 

 と、委員会の休憩がてらに様子を見に来たカズマが心の中でツッコむ。

 アクアがたこ焼き改めアクシズ焼きを作ると、ボール状の生地が宙を舞い、別の窪みに落ちていく。まるで本当にボールが自分の意思でバウンドするように。

 それは先日の練習より洗礼されている。

 それはそうと、アクアの横で手伝っているクリスを見る。

 

「なにやってんだ、クリス」

 

「あはははは……頼まれちゃってね」

 

「……エリス教徒がアクシズ教を手伝っていいのか?」

 

「……言わないで。自分でもなにやってんだろって思ってるから」

 

 裏切り行為、とまでは言わないが、まぁ、彼女の正体からすればいつもの事なのかもしれない。

 コホン、と態とらしく咳をした後に、質問する。

 

「スズハかめぐみん。それかダクネスは?」

 

「さぁ? ダクネスは運営側だから、そっち方面で動き回ってる筈だな。めぐみんは今頃こめっこに連れ回されてるんじゃないか? スズハは魔道具店に頼まれてた物を卸しに行くっつってたな」

 

 その後はたぶん、戻りながら祭りを見て回るのではないだろうか? 

 ぼんやりとそんな事を考えていると、クリスがにやにやと質問を重ねる。

 

「で? 誰をお祭りに誘ってるの?」

 

「は?」

 

 誘ってるとはどういう事だろう? 

 少なくともカズマは誰かと祭りを回る約束などしていない。

 その態度だけで察したのか、クリスは、はぁ〜、と重たい息を吐いた。

 

「もぉ〜。しっかりしなよ。先日、スズハがお祭りに誘おうとしてくれてたでしょう?」

 

「そうだっけか?」

 

 とぼけている訳ではなく、本当に心当たりがないのだ。

 

「ほらあの子、ヒナも抱えてるでしょう? だから、1度失敗しちゃうと迷惑になるかなって諦めちゃうと思うから、カズマの方から誘ってあげたら?」

 

「ヒナのことは今更だろうにな」

 

「そういうの、気にしちゃう子でしょ? ちょっとは労ってあげなよ」

 

 周りの頼まれ事は出来る限り叶えるが、自分からワガママを言わないのは相変わらず。

 アクシズ焼きの下拵えだってほぼスズハが準備したのだ。

 自分だって作業があったろうに。

 もう少し、周囲に甘えても良いと思うのだが。

 まぁ、そうするには、普段のカズマ達がだらしないのは否定できないけど。

 

「それに、めぐみんもさ。妹さんの世話でストレス溜めてそうだし、少しは力になってあげたら」

 

「あ〜。そうだな〜」

 

 自由奔放なこめっこに手を焼いているめぐみん。

 祭りの期間中、短い時間でもこっちで預かって自由な時間をあげた方が良いかもしれない。

 

「しょーがねーなぁ……」

 

 頭を掻いぼやくとアクシズ焼きを作っているアクアが呼んできた。

 

「ちょっとカズマー! そんなところで駄弁ってるなら手伝ってよー。捌ききれないのー!」

 

 どうやら売れ行きは好調らしい。

 

「じゃあ俺、行くわ。アクアを頼むな」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 めぐみんは祭りの会場にこめっこと手を繋いで移動していた。

 

「いいですか、こめっこ。あなたもそろそろお金のやりくりという物を覚えても良い年齢(とし)です。渡したおこづかいで遊ぶんですよ」

 

「はーい」

 

 めぐみんの言っている事を理解しているのかいないのか判断に困る返事をする妹。

 

(この子のことだから、おこづかいが無くなったら周りにねだりそうなんですよね)

 

 なまじ、甘え上手なだけに周囲に愛想を振り撒いて得しようとするところがある。

 そして周囲もなんだかんだで子供のこめっこを甘やかしてしまう。

 紅魔族随一の魔性の妹は伊達ではないのだ。

 

(このまま成長したら、周囲を手玉に取って誑かすとんでもない悪女になるか、はたまた破滅的に痛い目を見そうなんですよね)

 

 だから今回は心を鬼にして、妹にねだられても決して買ってあげず、少しはお金の大切さを学ばせようと決めていた。

 屋台が並んでいる広場に着くと早速串焼きを購入するこめっこ。

 可愛い妹が幸せそうに食べている姿には和むのも事実で。

 会場を半分程進んだところで、トイレに行きたくなってしまった。

 

「こめっこ。私、ちょっとトイレに行ってくるので、ここで待っていてくれませんか?」

 

「わかったー」

 

「良いですか? くれぐれもそこから動かないでくださいよ! すぐに戻ってきますから!」

 

「はーい」

 

 速歩きでその場を離れるめぐみん。

 適当に座って待つこめっこに、近付く者がいた。

 

「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

 

 話しかけてきたのは、ちょっと派手な格好をしたダクネスくらいの女性だった。

 

「ねぇちゃんまってるの」

 

「そうかい、偉いね。ところでお嬢ちゃん。あっちに、とても珍しくて美味しい菓子を売ってる屋台があるんだ。お姉ちゃんを待っている間に、その菓子を買いに行かないかい?」

 

「ねぇちゃんにまってろって言われた」

 

 美味しいお菓子は気になるが、ここ最近はやたら厳しいめぐみんだ。勝手に離れたらまた怒るだろう。

 それが面倒で天秤がめぐみんに怒られる方がイヤ、という方に傾く。

 

「でもその菓子はすぐに売り切れちまうんだ。あぁ、お姉ちゃんの事なら心配いらないよ。あたしの仲間があんたのお姉ちゃんにちゃんと説明しといてやるから」

 

「ほんとう?」

 

「あぁ、本当さ。あたしは嘘つかないんだ。一緒に来てくれるかい?」

 

「いくー!」

 

 姉に怒られなくて良い、という言葉で簡単に天秤が逆に動いた。

 知らない女の手に引かれて人気のない方へと移動する。

 人がどんどん少なくなり、怪しい裏路地に移動すると、女の手がこめっこの口元に動いて────。

 

「こめっこさん?」

 

 バッとこめっこと女が声の方を振り向く。

 すると、そこにはヒナを抱きかかえたスズハがいた。

 

「スズハねーちゃん」

 

「なにしてるんですか?」

 

「あっちにね! おいしいお菓子があるんだって!」

 

 スズハは女の人に訊いたのだが、こめっこが答える。

 こっちの方にはお祭りで露店は出てないし、まともな店はなかった筈だ。

 怪しいのにすぐ気付いたスズハが取り敢えず、こめっこを渡してもらおうと話す。

 

「すみません。その子はわたしの友人の家族ですのでこちらであずかり────」

 

「チッ!」

 

「うい?」

 

 口元を塞がれて何かを嗅がされたこめっこの目蓋が落ち、身体の力が抜ける。

 

「こめっこさんっ!?」

 

 精霊を力を借りてこめっこを助け出そうとすると、明後日の方向から瓶が飛んできて、スズハの頭上の壁に当たって砕ける。

 

「きゃっ!?」

 

 反射的に抱えているヒナを砕けた瓶の破片から守ろうと覆い被さる。

 瓶の中から液体がぶち撒けられ、それがスズハに降り注ぐ。

 

(この臭い……アルコ……)

 

 ぐらりと視界が歪み、スズハは膝をついて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

「危ないところでしたね、姐さん」

 

 女の仲間の男が意識を失っているこめっこを担ぐ。

 

「ふん。別に、こんな小娘に遅れは取らないさ。それより、何をかけたんだい?」

 

「へい。いや、まぁ。ただの安酒ですよ。度数は高いですがね。目眩ましにと思って」

 

「おや。ならよっぽど酒に弱いんだね」

 

 流石にかけられただけで意識を昏倒する奴は初めて見た。

 ちなみにこめっこに使ったのは、嗅がせると意識を失う魔法薬である。

 

「あんた達が紅魔族のガキを見つけたって言うから手伝ったんだ。祭りの最中なら人の出入りも激しくて人目を掻い潜りやすいからね。このまま部屋まで連れてくよ」

 

「へい。それで、こっちの娘はどうします?」

 

 スズハを指差す男。

 

「見た目は悪くないね。見られたからには一緒に売っ払っちまおう。赤子の方は、ここに捨て置いていい。鳴き声が煩くて見つかっちまうからね」

 

「わかりました」

 

 男は左右にこめっことスズハを抱えた。

 女はスズハを見て鼻で嗤う。

 

「恨むんじゃないよ。見て見ぬ振りをしなかったあんたが悪いんだからさ」

 

 

 

 




スズハさんが人の忠告を聞かなかった件。

こめっこがいくらなんでもバカにし過ぎたかもしれない。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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