この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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※この作品の時間の流れは作者の都合の良いように流れており、原作とは異なってます。


あれ?なんか……でかくなってね?

 カズマはソファーでだらしなく座りながら暖を取っている。

 横にはアクアもだらしなく座り、少し離れたテーブルにはめぐみんとダクネスがいつものようにボードゲームに興じている。

 さらにスズハは、暖炉の暖かさが届くところにヒナを寝かせて本人も椅子に座って編物をしている。

 いつもの夜の光景。

 別段おかしなところは何1つない。

 スズハの周りをボールのように跳ねている雪精。

 この雪精。いつもスズハと共に居るのではなく、ふとした瞬間に気がつけばいるのだ。

 スズハ曰く、感情が伝わってきて、わたしに会いたそうだったら喚んでいるとのこと。

 だからか、編物をしながら時折雪精に触れている。

 よくこんな寒い時期に冷たい雪精を触れるなと感心していると、それをジーッと見ていたアクアが突然ソファーから立ち上がった。

 

「やっぱり、大きくなってるわ!」

 

 雪精を指差す。

 その指摘に皆が頭に? を浮かべる。

 

「その雪精よ! 私が捕まえた時より絶対大きくなってるの!」

 

 アクアはそこで近くに置いてあった硝子瓶を取り出す。

 

「これ! その雪精を入れてた瓶なんだけど、今は絶対に入らないもの!」

 

 そう言って大きさを比べようとして雪精に近づくが、アクアから距離を取って逃げている。

 

「ちょっ! なんで逃げるのよ! 別に取って食おうってわけじゃ────って、きゃあぁあああぁあああっ!? 冷気吹いてきたんですけどぉ!?」

 

 追いかけるアクアに雪精の口? の辺りから冷気が吹き出し、アクアの髪の一部が凍る。

 

「こら、シロ! そういうことしたらダメでしょ!」

 

 め! と雪精を軽く叩くスズハ。

 なんかしょんぼりしてるように見える雪精がちょっと可愛く見える。

 

「しかし、シロですか。何と言うか、安直すぎます。愛がありません。もっとカッコいい名前を付けようとは思わないんですか? やはりここは私が────」

 

「それは止めとけ」

 

 言って立ち上がったカズマがめぐみんの口を防いだ。

 スズハは契約した雪精のことをシロと呼んでいる。

 何でも、自分が契約した雪精がちゃんと分かるようにとのこと。

 ガリガリと髪の氷を落とすとアクアが抗議した。

 

「なんで! 雪精は攻撃力を持たない無害な精霊の筈なのに! っていうかなんで私を攻撃するの! あんなに可愛がってあげてたのに! おかしいわよ、おかしいわ!!」

 

「む。そういえばそうだな。だから、冬将軍のことを除けば安易に討伐できるモンスターとして記録されている」

 

「つーか、瓶詰めにしてたんだから攻撃手段があるなら抵抗するだろ」

 

 泣きそうなアクアにダクネスが首を傾げてカズマが当然だと欠伸をする

 その反応にアクアは地団駄を踏んだ。

 

「なんでよぉ! 私、その子を可愛がってたのよ! 仮にそれが窮屈だったとしてもよ! 私のお陰でスズハと契約できたんじゃない! 野良のままだと冒険者に討伐されてたかもしれないのよ! むしろ恩人じゃない!!」

 

(いや、むしろ俺らが討伐してたんだけどな……)

 

 きっとそこら辺はアクアの中では都合よく纏められているのだろう。

 その時の記憶を呼び起こされて冬将軍に斬り落とされた首が痛むような錯覚に陥る。

 そして改めて雪精のシロを見る。

 確かに野球ボールくらいだった雪精も今はバレーボールより少し小さいくらいにまで大きさが変化している。

 シロを膝に乗せたスズハが自分の意見を言う。

 

「日頃から少しずつわたしの魔力を食べてるみたいで。その影響かもしれません。今の冷気もわたしの魔力で吹いてたみたいですし」

 

「威力的にはカズマのフリーズ以下ですが、このままいけばもっと強くなる可能性もあるかもしれませんね」

 

 等と和やかな笑いが起こる。アクア1人を除いて。

 

「うう……私が捕まえた雪精なのにぃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め、めぐみん! 勝負よ!」

 

「お断りします」

 

「断られた!?」

 

 定期的に屋敷へと現れるゆんゆんがめぐみんに勝負を挑むがあっさりと断る。

 動揺するゆんゆんにめぐみんがしーっと口元に人差し指を立てる。

 

「あまり大きな声を出さないで下さい。ヒナとスズハがお昼寝中なんです」

 

 屋敷の中には寝かされているヒナと椅子に座ったまま居眠りしているスズハが居り、座っているスズハには毛布がかけられている。

 めぐみんも取り込んだ洗濯籠を持っている。

 

「昨日はヒナの夜泣きが長く続いていたみたいであまり寝てないんです。起こしたらかわいそうでしょ? まったくゆんゆんは少しは空気を読んで欲しいです」

 

「うう……ごめん……」

 

 めぐみんのため息にゆんゆんは申し訳なさそうに謝罪した。

 それからめぐみんが中を顎で差す。

 

「入るなら入ってください」

 

 あっさりと招き入れようとしてくれるめぐみんにゆんゆんは後退りながらも聞き返す。

 

「い、いいの! はっ!! もしかして私が来るのを察して中に罠を仕掛けてたりしてないよね! めぐみん!?」

 

 あまりにもあんまりな返答にめぐみんは青筋を立てて目を細めた。

 

「前言撤回です。やっぱり帰ってください」

 

「えぇ!? ご、ごめんめぐみん! 謝るから中に入れてよぉ!」

 

 スタスタと屋敷の中に入っていくめぐみんの後を追うゆんゆん。

 居間まで行くと火の着いた暖炉の前でスズハとヒナがそれぞれ眠っている。

 

「起こさないで下さいね」

 

「わ、わかってるよ!」

 

 無防備に寝ているスズハを見てゆんゆんは大人しくしていたが、めぐみんが指示を出す。

 

「ほら、ゆんゆん。ボケッとしてないでお茶淹れてください。私もこう見えて疲れてるんです」

 

「いや! 私お客様だよね!? こういう場合めぐみんが淹れてくれるんじゃないの!?」

 

 アポなしとはいえ客に茶を淹れさせようとするとは思わなかったゆんゆんは驚くも、めぐみんは何を言ってるんですか? と首を傾げた。

 

「それなら何のためにゆんゆんを中に入れたか分からないじゃないですか」

 

「え!? まさか本当にその為だけにいれてくれたの!?」

 

 やっぱり、めぐみんはめぐみんだったと諦めて言われた通りにお茶を淹れ始める。

 ポットを載せたトレイをコトッと小さく音を立ててテーブルに乗せるとスズハが、ん……、と首を動かして目蓋を開けた。

 

「……洗濯物を、取り込まないと」

 

 椅子から立ち上がろうとすると、めぐみんがストップをかけた。

 

「洗濯物は私が取り込みました。スズハはそのまま休んでいてください」

 

「え!? あ、すみません……寝ちゃってたみたいです」

 

「今日はクエストも無いですし。たまには休んでもいいんですよ?」

 

「いえ。これから、晩御飯のお買い物にも行かないと……」

 

 目を擦りながら立ち上がるスズハ。

 そんな彼女を労るめぐみんを見て、ゆんゆんが無意識に呟く。

 

「めぐみんがお姉さんしてる……」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 めぐみんが立て掛けてあった杖を手にして先端をポンポンと手の平に載せた。

 笑顔で威圧してくるめぐみんにゆんゆんがヒィッと掠れた声を出した。

 

「べ、別に他意はないのよ! ただ、めぐみんがこめっこちゃん以外にお姉さんっぽく振る舞ってる姿に違和感が……」

 

「それ、フォローしてるつもりですか?」

 

 んー? と近づくめぐみんに、スズハが止めに入った。

 

「めぐみんさん……仲が良いのはいいですが、あまり手荒なことは……」

 

「む」

 

 スズハに言われて仕方なく杖を下ろす。

 それにホッとするゆんゆん。

 

 財布の中身を確認しているスズハを見てゆんゆんが同伴を申し出た。

 

「わ、私もついて行っていいかな?」

 

 断られたらどうしようという不安からどもるがスズハは笑みを浮かべて頷く。

 

「はい。皆で買い物するの、楽しいですから。めぐみんさんも行きましょう」

 

「そうですね。この間のようなことがあったら大変ですから。私も行きましょう」

 

 この間、というのはもちろんスズハの知人であるモリタケマコトに絡まれた件である。

 しかし、その件を知らないゆんゆんは首を傾げる。

 

「この間のような?」

 

「大したことではありません。不埒な男にスズハが絡まれただけです」

 

 思い出したくもないとばかりにめぐみんは不機嫌そうな様子で眉間にしわを寄せた。

 その剣幕に圧されてゆんゆんはそれ以上、何も言わない。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前々から思ってたんだけど。スズハちゃん、その服動き辛くない? 温かそうではあるけど」

 

「慣れですかね。家では、ずっとこの格好でしたし。それに、裾の短いスカートとかどうも苦手で……学校や家の用事で着ることはありましたけど」

 

 生まれた時から家で着物を着ていたスズハはあまり洋服を好まない。動きやすいとは思うが。

 学校では指定の制服だったが、自由だったら着物で登校していたかもしれない。

 だが、まったく着ない訳でもなく、家の関係でパーティーなどに出席する際にはドレスなども稀に着ていた。大抵は振袖だったが。

 

「でもそれなら着るのが絶対嫌だって訳じゃないんだよね? スカートとか長めなのならいいのかな?」

 

「そう、ですね。それなら……」

 

「ならさ、ちょっと洋服屋さんに行ってみない?」

 

「ゆんゆん」

 

 珍しく少し強引なゆんゆんにめぐみんが注意するように声を出す。

 

「べ、別に嫌ならいいんだけど……」

 

 不安そうなゆんゆんの顔を気遣ったのもあるが、純粋に衣類にも興味がある。

 

「それじゃあ、少しだけ……」

 

 やった! と手を合わせるゆんゆん。

 

「それじゃあ、行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセルにある洋服店に訪れた3人。

 そこの店主がスズハを見て驚いた様子だった。

 

「珍しいね。アンタがこの店に来るなんて。最初、布地を買いに来たとき以来じゃないかい?」

 

「こんにちは、おばさん」

 

 スズハがこの店に来たのは自分で着物を仕立てる際に布地を購入した時以来だった。

 

「まったく。アンタは服には目もくれずに布だけ買って行くんだもんよ」

 

「あはは……」

 

 ジト目を向ける店長にスズハは視線を明後日の方向に泳がせる。

 まぁ、この店の服が気に食わないと言っているも同然の行動だったのだから仕方ない。

 

「で、今日も布地を買いに来たのかい?」

 

「いえ、今日は……」

 

 話そうとするスズハの前にめぐみんが前に出た。

 

「今日はそこにいるゆんゆんが服を買ってくれるというのでスズハの服を見立てに来ました」

 

「そうだけど……めぐみんが胸を張って言うことじゃないよね!?」

 

 何故か胸を張って告げるめぐみんにゆんゆんがツッコミを入れた。

 しかし、その言葉に店長が面白そうに目を輝かせた。

 

「面白そうだね。アタシもスズハちゃんにうちの商品(ふく)を着て欲しかったんだ。試着室はあっちにあるから、好きなのを選びな!」

 

 気っ風の良い店主の了解を得てめぐみんとゆんゆんがあれやこれやと服を選んでいく。

 

「スズハ! これとかどうですか?」

 

「も、もう少し、スカートの長いのをお願いします……」

 

「スズハちゃん。こっちはどうかな?」

 

「胸、開いててちょっと……そういうのはゆんゆんさんの方が似合うと思いますよ」

 

 などとスズハの意見を取り入れながら服を選んでいく。

 結果として。

 

 

「どう、でしょうか?」

 

 腕を後ろに回しながら恥ずかしそうにモジモジさせるスズハ。

 彼女が今着ているのは薄桃色のシャツに青いリボンが襟に結ばれ、膝の位置のまである黒いスカートと茶色のブーツを穿いている。

 ついでとばかりにいつもは流している髪を三つ編みに結っていた。

 

 店主が嬉しそうにポンポンとスズハの頭に手を置く。

 

「似合うじゃないか! アンタ素材はいいんだからもっと色んな服を着なよ!」

 

「少し地味な感じはしますが、スズハがこういう服を着ているのは新鮮な感じがします」

 

「うんうん! 誰が見ても似合ってるよ、スズハちゃん!」

 

 手放しに褒められて顔を赤くしながらも笑みを浮かべるスズハ。

 だがそこで、アクセルの街全体にアナウンスが届く。

 

 

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 現在、この街に機動要塞デストロイヤーが接近中です! 冒険者の皆さんは装備を整えて冒険者ギルドまで! 街の住民は直ちに避難してくださーい!!』

 

 

 突如、初心者(アクセル)の街に災害級のクエストが舞い込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




白河涼葉(享年11歳)
容姿端麗、成績優秀、家事が出来、性格良しで財閥の令嬢である。
そんな生まれついての勝ち組だったが、家族を含めた周りの人間には恵まれずに命を落とした少女。御神籤では凶と大凶以外は引いたことがないらしい。
ちなみにカナヅチであり、泳げない。
異世界に転生して産んだ娘と一緒に充実した毎日を謳歌中。正直、もう家族には会いたくないと思っている。

今回スズハが着た服はセイバー(アルトリア)の普段着の色違いを想像してください。


読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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