「失礼、その必要がないとは、どういう意味ですか?」
発言したタバサに、教皇ヴィットーリオが尋ねてくる。
「ガリア王ジョゼフはわたしが倒す」
「ほほう、どうやって?」
ヴィットーリオの言葉に、どこか楽しむような響きをタバサは感じ取る。
「わたしがジョゼフ打倒の兵を挙げる」
「あなたが? 失礼ながら、あなたがガリア王を打倒できるだけの兵を挙げられるとは思えませんが?」
「わたしは、先のオルレアン公シャルルの娘。本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。わたしが旧オルレアン派を率いてジョゼフを打倒する」
「あなたがオルレアン公の忘れ形見でしたか。確かにそれなら打倒ガリア王の旗頭足りえるでしょう。ですが、それでもガリア王を倒せるほどの味方を得られるとは思えません」
急に自分は王族だと言い出しても、普通なら一笑に付されて終わりだろう。タバサは他の出席者の口添えが必要だと思っていた。けれど、ヴィットーリオは最初からタバサの言うことを信じているように見える。
「ですので、教皇聖下にはわたしが挙兵した折には、正当な王位継承者として王位の正統性を認めてほしい」
「王位の正統性を認めるだけでは足りないでしょう。ジョゼフはハルケギニアを己がものにする野望を抱いています。ゆえにガリアはわたくしたちにとっても敵。わたくしたちも力をお貸しいたしますよ」
「その必要はありません。ガリアの王位はガリア人の手によって決定されるべきです」
ローゼマインがエルフとの戦いに反対した理由はタバサにもわかる。ヴィットーリオはエルフのことを甘く見ている。実際にタバサたちはルイズの虚無を用いても、たった一人のエルフに苦戦した。仮に四人の虚無の担い手を集めたとして、それだけでエルフ百人を上回れるとは思えない。
エルフとの戦いを頓挫させるためにも、何としてもガリア国内でロマリアの影響力が強くなりすぎることは避けなければならない。それが母の命のためだけに祖国を内乱に導こうとする愚かな王族のせめてもの責任だろう。
「ですが、それではおそらく勝てませんよ」
「負けたならば、わたしの力不足というだけです」
「なあ、タバサ、さっきの話は反対だけど、ガリア王の打倒に協力することまでなら賛成だ。ガリア王の横暴には反吐が出る。散々俺たちやタバサに、ひどいことをしようとした。許せないよ。どうせいつかなんとかしなくちゃならないんだ。だったら、協力して当たるべきだと思う」
「それでも、わたしはガリアの王族だから。どのような理由があってもガリア人を殺すための軍隊を国の中に引き入れるということはできない」
ここまでヴィットーリオの提案を拒絶すれば、御しにくい相手として警戒されるだろう。けれども、ガリアの王位を継げるのはジョゼフの娘のイザベラかタバサだけだ。イザベラを御そうとするよりはタバサの方がやりやすいはず。
じっと互いを見つめあう。とはいえ、タバサとしては交渉を打ち切られても問題はない。その場合でも、当初のシナリオに戻るだけだ。
「具体策はあるのですか?」
「策と言えるような策ではありません。挙兵後に信用のおける者たちを率いて要害に籠り、ガリア王に反感を持つ者たちの離反を待つというだけです」
「随分と消極的な策に思えますね」
「消極的でも勝算がないわけではありません。ジョゼフに反感を持つ者は多くいます。持久戦になれば必ず離反者は出ます。また、ジョゼフは能力より自分に忠実な者を取り立てているため、指揮官層に能力不足の者が多くなっています。時間を稼ぐことは不可能なことではありません。ただ、そのためには多くの物資等が必要になります。もし、可能ならば籠城に必要な物資を援助していただけると助かります」
要求を伝えると、ヴィットーリオはしばし考え込むように目を閉じた。
「いいでしょう。シャルロット殿が持久戦に成功した暁には、提案通りガリア王位の正統性を認めましょう。その前提として、物資の援助もできる限りさせていただきます」
「ありがとう存じます」
あえてユルゲンシュミット式にタバサは謝礼を述べる。自分はハルケギニアの価値観とは異なる基準で行動しますよ、という意思表示だ。
ヴィットーリオとアンリエッタの説得にも関わらずルイズとサイトは対エルフへの対応に首を縦に振らなかった。そして、対ガリアへの対応についても、ひとまずは自分に一任してもらえることになった。
アンリエッタに割り振られた部屋に戻ったタバサは、すぐにローゼマインやキュルケたちと先の会談の内容について話し合いを始める。その結果は、タバサが感じていた印象のとおり上々の成果だということになった。
ちなみにコルベールは今の自分の立場が微妙であることを理由に席を外した。考えてみれば、コルベールは今のところトリステインの所属ということになる。
「けれど、聖下も言っていたけど、タバサは本当にジョゼフに勝てるの?」
「正直に言うと、難しいとは思っている。けれど、エルフと戦うよりは勝算がある」
「確かに、そうかもね」
ローゼマインとルイズのおかげで勝てたが、未だにタバサ単独でビダーシャルに勝てる姿が思い浮かばない。それだけ、あの反射という魔法は脅威だった。タバサに限らず虚無の担い手以外では勝つことはできないのではないだろうか。
「最悪、教皇に助力を頼む」
「あら、国内に他国の人間は引き入れないんじゃなかったの?」
「だから、国内には入れずに国境に兵を布陣させるに留める」
「なんというか、タバサも狡い考えが染みついたわね」
「身近な手本を真似ただけ」
そう言いながら、キュルケと二人でローゼマインの方を見る。
「わたくしの責任にするのはやめてくださいませ」
嫌そうに首を振るローゼマインを、やはりキュルケと二人で笑っておく。けれど、楽しい話はここまでだ。タバサは少し声の調子を変えてローゼマインに尋ねる。
「それで、ローゼマインはいつユルゲンシュミットに帰るの?」
「タバサが大変なときに申し訳ないとは思いますが、明日の昼前には帰還をしたいと考えています」
「わたしのための戦いだから、気にしないで。それより、ユルゲンシュミットには、今日のうちに帰らなくていいの?」
「何分、急に帰還できることがわかったので、こちらに残していく物を誰にどのように譲るのか考えなくてはいけないのです」
どうやらローゼマインはハルケギニアで作った財産についても、きっちり後始末をしてから帰還をするつもりらしい。タバサもジョゼフとの戦いに勝利した暁には為政者となるのだから、このお金にうるさい、もとい几帳面な部分は見習わなければならない。
「残していくもので最も大きなものである、学園の離れについてですが、こちらは魔力を最大まで注いでおきますので、一年くらいはそのまま使用することができると思います。守りの魔術についても強化して、わたくしが魔力を注いだ魔石を持つ者以外は入れなくしておきますので、いざというときの避難場所として使用してください」
「魔力が尽きたら、守りの魔術というのが利かなくなるということね」
「いいえ、魔力が尽きれば白の建物は砂に変わってしまいます。中の家具などは、それまでに運び出した方がよいですね」
「運び出した家具類は処分していいってこと?」
「そういうことです」
ならば、キュルケに適当に売ってもらってお金にするとしよう。タバサが考えたことがわかったのか、キュルケが少し嫌そうな顔をした。キュルケは最近、商人のようなことばかり行っているので、そのようなことを思うのも無理もないことだ。とはいえ、タバサの仲間内ではキュルケがもっとも交渉事に長けているのだから仕方がない。
「じゃあ、ここでのんびりとしている暇はないわね。魔法学院に戻りましょう」
キュルケの提案に否やはない。そうしてタバサはシルフィードに、ローゼマインの騎獣にはキュルケとコルベール、ティファニアに、今日は学院に戻るというルイズとサイトが乗り込んで学院に戻る。そうして、ローゼマインと過ごす最後の夜はキュルケとローゼマインの三人で思う存分、語り明かした。
その日を境に、タバサは自分の名乗りをシャルロットに改めた。
百話目で第一部本編、ほぼ完結。
次話でローゼマインが帰還して一度、本作は閉めます。
第二部は完全に原作から離れてタバサが建国を宣言した北ガリア王国(北朝)とジョゼフの率いる南朝によるガリア統一戦争全三十話から始まるタバサの覇王伝に突入。
処刑や粛清もどんどん行っていくので、そんなタバサが見たくない場合は第一部で止めておいた方がいいかもしれません。