ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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平賀才人の見た異世界

俺、平賀才人は高校二年生の十七歳だ。

 

運動神経、普通。成績、中の中。彼女いない歴十七年。賞罰ナシ。

 

そんな普通の高校生だった俺は、東京の街を歩いている最中、光る鏡のような物を見つけてしまった。俺が持ち前の好奇心でそれを潜ってみたら、気が付いたらヨーロッパのような場所にいたのだ。

 

それだけでも訳がわからないのに、その場所は貴族とかいう奴らがいて、魔法を使って空を飛ぶなんていう非常識な場所だった。

 

そして、今は俺を召喚したというルイズという女の子の部屋にいる。部屋の中には他にもローゼマインとクラリッサとリーゼレータという女の子がいる。

 

ここに連れてこられるまでに分かったこと。まずはルイズという桃色がかったブロンドの髪と鳶色のくりくりとした目の女の子は、顔は可愛いけど怒りっぽい。そして、俺のことは平民か使い魔のどちらかの呼び方しかしてくれない。

 

続いてローゼマインという名前の女の子は、見た目は十歳くらいだけど実際は十三歳という話だ。こちらの女の子は紺色の髪に金色の瞳をしている。ルイズたちとは随分と服装が違うと思ったら、どうやらローゼマインも俺と同じように召喚されてきた子らしい。だけど彼女の場合は俺と違って貴族として迎えられているらしい。不公平だ。

 

けれど、一方でローゼマインが貴族だというのは妙に納得できる感覚もあった。それは彼女の立ち居振る舞いが非常に洗練されていること、そして豪華な衣装に髪飾りを付けていること、側近と呼ばれる人たちを連れていること、色々と理由はあるけれど、日本で俺の周りにいた人たちとは、どこからどう見ても違う人だったからだ。

 

そんなことより、俺にとって最も重要な点。それはローゼマインが日本のことを知っていることだ。俺の今の状況について、説明をできるのは、ローゼマインだけかもしれない。

 

けれど、そのためには障害がある。その障害、ローゼマインの側近のクラリッサという少女を俺はちらと横目で見た。こげ茶色の髪に青い瞳をしたクラリッサはローゼマインの騎獣という物の中で俺にナイフを突きつけてきた。なんでも、俺の言動はクラリッサの基準では著しい不敬ということらしい。

 

そんなことを言われても、俺は日本の高校生で、貴族なんてものは存在しない世界で生きてきたんだ。急にどうすればいいかなんて分かるわけがない。

 

最後の一人のリーゼレータもローゼマインの側近だそうだ。濃い緑の瞳を持った彼女の印象はメイドさん。実際、それは大きな間違いではなく、側仕えという主人の生活を支える仕事をしているらしい。ただし、ただのメイドではなく、彼女も貴族であるらしい。確かにルイズよりもよほど洗練された所作だ。今日はローゼマインとルイズ、そして特別に俺にもお茶を淹れてくれていた。

 

「ルイズ様、まずはお部屋をお貸しくださり、ありがとう存じます」

 

「ローゼマインはわたしの使い魔を運んでくれましたし、それにローゼマインが気にかけてくれた、この平民はわたしの使い魔ですから」

 

ルイズのローゼマインへの対応と俺への対応が随分と違って腹立たしいが、この場には怖いクラリッサがいるので黙っておく。

 

まずはルイズから俺が呼びつけられたトリステイン魔法学院について、簡単に説明がされた。全寮制の学校で、ここでは貴族が魔法を学んでいるらしい。ついでにローゼマインの補足によると、ここは俺たちの学校と違って一定の年齢で入学するのでないらしい。だから、同じ二年生でも十五歳から十八歳まで幅があるということだった。

 

そうしてルイズによる一定の説明が終わったところで、ローゼマインによる俺への質問タイムが始まった。

 

「平賀さんにお聞きしたいのですが、平賀さんの世界は西暦何年でしたか? あ、和暦でも構いませんよ」

 

「え……二〇〇四年ですけど」

 

「え!?」

 

ローゼマインが急に上げた声に俺の方が驚いてしまった。ローゼマインは口元を押さえ、なおも驚きから復帰できてない様子だ。一体、何をそんなに驚いているのだろう。

 

「失礼、わたくしの夢の中では二〇一三年と言われていましたから」

 

「は!?」

 

今度は俺が驚く番だった。俺の暮らしていたより十年近くも後だ。

 

「平賀さんとわたくしの夢とで、なぜ時間が異なっているのかは分かりません。おそらく時の女神様のお導きなのでしょう」

 

未来の世界を知っているという重要なことを時の女神様という妙な神様の仕業にして、あっさり棚上げするローゼマインは、日本を知っていても、やはり別の世界の人間だ。

 

「それよりも、これからのお話をしておきましょう。平賀さんは、こちらにいるルイズ様の使い魔となりました。急に使い魔と言われても受け入れ難く思うかもしれませんが、貴方は受け入れるしかありません」

 

「そんなこと受け入れられるわけないだろう!」

 

「それでも受け入れるしかないのです。そうですね、わたくしの夢の中では平賀さんの国には過去に行くという物語があったと思うのですが、心当たりはございますか?」

 

「そんなの、いくらでもあるだろ」

 

タイムスリップものは使い古された題材だ。映画に漫画に小説に例はいくらでもある。

 

「でしたら、話は早いです。平賀さんは江戸時代に行ってしまったとして、お殿様に話し掛けようとしたらどうなるとお思いですか?」

 

それは何となく想像がつく。間違いなく周囲の護衛に殺される。

 

「わたくしたちは貴族であり、平賀さんは平民です。これは、平賀さんが魔術を使えない限り覆すことはできません。実際、力ではわたくしは平賀さんにも敵わないですが、平賀さんは魔術によるわたくしの拘束から逃れられなかったでしょう」

 

「じゃあ、俺はずっとこのまま平民と蔑まれ続けなきゃいけないのかよ!」

 

「平賀さんが貴族に対する礼儀作法を知らないことは分かっています。ですが、わたくしたちに対して最低限の敬意を示せないなら、平賀さんはここでは生きていけません」

 

敬意? 無断で人を呼びつけておいて、蔑んでくる相手に何で敬意を示なきゃいけないんだ。そう言おうとしてローゼマインを見た瞬間、彼女が言っている意味が少しだけだが理解できた。

 

ローゼマインの背後に立つクラリッサとリーゼレータは、そろそろ我慢の限界という様子で俺を見ていた。次に強い口調で何か言えば、俺は殺されるかもしれない。さすがに危険を強く感じて、俺はローゼマインに勢いで反論することはやめることにする。

 

「平賀さん、こちらでは貴族と平民の価値は全く違います。わたくしの国では少し前、とある町の住人が領主の建てた神殿を攻撃したことがありました。そのときの罰の内容は、その町の住人全員の殺害でした」

 

「なんで攻撃をした奴だけじゃなく町の住人全員なんてことに?」

 

「平民は領主の魔力によって生活ができています。それなのに領主に感謝するどころか牙を剥くような平民など不要という考えですね。実際に、貴族が土地に魔力を行き渡らせなければ、平民は生きていけないのです。わたくしとしては処分の対象は反逆の意志ある者だけで十分だと思うのですけれど、大半の貴族は町全体への罰を当然と思っていました。要するに多くの貴族にとって、平民は十把一絡げで平民という印象しかないのです」

 

それは俺には何の価値もないと言っているということだろうか。

 

「ですので、平賀さんは自分の価値を高めなければなりません」

 

しかし、その次の言葉は少し調子が違って聞こえた。

 

「わたくしの専属の楽師は平民ですが、貴族院にも同行させ、貴族である音楽教師の前で演奏も披露しました。彼女はわたくしの専属楽師として知られているため、貴族からも粗雑には扱われません。わたくしの専属料理人も同じです。また、わたくしが神殿長を務める神殿の孤児たちは多くの技能を有しているため高い価値を付けられています。貴方にとっては、あまり受け入れられる話ではないと思いますが……」

 

そう言ってローゼマインは一度、言葉を切った。そうしてお茶で唇を湿らせてから再び話を始める。

 

「孤児たちはお金を出せば買い取ることができます。そのとき金貨二十枚で買った孤児と、金貨一枚で買った孤児は、買われた先で同じ待遇を受けると思いますか?」

 

それは誤解しようもない人身売買の話だった。けれど、ローゼマインの国では当たり前に行われていることなのだろう。だからこそ高値で買われるように自分の価値を高めることが自分のためになると言っているのだ。

 

「貴族にとっては平民一人なんて大した価値はないと思ってください。生き延びる道、逃げ道は思いつく限り準備しておき、保険になると思ったものは何重にも準備して自分を守る。それが、これからの貴方に必要な心掛けです」

 

「平民と言われるのが不満だとか言っていられる状況ではないってことか」

 

商品として売買されるという時点で平民は人として扱われていないのだと思う。安物の商品の分際では色々と言ったところで誰も聞く耳なんて持ってくれない。でもブランド物の商品なら、少しは大事に扱ってもらえる。

 

「少しは自分の立場がお分かりいただけたようですね。わたくしたちは、明日よりわたくしたちの国に帰るための研究を始める予定です。その研究が終わった暁には、平賀さんも日本に帰れるかもしれません。それまで無事に過ごせるよう、明日から何を行うべきかよく考えてください。まずは貴族には絶対服従。これを忘れないようにしてください」

 

俺にそう言うと、ローゼマインは何やら妙な別れの挨拶らしき言葉を交わして、ルイズの部屋を出て行った。

 

とりあえず、今の俺は使い魔にならないと衣食住の全てを失うということは理解できた。何より、ローゼマインの口にしたことは俺を案じての言葉であることが分かって、妙に心に刺さったのだ。

 

俺がルイズの使い魔となることを了承したのは、その後すぐのことだった。




才人とローゼマインの召喚された時間軸はそれぞれ1巻の発売と1話の投稿日をもとにしています。
結果、才人の方が昔の人ということに。
もしも才人の方が未来の人ならローゼマインがお気に入りの作品の続編の刊行状況を知りたがったことでしょう。
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