ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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フーケの捕縛

フーケのものと思われるゴーレムを退けて、周囲に弛緩した空気が流れ始めた。わたしも緊張をとき、改めて破壊の杖と呼ばれていたものを確認しようとした。けれども、その前にラウレンツの厳しい声が飛んだ。

 

「まだだ!」

 

ラウレンツが叫んだのと同時に、形を崩していた土の塊が再びゴーレムを形作り始める。まさかあの巨大なゴーレムをもう一度、作り上げることができるとは思わなかった。フーケはトライアングルクラスと聞いていたけど、タバサやキュルケよりも強いように思えてならない。実はスクウェアクラスなのではないだろうか。

 

フーケのゴーレムが何度も作れるようなら拙い。ラウレンツはまだ温存できているけど、マティアスは魔力をほとんど使い果たしてしまっている。回復薬はあるとはいえ、補充ができない現状では、できれば使いたくない。

 

「破壊の杖は確保しました。皆、この土のゴーレムではわたくしたちの騎獣に追いつくことはできません。このようなものは放っておいて帰還しましょう」

 

こんな厄介な相手は放置するに限る。わたしたちが行うべきは、まずは破壊の杖の奪還。盗賊退治は絶対にしなければならないことではない。

 

「いや、せっかくだから、こいつを使っちまおう」

 

撤退の空気が流れる中、そう言ったのは平賀だった。見ると、いつの間にか破壊の杖を肩にかけている。

 

「ローゼマイン様、魔法を解いてください。噴射ガスの行き場がなくなる」

 

言われて慌てて魔法を解くと同時に、平賀の持つ破壊の杖から羽根を付けた妙な形の物体が飛び出した。物体は再生しつつあったゴーレムに命中すると、辺りに耳をつんざくような爆音を響かせた。

 

白い煙に包まれたゴーレムが再び形を失い、滝のように土が崩れ落ちていく。そうして今度こそゴーレムは土の小山となった。それを見て、キュルケが大喜びでタバサと一緒に平賀の元に向かう。

 

「サイト! すごいわ! やっぱりダーリンね!」

 

キュルケが平賀に抱きついている間、タバサは崩れ落ちたフーケのゴーレムを見つめている。そしてわたしは、平賀の意外な技能に驚きを隠せなかった。

 

破壊の杖はわたしたちの世界の武器であるバズーカ砲だった。何でそれの使い方を平賀が知っているのだろう。もしかして平賀は軍マニアとか呼ばれる人だったのだろうか。けど、いくらマニアでもいきなり実物を使うなんて無謀としか言いようがない。

 

「フーケはどこ?」

 

そんな中、タバサが投げ込んだ言葉にわたしたちは一斉に周囲を見回した。けれど、それらしい人物の姿はない。そのうちに辺りを偵察に行っていたロングビルが茂みの中から現れた。

 

「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」

 

キュルケの質問にロングビルはわからないというように首を振る。キュルケたちは盛り上がった小山の中を探しに向かった。そうして少しした頃、不意に背後でロングビルの小さな悲鳴が聞こえた。

 

何かあったのかとわたしは急いで振り返る。そこにあったのは、意外な光景だった。

 

ハルトムートがシュタープを変化された紐を持って馬乗りになっている。乗っている相手はロングビルだ。この光景は、神殿で見たことがある。なんでわたしは、異国に来てまでこのような光景を見せられなくてはならないのだろうか。

 

「何をするつもりでしたか?」

 

わたしが事情を聞く前にハルトムートの冷たい声が響く。

 

「其方がフーケだったのだな」

 

「どうして、わたくしがそのような疑いを……助けてください。ローゼマイン様」

 

「ローゼマイン様に助けを求めるというのはずいぶんと厚かましいと思うのですが?」

 

そう言ってハルトムートはいつの間にか持っていた短剣の柄でロングビルを殴った。

 

「ローゼマイン様の身に危険が迫ったあの日より、私は魔力感知も鍛え続けました。その私がマティアスがゴーレムを倒した後に調べてみましたが、この辺りに私たち以外の魔力は感じませんでした」

 

いつの間にかハルトムートは、魔力感知を使ってフーケのゴーレムから使用者を探っていたらしい。聖典に毒が塗られるという事件以来、魔力感知を鍛えてわたしの周囲に再び毒が置かれることがないように警戒をしていたというハルトムートは頼もしいけど、女性であっても容赦なく馬乗りになって武器で殴りつける姿を褒める気にはなれない。

 

「もっとも魔力感知から逃れる方法もあるので、確証とまではいかなかった。だが、其方は何から何まで、都合が良すぎたのだ。フーケの行き先を偶然に見つけただけならまだしも、フーケのゴーレムが二回、倒されたタイミングで現れ、そしてなぜかミス・ヴァリエールの使い魔が持っていた破壊の杖に手を伸ばした。偶然はそれほど重ならない」

 

そこまで言ったハルトムートが短剣の刃を突きつけたまま、極上の笑顔を浮かべる。

 

「ああ、反論はしなくて良いですよ。取り調べは後でじっくりと行いますので。とりあえずラウレンツ、この者が死ねないようにしておいてください」

 

「わかっています」

 

笑顔で恐ろしいことを言うハルトムートとラウレンツを見て、さすがの怪盗、フーケも顔を引きつらせている。フーケだけではない。キュルケもルイズも平賀も、表情には表していないけれども、おそらくタバサもドン引きしている。

 

フェルディナンドお手製の悪辣なお守りのせいで、わたしはユルゲンシュミットでは危険人物と思われていた。せっかく異国に来たのだから、不名誉な評判からはおさらばしようと思っていたのに、これではここでも危険人物認定は確実だ。

 

「尋問はわたくしたちが行うべきことではありません。わたくしたちの仕事は学院長に身柄を引き渡すまで。その後のことは、この国の方が決めることですよ」

 

主にハルトムートにしっかりと釘を刺し、わたしは騎獣を出した。キュルケがロングビルの体を探って予備の杖がないか確認していたので、おそらく平気だと思うのだが念のためと言ってハルトムートはわたしの騎獣の後部座席に乗り込んだ。

 

その後、他の皆もわたしの騎獣に乗り込んでくる。その中で平賀が無造作に破壊の杖を座席に投げたのを見て、わたしは思わず声をあげた。

 

「そのような危険なもの、乱暴に扱わないでくださいませ」

 

「ああ、それは単発なんだよ。魔法なんか出やしない」

 

「一度しか使えない、しかも何年も整備されていないものを使ったのですか?」

 

わたしが言うと、平賀は気まずそうに目を逸らした。ちょっと、暴発してたらどうするつもりだったの。

 

「それなら大丈夫だと思うわ」

 

そう考えていたところに、ルイズから声がかかった。

 

「学院の宝物庫の品には固定化の魔法がかけられているって聞いたことがあるわ」

 

「固定化がかけられた品でも、使うことができるのですか?」

 

固定されてしまったら、引き金もひけないのではないかと思ったのだ。けれど、ルイズはわたしの疑問をあっさりと否定する。

 

「当然じゃない。じゃないと、固定化が掛けられた扉は開けなくなっちゃうじゃない。固定化の魔法はあくまで機能を損なう改変を防ぐ魔法なの」

 

「つまりは固定化をかけた扉は閉めることも鍵をかけることもできるけれど、扉を壊したり鍵をこじ開けることはできなくなるということですか?」

 

「そういうことになるわね」

 

それは非常に便利な魔法ではないだろうか。錬金は成功するイメージがまったく湧かなかったけど、この状態のまま固まれとイメージして魔法を使えば……開かずの扉ができあがってしまいそうな気がする。やはり下手に魔法を使うのは止めておこう。

 

「ところで、もう破壊の杖は使うことはできないのですよね? 本当に使ってしまってよろしかったのですか?」

 

わたしが続けて言った言葉に騎獣の中の空気が固まった。特に平賀とルイズは青ざめている気がする。

 

まあルイズは公爵家の令嬢と聞いているから、弁償できなくはないだろう。平賀は、うん、頑張って働いてもらうしかないだろう。そう考えて、わたしはそれからは無心で騎獣を飛ばすことにした。

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