ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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長らくお待たせしました。
アルビオン編の再構成が終了したので投稿を再開します。


風のアルビオン
ハルケギニアの図書館


フーケの騒動が収まってから、わたしは暇を見つけては図書館に通っている。一人乗りのわたしの騎獣の隣に並んで歩き、同じ目的地に向かっているのは、この国でできた本好きのお友達、第一号であるタバサだ。

 

このタバサからわたしはハルケギニアの魔法理論に関する本を紹介してもらい、また内容について解説をしてもらっている。代わりにわたしは、普通なら生徒は入れないフェニアのライブラリーに彼女を同行させている。

 

最初、オスマンはタバサをフェニアのライブラリーに同行させることに対して難色を示した。だから、わたしはフェニアのライブラリーに同行させる側近に制限をつけていないことを利用して、タバサを側近に加えたのだ。わたしがタバサを側近に加えたことを伝えると、オスマンは渋い顔をしながら、フェニアのライブラリーへの入室を認めてくれた。

 

当然、実際にわたしがタバサに主として指示を与えているわけではない。わたしはあくまでタバサから魔法理論を教わるくらいだ。

 

「では、サモン・サーヴァントは四大系統の魔法ではないのですね?」

 

「そう。それらはコモン・マジックと呼ばれている」

 

タバサの説明によると、コモン・マジックはメイジなら誰でも使える魔法ということだ。わたしが気になったのは四大系統と異なるという部分だ。なぜ誰でも使えるのか、それがわたしたちの帰還の鍵となる気がしたのだ。

 

最初、誰でも使えると聞いて考えたのが、実はハルケギニアの人たちは光・闇・命のどれかを絶対に持っていて、だから魔法が使えるという仮説だ。だからわたしは、それら三属性を持たないリーゼレータにコモン系の魔法を試してもらった。

 

結論としては、リーゼレータも普通にコモン系の魔法を使うことができた。試したのは、部屋の施錠をするというロックという魔法だけど、問題なく使うことができた。まあ、鍵をかけるだけという、魔法としては簡単というか、初歩的な魔法なので単に簡単なので誰でも使える魔法だったというだけだったようだ。

 

余談だけど、タバサからロックの魔法を教えてもらってから、側近たちは安心して眠れるようになったようだ。コモン・マジックも魔力の影響は受けるようで、わたしのロックの魔法は側近たちの誰も解除ができなかったのだ。

 

ユルゲンシュミットの領主候補生の中でも、わたしの魔力はかなり高かった。タバサにも試してもらって、わたしのロックの魔法はハルケギニアの普通のメイジでは解除ができないと理解してもらえた成果だ。一方で側近たちのわたしの部屋に対する調査がとても厳しくなった。これは毒物などを警戒しているのではなく、わたしが本を持ち込んで側近が部屋を開けられないのをいいことに読書に耽るのを警戒しているのだ。

 

各地でこっそりと読書をしようとしたり、わたしの筆頭側仕えとしての仕事の中に、わたしからの本の取り上げ方があったりするだけあって、わたしはこと読書に関しては側近たちからの信用がまるでない。側近たちの仕事に本探しが加わらないよう、ロックの魔法を覚えてから、わたしは一度も本を部屋に隠したことがない。

 

更に余談だけど、ロックの魔法を使って施錠した部屋の中にもオルドナンツを飛ばすことはできる。そのためわたしが部屋の扉を開ける前には先にオルドナンツを飛ばして部屋の前に護衛騎士と側仕えを待機させている。

 

何が言いたいのかというと、トイレが部屋にないので、トイレに行きたくなったときには側近に今からトイレに行くよと宣言しなければいけないということだ。一応、トイレのときの護衛はクラリッサにしているけれど、同性だからといって羞恥心が完全になくなるわけではない。いっそ神殿のように部屋で済ませられるように、とも考えたけど、貴族の側近に汚物の処理はさせられないと思い直して却下しておいた。

 

「ところで、ローゼマインの系統は風なの?」

 

「そうですね。属性で言えば、わたしは風になると思います」

 

わたしが魔力で染めたものは、薄い黄色になる。なので属性的には風か光ということになるけれど、光はハルケギニアには存在しない属性だ。風と言っておくのが正解だろう。

 

「自分の属性が分からないの?」

 

「そうですね。わたくしたちはタバサたちのように属性がはっきりとはしていないのです。自分が染めた魔石の色を見てどのような色になったかで、どの属性が強いのかを推測するのです。例えば魔石が緑色に染まったら水の属性が強い、とかですね」

 

「水の属性が強いのに、色が緑色なの?」

 

「ええ、ユルゲンシュミットでは水の属性は緑、火の属性は青、風の属性は黄、土の属性は赤です。ハルケギニアとは全く異なりますね」

 

ハルケギニアでは水は青、火は赤、と割と見た目のイメージ通りだ。ユルゲンシュミット生活が長くなっていたせいで最初は少し戸惑ったけど、わたしは馴染むのは早かった。側近たちは未だに慣れないようだけど。

 

「ローゼマインはサイトに治癒の魔法を使ったって聞いた。水も得意なの?」

 

「ええ、わたくしは風の他に水も得意ですね。そう考えると、タバサとわたくしは属性的にも似ているようですね」

 

わたしは全属性なので実際には誰とも似ているとも言えるけど、気にしない。お友達との共通点は多い方がいい。

 

「これなら、今のローゼマインでも理解できるかも」

 

わたしと話しながらもフェニアのライブラリー内の本を漁っていたタバサが一冊の本を差し出してくる。

 

「ありがとう存じます。ところで、このフェニアのライブラリーは本棚が高すぎるのではありませんか?」

 

トリステイン魔法学院の図書館は、食堂のある本塔の中にある。その中にあるフェニアのライブラリーの本棚の高さは三十メートルほどもある。とてもではないが、手の届く高さではない。

 

「別に魔法を使えば届くけど?」

 

タバサはそう言うが、逆に魔法を使わなければ本を取れないということだ。それでは平民たちはもちろん、シュヴァルツやヴァイスたちも手伝えない。それに、わたしはもちろん側近たちにもどうしても受け入れられないことがある。

 

「魔法を使って飛ぶのはよいですけど、せめて騎獣服を着用していだだけませんか?」

 

タバサにしても、他の生徒や教師にしてもこの学院の者は皆、スカートなのに簡単に宙に浮いてしまうのだ。一応、真下に人がいるときは避けているようだけど、こんな高い本棚の上にいたのでは、人が入ってきても気づきそうにない。ただでさえ、本を選んでいるときなどは夢中になってしまうわたしとしては、他人事ながら冷や冷やする。

 

「ここには、騎獣服なんてないから。それに、これは制服」

 

そう言われては返す言葉もない。麗乃時代は真面目だったわたしは、制服を着崩したりといった違反は一切、行っていない……と、ちょっと待って麗乃時代はって、わたしはいまでも真面目……とはいえないかも。でも、それはわたしが悪いんじゃない。商売上の師である誰かさんとか、魔術の師である魔王様とか、色々な人に抜け道を使うことを教わりすぎたせいなのだ。

 

「ローゼマイン、どうかした?」

 

「いいえ、少しばかり来し道を思い出していたのですわ」

 

「そうなんだ」

 

「それより、どこかに貴重な魔術書が売買される場所など、ご存知ありませんか?」

 

もしも貴重な魔術書がお金で手に入るなら、稼ぐこととに軸足を置く手もある。

 

「そんな場所は知らない」

 

けれど、タバサの答えは期待したものではなかった。ならば仕方ない。しばらくはここで研究に励むしかないだろう。

 

恐ろしい魔王様であっても、大領地アーレンスバッハはすぐに掌握できるものではなく、ディートリンデは制御ができない。だから、わたしは早くユルゲンシュミットに帰還しなければならないのだ。とはいえ焦っても何も始まらない。なにせ、まだ手がかりは全くないのだから。

 

それに……と高い高い本棚を見上げる。この蔵書の量は素晴らしいけれど、ここにある本はいずれも誰かが読んだことのある本なのだ。オスマンやコルベールが知らないと言った方法が本当にここにあるのか、少しばかり不安がある。

 

あるいは、本気で他の場所にある本を手に入れる方法についても、考えないといけないかもしれない。わたしは最近、そう考え始めていた。

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