ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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学院での相談

王宮から魔法学院へと戻ったルイズは、そのままローゼマインを自分の部屋へと招き入れた。王宮でアンリエッタに伝えられなかった秘め事があったからだ。ルイズの部屋での話でもローゼマインはまず側仕えのリーゼレータにお茶を淹れさせ、少しの雑談で場を温めてからルイズに話をさせる。

 

「がっかりさせたくなくて、姫さまには言わなかったけど……」

 

そう切り出して、ルイズはゆっくりと呪文を唱え始めた。

 

「エオルー・スーヌ・フィル……」

 

自分の中から何かが流れ出ていくのを、はっきりと感じる。視界が徐々に霞んでいく。

 

「ヤルンサクサ……」

 

そこで限界が来た。ルイズは詠唱を中断して杖を振る。部屋の端の空中で小規模な爆発が起き、爆風が室内の者の髪を撫でる。

 

それを確認しきることなく。ルイズの意識は途切れた。

 

「ルルル、ルイズ!? ルイズッ!」

 

サイトの慌てた声が聞こえ、身体を揺さぶられる感覚がした。ルイズはのろのろと目を開ける。

 

「そんな大騒ぎしないでよ。ちょっと気絶しただけよ」

 

気を失っていたのは、ほんの一瞬のはずだ。

 

「最後まで『エクスプロージョン』を唱えられたのは、あのときこっきり。それから何度唱えようとしても、途中で気絶しちゃうの。一応、爆発はするんだけど……。たぶん精神力が足りないんだと思うのだけど、ローゼマインなら何か心当たりがないかと思って」

 

聞いたルイズに、あくまで推測ですけど、と前置きした上でローゼマインが答える。

 

「その可能性は高いと思います。わたくしたちの国でも魔力が高い者と低い者が同時に儀式に臨んだとき、魔力が勢いよく流れすぎて魔力が低い者が失神するということがございました。ルイズの今の様子はそのときと似ていたように見えました。けれど、わたくしはまだハルケギニアの魔術の原理に詳しくないのです。もしよろしければ、ハルケギニアの魔術の原理について教えていただけませんか?」

 

「一つの系統しか使えないメイジはドット。二つ足せるようになるとライン。三つ足せるのがトライアングルと、足せる系統の数でメイジのクラスが決まることは知ってるわね。このクラスは呪文にも適用されて、三つ系統を足した呪文はトライアングル・スペルと呼ばれてるわ。おおよそ呪文のクラスが一個あがるごとに、消費する精神力は倍になるの」

 

「わたくしたちの国では、そのような分類はありませんでしたが、魔術具には、上級貴族相当や、中級貴族相当の魔力が必要とされているものがありました」

 

「だから、精神力八のラインメイジがいて、ドットの呪文で四の精神力を消費すると仮定すると、ドットの呪文は一日に二回、ラインの呪文は一日に一回使えることになるわ」

 

「そうなると、精神力が十六まで成長するとトライアングル・スペルが使えるようになるということですか?」

 

「いいえ、ラインメイジがトライアングルメイジに成長すると、ドットの呪文を使用する際の精神力の消費はおよそ半分になるの。だから八割る二は四で、ドットの呪文が四回使えるようになるわ。ラインの呪文は二回、トライアングルの呪文は一回。そんな感じにメイジは成長するの」

 

ルイズがそう答えると、ローゼマインは魔力圧縮でなくて加護の取得に近いということでしょうか、と呟いていた。

 

「なんだか非常に気になる言葉が聞こえたのだけど、魔力圧縮って何?」

 

「申し訳ありません。魔力圧縮はエーレンフェストの重要な秘伝ですので、ルイズにも教えることはできないのです。ところで、その考えからしてもルイズの失神は魔力の不足ということになるのですか?」

 

「そうね。精神力が切れると、さっきみたいに気絶しちゃうわ。呪文が強力すぎて、わたしの精神力が足りないんだわ」

 

「魔力……精神力は溜めることはできないのですか?」

 

「精神力を溜める?」

 

聞いたことのない表現にルイズが目を瞬くと、ローゼマインは一瞬だけ、しまったという顔をしたように見えた。

 

「わたくしたちの国では大規模な魔術を行うときや、行いたい魔術に比べて魔力量が低い場合にはじっくりと魔石に魔力を溜めて、それを使って魔術を行使するという方法がございます。けれど、よく考えれば今回ルイズは魔力を溜めずに魔術を行使していたので、関係はございませんね」

 

「いや、魔力なら溜まってたんじゃねえの?」

 

そう言って口を挿んできたのはサイトだった。

 

「だってルイズは、今までまともに呪文を唱えられなかったんだろ? それで魔力だか精神力だかが溜まりに溜まってたんじゃねえのか?」

 

それは考えられる話だった。

 

「例えば、ルイズの精神力が百だとする。あの『エクスプロージョン』は、一回で百を消費しちまう。普通だったら、一晩寝れば精神力は回復するけど、ルイズの場合は必要な量が多すぎて……。なにせ百だからな……、一晩寝たぐらいではなかなか溜まらない」

 

「そうかもしれないわ。四つの『土』を足して唱えられるスクウェア・クラスの『錬金』は、黄金を生み出すことができるわ。でも、スクウェアメイジといえど、スクウェア・スペルはそう何度も唱えられない。下手すると、一週間に一度、一月に一度だったりする。それでも、錬金できる黄金はほんとに微量。だから黄金はお金として通用するのよ」

 

「ちなみにお聞きしますが、黄金を『錬金』で作り出すこと自体は、この国では罪とはならないのですか?」

 

そう聞いてきたのは、ローゼマインだ。

 

「ローゼマイン、あなたまさか……」

 

「実際に多くの金を錬金で作るつもりはございません。ですが、試しにやってみてもよいものかどうかは確認しておいた方がよいと思いまして」

 

そう言っているが、ローゼマインは高貴な生まれだというのに、意外とお金にうるさい面がある。オスマンやアンリエッタと交渉して収入を得たり、マジックアイテムを売りさばいていることも、ルイズは知っている。

 

「さっきも言ったけど、どうせたいした量は作れないから罪になることはないわ」

 

「では、金粉なども価値はございますか?」

 

妙に具体的になった。絶対、作って売るつもりだ。

 

「ええと、話を戻すわね。つまり、強力な呪文を使うための精神力が溜まるのには、時間がかかるってことだから、わたしの場合もそうかもしれないわね。『虚無』はほんとにわからないことばかり。なにせ、呪文詠唱が途中でも、効力を発揮するんだもの。そんな呪文聞いたことがないわ」

 

ルイズはローゼマインの質問には答えず、粗方導き出されていた解答を纏める。

 

「それだけ始祖の祈祷書の呪文は特別ってことか。それより始祖の祈祷書ってルイズが持ち歩いていた本だろ。あれって真っ白だったんじゃないのか?」

 

「おそらく始祖の祈祷書というのは魔術具の一種なのでしょう。わたくしたちの国にある聖典も閲覧の許可のない者には白紙に見えるというものでしたから。ちなみに、始祖の祈祷書をわたくしにも見せていただくことはできますか?」

 

「……見せるだけよ」

 

そう念を押してルイズは始祖の祈禱書を開いてみた。

 

「確かに白紙のようですね。念のため聞いてみるのですけど、わたくしに水のルビーを貸していただくことはできないですか?」

 

「それは……さすがに抵抗感があるわね」

 

「そうですよね。言ってみただけなので気になさらないでください」

 

そう言っている割にはローゼマインはがっかりしているように見える。ローゼマインが本に対して異常な執着心を持っていることは、ルイズも気が付いている。今の言葉もあわよくば読んでみるつもりだったに違いない。

 

「それより、わたくしには気になっていることがあるのです。あるいはルイズには不快かもしれませんが、聞いていただけますか?」

 

「何かしら?」

 

「始祖ブリミルは四人の僕を従えていたのですよね。わたくしも召喚の際には複数の従者を呼ぶことができました。ルイズが虚無の使い手なのでしたら、ガンダールヴ以外の始祖の使い魔を呼び出せる可能性はございませんか?」

 

ローゼマインは、まだサモン・サーヴァントを使える可能性があると言っている。けれど、その言葉を聞いたルイズがまず行ったことは、サイトの方を見ることだった。他の使い魔を呼ぶということはサイトだけでは不足と言っているように思われないだろうか。

 

サイトはアルビオンでルイズのためにワルドと戦い、先のアルビオンとの戦いでもゼロ戦で無敵と謳われたアルビオン竜騎士隊と戦ってくれた。そんなサイトを蔑ろにするようなことは、ルイズはしたくない。

 

「今すぐにとは申しません。少し考えてみてくださいませ」

 

それきり虚無に関する話は終わりとなった。ほどなくローゼマインは側近たちを連れてルイズの部屋を出て行ったが、ルイズの頭の中にはサイト以外の使い魔も召喚できないか試してみるという提案が、ぐるぐると回っていた。




ユルゲンシュミットの金粉って財産的な価値はないのでしょうね。
単なる金色の粉なのか、金自体に価値がないのか。
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