ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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召喚の儀式(ローゼマイン)

ハルケギニア生活二日目、わたしは春の使い魔召喚の儀式を見学するために、学園前の平原に来ていた。昨日の儀式がわたしの召喚というトラブルで中止されたために、まだ使い魔召喚の儀式を行えていない生徒たちの召喚が行われるのだ。

 

二日目だからか、儀式は滞りなく行われ始めた。一人目の生徒が呪文を唱えると、光る鏡のようなものが出現し、中からフクロウが飛び出してきた。今度は別の呪文を唱えながら召喚した生徒がフクロウの額に杖の先を当て、その後に嘴に口を付けると、フクロウの体に文字のようなものが刻まれる。これで使い魔召喚の儀式は終わりらしい。

 

儀式というから、わたしのいたエーレンフェストの神殿の儀式を思い浮かべたが、覚えなければならないことは遥かに少ない。儀式のときに使う呪文も二種類だけなので、すぐに覚えられそうだ。

 

「わたくしもサモン・サーヴァントという魔術を使えるのでしょうか?」

 

その言葉は純粋な興味の他に、実利を考えてのものだった。あの光る鏡を転移陣のようなものと仮定すれば、ひょっとしたらユルゲンシュミットに繋げることができるかもしれないと考えたのだ。

 

「本来、この儀式は二年生に進級するときに行われるものだ。けれど、ユルゲンシュミットの貴族であるミス・ローゼマインがハルケギニアの魔法を使えるかは私も興味がある。特別に召喚の儀式を行ってみることを許可しよう」

 

今日も監督をしていたコルベールが許可をくれたので、私も春の召喚の儀式というものをやってみることにした。遠い異国の貴族としか聞かされていないはずの他の生徒たちも興味津々といった様子なため、順番は早々に回ってきた。

 

初めてのハルケギニアの魔法の行使なのでどういう感覚で行えばいいのか分からない。とりあえずシュタープを出し、洗浄の魔術であるヴァッシェンを使うときの要領で魔力を込めながら呪文を唱えた。

 

わたしの前に現れたのは六枚の鏡だった。あまりに予想外の現象だったので、鏡が現れたら探ってみようと色々と考えていたことが全部どこかに飛んでいってしまった。そのうちに鏡が強く光る。その中から現れたのは六人の男女だった。

 

「ハルトムート!」

 

最初に目に入ったのは、特徴的な朱色の髪のハルトムートだった。わたしの素性の全てを知っている、ダームエルと並ぶ一番の側近ともいえるし、側近中で一番の問題児ともいえる文官だ。

 

「それにクラリッサ、ローデリヒ、マティアス、ラウレンツ、グレーティアも」

 

一緒に出てきた面々はわたしに名を捧げて忠誠を誓った側近たちだ。確かコルベールは今後の属性を固定するとか言っていた。ひょっとして自分と関係が深い存在が呼ばれるのだろうか。だとすれば、このメンバーが呼ばれるのも納得だ。側近たちは、わたしの姿を認めると一斉に駆け寄ってきて、前に並ぶと揃って跪いた。

 

「ローゼマイン様、ご無事で何よりです」

 

感極まった様子で言ってくるのは、やはりハルトムートだ。

 

「ハルトムート、わたくしが消えてから今日は何日目ですか?」

 

「はっ、ローゼマイン様が貴族院に転移されないと連絡があったのは昨日のことでございます」

 

ということは、時間の流れは一緒ということだ。少なくとも忌まわしき浦島太郎状態は避けられたようだ。

 

「ミス・ローゼマイン、これは一体、どういうことですか?」

 

わたしもハルトムートたちも明らかに互いを知っているという反応だ。コルベールが混乱するのも分かる。

 

そして駆け寄ってくるコルベールを警戒するように護衛騎士のマティアスとラウレンツが間に立ち、手にシュタープを出す。

 

「彼らはわたくしの側近たちですよ、ミスタ・コルベール」

 

「側近、ですか?」

 

「ローゼマイン様、彼らは?」

 

コルベールや男子生徒はともかく、女子生徒はユルゲンシュミットの基準では平民としてもアウトの服装だ。マティアスたちが警戒するのも分かるが、このままでは話すらままならない。まずはわたしの側近たちに事情説明が必要みたいだ。

 

「皆、ここはハルケギニアと呼ばれる場所で、ここはその中のトリステイン魔法学院という場所です。ここで行われる召喚の儀式というもので何らかの事故があり、わたくしはここに運ばれてしまいました」

 

「ということは、ローゼマイン様が消えてしまわれたのは、この者たちが原因ということですか?」

 

そう言ったハルトムートの雰囲気が剣呑なものに変わっている。

 

「ハルトムート、事故だと言ったではありませんか。それにわたくしも事故で貴方たちを呼び出してしまいました」

 

「いいえ、ローゼマイン様の元に私が遣わされたのは神のご加護にございます」

 

まあ、わたしの所に来られたなら、ハルトムートならこういう反応になるよね。普通ではないハルトムート以外の意見を求めて視線を横にずらす。そこにいたのは、ハルトムートに全面的に同意しているクラリッサだった。もう一つ視線をずらすとローデリヒだ。

 

「ローデリヒはわたくしに急に呼び出されたことを、どう思いますか?」

 

「私はローゼマイン様のいないエーレンフェストにいても、辛いだけです。ですので、こうしてお呼びいただけたことを感謝したいくらいです」

 

ローデリヒを始めとした四人は、エーレンフェストでは微妙な立場にいる。だから私は中央に連れていくことも決めたのだ。

 

あれ? ということは、私に召喚されたことで困っている人はいないってこと? それなら、呼んでしまったこと自体は問題ないってことだよね。

 

「ともかく呼んだことに関して責任があることは否定しませんが、そのことでこちらにいる方を責めてもユルゲンシュミットに戻れるわけではありません。それよりも、彼らにもわたくしたちが帰るための研究の助力をしてもらう方が建設的ではありませんか?」

 

そう言うと、ハルトムートも渋々ながら矛を収める姿勢を見せた。

 

「ただし、事故とはいえ呼んでしまったことの責任は逃れられないと思いません?」

 

わたしが言葉を付け足しながら見ると、キュルケがびくりと身体を震わせた。

 

「わたくしたちが滞在することになれば、それなりに必要なものもあると思いますけれど、ミス・ツェルプストーは当然、協力をしていただけますよね?」

 

上級貴族であるハルトムートとクラリッサは側仕えのいない生活などしたことがない。急に側仕えを現地調達は無理だとしても、せめて下働きは雇ってもらわないと貴族ばかりの私の側近たちは生活すらままならないのだ。

 

「ミスタ・コルベール、申し訳ありませんが、オールド・オスマンへの取次をお願いできますか? 昨日の時点ではわたくしが話していなかったことをお話しします」

 

ハルトムートたちに、もう少し詳しく事情を説明することも必要だし、何よりわたしが昨日ついた嘘である上級貴族という設定は早くも崩れてしまった。こんなに側近を連れた上級貴族がいるはずがない。まあ、ハルケギニアでは側近という制度自体が存在しない可能性もあるけど、少なくとも上級貴族の側近に上級貴族のハルトムートとクラリッサがいるのはおかしい。

 

「分かりました。ご案内いたします。皆はすまないが今日も教室に戻っておくように」

 

こうして、わたしの召喚の事故によって今日の春の召喚の儀式も中断された。二回もお預けをくらった生徒にわたしは心の中で何度も頭を下げながら、今日は側近に囲まれた状態で魔法学院へと飛び立つ。

 

様々な生物を模した騎獣たちにコルベールは興味をかきたてられたようだが、さすがに今日は何も言わずに学院に向けて飛んでいる。その間に、わたしは学院長とどのように交渉をするか、考えを纏めようと頑張ったのだった。




ハルトムートたち名捧げ組、召喚。
やはり側仕え、護衛騎士、文官が揃ってこそのユルゲンシュミットの領主候補生ですので。
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