ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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火竜山脈での二度目の採集

エントヴィッケルンというローゼマインの国の魔法で屋敷の増築を行ったものの、その建物は窓も扉も存在しないものだった。さすがに普段から使うのには適さないので、通常は窓越しに存在する従来の部屋を使うことになった。しかし、窓の向こうに吹きさらしの部屋があるのは落ち着かない。加えて、職人が窓などを取り付ける際に住人がいると邪魔な上に、その職人の口から見知らぬ住人たちの噂が漏れるのも拙い。

 

そんな訳でタバサは今、ローゼマインの騎獣に乗り、ガリア南部、ロマリアとの国境付近にある火竜山脈に向かっていた。目的はもちろんユレーヴェというものの材料になる素材の採取だ。ちなみに使い魔の風竜シルフィードは魔法学院に向かってもらってキュルケに世話を頼んである。

 

今回はローゼマインという異国の貴族と行動をする以上、なるべく目立たないようにしなければならない。シルフィードは竜の姿のままでは、どうしても目立つ場面があるのと、使い魔の所在によって、タバサも魔法学院にいるとガリア王の密偵に誤認させることも期待できるためだ。

 

直線距離なら二日あれば到着できる距離だが、今回は人目に触れないことも重要になる。ローゼマインに人里から離れた場所を選んでガリアを縦断するように飛んでもらわなければならないため、到着までは片道で三日半もかかってしまう。加えて現地での採取についても最大三日を見込んでいる。

 

そのためタバサが座っている席の後ろには十日分の生活物資が載せられている。騎獣の大きさは任意で変えられるようだが、大きければそれだけ目立つため、最小限にとどめると言っていた。騎獣の中は、今日はいつになく窮屈だ。

 

「火竜山脈というのは、どのような場所なのですか?」

 

「ガリアとロマリアの国境にある山脈で多くの火属性の魔獣がいる」

 

「それなのに魔獣の素材に土属性が混じっているのですよね」

 

ローゼマインも不思議そうだが、タバサは危険な魔獣を相手に苦労して採取した素材が使い物にならなかったのだ。母の治療の可能性への期待に胸を膨らませていたからこそ余計に落胆は大きかった。

 

「ともかく注意して進まなければなりませんね」

 

山や森を選んで進んでいても、哨戒の竜騎士に遭遇する可能性はある。ローゼマインの騎獣は一見すると人が乗っているようには見えないが、見慣れぬ魔獣として調査されると面倒なので、その場合には騎獣を地上に降ろして姿を隠さなければならない。ただ今回は荷物が積み込まれているため魔石に戻すことはできない。せいぜいが皆を降ろした後、大きさを小さくすることくらいしかできないようだ。

 

タバサもガリア軍の所属なので一応の情報は持っている。その情報も活用することで哨戒部隊に捕捉されることはなく、無事に予定の三日半で火竜山脈の麓へと到着した。まずはローゼマインの護衛騎士と協力して宿泊場所と定めた場所の周辺の安全の確保をするために魔獣を狩る。その中でも強力だった魔獣の牙をタバサは魔石化してみた。

 

「やはり土の属性を強く感じますね」

 

「今回、狩ったブラウングリズリーは特に火属性の魔獣じゃないから」

 

「特に属性を感じさせない魔獣が土の属性を持っているということは、やはりこの場所は土の属性が強い場所だったようですね」

 

明確に伝えられたことで、これまでの想定が間違っていたことがはっきりした。火竜山脈は火の魔獣が多いことから、火の属性が強いものだと考えていたけど、実際は土の属性が強い可能性が強まった。それならば、採取する素材は全く別の物にしなければならない。

 

「本格的に土の属性の採取に切り替えるとして、タバサは何か当てはございますか?」

 

「チタンを採取してみようと思う」

 

土の属性が強い素材自体はトリステインで調べてある。

 

「それでは、チタンの採掘の仕方はご存知ですか?」

 

けれど、その採掘の仕方となると首を横に振るしかなかった。タバサは所詮、書物で調べただけだ。自然の中から見つけるというのは難しい。

 

「でしたら、今回はチタンを採掘するのは難しいでしょう。ひとまずは適当に土の属性が強いと思われるものを採取してみましょう。チタンに関しては、まずは市販の品を購入してみて素材としての価値を測るのはいかがでしょう」

 

ローゼマインの発言に同意して、ひとまず野営場所の周囲でも採集可能な素材を集め始めた。差し当たっては、ありきたりな岩の中で土の属性が強いと本にあったものを削って魔石化をしてみた。

 

「やはり土の属性が強いですね」

 

タバサが精神力を集中して魔石化したものをローゼマインに渡すと、しばらく手を当てていたローゼマインがそう言った。

 

「どういたしますか? 持ってきた物資には、まだ余裕がございますが、オルレアン領に帰還いたしますか?」

 

「何度も移動すると発見される危険が高くなる。ローゼマインさえよかったら、できればなるべく採集をしてしまいたい」

 

タバサが他の貴族と一緒に行動していたということが知られれば、それは母の危険に繋がるのだ。用心はし過ぎて悪いことはない。

 

「ええ、それがよいでしょうね。ひょっとしたら、意外なものが高い品質を示すことがあるかもしれませんし」

 

ローゼマインが同意してくれたので、翌日もタバサは早朝から採取を始めた。側仕えに加えて護衛騎士たちはローゼマインの守りに残っているので、タバサに同行するのは文官であるハルトムートとローデリヒだ。

 

そのうちハルトムートは魔法力が高い上級貴族で、加えてローゼマインを守れるように自主的に訓練に励んでいたようだ。実際に、その戦闘力はワルドとの戦いでも垣間見えた。さすがに本職の騎士には敵わないにしても、採取の間の護衛としては不足ない。

 

「あの岩を採取してみたい。その間の護衛をお願いしたい」

 

「ええ、ローゼマイン様から頼まれておりますから。安心して採取してください」

 

そう言ってシュタープというユルゲンシュミットにおける杖を出した二人に背中を預け、タバサは目に入った石英の採取を行う。杖の先に精神力を集めて手ごろな大きさになるようにガツガツと削っていく。

 

「む、魔獣だ。私が迎撃するゆえ、ローデリヒはこの場を頼む」

 

そのうち、ハルトムートがそう言って現れた魔獣を迎撃するために離れていく。

 

「ローデリヒも戦闘の訓練を受けているの?」

 

「私がエーレンフェストで受けていた訓練は、あくまで自分の身を守ることと、護衛騎士の指示に従って動くことまでです。クラリッサのように護衛騎士と同じ訓練を受けていたわけでも、ハルトムートのようにいざというときは戦闘も行えるように訓練を積んだわけでもありませんので、過度な期待はしないでください」

 

ローデリヒがこれまで戦っている場面は見たことがないが、それは戦闘に自信がないからだったようだ。けれど、それは普通のことで、ローデリヒの口ぶりからすると、どうやら文官なのに戦えるハルトムートとクラリッサの方が例外のようだ。それに二人とも上級貴族だと言っていた。メイジもランクが上がるほど戦闘力も上がる。中級貴族のローデリヒが二人と差があるのは当然のことなのだろう。

 

ハルトムートがいたときと違って周辺を警戒しながら、少しずつ石英を削っていく。幸いにもハルトムートが留守の間に魔獣は襲ってこず、無事に石英の採取に成功した。

 

採取した石英に対するローゼマインの評価は、なかなか良い素材ではあるが、他の素材の質を考えると、ユレーヴェに使うには少し品質が足りない、というものだった。品質が足りないこと自体は残念だが、ここで土の属性の素材を採取できる可能性が高いとわかったことは大きな収穫だ。

 

まずはトリスタニアに向かって、そこの市場で買った石英と今回、火竜山脈で採取した石英の品質差を比べる。そして、それを利用して火竜山脈のチタンの品質を予想する。そうして火竜山脈のチタンがユレーヴェの素材たるか検討をした上で、採掘方法等の下調べを万全にした上で実際の採取に赴く。ひとまず、そう予定を立てる。

 

次で採取を成功させることを強く誓ってタバサは火竜山脈をあとにした。

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