ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

71 / 101
チタンの魔石化の方法

火竜山脈から戻ったわたしたちは、トリスタニアへと向かって市販品のうちで素材となりそうなものを買い込んだ。その後、素材を魔石化する場所としてトリステイン魔法学院へと戻ってきた。

 

わたしたちがトリステイン魔法学院を離れていたのは、それほど長い時間ではない。それでも、魔法学院の中は緊迫感が更に増しているように思えた。

 

「ローゼマインもタバサも早かったわね」

 

「ええ、調べ物をしなければ有効な採集はできないと判断いたしましたので」

 

「シルフィードは元気?」

 

わたしが答えている間に、タバサが自らの使い魔の風竜の様子を尋ねていた。アルビオンに向かったときもシルフィードは留守番だったが、あの時と今回では環境も違う。心配は尽きないだろう。

 

「ところで、トリステインで何か新しい動きでもございましたか?」

 

キュルケの雰囲気も少し以前と違うような気がして尋ねると、キュルケが声を潜めた。

 

「アンリエッタは女子生徒も予備士官として確保しておくつもりみたいよ。男子生徒を消耗しきったら今度は女子を戦地に投入するってことね。どうやらトリステインは貴族という貴族を戦に駆り出すつもりみたいよ」

 

その話を聞いて、わたしは思わず眉をひそめた。ハルケギニアの戦では大量の平民が動員される。勝っているときならともかく、苦しくなったとき、お行儀のよくない平民たちの中に放り込まれた女子たちの身に、何も起きないと誰が保証してくれるのだろうか。特に今回のような投入の仕方の場合、女子生徒たちが戦地に向かう時は確実に戦況は厳しい状況になっているというのに。

 

ある程度の身辺調査は行われている城の厨房にも、わたしは若い女性であるエラを一人で残すようなことはしなかった。貴族は基本的に平民の感情に疎い。大量の傭兵を投入する次のアルビオン戦に若い女子を向かわせると聞いて、良い感情など持てるはずがない。

 

「近く魔法学院の生徒たちにも軍事教練が施され始めるみたいよ」

 

付け加えられた情報にもわたしはため息をついた。わたしの回りにいれば危険に巻き込まれる可能性があるため、わたしは自分の側近たちに訓練を受けさせた。けれど、これは備えあれば患いなしという話ではない。

 

「魔法学院の皆が心配ですね」

 

「これから始まる軍事教練とやらで、きちんと適正に応じた配置がされることを願うしかないわね」

 

「皆が皆、キュルケのように戦えるわけではありませんからね」

 

「そんなふうに言われると、何だか引っかかるけど、まあそうね」

 

キュルケはアンドバリの指輪で操られたウェールズと戦ったときにも、ためらうことなくアルビオン貴族を燃やしていた。女子生徒に限ったことではないが、同じことを躊躇なく行える生徒と行えない生徒がいると思う。

 

「それにしても、それらの情報は魔法学院にすでに出回っているのですか?」

 

「いいえ、まだ話は城の中にとどまっているわね。けど、ハルトムートが残しておいてくれた伝手と、ルイズにも情報を集めさせたからね。そして、あたしがオールド・オスマンに伝えたから、すでに学園内では公然の秘密ね」

 

「キュルケも随分と情報を集めるのが上手くなったのですね」

 

「ただの貴族だったあたしに、主宰した劇団からの情報の受け取りとか、トリステイン王宮内の情報の取り纏めとかを手伝わさせた誰かのおかげでね」

 

うん、わたしのせいだね。けれど、ゲルマニアの気風というのか、キュルケには元から素養はあったように見えた。

 

それに、集めた情報はフォン・ツェルプストー家の商売の拡大にも寄与しているのだから良いことではないだろうか。そもそも商売自体が貴族の本業ではないと言われたら、それまでだけど。

 

「タバサも気になるでしょうから、まずはシルフィードの様子を見ておきましょうか。その後は、わたくしが学院の外に作った建物内でトリスタニアで購入した素材の魔石化を試してみようと思いますが、せっかくですからキュルケもご覧になりますか?」

 

「ローゼマインたちが今度は何をするのか気になるから、見せてもらうわ」

 

そう答えたキュルケと一緒に白の建物に入り、そこでトリスタニアで買ってきた石英をタバサに魔石化させる。

 

「この魔石から、主属性以外の雑多な魔力を抜いていくのです。その抜いた属性の量と残された魔力量で素材の価値が決まるのです」

 

「雑多な魔力が少なくて、残された魔力が多いのが良い素材ってこと?」

 

「そういうことですね」

 

答えながらわたしは、市販の石英から雑多な魔力を抜いていく。ちなみにこの作業は自らの得意としている属性以外に対しては非常に難しいらしい。タバサもこの作業は未だに成功させられていない。

 

ハルトムートが言うには、この属性ごとに魔力を抜くという作業はユルゲンシュミットの貴族でも非常に難易度が高いらしい。言われてみれば、わたしも最初は苦戦した記憶があるし、ヴィルフリートも同じだったと思う。魔力を移動させるということ自体に慣れていないハルケギニアの貴族には、難しいというのがハルトムートの見解だ。

 

タバサの場合、目的はあくまでユレーヴェに近いものを作ることで、魔力の扱いに慣れるのは手段にすぎない。雑多な魔力の少ない素材を選べば、そもそも魔力を抜くという作業も必要がないわけで、素材の価値を知るだけならば、わたしが代わればいい。

 

「そうですね。この石英は雑多な魔力が多すぎます。これでは、とてもユレーヴェには使えませんね」

 

最初の石英は価値がかなり低かった。これはトリステイン国内で採れたものだ。次に手に取ったのは火竜山脈で産出された石英だ。

 

「こちらの石英からは土の属性を強く感じられます。トリステインの石英に比べても、だいぶ品質が良いようですね。やはり火竜山脈は土の属性がかなり高い場所であると言えると思います」

 

「次はチタンを試してみる」

 

そう言ってタバサがチタンに魔力を流し始める。けれど、なかなか魔石化しない。それでもタバサは諦めず、魔力を注ぎ続ける。

 

「そこまでです」

 

タバサの額に大粒の汗が浮かぶのを見て、わたしはタバサからチタンを取り上げた。

 

「どうして魔石化しない?」

 

「理由はわかりません。そもそもチタンは魔石化ができないのか、それとも他に理由があるのか。ひとまずわたくしも試してみましょう」

 

品質を比べるためにトリスタニアで購入していた別のチタンの鉱石を取り出して、わたしは魔力を流し始める。そうして魔力を流していく中でわかったこと。それはハルケギニアのチタンは、中に不純物を多く含んでいるということだ。

 

「このチタンには不純物が多すぎます。それが魔石化ができない原因である可能性がありますね」

 

チタンは非常に製錬が難しい金属だと聞いたことがある。だから、地球でも広く使えるようになったのは最近になってからだったはずだ。科学技術が未発達なハルケギニアでの製錬では限界があるだろう。

 

「じゃあ、チタンは諦めた方がいい?」

 

「いえ、そう決めつけてしまうのは早計です。ここは火のメイジに協力を求めましょう」

 

「わかったわ。何をすればいいの?」

 

「残念ながら、キュルケには向かないと存じます。ここはコルベール先生に協力を求めるのがよいのではないでしょうか」

 

意外な人物であったのか、キュルケが僅かに眉をひそめた。

 

「ミスタ・コルベールにお願いするの?」

 

「キュルケは何か思う所があるようですね」

 

「まあね。学院の男たちのほとんどが戦に赴くというのに、戦いにもっとも向いているはずの火の使い手で教師であるにもかかわらず、戦いが嫌いだと言って従軍を避けるのというのは、さすがにね」

 

「何か事情があるのでしょう。マティアスはコルベール先生を従軍経験があるようだと評していましたから」

 

そう言うと、タバサもわずかにだけど頷いた。どうやらタバサも薄くではあるが感じていたようだった。

 

「ともかくコルベール先生はサイトの戦闘機に使うためのガソリンを精製していましたし、今回のような金属の加工などには造詣が深いと思われます」

 

「ふうん、なら聞くだけ聞いてみましょうか」

 

未だ半信半疑なキュルケと一緒に、わたしはサイトが零式艦上戦闘機を持ち込んで以来よく籠っている、火の塔のとなりにあるコルベールの研究室に向かって歩き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。