ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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タバサとの出会いの思い出

タバサの屋敷にいるペルスランから、市販の扉や窓を多少加工すれば取り付けられることがわかったという報告を受け、あたしはタバサやローゼマインたちとオルレアン家の屋敷へと向かっていた。先のガリア行きの際には、その後に採集を行う、ある程度まとまった日程となると聞いていたので動向をしなかったけど、今日は二泊三日の旅ということであたしも同行することにしたのだ。

 

「タバサの家がどんな風になったのか少しだけ興味があったのよね」

 

魔法学院の外に作った建物は、学院の城壁に影響を与えないように完全に分離されて独立した作りになっていた。良くも悪くもゲルマニアは良いと思った物はどこの国の物でも取り入れる主義だ。だからこそローゼマインの国の錬金で作った建物に興味がある。もしも良さそうなら、ツェルプストーの城に対しても増築をしてほしいものだ。

 

ラグドリアン湖から吹く風が馬車の中を涼やかにしてくれる。穏やかな旅のひとときに、あたしとタバサが全く違うタイプなのに親しくしていることを疑問に思っていた、というローゼマインに請われて、あたしたちが仲良くなったきっかけの事件を話した。

 

それは、戦が近づいているなど嘘のような平穏な時間だった。けれど、あたしは知らないうちにそれを壊そうとしていた。本当に、単なる昔話として入学式のときに隣に座っていたタバサの本を取り上げたことを話したその瞬間、ローゼマインの雰囲気が変わった。

 

「本を取り上げたのですか?」

 

ローゼマインは笑顔のままだ。けれど、明確に怒っているとあたしにはわかった。

 

「いえ……あの、入学式中に読んでいたから、ちょっと注意するために、よ」

 

本当は勉強熱心な子供なんていうのが癪にさわったというだけなのだが、敢えて、あたしは事実を歪曲して伝えた。

 

「そうですか。それでは仕方がないですね」

 

そう言ってローゼマインは怒りを収めた。今回の対応は間違っていなかったようだ。

 

「ちなみにユルゲンシュミットでローゼマインは本にいたずらされたことがあるの?」

 

「ええ、ございます。わたくしの図書室を荒らされたことがありました」

 

「荒らされたって、どういうこと?」

 

「本棚に納められていた本が、すべて床に散らかされていたのです」

 

それだけ? という言葉を直前で飲み込めたことを、あたしは自分で褒めてあげたいと思う。なにせ、その後、ローゼマインは大変に物騒な言葉を吐き出したからだ。

 

「他にわたくしの聖典を盗まれたことがありましたが、そのときはブラッディカーニバルを開催しなければならないかと思いましたもの」

 

ブラッディカーニバル。何て危険な響きなのかしら。もしかして、あたしはとんでもないことを話し始めたのでは。

 

あたしとタバサが起こした去年のいざこざの中で本が一冊、犠牲になってしまったことは心の内にしまい込んでおこうと誓った。もしも知られてしまったら、きっとどこかに血の雨が降る気がする。

 

タバサも同じことを思っていたのか、ちらと目を向けると、こくりと小さく頷いていた。これで秘密は守られる。そう思ったのが甘かった。

 

「ところで、キュルケとタバサは何を隠しているのですか?」

 

感情を隠すのに長けるというユルゲンシュミットの貴族の顔色を読めるローゼマインに生半可な隠し事は通用しなかった。本当、こんなときに発揮してくれなくてもよいのに。

 

「いえ、そんな大したことじゃないのよ。入学直後にタバサとちょっとした喧嘩をしたときの詳しい話はお互い恥ずかしいから、あまり話さないようにしようねってだけ」

 

「……そうですか。少し違う気もしますが、今は追及はやめておきましょうか」

 

とりあえず、他人の物を取り上げるのは今後、一切やめよう。実際にタバサと一瞬即発になるところだったし、ローゼマインのように羊の皮を被った虎の尾を踏んでしまっては冗談抜きで命取りになりかねない。

 

「一番を奪うときは命がけ、そう思っていたけど、気付いたときには死んでいたんじゃ後悔しきれないものね」

 

「どうしたのですか、キュルケ? 遠い目をしていますよ」

 

あなたにとって、本当に一番大切なものじゃないでしょう。なんて言葉はローゼマインには通用しない。二番目だろうと三番目だろうと、果ては十番目だろうと、大事と思うものが対象ならば、ローゼマインは敵対してくる気がする。

 

「ローゼマインなら、邪魔な相手を除くのに絶対に決闘なんてしないでしょう?」

 

「そうですね。そのような目立つ手を取らずに密かに除くでしょうね」

 

うん、ローゼマインはそういうタイプだと思う。気付いたときには退学くらいならば良い方で、下手したら毒を飲まされているかもしれない。ルイズやタバサのために労を負ってくれる優しい面がある一方、ローゼマインは興味がないことには冷淡な一面もあるのだ。

 

「ローゼマインがどのような教育を受けてきたのかが心配になるわ」

 

「わたくしの師がディッターの魔王と呼ばれていた方で、悪辣な手段に自然と慣らされてしまいましたので」

 

あたしの心配は斜め上の返答で打ち切られてしまった。これは王族であるローゼマインの環境が特殊なのか、それともユルゲンシュミットが全体的にそのような価値観なのだろうか。少なくとも、そんなことに慣れたくはない。

 

そんな道中での一件はありつつも無事にオルレアン家に到着した。あたしは早速、建て増しをしたという屋敷の裏側に回る。

 

「へえ、ちゃんとほとんど隙間なく作れているのね」

 

「さすがにぴったりとまではいきませんが、不自由を感じるほどではないでしょう?」

 

完全に接した状態にすると、元の建物に影響を与える可能性があるため、拳一つぶんほどは空間を空けることにしたのだと言う。

 

「シャルロットさま、ツェルプストーさまにローゼマインさまも。お待ちしておりました。建物の中をご案内させていただきます」

 

そこで別棟の中で待っていたらしいペルスランが中から出てきて、あたしたちの案内をしてくれる。

 

「一階は小ホールと食堂と会議室となっております。二階にハルトムートさま、マティアスさま、ラウレンツさま、ローデリヒさまのお部屋がございます。あとは繋がってはいませんがシャルロットさまのお部屋もございます」

 

「わたくしを含めると男女比は同じなのですが、わたくしの部屋が皆と同じ広さというわけにはまいりませんので、どうしても男女で完全に階を分けることは難しいのです。それに、元からタバサのお母様のお部屋が二階にございましたので、その向かいをタバサのお部屋にしようと思えば、このようになってしまうのです」

 

「それじゃ、三階がローゼマインと、クラリッサ、リーゼレータとグレーティアの部屋というわけね」

 

あたしの部屋が増築した部分にないことは、訪問前に聞いている。タバサは少し申し訳なさそうにしていたが、長期滞在の予定のないあたしのために別棟の中に一室を用意させるほど、あたしは非常識ではない。あたしは元からある建物の部屋で十分だ。

 

「ローゼマインたちは今から部屋を整えなくちゃいけないんでしょ。あたしはタバサの部屋に行っているから、ここでいいわよ」

 

「タバサ、キュルケの案内はお願いしてよいですか」

 

タバサが頷いたのを見てローゼマインたちは部屋の方に向かっていく。ローゼマインの部屋には侵入者を防ぐために色々と細工をすると言っていた。側近たちの部屋にも大なり小なりあっても、何かしら仕掛けるのだろう。

 

用心深いローゼマインたちはその内容をあたしたちにも秘密にしている。それどころか、普段は部屋に入らない男性の側近たちも、ローゼマインの部屋の詳しい状態は知らないということだった。

 

ローゼマインたちと別れたあたしは、タバサの案内の元、部屋に入った。そしてタバサの隠し部屋というものに入れてもらった。

 

「これ、どうなっているのかしらね」

 

「わからない」

 

ただの壁の中に、ありえないほどの大きさの部屋が広がり、更に窓まであって光が差し込んでいる光景は、はっきり言って非常識だった。そのため部屋の中でタバサと二人、首をひねることになった。

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