ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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側近との相談

部屋に側近全員を入れたわたしは、範囲指定の盗聴防止の魔術具を使った。ハルケギニアに対する情報交換は、やはりこの世界の人がいない方がやりやすい。

 

「まずは最初に少しだけ説明しましたが、改めて確認をしておきます。ここはハルケギニアと呼ばれる場所にあるトリステインという国の魔術学院という場所です。ハルケギニアには他に複数の国があって、トリステインは比較的小さな国のようですね」

 

「小領地ということでしょうか?」

 

聞いてきたのは文官であるローデリヒだ。

 

「いいえ、トリステインはツェントの治める地で、ただ他国との交流が活発であることと、他国の方が強大だということがユルゲンシュミットとの違いですね。うーん、そう考えるとローデリヒの小領地という表現も、あながち間違いではないのかもしれません」

 

ユルゲンシュミット自体が今はランツェナーヴェとしか取引をしていないこともあり、わたしの側近たちは誰も外国に行ったことはおろか、外国人と会ったこともない。それだけに外国との比較は理解がしにくいだろう。

 

「そして、ここはトリステインの貴族院に相当する場所なのですが、全ての貴族が通っているわけではないようですね。より深く魔術を学びたい者だけが通っていて、しかも他国の貴族にも門戸が開かれているようです。わたくしを召喚したキュルケという生徒も隣国の出身だと言っていました」

 

「あの女ですね」

 

露出の多いキュルケはどうしてもユルゲンシュミットの貴族からは嫌悪感を持たれてしまうようでハルトムートの表情は険しい。それはマティアスやラウレンツ、クラリッサなどについても同様だ。キュルケには悪いけれど、安全のためにも、しばらくの間は服装についてはもう少し大人しい雰囲気に変えてもらった方がいいかもしれない。

 

「まずはリーゼレータ、この国、ハルケギニアについて感じたことを説明してくださいませ。わたくしより情報収集をしてくれたリーゼレータの方が、文化や風習の違いを感じたことが多いでしょう?」

 

「この学園の女性たちが纏っている衣装は学院生のお仕着せのようなものということです。わたくしたちにはそのように見えませんけど、この国の者にとってはあれでも貴族にふさわしい服装なのだそうです」

 

わたしに促されたリーゼレータが最初に挙げたのは、服装の違いだった。わたしの記憶を覗いたフェルディナンドもそうだったけど、ユルゲンシュミットの貴族にとっては露出の多い服装はどうあっても奇異に映るようだ。

 

「また、殿方の衣装についてもわたくしたちには平民が着る物に見えますが、あれも貴族にふさわしい衣装の範囲に入るようです。その原因についてですが、驚くべきことに、この国では側仕えがいないようなのです」

 

マティアスやラウレンツは騎士として働きだせば一時的に側仕えがいない状態になることもあるだろう。けれど、国全体に側仕えがいないという状態は想像もできないはずだ。

 

「全く同じではないですけど、神殿の孤児院を思い浮かべると近いかもしれませんね。この国では貴族も、基本的には自分の身の回りは自分で整えるようです。貴族の服装が平民の物に近く見えるのも一人で着脱できるようボタンが前に付けられているからでしょう」

 

わたしとしては自分一人で着られる服というのは、むしろ普通だ。誰かの手を借りる必要のある貴族の服の方が特別という印象だけど、生粋のユルゲンシュミット貴族にとってはそうではないだろう。

 

「他に側仕えがいないのでは、リーゼレータは大変ではなかったですか?」

 

グレーティアが心配そうに聞いたが、リーゼレータは緩やかに首を振った。

 

「仮にこの国に側仕えがいたとして、ローゼマイン様のお世話を任せるわけにはいかないでしょう?」

 

リーゼレータの言葉にハルトムートは当然だと言うように頷いていた。ハルトムートのわたし優先の姿勢が嬉しくも重い。ちなみにわたしの身を守らなければならない護衛騎士のマティアスとラウレンツも同意見のようだ。

 

この分ではわたしの世話はリーゼレータとグレーティアだけでやってもらうしかなさそうだ。それなら、せめて不寝番だけは今後も免除の方向で調整しなければ。そして、側仕えが二人だけなので、やはり側近の皆の生活が心配だ。

 

「リーゼレータに加えてグレーティアが来てくれたので、わたくしの生活は不自由がなくなりますが、問題は皆の側仕えがいないことです。早急に平民の下働きから見所がありそうな者を抜擢して教育することになりますが、どうしてもしばらくの間、不自由をさせてしまいます。辛抱してくださいませ」

 

「ローゼマイン様のお側にいられるのなら、少しの不自由など問題になりません」

 

ハルトムートはそう言うが、日常の小さな不満は気づかないうちに積もっていくものだ。ハルトムートの言葉に甘えず、なるべく早く対策は練る必要があるだろう。

 

「ありがとう存じます、ハルトムート。けれど、リーゼレータとグレーティアは通常の側仕えの仕事に加えて、全く教育のされていない平民に仕事を教えることになります。大変なお仕事になりますが、皆のために頑張ってくださいませ」

 

「お任せください」

 

リーゼレータもグレーティアも、今までに指導したことがあるのは側仕えを目指す貴族の子女だけだ。接したことのある平民も、よく教育された神殿の灰色神官や巫女たちであるので、この世界の平民を指導できるのか不安だが、やってもらうしかない。

 

ひとまず最初のうちは、神殿で経験しているからという名目でわたしも近くで見るようにした方がいいかな。そうでないと、能力主義者と聞いているハルトムートがこちらの平民を潰してしまいそうで怖い。

 

「ところでローゼマイン様、学院長にオルドナンツを譲っていましたが、それについてはよろしいのですか? あれで味を占めてもっと便利な魔術具はないのかと要求されることはございませんか?」

 

「ええ、ある程度、便利な魔術具でないとわたくしたちの価値を高く見せられませんから。便利な魔術具を要求される可能性はありますが、わたくしはその可能性を見越してほとんど魔術具を見せていませんので、今のところ危険は低いでしょう」

 

オルドナンツはわたしたちには貴重な魔術具ではない。けれど、どの階級の貴族も使用する便利な魔術具だ。他の魔術具を売れと言われれば困るけれど、オルドナンツだけならば、側近たちも持っているため、あと三個くらいまでなら売っても問題ない。

 

ちなみにオルドナンツでユルゲンシュミットに連絡を取るという方法は来た初日に当然、試してみた。結果としては飛び立たなかったが、境界すら越えられないオルドナンツが国境を越えられるとは思えなかったので、わたしだけでなくリーゼレータもさほど落胆した様子はなかった。

 

「さて、重要なこれからのことについてお話をしておきましょう。言うまでもなく、わたくしたちが目指すのはユルゲンシュミットへの帰還です。そのためにはサモン・サーヴァントという魔術の研究をせねばなりません」

 

「ローゼマイン様、サモン・サーヴァントという魔術は一人につき一度だけしか使えないと聞いています。わたくしはまだ使用しておりませんので、わたくしもその魔術を使ってみましょうか? 研究の役に立つと思われますし、ひょっとしたら、お姉様をお呼びできるかもしれません。今は女性の護衛騎士がおりませんのでローゼマイン様のためにもなるかと存じます」

 

「リーゼレータ、ユルゲンシュミットへの帰還はもちろん目指しますが、最後まで開発ができないという事態も想定はしておかなければなりません。リーゼレータの気持ちは嬉しいですが、わたくしはそのような場所に、これ以上誰かを呼ぶつもりはありません。他の皆についてもサモン・サーヴァントを使うことは禁止いたします」

 

アンゲリカがいてくれれば頼もしいのは確かだが、これ以上、誰かの人生を狂わせるつもりはない。特にわたしのためならば手段を選ばないハルトムートを見ながら念を押す。場合によっては名で縛ってでも禁じるというわたしの思いは伝わったらしく、ハルトムートは残念そうにだが、頷いてくれた。

 

「では、どのようにして研究を進めるつもりですか?」

 

「こちらにも図書館があるようですから、ひとまずはそこでこの国の文字を学ぶところから始めるしかありませんね」

 

けして図書館に通えることを喜んでいるわけではない。心配しなくてもフェルディナンドの命がかかっているのだから、わたしにユルゲンシュミットへの早期帰還以外の選択肢はない。それなのに、わたしを見る皆の目がどこか疑わしげなのはどうしてだろうか。

 

本が絡んだときの信用のなさに、わたしは心の中で過去の自分に悪態をついてみた。




アンゲリカ召喚も考えてみましたが、ローゼマインが帰還の目途もない状況で故意に側近たちを呼び寄せるとは思えなかったので、見合わせに。

側近たちは当面、名捧げ組+リーゼレータで進めます。
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