ハルケギニアの商人聖女   作:孤藤海

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ミョズニトニルンの捕縛

スレイプニィルの舞踏会が行われる虚無の曜日になった。スレイプニィルの舞踏会とは、三年生の卒業とともに入ってきた新入生を歓迎するために行われるイベントだ。

 

スレイプニィルの舞踏会はただの舞踏会ではない。真実の鏡というマジックアイテムを使用して仮装して行う舞踏会なのだ。真実の鏡は、その人が一番憧れている姿になることができる。

 

全員が姿を変えて参加するため、舞踏会中はミョズニトニルンにもルイズを特定することができないはずだ。けれど、ミョズニトニルンはあらゆるマジックアイテムを使用することができると言っていたらしい。おそらく、ルイズを見破る術を持っているのだろう。

 

いずれにせよ、あたしたちは舞踏会の会場であるホールに入る前にけりをつけるつもりでいる。事前に学園長であるオスマンに連絡を取って、全学院生が用いることになる真実の鏡に向かう列の間隔を普段より長めにしてもらった。そして、その真実の鏡を覆うための黒いカーテンの外に、ローゼマインの風の盾が張られている。

 

ちなみにルイズは一番最初に真実の鏡を使ってホールに入ってもらうことになっている。ミョズニトニルンが先に会場に入ってしまうことを防ぐためだ。

 

最初に真実の鏡を覆うカーテンの中に入ったルイズは、桃髪の優しそうな二十三、四歳の女性の姿で出てきた。そこにすかさずローゼマインが近づいて言った。

 

「ルイズ、その姿ではルイズを連想できてしまいます。別の姿にしてくださいませ」

 

わけがわからないという顔をしたルイズに、ローゼマインがミョズニトニルンによる襲撃が予想されること。そのために罠を張っていることを伝えた。

 

「ちょっと、どうしてそんな大事なことを隠していたのよ!」

 

「ルイズは嘘があまり得意ではないでしょう? 自然に振る舞ってもらうためには、その方がよいと思ったのです」

 

そう言ってローゼマインはミョズニトニルンを捕らえるまで自分の側にいるように言う。ローゼマインの風の盾で守るためには、中にいてもらう必要がある。その風の盾は、大きければ大きいほど精神力を多く消費してしまうらしい。

 

「それじゃ、舞踏会に出られないじゃない」

 

「先ほども申し上げた通り、命の危険にあるのですよ。そのようなことを言っている場合ではないでしょう?」

 

「それはそうだけど……」

 

「ともかく、その姿ではルイズを連想されてしまいます。そうですね……サイトには容易に伝えられた方がいいですから……シュヴルーズ先生の姿になってもらいましょうか」

 

「なんで先生の姿にならなくちゃいけないのよ」

 

教師としてはともかく、シュヴルーズの容姿はお世辞にも優れていない。あの姿になれと言われれば抵抗感はあるだろう。

 

「シュヴルーズ先生の姿ならサイトにも説明がしやすいですし、先生がいても、他の生徒たちから疑問に思われないでしょう?」

 

「サイトには、わたしがシュヴルーズ先生の姿をしているって言うのね?」

 

「ええ、サイトにも協力をお願いするつもりですので」

 

「なら、いいわ」

 

そう言って、改めてシュヴルーズの姿に変わったルイズは真実の鏡を覆うカーテンの外に立ち、生徒たちを案内する役を担う。

 

「夜の貴婦人が、あなたたちを幻想の世界へと案内しますよ」

 

ルイズはそう言って、中に生徒たちを案内していく。そうして二人ほどが変身を終えた後、サイトがやってきた。サイトはシュヴルーズに化けたルイズをじっと見つめた後、緊張した様子でカーテンの中に入っていったので、おそらく事情を知っているのだろう。

 

カーテンの中に入ったサイトはギトーの姿で出てきた。そうして入口近くに立った。元から陰気で人気がないので生徒に話しかけられる可能性は少ない。ギトーは黙って立っているには最高の人選だろう。

 

あたしも学園の教師の一人に姿を変え、上の階でホール内の学生の様子を見守るふりをしながら、その時を待つ。ちなみにタバサは少し美人だが、自分の理想の姿に変わった皆の中では埋没する容姿となって、あたしと同じ階、階段を挟んで逆側で待機中だ。

 

その他、カーテンの裏側にいるローゼマインの両側をマティアスとクラリッサが護衛として固め、ティファニアもその少し後ろにいる。ラウレンツは衛兵に化けて建物の出入口の付近にいる。ハルトムートは使用人に化け、生徒たちの案内をしている。

 

そうしてしばらく経って、生徒のほとんどがホールに入ったころ、ついにフードを目深にかぶった怪しい人影がホールの入口に現れた。フードの隙間からは長い黒髪が覗いている。どうやら女性である、その姿を見たルイズが顔を引きつらせた。ルイズの様子を見た瞬間、ラウレンツが出入口を塞ぐように立った。

 

女がカーテンの側に立つルイズに近づき、その体がローゼマインの風の盾に触れた。その次の瞬間、強風が吹いて女は吹き飛ばされる。

 

「シェフィールド!」

 

上階からタバサが叫ぶ。周囲には無数の氷の矢が浮かんでいる。

 

タバサのウインディ・アイシクルに備えるように、ミョズニトニルンが小型の人形を素早く取り出した。何が起こるかわからない以上、あれを使わせたくはない。

 

「こっちにもいるわよ」

 

叫びながら、杖の先に炎の球を発生させる。けれど、あたしとタバサは囮だ。本命は下。ミョズニトニルンが体を起こそうとしている床に敷かれている絨毯の端に、ハルトムートが掌を押し当てた。

 

建物の出入口から真実の鏡が置かれている場所まで続く絨毯に、複雑な文様の魔法陣が浮かび上がる。上に注意を向けたミョズニトニルンが異変に気付いたときには、すでに魔法陣は強い光を放っている。次の瞬間、爆発が起こり、辺りは煙に包まれた。その煙をタバサが風の魔法で払う。

 

煙が晴れた場所に倒れていたのは、煤に塗れてもなお美しいと思える、黒髪の女だった。周囲には魔法で破壊された人形の破片も散らばっている。倒れたままのミョズニトニルンをハルトムートがシュタープを紐状に変えて縛り上げた。

 

「なあ、俺、何にもしてないんだけど」

 

「サイト、其方が何もしなくてもよいように私たちは作戦を練っていたのだ。それに、それを言うのなら、私も何もしていないことになるが?」

 

「じゃあ、ラウレンツは物足りなくないのか?」

 

「私はローゼマイン様にお怪我なく終わることができて嬉しく思っている」

 

「それは俺も同じだけどよ……」

 

サイトがラウレンツと話している間に、改めてローゼマインがシェフィールドを縛り直して、待たせていたティファニアを呼んだ。

 

「ナウシド・イサ・エイワーズ……」

 

聞いたことのないルーンがティファニアの唇から紡がれていく。そして長い呪文が完成して杖が振り下ろされると、ミョズニトニルンの体から力が抜けた。

 

「尋問は私が行います。ローゼマイン様はお下がりください」

 

そう言ってハルトムートはローゼマインを下がらせた。

 

「さて、では、まずは其方の主人の名を教えてもらいましょう」

 

「わたしの主人の名はジョゼフ」

 

「それはガリア王のジョゼフで相違ありませんね?」

 

ハルトムートの問いに、ミョズニトニルンが頷く。やはり、ジョゼフが三人目の虚無の担い手だったようだ。それを聞いたタバサの顔が少し強張った。その後もハルトムートは質問を重ねたが、あまり良い結果は得られなかった。

 

ジョゼフの目的については、ミョズニトニルンも知らなかった。伝説では神の頭脳などと呼ばれていたが、実際はジョゼフに言われたままに動く駒に過ぎなかった。何も知らないだけならまだしも、目的などはろくに尋ねてすらいないという有様だった。

 

今日、ルイズを狙った理由もジョゼフに言われたから。はっきり言って、これでは尋問を続けたところで無意味だ。

 

「仕方がありません。ティファニア様、今度は完全にミョズニトニルンの記憶を消していただけますか。記憶を取り戻せば、皆が危険になりますので、直近の記憶は特に念入りに消しておいていただきたい」

 

ハルトムートに促され、再びティファニアがルーンを唱えた。まずはミョズニトニルであるという記憶を消され、その後は更にジョゼフから召喚されてからの全ての記憶を消去された。そうしてほとんどの記憶を消された女は、ハルトムートとマティアスによって外へと連れ出されていった。

 

後に聞いた話では、すべての記憶を失った彼女は城の牢で窃盗による一般の囚人として暮らしているという話だった。以後の彼女のことは、あたしも知らない。




ミョズニトニルンはこれで退場。
ジョゼフはミョズニトニルンを欠いた状態で以後の戦いに臨むことになります。
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