無事にシェフィールドを捕らえたわたしたちは、すぐにタバサの母を救出するための準備を始めた。今回は戦闘になる可能性が高いため、同行する側近はマティアスとラウレンツに加えてハルトムートとクラリッサの四名だけだ。それにキュルケとタバサを加えた計七名でガリアに向かうつもりだった。けれど、出立の準備中のわたしたちにルイズが近づいてきて、言った。
「タバサのお母さまを助けに行くって聞いたわ。それは本当なの?」
「ええ、その通りです。タバサはガリアを裏切りましたので、家族に危害が加えられる可能性がございますから」
「なら、わたしたちも一緒に行くわ。タバサはわたしを助けるために祖国を裏切ってくれたのだもの」
確かにタバサがガリアを裏切ったのは、ルイズのためとも言える。それに戦力として考えてもルイズの虚無と平賀のガンダールヴの力は侮れないものがある。
「わかりました。ルイズの協力に感謝いたします。タバサもそれでよいですね?」
タバサが頷いたことでルイズの同行が確定した。けれど、それで終わりではなかった。
「僕を忘れないでもらおうか!」
ここにいるのは実態を知っている者ばかりなのにも関わらず、格好をつけながら現れたのはギーシュだった。
「ギーシュ様は何度か旅をともにしたとはいえ、タバサとの縁はそれほど深くないと存じます。わたくしたちはガリア王家を敵に回すのですから、軽々しく参加はなされない方がよろしいですよ」
「ぼくは水精霊騎士隊の隊長だ。副隊長につきあうのも仕事のうちだ。それに、副隊長であるサイトが困っている女の子を助けに行くと言っているときに、隊長である僕が待っているだけなんて、格好悪いじゃないか!」
はっきり言って、ギーシュは戦力としては期待できない。そう思って遠慮してもらうつもりだったのだけど、思った以上に積極的だ。さて、どう言って参加を思い留まらせたらよいだろうか。そう考えているときだった。
「ぼくも一緒に行く!」
そう言いながら現れたのは、マリコルヌという名前の小太りの生徒だった。同じクラスなので辛うじて名前はわかるけれど、わたしはこれまで交流がなかった生徒だ。
「ぼくは勇気を身につけたいんだ」
とりあえず、そんなことを言い出したということは、戦闘力は高くないに違いない。それならば、はっきり言って足手まといになるだけだろう。
「わたしも行くわ。治療する人が必要でしょ」
けれど、マリコルヌに断る前に、そう言って現れたのは、こちらもわたしはあまり話したことがないモンモランシーという名前の、同じクラスの女子生徒だ。正直に言えば、治癒はわたしがいれば事足りるので、モンモランシーの同行はまったく必要ない。
とはいえ、ここで押し問答をしているうちに更に希望者が増えるようなことになれば最悪だ。三人くらいなら増えてもそれほど影響ないだろうから、今のうちに幕引きとしたほうがよさそうだ。
「お話はわかりました。ひとまず、作戦をお伝えしますので、わたくしの離れへと移動をいたしましょう」
そう伝えて、三人と一緒に離れへと戻った。
「もう一度、伝えさせていただきますが、今回の行動はガリア王家を敵に回すことになる可能性が高いです。元より他国の人間であるわたくしたちはともかく、トリステインの皆様には非常にリスクが高い行動となります。或いはわたくしたちの行動はガリアとの戦争の引き金となってしまい、国から追討をされる可能性もあると考えています。皆様はそれでも、わたくしたちと一緒に来るつもりですか?」
「アルビオンでルイズの命を狙ったのも、ガリアなんだろ? そして、今日もローゼマインたちが対応をしなければ、どうなったかわからない。何度もルイズを狙って、タバサまで苦しめようとしているなんて許せない」
わたしに折角の言葉に答えたのは、わたしの言葉の対象ではない平賀だった。
「サイト、わたくしの言葉はルイズとサイトに向けたものではないのですよ。お二人は元からガリアから敵視されていますし、トリステインも簡単にお二人を引き渡したりすることはできないでしょう? けれど、ギーシュ、マリコルヌ、モンモランシーの三人はお二人と同じとはいかないのです」
ルイズと平賀は虚無の担い手とアルビオンの英雄にしてガンダールヴだ。他の三人とは事情が異なる。わたしが飲み込んだ言葉が伝わったのか、平賀が押し黙った。
「さて、同じことをしてもルイズとサイトと皆さんでは異なる罪に問われる可能性があることを理解した上で、なおわたくしたちと一緒に来ますか? ちなみに、わたくしの側近の中でも側仕えの二人と戦闘に長けていないローデリヒはこちらに残って後方支援に当たります。わたくしはトリステインの人間が少ないという、わたくしたちの弱みを補うという意味でも、皆様には支援に回っていただきたいと思っています」
「わかったわ。それなら、わたしは支援に回らせてもらうわ」
最初に口を開いたのはモンモランシーだった。彼女は自分の戦闘力が高くないこと、わたしも治癒の魔法を使えることから、自分の価値が高くないと冷静に判断したようだ。
「ぼくは一緒に連れていってほしい。ここで理由をつけて引いてしまっては、一生、臆病なままな気がするから」
一方、マリコルヌはそう言って同行を希望した。
「それならば騎士隊長であるぼくと、マリコルヌはタバサと一緒に行き、モンモランシーは魔法学院に残る。これでいいかい?」
そう言ってギーシュが纏めにかかる。本当はギーシュとマリコルヌも後方支援という名の居残り役でいてほしかったが仕方がない。
「それで、具体的にはどうやってガリアに乗り込むの?」
「普通に馬車で向かいますよ」
わたしが言うと、質問者のルイズが驚いた顔をした。
「そんな方法で大丈夫なの?」
「大丈夫かと言われても、わたくしたちの移動手段は馬車か騎獣しかないのです。少なくとも最初にガリア領内に入るときは穏当な手段がよいので馬車となりますし、その後も最善は密かにタバサの家族を連れ出すことですから。騎獣は敵と遭遇してから使用することになります」
最善なのはタバサの裏切りにガリア王家が気付いておらず、まだ何の措置も取られていないということ。もしくは隠し部屋の存在に気付かずに、すでに逃げられたと思って引き揚げている場合だ。この場合は戦闘が避けられる。
けれど、直前まで人がいた痕跡は消しようがない。まだ屋敷内のどこかに隠れていると考えて徹底的に捜索をされている可能性のほうが高いだろう。わたしがそう予測していることを伝えると、改めてギーシュとマリコルヌが緊張した表情になった。
「ちなみにですが、わたくしの予測どおりに戦闘となった場合、帰りは国境を突破することになります」
「そんなことをして大丈夫なのかい?」
「大丈夫ではありませんよ。ですので、その場合はわたくしたちはアルビオンに逃亡することを考えています」
ギーシュに答えると、皆が唖然とした表情になった。
「どうしてアルビオンなの?」
「わたくしたち、アルビオンにちょっとした伝手がございまして」
「いつの間にそんなものを……って、もしかして……」
ルイズの頭に浮かんだ相手は、おそらく正しい。わたしが言った伝手とは、元は土くれのフーケと名乗っていたマチルダのことだからだ。
彼女は今でも逃亡生活を続けているらしい。彼女とわたしたちが連絡を取り合っていることは、おそらくガリアも知らないだろう。ティファニアと一緒に転がり込むのならば拒絶されることもないだろうし、今の時点では一番の避難場所だと思っている。
「さて、下手をすれば逃亡生活を送らなければならないほど、今回の出陣は危険です。お二人は、本当にわたくしたちに同行されるおつもりですか?」
わたしとしては目一杯脅したつもりだけど、結局ギーシュもマリコルヌも同行をやめるとは言いださなかった。そのため絶対にわたしの側近たちよりは前に出ないことを言い含めて、皆で出立をすることになった。
ようやく、ほぼ初登場のマリコルヌ。