この不審な青年に疾走を! 作:トキワ
いつも通り俺を先頭にして進んでいくと、小さな広場にたどり着いた。
辺りにはあの呼吸音が響き渡り、その騒音から少し離れた所で緑色の肌をした人型が三体動いている。
「ははぁ…さっきの足音の主はここに合流した訳ね…」
「ゴブリンじゃん。殺そうぜ」
物騒な奴は置いておいて冷静に思考を深めていく。
タケノコが寝たまま地中にいる以上、あのゴブリン達は大きな音をたてていないことになる。
わざわざそんな場所を居住地に選ぶのは何故だろうか。護衛か非常食かそれとも他に理由があるのか…
「30m先にタケノコの群生を発見。とても美味しそうであります」
「食べないでね?」
報告漫才を聞いているうちになんだか馬鹿らしくなってきた。
できるだけ音を抑えればタケノコには届かないだろうし、先にゴブリンを始末してしまうのが最善だろう。
「先にゴブリンを片付ける。できるだけ音はたてないようにしろよ」
「ならば殺戮の限りを尽くそう」
「血走ってますねえ」
各々が得物を取り出して準備し始める。自分もダガーを握り直した。
「しかし人型を斬るのは初めてだな。緊張してきたよ」
「人間とモンスターは違うんだから殺しても問題ない」
そう口にしたあにゃの目に迷いはなかった。
流石は現地人と言ったところか。彼女達からすれば、カタチが似ている程度で迷うのもおかしな話なのだろう。
元々大して気にしていなかったが、さらにどうでもよくなってきた。
「なるほどね。じゃあ、走ってくるよ」
【助走】の効果でトップスピードで駆け出し、目標に向かって一直線に進んでいく。正面以外の景色が歪み、身が切った風が奮え讃える。
──ああ、最高に気分がいい。俺は今一番速いし、コイツを殺せばもっともっと速くなれる。
「ふっ…!」
一際体格が大きく、防具に身を固めた推定リーダーに全力の一突きを放つ。間髪入れずに【毒Ⅲ】を発動し、これまた素早く距離を取る。
突然の奇襲にもあまり動じていないゴブリンリーダーは、しかし明らかに動きが鈍かった。
「毒だ。精々楽しめよ」
言葉が伝わったかは分からない。だが彼の憤怒の表情を見れば何を思っているかなど丸わかりだった。
「うわ、えぐ…」
「聞こえてんぞ」
配下のゴブリンに斬りかかりながら呟くユウキ。
感知能力が高い俺には当然聞こえているのだが。
「死ね!」
奥にはシンプルな暴言を吐きながら【ライトニング】を放つあにゃが見えた。
後は俺が大将を引き釣りつつ戦えば簡単に勝てそうだ。
のろのろと追いかけてくるゴブリンリーダーを尻目にもう一匹のゴブリンを斬りつけ、【毒Ⅲ】を注入する。
呆然としていたので漬け込んで一撃を入れたが、流石に怒ってこちらに向かってきた。
「やっぱり毒は強いな…こうしている間にもダメージを与えられる…」
入れたのはお互い一撃なのに、体力の多そうなゴブリンリーダーの方がへばっている。
ヒットアンドアウェイ作戦は大成功のようだ。
「終わったぞ」
二人が担当していたゴブリンはもう息絶えたらしい。合図を送ってモンスター達を誘導していく。
「おーけー。死に絶えろ雑種」
あにゃの手が光り輝き、一筋の雷光がゴブリンリーダーの背を貫く。
何度見ても圧倒的な威力だ。それに加えてそこまで音もたてないので使いやすいことこの上ない。
「ナイスだあにゃ。これ「トキワさん!」
…あ、やべえ。まだ倒れてなかっ──
「ってえなあクソがよぉ!」
激痛。ゴブリンリーダーの
脱臼した時もここまでは痛くなかった。本当にムカつくしお返しもしたい所だがここは追撃を避けるのが賢明だ。
「油断しないでくださいよ!」
ユウキが背後を斬りつけた後、ゴブリンリーダーは苦しみもがいて死んでいった。毒が回りきったのだろう。
下敷きにしたもう一匹のゴブリン同様苦悶の表情で事切れている。
「はあ…はあ…ざまあみろ…」
「ざまあみろが一番似合いますね」
近寄ってきたユウキに煽られる。こいつは大人しいのか大人しくないのかわからなくなってきた。
「うっさい…減給な…」
「帰ったら治療しますよーもぉー」
軽口を叩き合っているとあにゃが歩み寄ってきた。その手には既にゴブリンの所持品のうちの換金できそうな物が握られている。
「あの死体にライトニングを撃ち込む愉悦に浸って宜しくて?」
「魔力の無駄だ…却下」
「嫌だよ。臭いし」
案の定ろくな事を言わなかったので二人で釘を刺す。これ以上の面倒ごとは背負いたくなかった。
「さあ…メインディッシュだ。タケノコ掘るよ…」
痛みが引いてきたので目的地を目指す。
そこにはちょうど3つのタケノコがあった。
誰が言うでなく一人一人がそれぞれのタケノコの前に立ち、無言で掘り進めていく。
背負っていたスコップで外周部を慎重に削りつつ、穴を作り出していく。
タケノコは底部で伸びた竹の地下茎に繋がっており、それをこの専用スコップで断ち切ると深い睡眠状態にした上で収穫できるのだ。
できるだけ静かに傷をつけないように起こさないように、と気をつけることが多すぎて神経がやられる。
あにゃですら黙って仕事をしているのだ。俺が真面目にやらないのはありえないのだが…しかし肩を庇いながらの作業はかなり辛い。
ようやく掘り終えた頃にはユウキは座って休憩していた。随分と待たせてしまったようだ。
「すまん、待たせた。あにゃは?」
「大きいタケノコを掘っていますからね。時間がかかるんじゃないですか?」
ヒソヒソと小声で話す。
一番手先の器用なあにゃはその分難易度の高い大きなタケノコを担当していた。それが自分の技量への自負なのかただ単に大きいのが面白そうだと思ったからなのかは分からないが。
どちらにせよ俺達は彼女を信用する他にない。
「あっやべ」
えっ。
声に目を向けるとあにゃが苦虫を噛んだ様な顔をしていた。
手元を見るとゆっくりと、しかし確実にタケノコの目が開かれていく。
その目は怒りに燃えており、仲間を収穫した事への復讐を考えている事は想像に難くなかった。
「なんだその目は。怒りか?復讐か?雑種にしてはいい目だ。殺してやろう」
なんで挑発してんだこいつ。
「やべっ」
当然大型のタケノコがあにゃに飛びかかる。その苛烈さ、捨て身さからは、自己の保身を考えない圧倒的な殺意が伺えた。
「馬鹿っ!」
走り出したユウキが間に入る。盾でしっかりと受け止めたがしかし、
「…死んじゃった?」
「…みたいだな。自爆特攻か…」
その身に余る威力を発揮した為か、あとには皮の一枚すら残されてはいなかった。
しかしその身を賭した攻撃は戦士であるユウキにそこそこの手傷を負わせた。
「お終いかな…皆お疲れ様」
「うぃ〜」
辺りを偵察し、もうタケノコもゴブリンも残っていない事を確認した。
ついでに見つけた薬草も皆で収穫しておく。ゴブリンがここを根城にした理由はきっとこれだろう。
「しかし撃ちたりないなー。まだ三発しか撃ってないんだよなあ」
「ライトニングか?帰ってから訓練所で撃てばいいだろ…」
こいつは口だけではなく本当に破壊を楽しんでいる節がある。優秀なので目を瞑るが、誰かが制御しないと大惨事になるだろう。
「ん〜…今撃つか!」
!?
「ばっかお前!お前ここ私有地だぞお前!山火事になったらどうすんだ!」
「うるせえ!我は今撃ちたいんだ!」
今この山にいるのは俺達しかいない!山火事になったら犯人なのは確定だから借金地獄に落ちてしまう!
「ちょーっと黙ろうねー」
ユウキが素早く後ろから押さえ込む。正気のなさではこいつも大概であるが、理性的な判断ができるだけまだマシだ。
「ふはははは!貴様如きに捕まるほどマヌケではないわ!」
「あっ!」
しかしあっさりと抜けられてしまう。弓取りである以上彼女も力は強い。もっとガッチリ抑えるべきだったのだろう。
…だが。
「鉄拳ッ!制裁だッ!」
渾身の右ストレートがあにゃの腹に突き刺さる。
このPTで一番非力な俺ではあるが、一時的に黙らせるには充分だった。
「、、、、、、帰りましょうか!」
「そうだな!」
俺とユウキは少しだけ満足した。これで完璧なクエストクリアだ!
TIPS
11:タケノコの特攻【爆殺四散】は22ダメージがでた。ユウキが庇わなければあにゃは瀕死だった