この不審な青年に疾走を!   作:トキワ

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幕間

 

 

 

 

「家…欲しくないですか?」

 

 

 

 いつも通りギルド奥の指定席でダラダラとしていた時、散歩から帰ってきたユウキが唐突に切り出した。

 

 

「なんだよ急に…宿があるし必要ないんじゃないか?一応俺ら冒険者だろ」

 

 

 安定した仕事の供給がない冒険者は、需要を求めて街と街を頻繁に移動する。

 もちろん横の繋がりが大事な職業であるが故にホームは必ずあるものだが、それでも遠征に何ヶ月と開けることもある。

 それにそもそも俺達は駆け出しでここは駆け出しの街だ。将来的に使わなくなるかもしれない家を買うのは損ではないだろうか?

 

 

この辺り(この世界)はとても降雪量が多いそうですよ。そして冬の間は反比例して依頼が少ないらしいです」

 

「マジか…んでもまあ、貯金しとけばなんとかなるんじゃないか?」

 

「冬は皆が泊まるから値上がりするんだとか。個人部屋は予約でだいたい埋まってるらしいですし…」

 

 

 …え。じゃあ何か?大金を払ってタコ部屋で知らない奴と寝ないといけないのか?

 

 

「家を買うしかないな…」

 

「ね?」

 

 

 しかし一言に買うと言っても問題がある。

 それだけの資金を用意できるか、皆同じ事を考えるのではないのか、そもそも売ってもらえるのか。

 俺達は冒険者という社会的に信用のない職業層だ。特に俺とユウキはバッググラウンドがない。こんな怪しさの塊みたいな連中を不動産屋さんは相手にしてくれるのだろうか。

 

 

「で、私はここに住みたいなと思ってます」

 

 

 差し出された紙には物件の説明が載っていた。これが貰えたということは一応相手にはしてもらえるのか…?

 

 

「貸して」

 

 

 さっきまで無言でご飯を食べていたあにゃに資料を奪われた。

 最初のうちはもぐもぐと静かに目を動かしていたが、読み進める毎に表情が険しくなっていく。

 

 

「5000KEとかマジ?普通に宿でいいだろ」

 

「ごせ…嘘ぉ…」

 

 

 とんでもない額だ…初クエストで出た報酬から生活費等を引いたあとに残ったのが576KE。

 1KEが大体日本円でいう1000円なので、今の所持金が57万6千円で目標金額は500万円だ。

 

 

「でも安い物件はもう残ってないよ。あとはその一軒家しかないんだって」

 

「だから宿でいいかなって」

 

 

 逞しい現地人であるあにゃはそうかもしれないが、現代日本男児である我々の精神的弱さを舐めないでほしい。

 何がなんでもタコ部屋は避けたい所だ。

 

 

「いや、もう少しクエストの難度を上げればギリギリ目標に届くんじゃないか…とは思う」

 

「まだ秋ですしね。どっちにしろお金は欲しいし頑張る意味はあるんじゃないですか?」

 

 

 結局の所我々【ガーネットローズ】の火力役はあにゃだ。彼女が頷かないと始まらないが…

 

 

「じゃあいいや。それで。強い奴を殺せるんだろ?」

 

「まあそうなるな…」

 

 

 一応これで了承は得られた訳だ。…もう腹を括るしかない。

 

 

「よし、じゃあ当面の俺達の目標は家の購入だ!キツイ戦闘が続く可能性もあるから各自準備をするように!」

 

「はーい」

 

「あい」

 

 

 …締まらん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目標を定めたその翌日。俺は街道を歩いていた。

 

 空もすっかり高くなり、街路樹の葉も色づく季節となった。

 俺とユウキがこの世界に来たのが夏の終わりなので、そろそろ一ヶ月が経つ頃だと思う。

 最初の頃は普通に生活を送ることすらままならなかったが、色んな人にお世話になってどうにかこうにかやってきた。先輩冒険者のアンドレイさんに風呂屋の番頭さんにetc…

 特にこの稼業に選んだ時にお世話になった二人には頭が上がらない。

一人はギルド受付のお兄さんで、もう一人は──

 

 

「あれ、キミは…」

 

 

 ちょうど教会から出てきたこの女性である。

 

 

「その節はお世話になりました。ちょうど貴方を探していたんですが…お時間はありますか?」

 

「うん、割と暇だよ。またスキルの訓練かな?」

 

 

 ピタリと当てられたので素直に頷く。

 銀髪で右頬に傷のある女性…そう、スキルを教わった盗賊の女性である。

 

 訓練の場所は当然訓練所なので、そこまで一緒に歩いていく事にする。

 

 

「そう言えば色々と噂を聞いたよーエリス教に入信したとか初クエストで大暴れしたとか」

 

 

 入信の件は彼女から紹介を受けた事を話していたので神父さんから、初クエストの噂は同僚から漏れたのだろうか。

 

 

「ええ。お陰様で入信できました。…大暴れは…した覚えがないんですがね」

 

 

 正直に答えたというのに何故かクスクスと笑われてしまう。本当に何も覚えがないのだが。

 

 

「初クエストであんなに戦果を挙げた上に未記載情報でギルドと揉めたんでしょ?」

 

「ああ…その話ですか」

 

 

 初クエストで帰ったあと、俺はギルドに不服を申し立てた。

 クエスト要項に書かれた情報にはタケノコ以外のターゲットは記載されておらず、依頼主のブリーフィングでは【害獣】が出る程度にしか聞いていなかった。

 しかし実際にはゴブリンが集団で徘徊していた。

 「騙して悪いが」でもあるまいし、依頼内容より過分な働きをさせられた事は当然遺憾の意を示すべきだと思ったのだ。

 

 …まあ実際には敏腕受付であるルナ嬢に口先で負け、違約金は取れなかったのだが…

 それでもゴブリンの素材の買い取りと「今後も過分な成果の分の報酬は払う」旨の言質を取った。

 正直乗せられた感じはあったが、結局の所なめられたくなかっただけなので一定の成果はあったと見ていいだろう。

 スポーツの世界でもそうだったが、冒険者の世界は輪をかけて面子が重要だ。

 なめられたらいいように使われる。それだけは防ぎたかったのだ。

 

 

「ギルドの覚えが悪くなるとクエストも紹介してもらえないしね。程々にした方がいいよー?」

 

「…ありがとうございます。肝に命じておきますよ」

 

 

 実際その線引きが一番大事だ。カモではなく、しかし優秀な道具だと認識してもらえなければ俺達は干上がる。

 交渉素人にできる事ではない気もするが、俺達を周囲に売り込むチャンスなのだ。

 

 

「ま、そこら辺はアタシがあんまり突っ込むところでもないか。それより何を学びたいか聞いた方がいいよね」

 

「ああそれなんですが、そろそろ直接的にダメージを稼げるスキルが欲しくてですね──」

 

 

 この世界には年金も充実した福祉もない。

 願い以前の目標である安定した生活の為にも、交渉もスキル習得もレベルアップも何もかも努力し続けなくてはいけないんだ。

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