この不審な青年に疾走を! 作:トキワ
「なるほど。そのまま迷子になって道もよく分からないと」
「はい。どうにかそのゴブリンからは逃げられたんですが…」
「ゴブリンの活性化だろうか…?初心者殺しの仕業なのか…」
門に入った後、俺は門番さんに連れられて取り調べ室の様な所に連れて行かれた。きっと俺の様な怪しいやつはここで検査されるのだろう。
正直に答えられる訳もないので作り話を騙っていた。昔からこういった屁理屈は苦手ではない。
「君がここに来るまでの経緯は大体分かった。それでこの街ではどう過ごす気だい?」
真剣な表情で門番さんが言った。街の安全を守る彼としては、これが一番重要な話に違いない。
「最初は食い繋げればなんでもよかったんですが…冒険者になろうと思っています。さっきアンドレイさんに助けて頂いた時に決めました」
渋い顔する門番さん。冒険者のアンドレイさんでなくともこの態度な以上、相当に辛い職業と見える。
「冒険者か…そもそも登録料は持ってるのかい?」
…登録料…?それは…マズイ…
この世界の通貨なんて持ってないぞ…いや、ひょっとしたら言葉の様に通貨も通じるかもしれない。
「これは使えますかね?」
ローブの下のジャージから財布を取り出し中身を取り出す。
「五十万エリス!?こんな大金どこで!?」
えっ。
いやよく見たらこれ円じゃないぞ!?
「やはり君は…上質な衣服やマスクといいこの大金といい…貴族の隠し子か…」
「えっ」
「いくらゴブリンとはいえ刃物で刺されて傷一つつかないローブ…そんなものが買えるのは滅多に…」
なんかとんでもない勘違いをされていないか。
「いや私がいたのは普通の寒村…」
「隠し子は基本的に…いや、やめておこう。無用な詮索は我々の仕事じゃない」
なんか納得されてる…いや今の状況は都合がいいのか…?
「とにかく登録料は足りるようだね。これなら装備や宿も確保できるだろうし、すぐにギルドへ向かうといい」
「それじゃあ街へ入っても!?」
「勿論大丈夫さ。ようこそ、駆け出しの街アクセルへ」
◇
教えられた通りにギルドとやらに向かいながら、さっき言われた事を思い出していた。駆け出しの街という名前についてだ。
そういえばアンドレイさんも同じ事を言っていた。ここは駆け出し冒険者の街なのだろうか。だとしたらかなり幸運…というかお金しかりあの女性の思惑通りなのだろう。
「女神エリス様、ね…」
通過に刻まれているその容貌は、あの女性のものだった。
この世界で一番メジャーな宗教の主神であるらしく、こうして通貨にも使われていることからその人気が伺える。
自分にとって命より大切な脚を治して貰えたのだ。日本では無宗教だったが、落ち着いたらエリス教に入ってみようかと思っている。
勿論教えに納得できればだが。
それにこのローブの事もある。動きを阻害せず刃を通さない。アンドレイさんのお仲間のウィザードさん曰く、魔法防御もかかっているらしい。お礼を言った時に教えてもらった。
高級品で片付けるにはあまりに高性能なこの不思議なローブはひょっとして神器なのだろうか。
これを渡されたのは、冒険者になれという意味だと受け取ったが…合っているだろうか。違ったとしても冒険者になるが。
エリス硬貨を財布にしまっていると、複数の下卑た笑い声が聞こえてきた。
目を向けると笑い声の主達は石造りの大きな建物から出てきたらしい。何故か読める看板に目を向けると、そこにはギルドという文字が読み取れた。
意を決して跳ね橋を渡り、扉を開く。
中からはアルコールや肉類などの匂いが混じった不快な風が吹き抜けていった。
どうも飲食店を兼ねているらしく、冒険者らしき荒くれ者達が、テーブルを囲んで酒盛りをしている。
新参に恒例で向けられているだろう好奇の視線を受けつつ、舐められぬ様にゆっくりとカウンターへ向かう。
「おいおいそこの不審者さんよぉ。外に出る時はしっかり仮面を外せってママに教わらなかったのかぁ?」
道を塞がれた。いわゆる可愛がりという奴だろう。体育会系ではよくある、というか一生付き合っていかなければいけない悪習だ。
「故あってつけているものでして。衛兵の方には許可を頂いているのでご心配なく」
彼も別に気に入らないから絡んでいる訳ではないだろう。どんな奴か分からないから取り敢えず話しかけたのだ。これに対する対応でどんな人間か分かるので、実際に有効だと言える。
ならばどう対応するのが正解かと言えば、それは冷静に返す事である。喧嘩を売ればアウェーである以上絶対に勝てない。ただビビるだけならばカモにされる。どこの世界も同じだ。…同じだよね?
とにかくさっき詰所でもらった許可証を掲げた。門番さんに話をつけてもらったもので、街中での仮面を許可する旨が書いてある。つけている仮面は顔を完全に覆うので、これがなければ職質に次ぐ職質だろう。
「お、おう」
意外な物を出されたので出鼻を挫かれたのだろうか。彼はすっかり大人しくなっていた。
実はかなり暴れている鼓動の音が聞こえない事を祈りつつ、会釈をして通り過ぎた。
◇
カウンターには多くの人が並んでいた。聞こえてくる会話から、どうもクエストの達成報告を窓口で聞いているらしい。
クエスト。また使い古された単語である。この世界はとてもつもなくコッテコテの異世界の様だ。
しかしおかしな事に、窓口は複数あるに関わらず、行列は一つに集中していた。特に看板等もないので同じ業務な気もするが…
待つのも面倒なので、一番空いている隣の窓口の前に立った。
「すいません。冒険者登録をしたいのですが」
「はい。承りました。説明は必要ですか?」
係員は人間のお兄さんだった。街で見かけた様なエルフ(たぶん)ではなく至って普通の日本にもいそうなお兄さんである。
「田舎者でして知らない事が多いんです。是非お願いします」
そう言いつつ予め出しておいた登録料500エリスを差し出した。…チップっているのかな?いらないよね?
「おや、登録料をご存知でしたか。結構知らない方も多いんですが」
正直門番さんに教えて貰わなければ知らなかった。そういう意味ではあの機会を作ってくれたゴブリンに感謝すべきなのかもしれない。
「それではこの水晶に手をかざしてください」
言われて目を向ければ何やら複雑そうな機械のついた水晶があった。まさか占いでもするのだろうか?
「それは適正のある職業を示してくれる特殊な水晶なんです。しかも自動で冒険者カードに書き込んでくれるんですよ!」
職業。ゲームでいうクラスみたいなものだろうか。そういうゲームをやったことはないが、なろう小説でよく解説されていた。
了承の意を示した後、おっかなびっくり手をかざしてみる。
すると水晶が怪しげに動きだし、下に置いてあった恐らく冒険者カードとやらに何か書き出し始めた。
「…はい。アオジトキワ様、ご登録ありがとうございます」
青地研究。将来科学者になってほしかったらしい親がつけたキラキラネームだ。実際にはスポーツの道を一直線だった訳だが。
「敏捷の値が異様に高い!器用も高いですし盗賊に相当な適正がありますよ!」
「…えっ。盗賊?泥棒ですか?」
「ああ違います!冒険者の職業にはいくつかありまして、その中でも大抵の方は冒険者、戦士、盗賊、プリースト、ウィザードになられますね。ですから盗賊とは職業の名前なんです。別に盗みをする訳ではないんですよ」
なんだかイマイチピンとこない。なんで盗賊って名前なんだ。
「仰りたいことは分かりますよ。盗賊は主に偵察やダンジョンでの罠の感知に秀でています。ですからその身軽さや器用さ等から盗賊になぞらえた訳ですね」
やっぱりよく分からないが割り切るしかない。というかダンジョン?ミノタウロスでも封じこめているのだろうか。いや、たぶんお約束の方のダンジョンだろう。
「これにて登録は完了です。あちらに募集掲示板があるのでそこでパーティを募集してくださいね」
パーティ。確か一緒に冒険する仲間たちをそういうらしい。なるほど、ここで仲間を募る訳だ。
「今日はまだ街に来たばかりなので宿を確保することにします。
また明日来るのでその時にやり方を教えていただけませんか?」
「勿論です!また私をご贔屓に!」
ヤケに張り切ってるお兄さんだ。列を取られているのでが悔しいのだろうか?
どうしてこんなにも差があるのか気になったので、隣の窓口を覗いてみた。
そこには金髪美人のお姉さんがいた。そういうことなのだろう。
TIPS
3:このすばTRPGの初期所持金は500KE
1KE=1000エリス 1エリス=1円
4:転生の地球担当だったアクア様がポテチ食ってサボってたのでエリス様が適当に捌いたのが主人公。チートすら聞かず、ローブを押し付けたのでお詫びとして脚が治り、所持金も貰えている