この不審な青年に疾走を!   作:トキワ

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青年は最初の仲間を得る

「…………」

 

 

 ギルドの酒場。その奥の奥の席で俺は一人水を飲んでいた。

 やる気がない訳ではない。休憩している訳でもない。

 ただただする事がないのだ。

 

 

 入れてくれるパーティーがない。

 

 

 目下にして最大の問題が、俺を絶望の淵に追いやっていた。

 職員のお兄さん曰く、盗賊は他の職業で潰しが効かず、ダンジョンアタック等で必須となる為に需要が大きい職業らしい。

 更に器用な人しかなれないので、供給も少なくあぶれる事は少ないらしいのだが…

 

 

「なんで全部断られたんだ…」

 

 

 掲示板で盗賊を募集していたパーティー全てに面接を受けたが、その全てで落選した。

 確かに初心者だがステータスもスキル悪くないはずだ。面接でも特に失敗した覚えはない。本当になんで全部落ちたんだ。

 

 諦める時間ももったいないので、掲示板にパーティーメンバー募集の旨を書いた。

 盗賊以外なら誰でもいいと書いたので、きっと集まってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして…」

 

 

 一時間経ったが誰も来ない。

 いや正確にはそれっぽい人は来るのだが、こちらをチラチラと見た後に帰っていく。

 やはり一人なのがまずいのだろうか。せめてもう一人いたら声をかけやすい雰囲気になるかもしれない。そのもう一人がいないから困っている訳だが。

 

 

 太陽が頂点にきたので、お昼ご飯を食べる事にした。

 食事をする人で混むだろうし、もしかしたら隣に人がやってきて仲良くなれるかもしれない。そうなればパーティーにいれてもらったり、別のパーティーに紹介してもらえる可能性がある。

 

 

 今日注文したのはカエルのステーキだ。

 俺の世界でもフランス料理等で食べられるらしいが、日本で食べるという話は聞いたことがない。

 こちらではそこまでゲテモノとして扱われていないようなので、きっと美味しいのだろう。

 

 ちなみに値段はそこそこした。

 モンスターの肉は食べることで経験値が手に入るらしく、強い魔物であるほど経験値が詰まっているそうなので、それに比例して値段も高くなる。

 なんでも貴族は討伐どころか外に出ることもなく食事でレベリングするそうだ。のんびりした世界に見えたが、やはり経済格差からは逃れられないらしい。

 

 口に運ぶのに結構な勇気が必要だったが、いざ口にしてみると意外と美味しかった。だがよく聞く鶏肉の味がする、なんてことはなかった。今まで食べた何かと似た感じもないので、蛙は蛙なのだろう。

 

 完食できたのでサービスのお冷で味を流す。

 この街には大きな川が横たわっているので生活水には事欠かず、魔法で綺麗な水を生み出せる為に飲料水にも困らないらしい。でなければお冷も有料だっただろう。

 そもそも異世界なので、蛙も人も俺の世界の物とは身体の構造が違う可能性が高いが、少なくとも水が必須ということは変わらない。

 水を生み出す事を生業とする魔法使いもいる、と銭湯の番台さんが言っていた。一例として、その銭湯には魔法で水を湯船に張って火加減の調整をする専属魔法使いがいるとのこと。

 魔法は文化に強く結びついていて、自分の常識を超えた現実を見せてくれる。

 誰かに話を聞くだけで驚きを得ている俺は、ひょっとしたら世界で一番冒険者なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 どうでもいい事を考えていたら昼飯時は終わっていた。結局誰かと話すどころか俺と相席する人すらいなかったが、気にしてどうにかなるものでもない。

 気分を変えるために日課の基礎練をするつもりで席を立った時、ギルド正面の扉が軋んだ。

 

 

 扉を閉めたその人物は大人しそうな男だった。

 白い肌で桜色の髪をしたその男は一瞬で俺の瞳を奪った。

 確かに整った容姿をしているが、その美貌が目を惹いたのではない。

 

 

「───バーテン服だと…?」

 

 

 この世界の服飾技術ではとても作れないであろう上等な服。その装飾は、間違いなく酒場のバーテンが着る服だった。

 恐らく、彼は同郷だ。

 

 その彼が静々と空いたカウンターに入っていく。

 耳を澄ませば冒険者登録の旨を伝えているのが聞こえた。

 選択した職業は戦士で俺と被っていない。そして記憶喪失らしい。この都合のいい設定、間違いあるまい。これはもう勧誘する以外の選択はないのではないか。

 職員さんとの話が終わるタイミングで距離を詰めた。

 

 

 

「キミ、ちょっといいかな」

 

 

「あっ、はい、なんでしょう」

 

 

 並んでみて分かったが身長は大体同じくらいだ。俺が175センチなので、彼は176センチくらいだと思われる。

 そこそこの体格を持つその少年は、それに似合う態度を取らなかった。オドオドとして体を揺らすのは、この世界に慣れていない為だろうか。

 

 

「ここじゃなんだ。少し奥で話さないか」

 

 

「、、、、、、はい」

 

 

 不承不承といった感じだが受けてくれた。さっきまで座っていた座席、つまり周囲に人がいないテーブルへと案内する。

 

 椅子に座った後、懐から学生証を取り出して見せた。

 

 

「これ、分かるかな」

 

 

 彼は大きく瞼を見開いたあと、ホッとしたように話し始めた。

 

 

「、、、わかります。そして私は今日が最初の一日です」

 

 どうやら意思を汲んでくれたようだ。間違いない。彼は俺と同じ世界から来た。

 

 

「俺は昨日だ。それとキミは【記憶喪失】なんだね?俺は【遠い田舎から来て】いてね。お互い何か常識外れなことをしたら庇い合おう」

 

 

「、、、はい。ありがとうございます」

 

 

 周囲に人はいないが、それでも誰が聞いているか分からない。明言を避けたぼやけた会話でお互いの設定を確認した。

 

 

「ところでパーティーを組むアテはあるかい?」

 

 

「いえ、ないです」

 

 

「そうか、俺は何故か干されててね…できれば組んでくれると嬉しい」

 

 

 言い訳はせず、正直な現状を話した。これから命を預け合うのなら、つまらない隠し事はない方がいい。

 

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

 

 

 彼ははにかむと、ぺこりと会釈をした。

 

 

「こちらこそよろしく。俺の名前は青地研究だ」

 

 

「あっ、宇佐見祐希っていいます」

 

 

 俺の様なキラキラネームでない良い名前だ。だがそれを全て名乗るのはあまりよくない。

 

 

「この世界では貴族しか名字を持たない。キミもユウキで通すといい」

 

 

 関所ではそれを知らなくて、貴族と誤認される一因となってしまっていた。

 面倒を避けるならば姓は明かさない方がいい。

 

 

「分かりました。それと装備を整えたいんですけど…」

 

 

「了解。じゃあ俺がお世話になった所を紹介するよ」

 

 

 ユウキを伴って外に出る。

 抜けるような青空に見守られ、のんびりと先導を始めた。

 




TIPS

7:ユウキの中の人は三点リーダーを「、、、」で代用する。ユウキ特有の不思議な雰囲気を再現する為にそのまま採用した
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