この不審な青年に疾走を! 作:トキワ
「おはよう」
「おはようございます」
昨日一日武具屋と魔法道具屋を周ってユウキの装備を整えた後、翌日の集合時刻を決めて解散した。そしてそれが今という訳だ。
「パーティーは最低三人必要なんですよね?」
ユウキの質問に首肯で答える。
ギルドが設けたセーフティ。それがパーティー制度だ。
職業はそれぞれ何かに特化しており、唯一特化せずオールマイティな冒険者は基礎能力が低い。つまりこの世界でのソロ活動はとても危険なのだ。その問題を解決する為に複数の職業で寄り添い合うようギルドは推奨している。
そしてそれでも無謀にもソロ貫こうとするものへの対策として、依頼を受ける際の人数下限を制定したのだ。
言ってることは至極マトモだし理解もできるのだが…
「俺みたいに何故か組んでもらえない奴のことも考えてほしいね…」
そういう不運もしくはコミュニケーション能力に難のある奴はそもそもクエストに出ても死んでしまうのだろうから、そのふるいの一つでもあるのだろうし仕方ないのだが。
「何故かっていうか、、、トキワさんは風貌が不審者だし仕方ないんじゃ、、、」
…?
あっ
「そっかあ…俺ローブ着てるし仮面つけてるもんね…そりゃ声かけないわ…」
「えっ。気づいてなかったんですか?」
「職員さんとか銭湯の番台さんとか普通に接してくれてたし…」
冒険者稼業は当然命が懸かる。
仲間選びは生存率に関わる大事な工程だ。こんな怪しい奴を避けるのは当たり前だろう。
「仮面を外して新しい服を買えばきっとそれで解決しますよ。私も付き合います」
「そういやユウキにはまだ見せてなかったっけ…俺の顔さあ…」
仮面を外して素顔を見せる。
「うゎ、、、」
…うん。まあそんな表情になるよね…
「こういうわけで仮面は外せないんだよ…」
「、、、うーん。もういっそのことローブも外さないほうがいいかもしれませんね。良くも悪くもインパクト大きいから不審者スタイルで売っていったほうが覚えてもらえるかも」
そんなものだろうか。このローブは動きやすい上に内部のジャージを隠せるので重宝しているが。
「確かナイフも通さないんですよね?緊急クエストにも有利だしそのままでいいと思いますよ」
「ついでに全く汚れないから色々楽なんだよね…そうするかな」
そういうことになった。
◇
「んでまあ誰も来ない訳だが…」
あの後ギルドの中に入って新入希望者を待った。
募集板には俺の事情を追記したが、依然として何のアプローチもない。
飽きたのかユウキも趣味だという散歩に出かけてしまったし、暇を持て余しているという訳だった。
大きな鐘の音が聞こえてきた。もうお昼がやってきたのだ。
「ユウキ遅いな…昼前には帰ってくるって言ってたのに…」
まだ会って間もないが、彼が嘘をつくような人種ではないと俺は思っている。ひょっとしたら迷子になっているのかもしれない。
「すいません。待たせちゃいましたね」
そんな事を考えていたら、背後からユウキの声が聞こえてきた。
振り返るとそこには──
「…なにそれ?」
脚を掴んで人間を引き摺っているユウキがいた。
「あ、これですか?散歩してたら落ちてたので持って帰りました」
なにいってだこいつ。大人しくて常識的な子だと思っていたがそうでもないのかもしれない。というかマトモじゃないだろ。
「周りの目線やばかったでしょ…というか通報されなかった?俺だけでもやばいのに信用さらに落ちちゃうよ?」
相変わらずニコニコしているユウキは頭を傾げた。
…素でやってるのか?
いやまずこの人を起こして事情を聞かないと。最悪助けた事にして誘拐ではないと弁明しなきゃまずい。
取り敢えず人を長椅子に寝かせた。気絶した人間を軽々と持ち上げる自分の腕力に疑問を持つが、今は置いておく。
「うわめっちゃ美人…これやばいな…」
橙色の長い髪が隠していたその顔は、10人中10人が美人だと断言する程の美少女だった。
…誘拐犯扱いは免れそうにない。
「もしもーし。起きてくださーい」
触るのは更に誤解されそうなので声だけで起こそうと試みる。程なくして少女の瞼が動いた。
「…んあ?」
「あ、おはようございます。どこか痛いとことかありませんか?」
ユウキは引き摺ってこの女性を連れてきた。怪我していたら手当しなければならない。その確認を込めての質問だ。
「はらへった」
「…はい?」
…これはあれか?慰謝料的な要求なのだろうか。
おずおずとメニューを渡すと、彼女は開いて眺め始める。
程なくして手を挙げ、ウェイトレスさんを呼び寄せた。
「これとこれとこれをくれ」
3つ。一つが飲み物だとしてもよく食べるものだ。ここは冒険者が飲み食いする場なので一品一品のボリュームが多いのだが。
弓を背負っているし、ギルド飯の量を知らない訳ではないだろう。
「…あの。よければ倒れてた経緯とか話してもらえたり…」
沈黙に耐えられなかったので切り込んでみた。
「腹減ってたから」
「空腹で倒れたんですか?そこら辺の店に入るとかすればよかったんじゃ…」
「腹減ってるのに気付かなかったから」
…こいつもやべえやつか…
類は友を呼ぶとは本当らしい。隣のユウキを睨んだが、視線は仮面のせいで届かなかった。
「そうだ。お名前は?私はトキワで、こいつはユウキって言います」
「敬語はいらん」
失礼があっては不味いので敬語&私の外行きモードで会話していたのだが…お言葉に甘えることを伝えた。
「名前か…」
彼女は俯いた。何か名乗れない事情でもあるのだろうか。まさか貴族だったりしないだろうな。
「こちらご注文の品になりまーす」
間の悪いことにウェイトレスさんが料理を運んできた。
大盛りの料理3つを、だ。…食べきれるのか?
「いただきます」
料理に目を奪われていた少女は、ナイフとフォークを握るとすぐに食べ始めた。
その勢いは凄まじく、あっという間に料理が消えていく。
「それで名前は?」
ユウキが容赦なく追撃した。
「あ?…あー、名前ね。忘れた」
「は?」
やっぱこいつやべえわ。思わず声が出てしまった。
「んーじゃあ…あにゃ。あにゃって呼んで」
「はあ…あにゃさん…」
露骨に偽名だ。幾ら異世界とはいえそんな命名法則は今までなかった。それとも本当に忘れているのか?
「じゃああにゃさん。弓背負ってるし冒険者ですよね?私達の仲間になってくれませんか」
ユウキがいきなりぶっこんだ。こいつひょっとして元からそういうつもりで連れてきたのか?
確かに仲間がいるなら空腹で倒れてはいないだろうから、現状ソロだろう。
「いいよ」
あ、いいんだ…
「私は戦士で、トキワさんは盗賊です。貴方はアーチャーですか?」
「冒険者。スキルいっぱい使えるから強そうだろ」
冒険者。ギルドに所属する者たちの通称ではなく、ロールの一種の方を指しているのだと思う。
本来職業毎に限定されているスキルを全て習得できるが要求スキルポイントが高く、また基礎ステータスも低いという不人気職らしい。
「前衛中衛後衛で相性はいいか…」
案外悪くないかもしれない。というか他に候補がないので組むしかない。
「リーダーはどうしましょうか」
「めんどいからやだ」
ユウキの提案にすげなく返すあにゃ。
「俺がやるよ…」
こいつらに任せるのは怖すぎるので立候補した。そんな柄ではないが、俺がしっかりしないとこのパーティーはやばい気がする。
「私も余りそういうのは向いてないですから、、、お願いしますね、トキワさん」
「任された。じゃあまずは俺とユウキが昼食取るから、その間にお互い使えるスキルの確認をしよう」
取り敢えずパーティーが組めたんだ。メンバーの癖は強いが、これから上手くやっていく為にも、しっかり話し合うとしよう。
TIPS
9:トキワ含めてPCの中にまともな者はいない