この不審な青年に疾走を!   作:トキワ

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この素晴らしいタケノコに収穫を!
青年は仕事を得る


 

 

「皆さん向けのクエストをひとつキープしてるんですが、いかがです?」

 

 

 連携の訓練を終え、休憩していた俺達に一人の女性が声をかけた。

 

 平均に比べて明らかに大きい胸に、美しく整った顔。冒険者ギルド、アクセル支部の最人気受付嬢ルナさんだ。

 俺は美醜や惚れた腫れたに余り理解のある人間ではないが、常に男衆が並んでいれば誰が人気なのかは流石に分かると言うものだ。

 そんな彼女がわざわざ自分から俺達に…

 

 

「内容を聞いてから判断してもよろしいでしょうか」

 

 

 この初心者の街アクセルは、その名前に反して初心者向けの依頼が少ない。

 弱いモンスターは狩り尽くされ、いわゆるなろうテンプレ的な薬草採取の依頼もない。一般人でも安全に採取に出かけられるのに、依頼をする必要などないという訳だ。

 

 では初心者は何をするかというと肉体労働である。先輩冒険者のアンドレイさんが仰っていたのはこういう事だったのだ。

 まあ俺達はお金に余裕があったので働きもせず訓練三昧だったのが…

 

 そんな傍から見ればサボりな俺達に声をかけたということは、その斡旋ではないだろうか。

 

 

「詳細はこちらになります」

 

 

 にこやかな笑顔と共に渡された紙。そこには依頼内容が書かれていた。

 

 

【タケノコ堀り 種別 採取 期限 翌朝まで 報酬人数×10KE 要件 なし 内容 この道40年のベテラン オキナさんの竹林でタケノコを掘っていただきます】

 

 

 予想通りの肉体労働系だ。タケノコの収穫ということは恐らく早朝。人気がないので暇そうな俺達に声をかけたのかもしれない。

 我らがパーティーはそこまで朝に弱くない。収入が一切ないのも不安だったし、そろそろ仕事をするのも悪くないだろう。

 

 

「なるほど…仲間と相談してもいいですか?」

 

 

「ええもちろんです。夜中までなら受注できますからね」

 

 

 ルナさんに礼を言って、クエスト詳細を眺めながら相談を始める。

 

 

「オキナさんとやらの指示に従ってタケノコを掘るらしいぞ。報酬は歩合制でタケノコが動く直前ほど品質が良くて高値…ちょっと待て。タケノコって動くのか?」

 

 

「そりゃそうだろ。何言ってんだ」

 

 

 キョトンとした顔をするあにゃ。語感には当然といった雰囲気が含まれている。どうなってんだこの世界。

 隣ではユウキが感心した様な顔で頷いている。お前もそれでいいのか!?

 

 

「お前農場見たことないの?野菜は普通動くだろ」

 

 

「あ…ああそうだな。訓練で疲れたのかもしれん。スルーしてくれ」

 

 

  一つ確信があった。あにゃは異世界人ではない。

 記憶喪失設定に破綻した人格と、てっきりユウキの様なやばい転生者かと思っていたがどうやら違うらしい。道理でユウキの服装に突っ込まない訳だ。

 

 

「私は異存ないですよ。タケノコ見てみたいですし」

 

 

「我もない」

 

 俺の内心はともかく、二人は受注することに文句はないようだ。

 了解の意思を二人に伝え、ルナさんの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 早朝。俺達はギルド前に集まっていた。

 

 

「さむ、、、」

 

 

 振り向けば横でユウキが震えていた。

 季節は冬一歩手前。普段より厚着をしているが、それでも寒さに耐えきれないようだ。

 不憫ではあるが、こちらの世界にカイロなどのお手軽な暖房用品はない。

 

 

「仕事が始まれば暖まるはずだ。頑張って耐えよう」

 

 

 ユウキは素直に頷いた。彼は何故か我慢する事に病的に強い。パフォーマンスに支障はないだろう。

 時折見せる遠い視線や死んでいる瞳、更に言えば未成年なのに纏っているバーテン服から、過去に何かあった事は推察できるのだが…俺も探られれば痛い腹しかない。直接聞くのは控えていた。

 

 

「おや、皆さんお揃いですね。おはようございます」

 

 

 ギルド会館の扉が開き、中からルナさんと老人が現れた。

 俺達も挨拶を返す。

 

 

「こちらが依頼主のオキナさんです!」

 

 

 紹介された老人は腰を擦りながらどうも、と会釈をした。

 年齢は見たところ60代。依頼に来たからか服装は綺麗だが、手の爪には土が挟まっている。間違いなく農業従事者だ。

 

 

「それではあとはよろしくお願いしますね!」

 

 

 ルナさんは顔合わせだけする予定だったらしい。挨拶もそこそこにギルド会館へ帰っていった。彼女は忙しいだろうし仕方ない。

 

 

「悪いが時間に余裕がなくてね…詳しい話は馬車でいいかい?」

 

 

 歩合制である以上、こちらも時間があればあるほどありがたい。勧められるままに馬車に乗り込んだ。

 

 

「それと…タケノコの生える山の位置は極秘でね…知られるわけにはいかないんじゃ」

 

 

 そういって目隠しを手渡される。着けろと言うことだろう。

 初めての馬車にテンションを上げていたユウキは苦笑していた。

 

 

「目隠しプレイかな?」

 

 

 あにゃは訳のわからない事を呟いてオキナさんをドン引きさせていた。というかこの世界にも目隠しプレイあるのか…

 

 

 俺達全員が目隠しを着けると馬車が動き出した。御者の鞭を振るう音と馬の嘶きが聞こえる。

 

 

「さて…改めて自己紹介をしようか。儂の名はオキナ。山の管理者をしとる。君達は…」

 

 

「【ガーネットローズ】という名前で活動しています」

 

 

 パーティー名はあった方が便利とのことなのでつけた名前だ。俺にネーミングセンスはないし、あにゃはめんどくさがったのでユウキにつけてもらった。

 

 

「おおそうか。君達は優秀な新人だと聞いとる。期待しているからね」

 

 

 …ルナさんなりの嫌みか…それとも発破掛けか…

 

 

「ええ。その様な評価もありますね。ご指導頂ければ信頼に恥じない仕事はしてご覧にいれましょう」

 

 

 煽りに乗っていく。俺は負けずぎらいなのだ。

 隣に座っている二人はニコニコしているかぼーっとしているのでバレはしないだろう。

 

 

「それじゃあ依頼内容を話そうか」

 

 

 がたがたと揺れる馬車の中、オキナさんが説明を始める。

 

 

 

 

「それじゃあここで待っているからね。頑張って取ってきておくれよ」

 

 

 その言葉に頷き、暫しの別れを告げる。

 ちょうど説明が終わった頃に馬車は止まり、装備を更新した俺達は、目的の山へと入山した。

 

 

 山は鬱蒼としており、夜明けがまだなのもあって足元すら怪しい。足を取られればそのままどうなるか分かったものではない。

 時間がもったいないがゆっくり進むしかなさそうだ。

 

 

「たしか罠が仕掛けられてるんですよね?」

 

 

「害獣対策らしいよ。俺が罠の探知と解除持ってるからたぶんなんとかなると思うけど…できるだけ慎重に移動しような」

 

 

 目的の竹林まではそこそこ距離があるらしい。こんな序盤で躓いていては話にならない。

 などと考えていると小さな違和感を感じた。初めて来た場所に違和感を感じるということは…

 

 

「噂をすれば、だな。落とし穴があるぞ」

 

 

 慎重に覗いてみるとそこには先客がいた。見覚えのある緑肌、ゴブリンである。

 胸からは杭が生えており、即死であったことが伺える。

 

 

「ゴブリンもタケノコ食べるのかね」

 

 

「雑食ぽいですしそうかもしれませんね、、、」

 

 

我ながら脳天気な発言だと思ったが、返ってきた言葉もまた脳天気だった。

 

 

 

 

「あっトキワさん。この死骸まだ新しいので近くに残党がいるかもしれませんよ」

 

 

「あ、そうなの?」

 

 

 暗闇の中目ざとく観察したユウキが伝えてくれる。

 曰くゴブリンは集団で移動するらしい。見つかれば面倒なことは確実なので避けたいところだ。

 

 

 

「特にあにゃ。お前さん弓置いてきたじゃん?気をつけないと危ないぞ」

 

 

 

 タケノコ堀りに使う道具を持つために、両手持ちである弓は置いてきた。つまり今のあにゃは丸腰なのである。なので一応声をかけたのだが…

 

 

「愛そうか、殺そうか」

 

 

 相変わらず意味不明な事を呟いており、その眼は半開きである。

 

 

「ゴブリン共!聞いているのなら武器なんて捨ててかかってこい!」

 

 

「敵を誘き寄せてどうする!」

 

 

 彼女の職業は冒険者であり、弓スキル以外にも魔法を取得している。それ故の余裕なのだろうがこちらはたまったものではない。

 さらに言えば面妖な事にこちらのタケノコは「起きる」らしい。起きてしまったタケノコの味は悪く、値段も下がるそうなので大きな音をたてるのはご法度だ。

 

 ガミガミと注意していると違和感に気づいた。

 

 

「…こっちは未起動だな」

 

 

 あったのは案の定の落とし穴。しかし今度のそれはまだ誰も呑み込んでいないようで、巧妙に隠されたままに獲物を待っていた。

 

 

「二重の罠ですか。殺意高いですねえ」

 

 隣のユウキが感心したように頷いている。

 仲間が片方に落ちて恐慌状態に陥り、逃亡した先でもう一つに引っかかる事を期待したのだろう。あいにくこちらには引っかからなかったようだが…

 

 

「マジで?もう一個あったの?」

 

 

 さっきまで杭に刺さった死体を眺めていたあにゃがこちらにやってきた。説教は馬耳東風だったというのに自由なものである。

 

 

「ええ、こっちは起動してないみたいです。近づかないようにしてくださいね」

 

 

「はいはい。流石にかからっ!」

 

 

 頷きながらのっしのっしと近づいていったあにゃは足を滑らせ、そのままの勢いで落とし穴に落ちていった。

 

 

 

「えっ。ちょ、おい!大丈夫か!?」

 

 

「あ〜るぇ〜?」

 

 

 滑るように落ちたのが功を奏した様で、杭に刺さらず、穴の底にべちゃりと潰れていた。

 いつも落ち着きのないあにゃだが身体能力は高い。こんなミスをするとはよほど運が悪かった(ファンブル)のだろう。

 

 

「こんな調子で大丈夫なんですかね?」

 

 ユウキの問に、俺は何も答えられなかった。

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