この不審な青年に疾走を! 作:トキワ
罠の騒動から約30分程歩き、件の竹林に着いた。
鬱蒼とした緑の中に竹の枯れ葉が目立つそこは、異様な音が響きわたっていた。
プシューというまるで排気の様な音だ。近く、というかこの世界で機械類は見ていない。一体音源は何だろうか。
「聞こえるよな?この音なんだと思う?」
ユウキは訝しげに首を傾げた後、小声で答えてくれた。
「なんだもなにもタケノコじゃないですか?オキナさんが言ってたじゃないですか」
「え…?あ、これタケノコの呼吸音なの?」
確かにオキナさんは呼吸音がするからそれを目印にしろと言っていた。だがまさかこんなにも大きいとは…
この量の排気量ということは恐らく身体が大きい為に必要酸素量も多いのだろう。もし起こせば大変なことになりそうだ。
「うーん…誰かタケノコの位置分かる?」
起こしてしまう前に素早く特定して掘り出してしまいたい所だが、呼吸音が反響してなかなかうまくいかない。
「右と左ぜんぽー」
「耳いいねえ。ありがと、あにゃ」
未だに眠そうな眼をしているが流石は射手と言うべきか、あっという間に位置を特定してくれた。
後は静かに収穫するだけでミッションコンプリートだ。
「俺は右に行くわ。左前方は任せた」
近接戦闘が行えるのは俺とユウキの二人だけだ。当然グループを2つに分ける時は俺が一人ということになる。
「了解です。お気をつけて」
無言で頷き、ターゲットを視界に捉える。
息を殺して近づきつつ背負ったスコップを利き手でしっかと握った。
向こうの二人はともかく、隠密に長ける盗賊の私が気が付かれる訳にはいかない。
「うおっ」
背後から勢い良く空気の音が吹き上がる。見れば二人の前でタケノコがいきり立っていた。
そして全く同じ音が近くからも…
「うーん。もう強引に行くしかないかな」
スコップを背負い直して懐からダガーを取り出す。未だ何の肉も断っていない新品である。
恐らくこちらを睨み、怒っているであろうタケノコに躍りかかる。信じられない事だがこの推定植物には眼球があった。それならばこちらに考えがあるのだ。
「【フェイント】」
ダガーを上段に構え、思い切り振り下ろす。…様に敵には見えているだろう。
魔力を消費して放つこのスキルは幻術に近いものだそうで、相手に実際とは違う攻撃を認識させる。
まあ平たく言えば敵に確実に攻撃を当てる技だ。
手に残る確かな手応え。私は生き物に攻撃を当てたのだ。
初めての経験だがそこまで印象深いものでもなかった。植物型だからだろうか?なんにせよ抵抗がないのはいい事なのでグリグリと刃をねじ込んでいく。
「【毒Ⅲ】」
次いで刃先からスキルで毒を付与する。先輩のお姉さん曰く俺には毒の才能があった様で、最初から限界値であるⅢまで取得することができた。…嬉しいはずだが複雑である。
やるべき事はやった。全力でバックステップを挟み、敵を注視する。
タケノコは明らかに疲弊しており、うまくこちらに移動できないようだ。毒が発現した際の状態は訓練では学べなかったので、今のうちに学習させてもらうものとする。
しかしこれから納品する食材に毒を注入するのは本当に大丈夫なのだろうか。情報通りならば毒は魔力でできている為に対象以外に影響を与えないらしい。
想像するに呪いに近いのだろうか。フェイント然り助走然り、魔力を介するスキルは地球の常識に当てはめるべきではないのかもしれない。
「ん。フラフラだな。終わりか」
力尽き倒れるタケノコを確認してから振り返ると、そこにはあにゃとタケノコを担いだユウキがいた。どうやらあちらも仕留めたようだ。
「まあな。そっちも無事か?」
「おう。剥ぎ取りも終わってる。次はそっちをやるわ」
あにゃが剥ぎ取りナイフをぶんぶんと振り回す。
彼女は剥ぎ取りが上手いらしく、そういった仕事は彼女に割り振られていた。
「見てくださいトキワさん。すごく美味しそうですよ」
ユウキが担いでいたタケノコを見せてくる。
色は白く透き通り、起こしてしまったにも関わらず日本のタケノコより美味しそうだ。
「いい色艶だな。ユウキはタケノコ好き?好きならもらって食べてもいいかもな」
「えーっと…タケノコを見たのは人生で初めてなので分かりませんね…」
「…‥………ま、まあ一度食べてみようか」
タケノコは和食やラーメンや青椒肉絲等、様々な料理で見かける食材の筈だ。
最近は慣れてきたが、相変わらず謎の多い男である。
「終わったぞ。次はあっちか?」
タケノコを担いだあにゃが戻ってきた。
彼女が指差す先にはある程度整備された道があり、奥にまだ何かがある事を伺わせる。
「情報通りだとね。例年通りだとこの先がメインの採集場みたいだな」
探知役である俺を先頭に素早く移動を開始する。
罠やゴブリンの危険を考えれば慎重に行動すべきだが、タイムリミットがある以上そうもいかない。
「…なんというか。あからさまな罠だな」
スキルによる違和感に頼らずとも分かる余りに怪しい光景。
道のど真ん中にりんごが落ちていた。
「解除するからじっとしててね。特にあにゃ」
注意をしっかりと促した所で速やかに解除に向かう。
【罠感知】で大体の大きさを把握し、【罠解除】で罠の要所となる部分を破壊していく。
つい最近まで罠のわの字も知らなかったのだが、スキルを取った今では熟練の解除士である。
「ほぉん…ほぉん…」
背後からボタボタと涎が垂れ落ちる音が聞こえた。急がないと先刻の二の舞いになりそうだ。
「あにゃ。あれは美味しくないりんごだよ。図鑑に書いてあった」
「不味いのなら尚更食べたいと感じるのは人間の本能だと思うの」
「あにゃって人間なの?」
今度は漫才が聞こえてくる。図鑑を読んでいる姿を見た覚えなどないし、明らかに嘘を教えている。
人間疑惑を含めて、やはりユウキはペットのつもりであにゃを拾ってきたのではないだろうか…
「とりあえず解除した。ほら、りんごもやるよ」
予め取っておいた餌のりんごを放り投げる。
受け取ったあにゃは勢い良くその牙を突き立てた。
「ムシャムシャグシャグシャジャリジャリブシャブシャドシュ」
「クチャラーとかは見たことあるけど…マジで擬音級の音をたてる奴は初めて見たな…」
こうなるといくら美人でも野獣にしか見えない。…隣のユウキは何故か保護者の様な暖かい眼差しを向けているが…
「…ん?」
水気の強い咀嚼音に混じってカサ、と枯れ葉が踏まれる音が聞こえた。
「ふむ。戦闘かい?」
食餌を終えたあにゃが、口を拭いながら聞いてくる。
「うーん。まあ少し隠れて様子でも見るべきじゃないかな?敵とは限らないよ」
一般に開放されているとは聞いていないし、いたとしても密漁者だろうが一応遭難者の可能性もある。
奇襲をかけて損失の可能性がある以上は偵察だけでもしておきたかった。
「少し探ってくる。ここで待っててくれ」
「よし、ついていこう」
「一人とか怖いですよ…私も行きます」
一応俺が斥候役なのだが…まあ全員【忍び足】を持っていないし変わらないと言えば変わらない…のか?
TIPS
10:一つのスキルに一度に3以上のポイントを入れることは本来できないため、【毒Ⅲ】は初期作成では取得できない。【毒Ⅱ】から成長させるのだが、PLが素で勘違いしていた。