ワイルドすぎるエリアで生き抜いた転生者は、とんでもない生き物として注目されることに!
ポケモン盾を始めた+ゴツいポケモン好きで描きました。
夢のような特性っていいよね。
唐突ですが、オレは今ピンチです。
何がピンチかって言えば、話が長くなるし、誰にも理解されないだろう。第一オレ自身理解できていないし。
それでも心の中で叫ばずにはやってけない。全速力で走りながらで良ければ聞いてくれ。そして叫ばせてくれ。
いつの間にか眼前には湖が広がっていて、右を向けば鋼鉄のカラスみたいな奴が空から襲い掛かってきたので、左を向いて全速力で逃げている所だ。
これを誰かが聞けば何言っているんだと思うだろう。俺だって解らないもん!
あのカラスもそうだけど、俺自身もどうなってんのコレ!?なんか視界が地面スレスレだし!シャカシャカって複数の足を動かしてるし!
とりあえず俺は虫っぽい何かになってて、あの鉄カラスは俺を餌か何かと思って襲い掛かってるってのは解った!はい逃げようそうしよう!
プレッシャー半端ないよあの鉄カラス!なに?俺G的な虫だから嫌ってんの!?
とにかく走れ俺!幸いにも足が速いから逃げ切れそう!
そうして無我夢中で走って暫く……走り続けるしか頭にないから脳内メモリに余裕あったのよ……逃げ切ってやったぜ。
いやふと振り向いたら居なくなってたんだけどね。諦めたんだろうか。俺が早かったのか長距離走ったのか知らんけど。
ほっと一息ついて辺りを見渡すと……うわぁ増々わからん光景だこりゃ。
一見すると大自然広がる原っぱだけど、知らない生き物ばかりがそこに住み着いていた。
白黒模様のタヌキが走り回り、紫のカエルが二本足で草むらを歩き、蝙蝠みたいなナニカが低空を飛ぶ。
なんか銅みたいなカラーリングした小象もいるし、悪そうな狐が我が物顔で練り歩いている。
動物っていうかモンスターっていうか、そんな不思議な生き物ばかり。
こそこそと物陰から観察して解ったが、小競り合い程度で殺伐とした感じはなさそうだ。平和万歳。
そして、もしかしなくても俺も彼らの仲間入りしているんだろうなぁ……と思って水面を見てみる。
揺らめく水面には、案の定虫っぽい何かになっている俺の姿が。これフナムシ?昔流行ったダイオウグゾクムシ?
とにかく虫っぽい生き物になったのは解った……せめて哺乳類または鳥になりたかったなぁ……。
今になって思ったが、これって所謂転生ってやつ?それとも憑依?とにかくラノベみたいな展開だな。
しかし実際にこうなると戸惑いと不安しか……いや弱気になるな俺!
見ろ、彼ら(?)の様を! 二本足で歩くカエルとズボンずり下げトカゲが頭突きしあう程度の争いを!
きっと先ほどの鉄カラスは特別強い奴なんだろう!そしてそんな鉄カラスから逃げ切った!
そうだ!俺は生きるんだ!新たな人生ならぬ虫生を歩むんだ!数ばかり増えて食われる生き物ではないのだよ!
そしてオレには元人間ならではの知恵というチートがある!ふははは知識の差とは時にチートとなり得るのだ!
―――そんな時期が、着ぐるみみたいな巨大なクマと遭遇するまで俺にありました。
なにこここわい!かこくすぎわろえねぇ!
あっち行けば番長みたいなパンダ!こっち行けばゴミみたいな怪物!
日差しが強くなってドリル角の怪獣!雪が降って氷柱髭の白熊!湖には怖い顔した水龍!
一番怖かったのは、霧がかってきたときにいつの間にか背後にいた、被り物してるナニカ……あれ絶対ヤバい奴や。
鉄カラスなんて霞む程に強い奴ら多すぎぃ!逃げても無駄じゃんってぐらい!
話が通じるやつもいたけど、いずれも「俺が強いんやー」ってばかりに力をアピールしてくるのだ。脳筋か!
絡め手使ってきたり天候変えてきたりと、能力も様々。地面割れた時とか死ぬと本気で思った……。
このままじゃ駄目だオレ!知識チートも逃げ足も意味がないぞオレ!
こんな過酷な自然で逃げ続けるなんて無理だ!なら自分を変えるしかねぇ!
手始めに梟に襲われたところを助けてくれた銅象さん、あなたの舎弟的な何かにさせてくだせぇ!いや後についていくだけなんだけどね!
見てろよワイルドなエリアよ!俺は強くなって見せる!自分を変えてみせるぞおぉぉぉ!
▼▼▼
「今だエースバーン!『かえんボール』!」
ナックルシティ眼前に広がるナックル丘陵にて、一人の少年の指示を受けてエースバーンが跳躍、火炎の球を蹴りつける。
剛速球で迫る火炎の球を受け止めたダイオウドウだが、あまりの衝撃と熱に耐えきれず耐え切れず後ろへ倒れ込む。
少年の名はマサル。つい先日にガラル地方のチャンピオンになりながらも尚「自分なりの強さ」を追い求める若きトレーナーだ。
「いいぞエースバーン!もう一度『かえんボール』!」
震えながらも立ち塞がる、圧倒的な力を持って戦いを挑んだ強敵の意志の強さに敬意を表し、エースバーンに指示を下す。
力強い眼差しでダイオウドウを見つめていたエースバーンは、更に強くなると言わんばかりに、より高く跳躍する。
そこへ、水の塊が突っ込んできた。
「っ!? エースバーン、『まもる』!」
まだ火炎の球を生じていないのを瞬時に確認したマサルは、迫りくる水の塊への対応を命ずる。
咄嗟に火炎を発するためのエネルギーを防御に転じ、水の塊を防ぐ。マサルの判断に感謝だ。
その水の塊の正体はグソクムシャだった。『アクアジェット』で水の弾丸と化して迫ったらしい。
『まもる』の防御エネルギーに弾き飛ばされたグソクムシャは、着地するエースバーンを睨みつつ、ダイオウゾウの盾になるように立ち塞がる。
ダイオウゾウはそのグソクムシャと知り合いなのだろうか?弱まっても向けていたはずの闘争心を抑え、グソクムシャに甘えて後退りしだした。
「このグソクムシャ……強いぞエースバーン」
トレーナーとしての才覚か、目の前のグソクムシャの大体の強さを察するマサル。エースバーンも感じたのか、いつも以上にフットワークを鋭くする。
グソクムシャがダイオウゾウに振り向くと、ダイオウゾウはグソクムシャを名残惜しそうに見つめた後、どすどすと逃げていった。「ここは俺がやる」と言うことだろうか。
グソクムシャは両腕を交差させ、ガチガチと音を鳴らして装甲を硬質化させた。『てっぺき』である。
「エースバーン、『アクロバット』!」
防御を固める前に相性の良い飛行技をぶつける。文字通りアクロバットな動きを見せ、エースバーンの蹴りが炸裂。
交差させた両腕で受け止めるはずが僅かな隙を細い足がすり抜け顔面に命中。急所に当たった!
(倒せ……きれない!)
硬質化させたのは腕だけではない。顔面で受け止めてよろめくも足はしかと大地を踏みつけていた。
(これじゃあ『ききかいひ』で逃げられ……っ?)
進化しても脱せぬコソクムシャの『にげごし』の名残であるグソクムシャの特性『ききかいひ』。
体力が半分を切ると途端に逃げ出す性質故に、折角の強敵に逃げられる……はずだった。
それどころか、グソクムシャは「いい加減にしろ!」と言わんばかりに顔面を突き出し、エースバーンを突き飛ばしたではないか。
(逃げないっ!?)
力強いグソクムシャの立ち振る舞いに驚愕するマサル。それはエースバーンも同じか着地の際に硬直してしまう。
今度はこちらの番だと両腕に水を纏わせて殴りにかかる。鈍足ながらも振るわれた『アクアブレイク』はエースバーンを水浸しにしながら吹き飛ばす。
「エースバーン!」
効果は抜群だ!共に戦い抜きチャンピオンへと導いた歴戦の相棒が、一撃で地に伏せ目を回している。マサルは更なる驚愕を覚えた。
ボールに戻しながら「かかってこいや」と言わんばかりに『ちょうはつ』するグソクムシャを見て震える……これは武者震いだ。
「強い!やっぱりワイルドエリアは強いポケモンが多くて凄いや!いけぇパルスワン!」
次に繰り出すのは、エースバーンの後輩にあたるパルスワン。陽気にワンと吠えるも、目の前で『ちょうはつ』しているグソクムシャを前に警戒心を露わにする。
「『ほっぺすりすり』!」
正面で無理なら絡め手で。接近に強いグソクムシャだがパルスワンは臆さず接近し、見事なステップを見せつける。
グソクムシャは慌てず水を纏った腕を振り、地面に突き刺し泥を広範囲にまき散らす。『マッドショット』だ。
本来なら特殊攻撃の弱いグソクムシャだが、防御力がない上に電気タイプのパルスワンには効果は抜群。それでもパルスワンは泥の波を突き抜け、電流走る頬を押し付けることに成功した。
(……素早さが下がらないし、ダメージが多い?)
大ダメージを負っても役目を果たしたパルスワンを褒めるも、マサルは予想以上にダメージを受け素早さが低下していないパルスワンに違和感を覚えた。
その後はお察しの通り『アクアジェット』でトドメをさされた。2匹続けて倒れたことに危機感を覚えつつ、マサルはサーナイトを繰り出し『リフレクター』を指示する。伊達にチャンピオンやってない。
その後もマサルはグソクムシャの行動を観察する。『アイアンヘッド』・『どくづき』・『ビルドアップ』『いわなだれ』……。
水タイプのジムリーダー・ルリナを始め多くのグソクムシャを見てきた。しかし目の前のグソクムシャはレベルの高さを差し引いても力強い印象を与える。
(まさか、このグソクムシャ――――
―――『ちからずく』の特性を持っている!?)
今度こそマサルは驚愕した。こんなことがあって良いのかと。
グソクムシャのデメリットでもある特性『ききかいひ』。
それが、追加効果を無くす代わりに威力を底上げする特性『ちからずく』に変わっているなんて……まさに夢の特性ではないか。
電流走るボロボロの体でサーナイトを屈し、勝鬨を上げるグソクムシャ。よほど意地っ張りな性格なのだろう。
トレーナーとしての性が告げている……このグソクムシャをゲットしたいと!
気づけばマサルはハイパーボールを手に取り放って投げようとし……体の揺れを感じ取った。
地震にしては長いな……そう思って周囲を見渡していると、あるものを目の当たりにして硬直する。
先ほどのダイオウドウが、沢山のヒポポタスを率いてやってくるではないか!砂塵をまき散らす様はまさしく動く砂嵐!
「うわあぁぁぁ!?」
ゴウゴウと数の暴力で巻き送る砂嵐に耐え切れないと判断し、マサルはサーナイトをボールに戻してスタコラサッサ!
マサルは名残惜しそうに振り向く。
そこには「助かった……」と言わんばかりに膝を折るグソクムシャの姿が、砂嵐の中に消えていった。
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『大丈夫か?』
『いやー助かりましたわ。つえーもんあのニンゲンとポケモン達』
トレーナーという職に就いた人間はサイドン以上に強い奴もいる。
それが、この優しいダイオウドウ兄貴と共にワイルドエリアを生き抜いたオレが学んだ事の一つだ。
ヒポポタス達もありがとうよ。だから鼻から砂嵐をまき散らさないでくださいスリップダメージで死んでしまいます。
『しかし無茶しないでくださいよアニキ。炎タイプ苦手なんだろ?』
『なぁに、ワシも炎ぐらい克服したいと思って居ったんじゃ。というかアニキはもうよさんか』
『いやいや、オレにとってアニキはアニキだぜ。このパワーもアニキを見て育った証よ』
ぶんぶんと片手を振ってパワーアピール。自分でも力持ちになったなーって思うもん。努力万歳。
『しっかしあのエースバーン強かったのぉ。昔ワシにちょっかいかけてきたリザードンと同格ではないかの』
『うっそ、あの色黒少年のリザードン?よぉっし一撃で倒したオレつぇー』
『水タイプが炎タイプ圧倒して自慢するでないわい』
ドゴンって鼻先でげんこつされた。し、死ぬぅ……砂嵐のスリップダメージでダメージは更に加速した!
厳しくも優しいダイオウドウ兄貴。他のポケモンと暮らしてたら別の強さを身に付けてただろうが、アニキについていってよかったと心から思うよ。
『それよりコブンとやらはどうしたんじゃ? げきりんの湖におったはずじゃし』
『アーマーガアからダイオウドウのアニキがピンチだって聞いて急いで駆け付けたんだよ。アイアント達はイエッサンの嬢ちゃんに預けた』
コソクムシャだったオレを追いかけた個体じゃないアーマーガアと、イエッサンの嬢ちゃんに感謝だな。
俺も立派なげきりんの湖の強者として君臨し、日々切磋琢磨の日々よ。そんなオレに憧れて舎弟となったアイアント達も、今や可愛い子分よ。
『んじゃアニキも無事みたいだし、オレ帰るわ。ギャラドスと決闘の予定あんのよ』
『お前さんも随分な……えっと……はんどるじゃんみー、じゃな?』
『バトルジャンキーね』
相変わらず横文字に弱いのねアニキ。戦闘狂って言えばいいのに……別に戦闘にくるってないもん。喧嘩好きなだけだもん。
さぁて、劇的ビフォーアフター的に生まれ変わった俺の第二の生活はこれからだ!
劇的といえば、怠け者だったアイアントの噛み癖がすげぇことになったな……顎が頑丈なったね。
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この後、チャンピオンマサルはスマホロトムで「夢特性ちからずくのグソクムシャ見つけた!」と動画付きでコメント。
『ききかいひ』で逃げず圧倒的パワーで戦うグソクムシャの存在を知ったトレーナー達は、嘘本当関係なく大盛り上がり!
返信の中には「『がんじょうあご』っぽいアイアントも見つけたったー」とも書かれていることもあり、噂が噂を呼んでとんでもない事に。
「そうか……あのグソクムシャが……」
そんなコメントの嵐をスマホロトムで眺めながら、元チャンピオン・ダンテは笑みを浮かべる。
トレーナー時代、相棒リザードンと共に散々苦戦させられたあの圧倒的強者のグソクムシャの存在を思い返しながら……。
『なんか寒い』
『そりゃこおりのキバうけりゃな』
ギャラドス同様ボロボロの状態で佇むグソクムシャは、そんなことを知らない。
●転生グソクムシャ
・特性「ちからずく」
・いじっぱりな性格。力が自慢。
ダイオウゾウを見て育った転生者。
そのパワーに憧れて力をつけようと努力したら特性が変わっちゃったぞ!やったね!
また、その努力する様を見て自らもまねて特性を変えたポケモンもいるとかいないとか。