全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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ヤバい奴ら

 DMMORPG――Yggdrasil

 12年という長期間、運営されたが、そのサービスは遂に終了することとなった。

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウン所属のメリエルは一人、思い出の場所巡りをしていた。

 ギルド長だったモモンガには一足早く挨拶をしてある。

 最後の最後までずーっとログインしていたのは彼とメリエルの2人きりだけだった。

 

 

 別段、それが悪いとは思わない。

 リアルの事情とはどうしようもないものだ。

 

 ただ、メリエルは唯一の心残りがある。

 

 

 かつて、彼女は世界を敵に回して戦った。

 具体的には9人のワールドチャンピオン、そしてそれを支援する数百人の廃人共を相手に。

 

 あのときは引き分けだった。

 

 つい昨日、ファウンダーを貰った。

所持していたプレイヤーから、こっそりと連絡が来ており、最後だから渡します、ということでメリエルは有り難く頂戴していた。

 

 さらには破格の安さで大放出された装備やアイテム類を全て買い占めて、無限倉庫に放り込んである。

 もはや意味のないことであったが、それらを駆使すれば世界を相手に回しても勝利できるとメリエルは確信している。

 

 とはいえ、それも叶わぬ夢だ。

 

 あと30秒もすれば、Yggdrasilは終わる。

 

 アーコロジーの一等地に家が1軒建つくらいの金額を注ぎ込んだが、悔いなど全く無い。

 

 世界最強の称号こそ手に入れられなかったが、十分に楽しんだ。

 

 ただ、もし夢でもいいから叶うならば。

 

 次こそは世界最強になりたい――

 

 ネトゲのゲーマーなら誰もが一度は思う、それを強く思いながら、メリエルは――目の前が真っ暗になった。

 

 

 そして――妙なことになっちゃったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛歌、私もサーヴァントっていうのを召喚してみたいんだけど」

「また突然ね、麻菜」

「だってほら、いつか起こるかもしれない聖杯戦争とかいうのに参加してみたいし……」

 

 そう言ってきた同い年の従妹である玲条麻菜に沙条愛歌はちょろっと調べてみる。

 こういうとき根源に接続しているのは非常に便利だ。

 

 ただし、根源でも知ることができないものがある。

 従妹は根源を探しても見つからない、分からない存在だ。

 唯一発見できたことといえば彼女が根源を通り道としてこちらにやってきたことくらい。

 

 愛歌にとって完全な未知である麻菜は幼い時に親族が集まる新年会で出会って以来、非常に仲が良く、中学3年生となった今ではすっかりと色々な意味で深い仲である。

 

 

 そんな麻菜に頼まれごとをされると、二つ返事で愛歌は根源で調べ物をしちゃうのである。

 そして今回も愛歌は麻菜の希望通りのモノを見つけた。

 世間一般の倫理観で考えると経歴とか色々と問題があるが、麻菜にとっては問題ないものだ。

 

「あなたにぴったりなのがいるわ」

「マジで?」

「ええ。召喚の呪文とかそういうのはいる?」

「いつものアレを使うからいいわ」

「私が言うのもなんだけど、本当にあなたの魔法ってぶっ飛んでいるわね……」

 

 

 麻菜の扱うものは神霊の権能に類似している。

 

 ただし、彼女の場合はこの世界の法則を異界のもので上書きし、行使するものだ。

 普通ならば抑止力が働くのだが、あいにくと抑止力の対象となるのはこの星の中で生まれたもの限定であり、星の外で生まれたものであれば抑止力による排斥対象にはならない。

 ましてや麻菜のような文字通りの世界の外側から来た存在――フォーリナーに対して、抑止力は意味をなさない。

 間接的に滅びを回避するように抑止力が動くかもしれないが、それでも守護者が降臨するという形にはならないのだ。

 

 もっとも本人には全くそういう自覚はなく、基本的にはやりたいことをやっているというのが愛歌の印象である。

 何かしらの要因で偶々紛れ込んでしまったのかも、と愛歌は考えているが、彼女にとって麻菜がどうしてここにいるのかという理由は瑣末事だ。

 

「名前はタマモヴィッチ・コヤンスカヤよ。いつものアレでアレしてアレすればいいと思う」

 

 そうして、麻菜はいつものアレ――ウィッシュ・アポン・ア・スターを流れ星の指輪(シューティングスター)をはめて使用したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は瞬く間に進み、麻菜が高校生となったある日のことだ。

 

「ひゃっはー! 今日も食べ尽くしてやる!」

「相変わらず、すごい食欲だねぇ」

 

 物凄い勢いでメガ盛りの牛丼を食べていく――それでもその仕草は誰もが魅了されるほどに優雅――な友人に藤丸立香は呆れていた。

 

 彼女の友人は超がつくほどにハイスペックである。

 街に出れば誰も彼もがその容姿に見惚れ、その立ち振舞いも、惚れ惚れとするほどに優雅。

 学力や運動能力においてもずば抜けており、日本だけでなく各国の大学から早くもスカウトがきていることを知っている。

 聞いた話によれば、彼女の従姉も結構なハイスペックらしい。

 

 しかし、そんなハイスペックな友人が超がつくほどの大食いであることは意外と知られていない。

 

「何で私、あんたと友人なんだろうね?」

「何でって言われても……中学時代からの腐れ縁? 高校まで一緒なんてねぇ……」

 

 そんな会話をしているうちにまるで魔法のように、牛丼は彼女の胃に収まっていた。

 5分もかからず平らげた友人に、いつか大食いチャンピオンとかに出ればいいのでは、と立香は常々思う。

 

「というか、その容姿で日本人であることに私は常々疑問なんだけど」

 

 黄金の髪に黄金の瞳というおよそ、日本人離れした容姿だ。

 立香としては美しさを分けてほしい、と何度も思ったことがある。

 

「なんかあれじゃないの、先祖に外人がいたとかそういうの。隔世遺伝っていうやつで。従姉も同じ感じだし」

「そんなもんか。うちの家系は平々凡々だからなぁ」

 

 そう会話をしながらも、2人は牛丼屋を出た。

 夕暮れの街を歩くと、早くも友人がクレープ屋やらたこ焼き屋やらに視線をやり始めた。

 底なしの食欲に立香は苦笑しつつ、色々と苦労もあるんだろうな、と思う。

 

 嘘か本当か分からないが、麻菜は立香にだけこっそりとカミングアウトをしてきた。

 

 私は同性が好きなの――

 

 何気ない一言だ。

 しかし、まだまだ色々と偏見のある社会。

 

 立香としては、もしかしたら彼女が自分のことを好きなのかもしれない、と思うときもある。

 こればっかりは本人に聞きたいところだが、あいにくとそんな勇気はない。

 

 ただ、もしそうであったなら受け入れてもいいかな、という程度に好意はある。

 

 美人で性格に多少の問題はあるが許容範囲内で、話題が豊富で話していて楽しい。

 

 冷静に考えても普通に優良物件なのだ。

 性別程度、別に何も障害にならない。

 

 

 そのとき、友人が何気なくスマホを見た。

 

「あ、従姉からいっぱい着てる。振動無しに設定していたから気づかなかったわ」

 

 そう言って立香にスマホの画面を見せると100通以上のメールがきているのが見えた。

 スマホを見せられたのは何気に初めてだな、と彼女は思いつつも問いかける。

 

「好かれているの?」

「普通を超えた関係ではあるかも。妹のほうとは普通なんだけど……というか従姉って言っても同い年なんだけどね」

 

 従姉とはどんな関係なんだ、と立香は思ったが、ツッコミを入れると面倒臭そうなので、ふーん、と答えるに留めた。

 

「あ、コヤンスカヤからもきてる」

「秘書の人だっけ?」

「うん。めっちゃ有能なのよ」

「あんた、迷惑を掛けているでしょ? なんか夜中に牛丼食べたくなったから買ってこいとか言ってそう」

「それはまだないわ。ピザとかカレーならあるけど」

 

 そんな他愛もない話をしていると立香の目にあるものが飛び込んできた。

 

「あ、献血やってる。麻菜、あんたは無駄に血の気が多そうだからやってきなよ」

「一緒にくる?」

「私はパス。あんたの血とか見たくないし……変な実況つけそうだし」

「今、吸われています。ああ、こんなに! 私の血がって感じで考えていた」

「バカ」

 

 けらけら笑いながら友人は献血のテントへ入っていった。

 TPOは弁えている友人なので人前で変なことはやらかさない筈であると立香は思う。

 

 10分くらいして彼女は戻ってきた。

 

「なんかスカウトされた。国連の職員にならないかって」

「国連の職員? 献血で?」

「ほら私、アレコレやってるからさ。小遣い稼ぎに色々とネットで……」

「小遣いの範疇を超えているような気もするんだけど……で? どこなの? 国連って色々あるじゃん」

「人理継続保障機関フィニス・カルデアってとこ。なんか世界平和がどうたらこうたら」

「行ってきたら? 自己PRで書けるじゃん」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

 お土産よろしく、と立香は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは嘘かしら?」

 

 オルガマリー・アニムスフィアは報告書に目を通し、思わずそんな感想が口から出てきた。

 極東の日本でレイシフト適正100%という、オルガマリーからすれば羨ましくなる程だ。

 

 同封されている写真を見たとき、オルガマリーは女としても勝てないことを悟った。

 あまりにも美しかったのだ。

 

「……落ち着くのよ、オルガマリー。彼女に悪意はない」

 

 そう自分に言い聞かせて、彼女は溜息を吐いた。

 

「玲条麻菜、ね……」

 

 一般人枠のマスター候補、最後の1人が決まって嬉しいのだが、色々と負けた気がして、オルガマリーは複雑な心境だった。

 

 

 

 


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