全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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海賊には海軍をぶつけるに限る なお私設海軍の模様

 オルガマリーは超がつくほど機嫌が良かった。

 それもその筈で、彼女はレイシフト適性と同時にマスターとしての適性も備えていることが確認された。

 それだけでも飛び上がるくらいに喜んだが、彼女が召喚したサーヴァントがより拍車を掛けた。

 

 アーチャーとしてヘラクレスをオルガマリーは召喚したのだ。

 彼女が喜ばない筈がない。

 

 これなら次の特異点も私と虞美人で問題ないわね、という具合で鼻高々だ。

 虞美人としても麻菜よりはオルガマリーの方が性格的な意味でマシであり、また基本的に項羽と一緒であれば文句などない。

 

 そんなこんなで準備万端整えて、第三の特異点へと彼らは無事にレイシフトしたのだが――

 

 

 

 

 

 

 

 オルガマリーが嘆いていた。

 

「泳いでいくか、空を飛ぶか、海面を走っていけばいいんじゃない? がんばってー」

 

 麻菜はモニター越しにそう言って、けらけら笑いながらポテチを貪り、コーラをごくごくと飲み干す。

 

「うーん、これは予想外だねぇ」

「他の場所にレイシフトしても、海の上か、あるいは現状と変わらないかもしれない」

 

 ダ・ヴィンチとロマニは2人共苦笑していた。

 しかし、彼らは麻菜が持ってきたポテチを食べる手を止めない。

 

 意気揚々とレイシフトしたオルガマリー達を待っていたのは青い海であった。

 幸いにも海上に出ることはなく、どこかの孤島の海岸に彼らは降り立ったのだが、どうしようもできなかった。

 海らしい、ということまでは事前に分かっていたのだが、まさか太洋のど真ん中みたいなものだとは誰も予想していなかった。

 オルガマリー達が現地へとレイシフトしてカルデアが明確に観測した結果、ようやく実態が判明していた。

 

 

 レイシフトで送ることができる物資は制限があり、麻菜のようなとんでもない倉庫でも持っていない限りは大きすぎたり重すぎたりするものは送れない。

 

 ゴムボートくらいなら送れるが、ゴムボートで海に漕ぎ出せというのは自殺行為だ。

 運良くフネでも通りかかればそれに乗せてもらうことができるかもしれないが、そんなに都合良く通りかかるものでもない。 

 

『ちょっと後輩。どうにかしなさいよ』

「どうにかしなさいよって、ぐっちゃんパイセン。言い出しっぺはマリーなんだから。それに労使交渉は保留のままだし」

『あんたねぇ……! こういう時は協力しなさいよ!』

「えー、せっかくマリーとぐっちゃんパイセンと項羽とヘラクレスの活躍の場所を提供したのに……」

 

 麻菜が渋っていると虞美人が突然横を向いた。

 項羽様があの馬鹿後輩なんかに頭を下げる必要はありません、とかなんとか彼女は言ったが、やがて通信の相手が変わった。

 

『主導者よ、ここは一つ、私に免じて手助けをしてくれないだろうか?』

『色々と事情があるのは察するが……私や彼ならともかく、マスター達では船もなく海を渡るのは少々困難だ』

「むぅ……項羽とヘラクレスに言われると、さすがの私も折れざるを得ないわね」

『おいコラ後輩。私の時と態度が違いすぎるんじゃないか!?』

 

 横から虞美人が顔を出して不満を表明したが、麻菜は首を傾げる。

 

「いや、ぐっちゃんパイセンも項羽に頭を下げられたら、そうなんない?」

『なるに決まっているじゃないの! あんたも項羽様の偉大さが分かったんなら、さっさと手助けしなさい!』

「ぐっちゃんパイセンを嫁にできた項羽が羨ましい。ぐっちゃんが奥さんなら明るい家庭になりそう……あ、子供ができたら言ってね。盛大に祝うから」

『お、お前は何を言っている! まったく! そんなことを言っても何も出ないぞ!』

 

 顔を真っ赤にしている虞美人に対し、項羽は朗らかに笑い、ヘラクレスも微笑みを浮かべている。

 そこへオルガマリーがおずおずと告げる。

 

『麻菜、その……交渉はこの特異点を解決したら再開っていうことで……』

「仕方がないわねぇ……それじゃ選手交代で。私が出るから、いったん戻ってきて頂戴」

 

 麻菜としてもこの展開は一応予想していた為、既に人選はしてあった。

 

「私が趣味で作ったフネを、艦隊を披露する時が来た……!」

 

 ぐへへへ、と怪しく笑う麻菜を見たロマニやダ・ヴィンチ、他大勢のスタッフ達は本当にこれが正しい選択であったのか、判断に困るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでオルガマリー達がカルデアへと帰還し、入れ替わりに麻菜がサーヴァント達を率いてレイシフトを行った。

 麻菜達がレイシフトにより到着したのは先程オルガマリー達がレイシフトしてとんぼ返りすることとなった小島だ。

 

 オルガマリー達は麻菜が何をやらかすか、怖いもの見たさであったが――麻菜は予想の斜め上をいっちゃったのである。

 

 

 

 

「はい、というわけでやってまいりました3つ目の特異点。ご主人様、早速なんですが、私達が乗っているフネ……何ですか?」

 

 玉藻はそう傍らの麻菜へと問いかけた。

 

「海、海賊、海賊には海軍、海軍といったらこの時代、ロイヤルネイビー。私がレッドコートだけだと思ったら大間違いよ」

「よく分からない論法をありがとうございます」

 

 そんな2人の周囲には忙しなく動き回る船員達。

 

 サングラスをかけて、デッキチェアでくつろぐクー・フーリンとスカサハ。

 マシュは初めて乗る船に興奮し、甲板から見える海原を眺めている。

 哪吒は麻菜の傍に控えており、カルデア一行の雰囲気は特異点修復などという大きな目的があるようには見えず、穏やかなものであった。

 

 

 海なら歩いて渡れるだろう、空を飛べばいい、と各々が案を出したところで麻菜は宣言した。

 

 今こそ我が艦隊を披露するとき、と。

 

 麻菜が召喚したのは多数の戦列艦とフリゲートだった。

 ユグドラシルで作ったものだが、制限の多い海上で戦おうという酔狂なプレイヤーは少数であり、ギルドメンバー達やフレンド達に見せびらかす以外に用途がなかったものだ。

 

 ホワイト・エンサインを掲げているが、よくよく見ると国旗の描かれる左上部分には麻菜がユグドラシル時代に使っていた紋章が描かれている。

 

「すっごく快適なんですけど、これ大丈夫ですか? 海賊皆殺し的な雰囲気を周りに見せつけているんですが」

「海賊が聖杯を持っているなんて、たぶんないから大丈夫よ。大抵ほらあれよ、黒幕の眷属とかそれに関連するのが持っている筈だし……ちなみに戦列艦やフリゲートはまだまだいっぱいおかわりできるわよ」

「なんでそんなに持っているんですか……」

「レッドコートとかと比べると、こっちは自由に弄れる範囲が広くて……つい興がのって……」

「船の装飾とか凝ってますしね。で、おかわりはどのくらい?」

「……戦列艦だけで100隻くらい。フリゲートとかスループとか含めると……」

 

 玉藻は溜息を吐いた。

 戦列艦が使われていた時代の国家を余裕で征服できる程度にはあることに。

 

「日本の鉄甲船とか安宅船もあるわよ」

「趣味なんですね」

「趣味なのよ」

 

 それなら仕方がなかった。

 

 

 

 

『マスター、前方で海賊同士の抗争が起きています』

 

 艦隊前方の索敵の任に就いていたオルトリンデからの念話が麻菜に入ってきた。

 前回の10連召喚でやってきて、いきなり麻菜をエインヘリヤルに勧誘したという中々に剛の者だ。

 

「玉藻、索敵」

「はいはい、玉藻にお任せあれ……左舷側は生身で、右舷側はサーヴァントですね」

 

 一瞬で索敵を完了する玉藻。

 正直なところ、麻菜としては玉藻をぶつければ5秒くらいで物事は解決しそうな気がするが、これも魔術王に備える為だ。

 

 というより、魔術王にも玉藻をぶつければ勝てそうな気がすると麻菜は思う。

 

「どのくらいの距離か分かる?」

「おおよそ20海里……約38kmってところですね」

「一瞬で海里をkm換算にしてくれる玉藻ってやっぱり気が利くわね」

「いえ、それほどでも。で、ご主人様、どうするんですか?」

 

 玉藻の問いに麻菜は頷き、傍らで待機していた哪吒に告げる。

 

「哪吒、オルトリンデと合流しつつ周辺索敵。他に敵がいるかどうか確認して」

「承諾」

 

 哪吒もまた空へと舞い上がり、高速でオルトリンデのいる方向へとかっ飛んでいった。

 

「さて、玉藻。古き良き時代の海戦といきましょうか?」

 

 麻菜はそう言いながら、とあるアイテムを取り出した。

 

「なんですか、その将棋盤みたいなの」

「将棋盤みたいなやつだけど、実は違うのよ。これは戦場の指揮者(コンダクター・オブ・バトルフィールド)っていうアイテムで、簡単に言うと、ここにある駒を指揮棒で動かすと、その通りに味方が動くっていうやつよ」

 

 便利なものがあるものだ、と玉藻はそれで済ませることにした。

 深く考えると精神衛生的にまずいのだ。

 

「というわけで、生身の海賊には手出しせず、サーヴァントの方を叩くわよ」

 

 麻菜がそう言って、指揮棒でもって盤上の駒を動かした。

 すると、甲高い鐘の音色が戦列艦の至るところに響き渡る。

 

 船員達の動きはより忙しないものとなり、船内からはマスケット銃を手に持った兵士達が飛び出してきた。

 彼らが船上で整列をしている様を見つつ、麻菜は駆け寄ってきたマシュへと告げる。

 

「先輩、敵ですか?」

「ええ。あいにくと優雅なクルージングとはいかないみたい。マシュ、全部終わったら世界一周クルーズに行きましょう」

 

 マシュは笑みを浮かべて頷いた。

 当然玉藻は面白くない。

 

「ご主人様? 私も連れて行ってくださいませんか?」

「勿論だわ。ただ、玉藻とはどちらかというと京都あたりでのんびり過ごしたい。玉藻にあちこちの神社仏閣を解説してもらいながら」

 

 玉藻は衝撃を受けた。

 もしかしてババ臭く思われているのでは、と。

 

「あの、ご主人様。私ってそんなに歳がいっているように見えます?」

「20代前半くらいに見えるわね」

「ありがとうございます。その、何で京都に?」

 

 問いかけに不思議に思ったのは麻菜だ。

 

「私が京都好きだから。文化遺産とか歴史遺産大好きだからに決まっているじゃないの。で、当時を生きた玉藻がいるから、これは案内してもらうしかない、という考え」

 

 なるほど、と玉藻としては納得できた。

 とはいえ彼女としてはもっと色々と遊びたいわけで。

 

「というか、世界一周旅行は全員連れて行くのは確定しているので、玉藻の京都のやつは別口で、2人きり」

「あ、マジですか。2人きり……ぐへへ」

 

 笑みを浮かべて狐耳をぴこぴこと動かす玉藻に麻菜はほっこりする。

 

「さて、仕事の時間よ。マシュ、カルデアに状況報告を。玉藻、生身の海賊に使者として出向いて。くれぐれもこちらが敵だと認識されないように。それとクー・フーリン、スカサハ。敵の伏兵に警戒して。発見次第、容赦なく始末を」 

 

 玉藻が一瞬で消えて、クー・フーリン、スカサハが共に戦準備を整え、マシュがカルデアへと連絡を入れている傍ら、麻菜は戦場の指揮者(コンダクター・オブ・バトルフィールド)でもって艦隊を動かした。

 

「どうせなら、アレをやりましょうか」

 

 麻菜は怪しく笑い、無限倉庫から取り出し、マジックアイテムを使用する。

 乗り物の速度を上げるアイテムだ。

 使用することで速度を30%上昇することができるものだ。

 

 追い風が艦隊に吹き付ける。

 船速が上がっていくのが目に見えて分かる。

 

「さぁ海賊共。終わりの時間だ」

 

 麻菜のテンションはとても上がっていた。

 故に、ちょっとお着替えをすることにした。

 

 服装は大事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、海賊達はどちらも大混乱に陥っていた。

 突如として現れた多数の戦列艦とフリゲートで構成された艦隊。

 

 海賊ではないことは明白であり、艦隊の所属国家の識別がすぐさまに行われたが――

 

「ホワイト・エンサイン! ホワイト・エンサインだ! イギリス海軍だ!」

 

 どちらの見張りも絶叫した。

 よく見ればイギリス海軍の旗とは微妙に違ったが、彼らの中でホワイト・エンサイン=イギリス海軍である。

 ただし、その後は全く別の反応を示した。

 

「あ、なんだ、アタシの雇い主か。なら問題ないや」

 

 一方は安堵を。

 

「イギリス海軍だとぉ!? くそったれが!」

 

 もう一方は悪態を。

 

 

 

「どうする!? 黒髭!」

 

 悪態をついた方――黒髭はメアリーからそう問われた。

 

「どうするもこうするもねぇよ。向こうは最新式の戦列艦とフリゲート、合計30隻余り。国同士の戦争でお目見えするような戦力だ。俺達海賊が敵う相手じゃねぇよ」

 

 黒髭はそう言うも、その目はギラギラと輝いている。

 メアリー、そしてアンは黒髭のこういうところが尊敬できた。

 

 絶望的な状況であっても、決して諦めないところだ。

 

「だがな、俺には切り札がある」

 

 黒髭はそう言って、懐から黄金の杯を取り出した。

 

「さぁ、来い。かつて俺と共に海を駆けた者共よ。ちっとばかり、手強い相手だが、いつも通り奪い、そして殺すだけだ」

 

 真面目にやっているときは素直に尊敬できるんだけどな、とメアリーもアンも思う。

 

 そして、黒髭の願いは叶えられる。

 彼の海賊船の背後に無数の海賊船が出現する。

 大小様々で、ざっと40隻余り。

 

「まさかイギリス海軍とやり合うことになるとはなぁ……」

 

 黒髭は首のあたりを撫でる。

 そのときであった。

 

 彼は目を疑う。

 敵の艦隊が陣形を組み替えている。

 単縦陣から複縦陣へ。

 

 見惚れる程に見事な一糸乱れぬ艦隊機動。

 それだけで相手の練度は分かる。

 

 紛うことなきイギリス海軍。

 これほどの高練度ともなれば植民地艦隊などではなく本国艦隊。

 

 しかし、敵前において陣形を変えるなど黒髭は首を傾げるしかない。

 何をやるつもりか分からなかった。

 だが、黒髭の長年の海賊としての勘はよろしくないことが起きると告げている。

 

「おい、お前ら。いつでもやれるようにしておけ。逃げられねぇからよ」

 

 相手の艦隊速度は速い。

 これでは逃げ切れないだろう。

 

 黒髭は懐から単眼鏡を取り出し敵艦を見た。

 船の大きさと砲門数から敵がどのタイプの戦列艦か把握する為に。

 

「100門艦が5隻もいやがる……イギリス海軍め、また気張ったものだな」

 

 100門艦――名前の通り、大砲の砲門数だ。

 イギリス海軍における一級戦列艦――いわゆる主力艦だ。

 

 大きさや重さから100門艦は鈍足である筈なのに、敵艦は目を疑うような速度を出している。

 

「何かを使っていやがるな……しかし、どうするつもりだ?」

 

 こちらは敵の艦隊に対して、半包囲する形であるが――

 

 そのとき黒髭は気がついた。

 複縦陣でもって、まっすぐにこっちに突っ込んでくることに。

 

 彼は戦慄した。

 それは彼の生きていた後の時代に起こった海戦にて使われた戦術だ。

 イギリス海軍であり、戦列艦とフリゲートを自由自在に指揮し、この戦術を迷うこと無く選択できる。

 そんな指揮官を黒髭は知識として知っていた。

 彼が死んだ後の時代ではあったが、幸いにも現界時に与えられた知識にあったのだ。

 

 

 

 

 敵が突っ込んでくる、と叫ぶ声。

 しかし黒髭は動じず、敵の先頭艦――三層甲板を持つ巨大な戦列艦、その船上へと単眼鏡を向ける。

 

 そして見た。

 

 美しく長い金髪を海風に靡かせながら、白い軍服を纏って凛々しく佇む少女。

 10代後半くらいだろうか、しかし、その顔は自信に満ちていた。

 

 黒髭は大きく笑う。

 

 ぎょっとした顔を部下達やアンとメアリー、そしてヘクトールが向けてくるが、そんなもの構うものか。

 

「おい、お前ら! 敵が分かったぞ!」

 

 黒髭の叫び。

 同時に、敵の先頭艦が黒髭達の乗るアン女王の復讐号に間近に迫る。

 横をすり抜ける形であるが、それで終わるわけがない。

 

 斜め前に来た段階で敵艦の砲門が開かれた。

 次々と砲弾が飛んでくるが、風切音に負けないよう黒髭は叫ぶ。

 

「敵はネルソンだ! こいつはすげぇや! チンケな海賊を潰す為に英雄が出てきやがった! お前ら、暴れるぞ! ネルソンに海賊の意地を見せてやれ!」

 

 黒髭は懐から銃を取り出して、敵船目掛けて撃ち放つ。

 すぐさまお返しがきた。

 敵の船上にはマスケット銃を構えた敵兵がずらりと並び、こちらへと銃口を向けている。

 

 一斉に敵船から銃弾が飛んでくる。

 ただの銃弾ならサーヴァントには効かないが、どうにもその銃弾はただの銃弾ではなさそうだ。

 

 現に運悪く当たった部下の何人かが絶命して、消えていった。

 

 そのときだった。

 

 復讐号が揺れた。

 黒髭は何が起きたかを目撃し、笑った。

 

 敵の先頭艦が、まさに斜め前を横切らんとしていたフネが進路を変えて、こちらに体当たりをしてきたのだ。

 ただでさえ大きさも重さも圧倒的に相手が上。

 黒髭の船などひとたまりもないが、この船は宝具だ。

 体当たり程度なら何とか耐えられる。

 

 しかし、それで終わる筈がない。

 

 敵船から縄梯子が次々と降ろされた。

 船上から敵兵達が援護射撃、その間に縄梯子を次々と敵兵が降りてくる。

 

「撃ち返せ! 皆殺しだ!」

 

 黒髭は部下達を叱咤し、銃を放つ。

 彼の撃った弾丸は縄梯子を降りる敵兵の1人を貫いた。

 

 悲鳴と共に落ちる敵兵。

 黒髭は笑みを浮かべる。

 

 彼だけではない。

 次々と部下達、そしてアンとメアリーが敵兵に対して攻撃を加える。

 

 悲鳴と怒号、銃声が木霊するが、敵兵の量は圧倒的だった。

 

 撃たれて落ちる数よりも、降りてくる数のほうが多い。

 メアリーが真っ先にカットラス片手に駆け出して、降りてくる敵兵を血祭りにあげるも、上からの狙撃は厄介だ。

 

「俺の船に土足で上がり込んでくるんじゃねぇ!」

 

 黒髭は叫び、船上に降り立った敵兵達を数人纏めて殴り飛ばす。

 その横合いから銃剣を振りかざした敵兵がくるも、黒髭は銃でもって撃ち殺す。

 

 戦況は黒髭達に圧倒的に不利だった。

 

 他の海賊船の様子を見る暇はないが、良い状況にはないだろうと黒髭は予想する。

 

 事実、突っ込んできたのはたった1隻。

 残りの敵艦は全て黒髭が呼んだ多数の海賊船に攻撃を仕掛けているのだろう。

 

 やがて降り立った敵兵達は船上にて陣形を組み上げると突如として攻撃が止まった。

 

 

 訝しげに黒髭は敵兵を見た。

 

 するとそのときだった。

 敵の船から人が飛び降りてきた。

 彼女は難なく着地し、姿勢を整えると問いかけた。

 

「さて、海賊には2種類いる。1つは泣いて喚いて命乞いをする輩。もう1つは潔い輩。あなたはどちらかしら?」

 

 黄金の瞳が黒髭を真っ直ぐに射抜く。

 黒髭は真っ直ぐにその視線を受け、睨み返す。

 

「俺は黒髭だ。俺が命乞いなんぞすると思うか?」

「それは失敬。あいにくと海賊の名を覚えるような記憶力は無くてね。あなただって、そうでしょう?」

「違いない。だが、お前のことは知っているぜ。この稼業……いや、船乗りをやっていて知らねぇならそいつはモグリだ」

 

 黒髭はそう告げて深呼吸をし、ゆっくりと口を開く。

 

「ホレーショ・ネルソン。お前のことは知っているぜ。俺が撃ち殺してやるよ。お前の死因通りにな」

 

 言われた方は目を見開いて驚き、そして困ったように形の良い眉毛をハの字にする。

 黒髭はその様子に疑問を抱く。

 

 そして、決定的であったのは重そうな盾を担いで遅れてやってきた少女。

 彼女は問いかけた。

 

「何で先輩がネルソン提督と間違われているんですか?」

 

 黒髭は目をパチクリとさせた。

 

「あのー、黒髭さん」

「お、おう?」

「大変申し訳ないんだけど、私はネルソンじゃないわよ」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる少女に黒髭はこれまでの数々の言葉を思い出し、悶絶した。

 

「せ、拙者がかっこよく決めたのは全部……全部大外れでござるか!?」

 

 おーまいがー、と両手で頭を抱える黒髭。

 

「というか、じゃあ、女神のように美しいあなたはどこの誰でござるか!?」

「私は玲条麻菜よ。趣味で世界最強を目指していて、仕事で世界を救うことやっていて、あとこの艦隊とか兵士とか私の創ったやつ」

「何でござるか! その属性てんこ盛り!」

「うるさいわね、事実なんだからしょうがないでしょう。で、黒髭」

 

 麻菜の呼びかけに不貞腐れたように黒髭は頬を膨らませつつも、顔を向ける。

 非常に絵面が悪かったが、麻菜は別に何とも思わないので指摘はしない。

 

 キモい、という声が彼の背後――アンとメアリーから聞こえたくらいだ。

 

「情報を頂戴」

「嫌ですぞ。海賊相手にそんなことを言うなんて、ちゃんちゃらおかしいでござる」

「じゃ、戦列艦おかわりする? もう100隻くらい出せるけど」

「そういう問題ではないですぞ。心の問題でござる」

 

 麻菜はやれやれと溜息を吐いた。

 

「じゃ、これ」

 

 麻菜は金のインゴットを1本取り出して、それを彼へと放り投げた。

 

「むむ……これは良いもの……しかし、これだけではなぁ……」

 

 黒髭の言葉に麻菜はニヤリ、と不敵に微笑んだ。

 彼女が指を鳴らせば、船上の至るところに金塊の山が出現した。

 あまりの重みに船が一気に沈み込んでいく。

 しかも、沈下が止まらない。

 

「おおぅ! これは嬉しいけどやばい! 金塊の重みで船が沈んだなんて恥も恥、大恥でござるぞ!」

「欲深い海賊に相応しい末路ではなくて?」

「どんなに欲深くても、船が沈む程に財宝を積むのは馬鹿ですぞ!」

「じゃあはい」

 

 麻菜が再度指を鳴らすと金塊の山は全て消えた。

 沈下も止まり、沈み込んだ分だけ船が浮かび上がった。

 

「黒髭、あなたが演じているように、私もある程度演じさせてもらっているわ。鼻が利くあなたなら、分かるでしょうけど」

 

 麻菜の言葉に黒髭は頷いた。

 彼の勘は、目の前の少女が見た目通りではない、と警鐘を鳴らしていた。

 

「みたいですなぁ。それに、麻菜氏は海賊よりもおっかないことをしそうだ」

「ええ。例えば死はこれ以上苦痛を与えられないという意味で、安息であると理解させてあげたりとかね」

「恐ろしいでござるな。だが、それもまた良し。で、何が知りたいですかな?」

「あなたが知っていることを全部。あとついでにどうかしら? 私に雇われない? 報酬は弾むわよ」

 

 ほう、と黒髭は目を細める。

 杓子定規ではない、こういう輩のほうが彼としては好ましかった。

 故に彼は告げる。

 

「報酬次第ですなぁ」

「そうね……好きなだけ金塊を与えるというのはどう? ついでに、私ってカルデアという組織に属しているのだけど、今回の一件が終わった後、そっちに召喚されるっていうのは?」

「金塊は魅力でござるなぁ」

「あと私と殺し合いできる権利を……」

「あ、それはノーセンキューでござるぞ。むしろ、麻菜氏を抱く権利が欲しいところでござる」

 

 麻菜は両手でバツ印を作ってみせる。

 

「申し訳ないけど、そっちは既に予約済みなので」

「ぐぬぬ、そう真面目に返されると拙者としては言い返せない……ど、同人誌! 麻菜氏の同人誌の発行許可を!」

「同人誌は構わないわ。ジャンルも無制限に。リョナもグロもOK」

「え、マジで?」

「マジ。というか、黒髭、随分とサブカルチャーに詳しいのね」

「いやぁ、拙者、自由を求める故に……つい」

「なんだ、同類か。というわけで来なさいよ」

「承諾したでござる」

 

 麻菜は黒髭へと歩み寄り、右手を差し出した。

 対する黒髭もその手を握った。

 

「海賊らしく、ここで私を人質にするとかしないの?」

「海賊の勘ですな。おそらく、ここにいる誰よりも一番おっかない人物を人質にしてしまうことになる、とね」

「勘に感謝しときなさいよ」

 

 

 こうして黒髭達は麻菜へと協力することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、見てください。私の予想通りです」

「いや、本当にアンタが言った通りの展開になったわ……」

 

 黒髭を連れて、麻菜達はもう一方の海賊船へと乗り込んだ。

 そして、玉藻が開口一番そう言ったのだ。

 それに同意するのはフランシス・ドレイク。

 

「デュフフフ、ババア、命拾いしたでござるな……麻菜氏の美しさとか拙者への理解度、その他諸々で拙者は麻菜氏の愛の奴隷となったでござるぞ」

「黒髭、もうちょっとキャラを考えなさいよ……そうすりゃカッコいいのに」

「おっと、これは麻菜氏の的確な指摘に拙者、嬉し涙の雨霰……とはいえ、これでいいのでござる」 

 

 麻菜はやれやれと溜息を吐いてみせる。

 

「ご主人様、簡単にしか説明していませんので」

「具体的には?」

「敵ではないということと、ご主人様が敵を味方につけてやってくるという予想くらいで」

「なるほど、十分だわ」

 

 麻菜はそう告げて、真っ直ぐに相手を見つめる。

 美しいというよりは凛々しい女性だ。

 

「私は玲条麻菜。率直に言うと、私に雇われない?」

「アタシはフランシス・ドレイクだ。いくらだい?」

「とりあえずはこれだけ」

 

 麻菜は指を鳴らし、金塊の山を空いている場所に出現させた。

 ドレイクは目を輝かせた。

 

「どうかしら?」

「よし、任せな。太っ腹な雇い主は最高に大好きだ。ましてや懐が広ければ尚更だ」

「とりあえず、黒髭も交えた情報交換といきましょう。私達の目的はいわゆる聖杯と呼ばれる黄金の杯の確保で、この変な海域をどうにかすること」

 

 黄金の杯とドレイクと黒髭は同時に呟いて、そして各々が懐からそれを取り出した。

 陽の光を浴びて、黄金に輝く杯を。

 

 麻菜はそれを見て告げる。

 

「……ちょっとお二人さん。それぞれに金塊は……嵩張るから、宝石を渡すからそれ、くれない?」

「ご主人様って強運ですねぇ……」

 

 玉藻のしみじみとした呟きが虚空に消えていった。

 

 

 ドレイク、黒髭ともに代金があるなら聖杯を手放すことに異論はなく、それらはあっさりと麻菜へと渡された。

 なお、黒幕から派遣されていた黒髭の部下としてヘクトールがいたが、いくら彼であっても、周りにいるサーヴァントが問題だった。

 

 

「……これ、無理だよね」

 

 小さく呟いた彼の顔は諦めの境地だった。

 クー・フーリンとスカサハ、そして玉藻。

 いくらヘクトールが優れた戦士であっても、無理であった。

 

 誰か1人であればヘクトールは隙を突いて、聖杯を奪って逃げるということもできた。

 だが、格上が――特に玉藻は無理だった。

 奪おうとした瞬間に自分が死んでいる、というようなくらいに圧倒的な差があった。

 

 しかもだ。

 

『妙なことはしないほうが長生きできますよ?』

 

 頭に響く玉藻の声。

 見抜かれていたのだ。

 

『オジサン、仕える主を変えたいんだけどなぁ……』

『ああ、それならご安心を。ちょちょいのちょい』

 

 再度響く玉藻の声。

 何事かの呪いだろうか、それを玉藻がやっているのが見えた。

 すると、自身を縛るものが解けていったのをヘクトールは感じた。

 

「……まあ、いいか」

 

 ヘクトールは麻菜をマスターとするサーヴァントに寝返った。

 とはいえ、それももはや意味がない。

 

 特異点は聖杯を回収したことで、修復が始まっているのだから。

 

 聖杯を取り返してこい、と連中が言ったと思ったら特異点が修復されている――というのが状況だろう、とそう思うとヘクトールは笑いがこみ上げてきた。

 

 

 一方、麻菜はそんなことは露知らず、勧誘に熱心だった。

 

「ドレイク、カルデアに来なさいよ。進化したフネを見せてあげたいし、何より、あなたにフネを与えたい」

「本当かい? 麻菜は太っ腹だねぇ。是非、行かせてもらうよ。それにこんなに素敵な土産、もらったことだし」

 

 金塊、ダイヤの入った壺、そして極めつけはドレイクの首に掛かったサファイアのネックレス。

 ネックレスは興がのった麻菜がプレゼントしたものだ。

 

「デュフフフ……拙者も、契約通りにお邪魔させてもらいますぞ」

「ええ、楽しみに待っているわ。しかし、今回の特異点は一瞬だったわねぇ……いつもこうだといいんだけど」

 

 麻菜の言葉を聞いたヘクトール。

 

 オジサンが妨害する予定だったけど仕方ないね、と思いつつ口を開く。

 

「あ、オジサンも行っていいかい?」

「ヘクトールだっけ? ええ、あなたの国の話や文化について、色々聞きたいから勿論よ」

「それは良かったよ。オジサン、何にもやれてないけど、それなりには強いからね」

 

 黒髭の隙を狙っていたが為にヘクトールは先程の海戦では全力で戦うわけにもいかず、目立った活躍がない。

 

「構わないわ。ヘクトールっていえばトロイアの英雄。あなたの物語を知っていればその強さを疑う必要はないもの」

「それはありがたい」

 

 

 こうして、3つ目の特異点修復はあっさりと完了したのだった。

 

 

 

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