全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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アニムスフィアの勝利

「いやぁ、第三特異点は大変でしたね」

 

 あっはっは、と麻菜は笑ってみせる。

 そんな彼女をジト目で見つめるオルガマリー。

 

 ここはオルガマリーの私室であり、彼女と麻菜しかこの部屋にはいない。

 2人きりの方が色々と腹を割って話せるだろうというダ・ヴィンチの提案により実現していた。

 

「大変なことになった原因はあなたじゃないの?」

 

 オルガマリーの指摘に麻菜は思いっきり頬を膨らませる。

 

「だって聖杯を回収しろとしか言われてないんですもの。聖杯が2つあったら、片方は持ってきちゃダメとか知りませんでしたもの。カルデアから指示も無かったし」

「……正直あっさりと解決し過ぎて油断していた節はあるわね。というか、カルデアの観測体制を見直さないと……」

「勝ったッ! 第三特異点完! とか思っていたんでしょ?」

 

 麻菜の指摘に対して今度はオルガマリーが頬を膨らませる。

 

「何よ! 報告の一つくらいしてくれてもいいじゃないの! 聖杯が2つあるって言ってくれればよかったのに!」

「四六時中、私のことを監視していたんじゃないの?」

「だってもうどう見ても勝負がついていたから、数値的なモニタリングのみだったのよ!」

「私、ドレイクに聖杯を返しに行ったの、すっごく恥ずかしかったんだから!」

「私も一緒に行ってあげたじゃないの!」

 

 麻菜が聖杯を2つ持って帰ってきちゃったことにより、第三特異点は修復されるどころか一気に崩壊寸前までなってしまった。

 異常に気づいて慌ててカルデアが原因究明を始めたところ、麻菜がおずおずと2つの聖杯を取り出したのだ。

 

 これ、2つ持ってきちゃまずかったかしら――?

 

 さすがの麻菜もカルデアの慌ただしい雰囲気に、やらかした自覚があるのか、ちょっと申し訳なさそうな顔であったのが印象的であった。

 

 返してきなさい、私も一緒に行くから――オルガマリーはそう言って、麻菜と一緒にとんぼ返りして、ドレイクのところへと聖杯を返しにいった顛末があった。

 

 ドレイクは大爆笑していたが、ともあれ彼女が元々持っていた聖杯を返したことで、第三特異点は崩壊することもなく無事に修復されたのだ。

 

「それはさておき……麻菜、給料と成功報酬についてだけども……今回、大きなやらかしをしてくれたわね?」

 

 オルガマリーはにっこりと微笑んで問いかけた。

 麻菜としては何も言えない。

 

 失敗しかけたのは事実であるからだ。

 

「とはいえ、さすがに安すぎる給料を出すのも問題があるから……月給20万ドル、特異点修復ごとに成功報酬として300万ドルでどう? 手取りで」

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ上乗せを……!」

「月給30万、成功報酬350万でどう?」

「……それでいいわ」

 

 1ドル=100円換算で考えるならば月給3000万、成功報酬3億5000万となる。

 世界を救う報酬として考えると、この額が高いか安いかは人によって変わるだろう。

 

 麻菜としては安すぎて割りに合わないと感じたが、今回の失敗もあり、あんまり大きなことは言えなかった。

 

「正式な契約書を頂戴」

「ええ、近日中に作成して渡すから」

 

 麻菜は頷きながら話を変える。

 

「ところでマリー、知っていると思うけど……私は高校生なの」

「え……?」

 

 オルガマリーは呆気に取られた。

 しかし、記憶を辿れば書類にはそのように書かれていた気がした。

 

 念の為に彼女はパソコンに向き合い、電子化された麻菜のプロフィールを調べれば高校生だった。

 

「高校生だったわね……」

 

 見た目から同い年くらいだと思っていた、とオルガマリーは言えなかった。

 

「私は大学に行きたいのだけど、マリーも来ない? 経歴を調べたけど、あなたは魔術とか家のことで大学までは行ってないみたいだし」

 

 オルガマリーはまさかの誘いに驚いたが、嬉しさがこみ上げてくる。

 麻菜は色々とやらかしはあるものの、オルガマリーのことを気遣い、真正面から褒めて、努力を労ってくれる存在であった。

 

「いいわね。あなたと学生ライフっていうのも悪くないわ……どこの大学に?」

「そこが悩んでいるのよ。大抵のところにはいける筈……私の学力や言語能力についてはカルデアに来る前に郵送した書類にある通り」

「日本の一般的な試験は暗記力の勝負だから、あまりアテにはならない、と思ったけど……あなた、IELTSやTOEFLで高得点を出しているのよね。あと他にも国際的に通じる資格を取得していたりだとか……」

 

 日本では生きにくいのでは、とオルガマリーとしては素直に思う。

 彼女も多少は日本の知識がある。

 飛び級が高校以下の学校には存在しない、というだけでかなりの衝撃を受けた記憶があった。

 

「色々あったわ。ぶっちゃけ小学生……って分かるかしらね? プライマリースクールのことなんだけど、あの当時から年齢制限がない色んな資格やら何やらの取得に動いていたわ。将来を見据えて」

「両親は何か言ったりしなかったの?」

「勉強するのはいいことだっていう感じで、特に何にも言われなかったわ。勉強の費用を出してくれたくらい。勿論、全て結果を出してきたから文句は言われていないの」

「なるほどね。あなたは魔法で何でもできるから趣味とか道楽として、将来何をやりたいか、何になりたいかとか考えればいいんじゃない?」

 

 麻菜は頷きつつ、どうしたものかと腕を組む。

 

「マリーは何かしたいことないの? 魔術に通じるものとか、そういう観点からだと」

「理数系ね。私も体系的に勉強したわけではないから、自分に必要なものだけ齧ったみたいなものよ」

 

 なるほど、と麻菜は頷く。

 

「とはいえ、ウチって実は海底油田基地を持っているから、予算のやりくりとかそっちの意味では経済とか経営を学びたいという思いがあるのよ」

 

 麻菜は聞き捨てならない単語に仰天した。

 

「ちょっと待って、海底油田基地? え、本当?」

「ええ、本当なのよ。アニムスフィアの虎の子の財産。半潜水式の移動プラットフォーム。原油採掘以外にも霊脈の探査やら何やら裏側のこともやっているんだけどね」

 

 麻菜の目は輝いた。

 オルガマリーは言ってはまずかったかな、と少し後悔したが、もう遅い。

 

「ねぇ、マリー。私の魔法とあなたの設備。それを使って合法的に世界一の金持ちになってみない?」

 

 世界一の金持ちという単語はオルガマリーにとっては魅力的だ。

 カルデアは非常に金食い虫だ。

 施設の維持費や人件費その他諸々で膨大な金額が消費されてしまう。

 

「具体的なプランは?」

「適当に資源がありそうな場所をあなたが探す。目星をつけたら、私がそこで魔法を使って原油などの資源が吹き出すようにする。勿論、埋蔵量は全世界の消費量を軽く100年位は補える程度に」

「天然資源だけでは難しいわよ。価格が下落すると大損だわ」

 

 オルガマリーはげんなりとした顔で、そう告げた。

 どうやら過去に経験があるらしかった。

 とはいえ、麻菜もそれは想定している。

 

「ええ、勿論よ。それを元手に様々な分野に進出するのよ。待遇を良くすれば有能な人材は集まるわ。特に日本ではね」

「例えば?」

「手取り30万、定時上がり、有給希望時即時取得可能、完全週休2日、夏と冬に3週間のバカンス。たぶんこれでめちゃくちゃ集まる。短中期的には人件費で赤字だろうけど、そんなのは資源の売却益で補填できるわ」

「進出する分野は?」

「そこはこれから調べるわ。ただ、日本はマリーが思っている以上に労働環境が悪いことが多いから、良い労働環境を提供すれば有能な人材が殺到するわよ。ただ、管理職以上は欧米人の方が良いでしょうけどね」

 

 オルガマリーは、ゆっくりと息を吐き出した。

 そして、彼女は麻菜の手を両手で握る。

 

「麻菜、やりましょう。というか、やるしかないわ……あなたに出会えて良かった」

 

 オルガマリーの言葉に麻菜もまた微笑み、告げる。

 

「ええ、私もよ。あなたとは色々な意味で深い関係になりたいもの」

 

 オルガマリーはそれを想像してしまい、一瞬で顔が真っ赤になった。

 そんな彼女を見て麻菜は満足そうに何度も頷いたところで――あることが閃いた。

 

「社員は無理でも、管理職とか幹部クラスあるいは警備員にサーヴァントを使うというのは……」

「……働きたい人いるの?」

「意外とペンテシレイアは働いてくれそう」

 

 サーヴァントの数も非常に増えているのだが、決してそんなことはしなさそうなペンテシレイアが最初に麻菜の脳裏に浮かんできた。

 

 メガネを掛けて、ネクタイをつけただけで、あとはいつもの服装のペンテシレイアが2人には想像できてしまう。

 専門用語をやたらと羅列していそうな感じだ。

 その想像を追いやって、オルガマリーは問いかける。

 

「警備員くらいじゃないの?」

「そうねぇ……エミヤとかはお願いすればやってくれそう。世界を救った後に希望者がいれば、という感じかしらね」

 

 麻菜としては敵対者が魔術師の可能性もあった為、最悪の場合、ホムンクルスを大量生産して投入することも検討しようと思った。

 

「さて、それじゃそろそろお暇するわ」

「ええ、麻菜。ゆっくり休んで頂戴」

「あなたもね。マリー、私、あなたのことが好きよ」

 

 最後にとんでもない爆弾を炸裂させ、投げキッスをして麻菜は部屋を出ていった。

 そして、後に残ったオルガマリーはそのままベッドへと倒れ込み、ゴロゴロと体を動かした。

 

「告白された……! 告白された……!」

 

 うわ言のように呟く彼女の顔は真っ赤だった。

 真正面から、自分という存在を求められたのは生まれて初めての経験だ。

 

 同性にはそういう意味での興味がない――興味がない筈であったのに、オルガマリーはどうしようもなく麻菜に惹かれていた。

 

 文字通りの命の恩人で、自分のことを褒めてくれて、努力を労ってくれる――というのを差っ引いても、魔術師にとって麻菜は非常に魅力的な存在だ。

 

 彼女の魔法やアイテム類、それらにより得られる利益は計り知れず、麻菜の存在が公になれば魔術師達が殺到するだろう。

 しかし、物理的・魔術的な手段で麻菜の言うことを聞かせられることはできないのは明白だ。

 一方で麻菜が同性を愛するというのはカルデア内では知られたものであり、人理修復後にその情報が外部に漏れ出てしまう可能性がある。

 もしもそれを知れば魔術師達は麻菜に女を送り込んでくるだろう。

 

 しかし、そうはさせない――

 

「アニムスフィアが飛躍するチャンスだわ……」

 

 麻菜と深い関係になるということは、女としても魔術師としても利益しかなかった。

 サーヴァント達によれば麻菜は両性具有になれるらしいという情報があるので、そっちの意味でも問題はなかった。

  

 

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