いよいよ麻菜達はロンドンへとレイシフトした。
先発隊として麻菜はマシュ、玉藻とメディア、そしてやる気満々なセイバー・オルタを連れていくことにした。
「いきなり霧……しかもこれ、毒霧ね」
メディアはそう告げるも、毒霧程度でどうこうできる輩はここには存在しない。
「魔力が篭っているから、魔霧と言ったところかしら」
「魔霧……マキリとかいうのが今回の敵だったりして」
「ご主人様、そのギャグはイケてないですね」
「さすがにそんな安直なことはないわよね……お二人さん、周囲の索敵を」
麻菜の指示にメディアと玉藻は即座に各々が魔術や権能を駆使し、索敵を行う。
「おい、麻菜。敵はどこだ? とりあえず宝具を撃てばいいか?」
「アルトリアが待ちきれない感じで、可愛いことになっている」
「可愛いとは失礼だぞ。先制で宝具をぶち込むのは当然だろう」
麻菜との模擬戦でアルトリア・オルタは――というか、多くの武闘派サーヴァント達はあることに辿り着いていた。
麻菜のような規格外の輩は一度、交戦に入ってしまえば宝具を撃つ数秒の溜めすら作れない。
ならば索敵と同時にとにもかくにも宝具を一撃ぶち込んで、先制攻撃を加えるべきだ、と。
特異点ならば、そのような規格外の敵が出てきてもおかしくはない。
「先輩、どんな敵が出てくると予想されますか?」
「ジャック・ザ・リッパーとかいそう」
「確かにいそうですね……」
マシュと麻菜がそんな会話をしていると、メディアと玉藻が報告する。
「ここから5つ程先のブロックにサーヴァント反応があるわ」
「こちらも同じく探知しました。ただ、何かを探しているような感じですね。ウロチョロしています」
麻菜は鷹揚に頷き、アルトリア・オルタへと告げる。
「アルトリア、やっちゃえ」
「任せろ!」
アルトリア・オルタは即座に応じ、黒い聖剣を解放する。
ロンドンの市内に彼女の声が響き渡る。
同時に放たれる黒い奔流。
道路いっぱいに広がったその一撃は鉄砲水のように道路上の全てを蒸発させていき――
「サーヴァントが回避したわ。こっちに急速接近中」
「魔力反応を高めていますので、出会い頭に宝具の可能性がありますね」
2人の報告に麻菜はすかさずマシュに告げる。
「マシュ、宝具展開用意。アルトリア、迎撃用意」
マシュは盾を構え、アルトリア・オルタはマシュよりも前へと出て、剣を構える。
「カルデア、セイバーのアルトリアを要請。サーヴァントと交戦中」
麻菜は通信を入れ、念の為に増援を要請。
今日の担当はオルガマリーで、すぐにその要請は受け入れられる。
「真っ直ぐに来るわ」
「怒っているような雰囲気を感じます。私の狐耳に宝具を撃ったのはどこの馬鹿だ、と聞こえた気が……」
2人の報告の合間にアルトリアがレイシフトしてきた。
彼女はすかさず麻菜に尋ねる。
「状況は?」
「敵はオルタの宝具を回避、あと数秒で接敵。隙を見つけたら、やっちゃって」
「了解しました」
アルトリアはオルタと色違いの鎧を纏い、不可視の聖剣を構える。
それからあっという間に敵のサーヴァントが現れた。
アルトリアとオルタは共に敵を認識するなり、左右から突っ込んだ。
剣と剣がぶつかり合う、鈍い金属音が響き渡る。
敵は鎧を全身に纏っているのが麻菜には見えた。
「ち、父上!? 2人!?」
父上という単語が敵の口から出てきた。
「貴様、モードレッドか!」
「あなたはどこまでも私の邪魔をするのか!」
アルトリア達が敵の正体に一瞬で気づき、そしてブチ切れた。
「叛逆の騎士、モードレッドって私だって知っているわよ。これは敵に違いない。きっとそうね、絶対そうだわ」
麻菜の言葉にモードレッドは慌てて距離を取って、剣を収めた。
そして叫ぶ。
「ま、待て! 待ってくれ! オレは違う! 敵じゃない!」
「麻菜、騙されてはいけません」
「そうだ、麻菜。ここでこいつは始末したほうがいい」
「ち、父上ー! 本当なんだって! 信じてくれ!」
何だかちょっと涙声になっているような気がしたので、麻菜はアルトリア達に少し距離を取るように告げ、自分は前に出た。
「あー、あー、カルデア? 予定にはないけど清姫を呼んで頂戴」
通信は繋げっぱなしだったので、オルガマリーは即座に清姫を呼び――清姫は呼ばれて1分と経たずにレイシフトしてきた。
「麻菜様、私を呼んでくださるなんて……」
嬉しそうな清姫の頭を撫でて、麻菜は告げる。
「ねぇ、清姫。あそこのサーヴァントが嘘をついているかどうか、判断してくれないかしら?」
「勿論です! 嘘をついていたら、焼き殺して構いませんね?」
清姫の問いに麻菜は保護者達へ問う。
「火炙りでいい?」
「構わん」
「構いません」
「そ、そんなー……」
情けない声のモードレッドに麻菜は敵ではないかもしれない、と思い始める。
いくら何でもアルトリア達の塩対応はちょっと可哀想だった。
「というわけで、モードレッド。あなたは私達の敵か? 味方か?」
「オレは味方だ。ここで起きている異変を解決する為に召喚された」
視線が清姫へと集中する。
すると彼女はにこりと微笑み告げる。
「嘘をついておりません」
「だろう!?」
「じゃあ、知っている情報を洗いざらい吐いて頂戴」
麻菜の問いにモードレッドは腕を組んだ。
「と言ってもな……オレも召喚されてまだ少しの時間しか経ってねぇし。街中にいる機械人形やら何やらを倒しながら、走り回っていたくらいだ」
「嘘ではないですね」
清姫の肯定、オルタがぼそりと呟く。
「役立たずが……」
「ち、父上!?」
「ふん、役立たず以外に何と形容すればいい?」
モードレッドは泣きたくなった。
あんまりの対応だ。
しかし、そこで麻菜が助け舟を出した。
「まぁまぁ、モードレッドも嘘をついているわけじゃないし、彼ってほら、たぶんだけど頑張り屋な性格だと思うから」
「うぅ……」
モードレッドは兜を脱いで、目をゴシゴシと擦る。
麻菜はそこで気がついた。
モードレッドの顔がアルトリアそっくりであることに。
もしやと思い、彼女は問いかける。
「……男じゃないの?」
「あ、オレ、一応、性別的には女なんで。ただし、女扱いしたらぶっころ……」
「ぶっころ、なんですか?」
即座に不可視の聖剣が左右からモードレッドの首に掛けられた。
ひぇ、と彼女は小さく悲鳴を漏らした。
「おい、モードレッド。麻菜はお前よりも強いからな。口には気をつけることだ」
「ええ、そうですよ、モードレッド。私もオルタも、他の私も、単独では麻菜に勝てません」
「そ、そうなのか……? そんな風には見えない……」
モードレッドからすれば麻菜は美しいだけの女にしか見えない。
とても荒事ができるとは思えなかった。
「それは置いといて……モードレッド、とりあえず私達と来る? あ、私、玲条麻菜っていうんだけど、私を仮契約のマスターとして……どう?」
「オレが言うのもなんだけどよ、この状況でオレが拒否できると思うか?」
モードレッドの首には左右からの不可視の聖剣が変わらずにある。
拒否した瞬間に首が飛ぶことは想像に難くはない。
しかし、麻菜は疑り深い素振りを見せ、告げる。
「叛逆の騎士だから、きっとそんな絶体絶命の状況でも叛逆するに違いない、きっとそうだ」
「しねーよ! オレだって無理なもんは無理だ!」
「嘘ではないですよ、麻菜様」
すかさず嘘かどうかを教えてくれる清姫に麻菜は持っていた飴を一つ上げた。
清姫は喜んで飴を頬張る。
「はいはい、保護者の2人、そろそろ剣を収めて頂戴」
麻菜の言葉に2人のアルトリアは剣を収めた。
保護者という呼び方には2人共、異論を唱えたかったが、ぐっと我慢した。
モードレッドは一安心だ。
「で、何となくだけど、モードレッドはアルトリア達に構ってもらいたくて反抗している思春期真っ盛りって感じなんだけど、合ってる?」
「オレがそんなわけないだろ!」
否定はするものの、その反応で麻菜にとっては十分だった。
「嘘……つきましたね?」
清姫の目が怪しく光った。
「嘘つきは……焼き殺します」
清姫の体が変化していく。
白い大蛇へと。
「おいおいおいおい、何だよこれ! 聞いてねぇぞ!」
「問答無用、嘘つきは焼き殺します!」
モードレッドは超展開についていけない。
清姫は息を大きく吸い込み、そして、炎を吐き出した。
モードレッドと彼女の距離は数m程度。
一瞬で到達するかと思いきや――その炎は直前で掻き消された。
「清姫ったら、せっかちなんだから」
麻菜がモードレッドと清姫の間に入って、立っていた。
モードレッドは口をあんぐりと開けて、目の前に起こったことにただ呆然としていた。
「麻菜様……その嘘つき、殺させてください」
「待って、清姫。とりあえず私に巻き付きなさい。で、ここは私に免じて、勘弁してあげてくれないかしら?」
清姫は迅速に麻菜の体に巻き付いて、ぎしぎしと締め上げる。
普通の人間ならそれだけで骨が砕けるだろう力であったが、この程度では麻菜には通用しない。
「何か、対価をくれませんと……嘘つきを見逃すのですから」
「じゃあこれで」
麻菜は躊躇いなく、蛇となった清姫の口に口づけた。
一瞬で清姫は蛇から人型へと戻った。
「……麻菜様」
顔を赤く染め、うっとりとした顔の清姫。
それに麻菜は満足しつつ、告げる。
「古来から怒れる大蛇を鎮めるには美少女の口づけと相場は決まっている。古事記にも書かれている」
「先輩、先輩、書かれていないですから。あとモードレッドさんが顔を真っ赤にして固まっています」
「モードレッドって免疫ないのね……とにもかくにも、この霧をどうにかすれば良さそうね」
麻菜の言葉に玉藻が提案する。
「ご主人様、とりあえずどっかに移動しましょう。道のど真ん中でこんなことをやっているのは色々とマズイと思いますので」
それもそうだということでモードレッドと麻菜は仮契約を結び、移動することとなった。
その際、清姫をカルデアに戻しておく。
彼女は名残惜しんだが、麻菜が再度、口づけすることで大人しく戻っていった。
そして、いざ移動となったときに麻菜が口を開く。
「あ、ちょっといい? 行きたいところがいくつかあって……」
麻菜はそう言って地図を取り出し、ある場所を指し示した。