「なぁ……お前って……」
モードレッドは白い目で麻菜を見つめた。
麻菜はそんな視線に晒されても、全く動じない。
「いいでしょ? 特異点でのことはなかったことになるらしいし、霧のせいでロンドンの住民っているんだかいないんだか分からないし、博物館には誰もいないし……念の為、代金も置いたし」
「だからと言って、大英博物館の中身を丸ごと持っていくってどういうことだよ!?」
麻菜の行きたいところとは大英博物館であった。
彼女は膨大な展示物をどんどん無限倉庫に入れて、代金代わりに金塊を大量に置いたのだ。
幸いにも範囲指定をして、そこにあるものを全て収納するという便利な機能が無限倉庫にはあった。
故に短時間で全て回収することができたのだ。
「ちゃんと置き手紙までしてきたでしょう?」
「何て書いたんだ?」
「大英博物館のお宝は私が頂くぜ。ルパソ三世」
「色んな意味でダメじゃねーか!」
モードレッドの見事なツッコミに麻菜はアルトリアの教育が行き届いていることに感心しつつ、次の犯行場所を考える。
「次はイングランド銀行と……」
「泥棒する気満々じゃねーか!」
「失礼ね、ちょっと私の金塊を置いてくるだけよ。対価に色々貰うけど」
押し付けがましい泥棒だった。
「麻菜、当初の目的を忘れてはなりません」
アルトリアの言葉にモードレッドの表情が明るくなった。
さすがは父上、と彼女は内心で喝采を叫ぶ。
「ロンドン橋破壊はまだですか? しおりにあったのですが」
「あ、じゃ、この後に行きましょう」
「ダメだった! 父上も観光気分だった!」
「む、モードレッド。観光ではありません。チキチキロンドン大炎上、特異点もついでに修復するよ、というイベントです」
「そうだぞ。久しぶりのロンディニウムだ。楽しまねば損だろう?」
2人のアルトリアに言われたモードレッドはダメだこれ、と匙を投げた。
「ロンドン橋落ちるー落ちるー落ちるー! おらっ! 沈めっ!」
麻菜は思いっきりロンドン橋を橋の上から殴りつけた。
橋は木っ端微塵に砕け散った。
瓦礫が川へと落下していく。
「落ちるじゃねぇだろ、落としたんだろ」
モードレッドのツッコミ。
「無駄ですよ、先輩はノリにノッていますから」
マシュは首を左右に振った。
すぐさまロンドン橋はメディアと玉藻によって修復される。
「つうかよ、麻菜って破天荒過ぎるだろ。なんだよアレ、嵐か何かか?」
モードレッドは問いかけつつも、ロンドン橋から目を逸らさない。
今度はアルトリアが聖剣でぶった切っていた。
ロンドン橋は再度修復される。
ロンドン橋もまさか拳一つで木っ端微塵にされたり、星の鍛えた聖剣でぶった切れられるとは思ってもみないことだろう。
「先輩なので。モードレッドさんも、カルデアに来れば色々と楽しいですよ。アルトリアさん達もいますし」
「行ってもいいんだけど、何故かオレの直感がろくでもないことになるって……」
今度はアルトリア・オルタがロンドン橋をぶった切った。
「というか、これってお前らの気が済むまでロンドン橋を落とすのか?」
「しおりに記載された予定ですので……」
「お前ら、色々と舐めているだろ? オレが言うのもなんだけどよ」
「正直、先輩が1人いれば世界を救うとか余裕らしいので……世界一頼もしいんですよ。世界一ワガママですけど」
そのときだった。
「4番! 玉藻! 真・九尾ライダーキックいきます!」
玉藻の声。
彼女は空中に飛び上がると姿勢制御をし、そのまま片足を突き出して、高速でロンドン橋のど真ん中に突っ込んだ。
ロンドン橋は木っ端微塵に砕け散り、また玉藻が川に突っ込んだことから、盛大な水柱を立ち上らせた。
「……フリーダムなのは麻菜だけじゃねぇな」
「玉藻さんなので……あの方も、とても強いんですよ。サーヴァントが100体くらいでは相手にもならないそうで」
「インフレし過ぎじゃね?」
「世界を救う為なので、大丈夫です。たぶん」
モードレッドの言葉にマシュはそう返すしかなかった。
その後、せっかくなので、と麻菜はロンドン橋を落としたいサーヴァントをカルデアから呼び寄せては各々の趣向を凝らしたロンドン橋の落とし方を披露してもらった。
オルガマリーが渋い顔をしていたが、ダ・ヴィンチが滅多にできることじゃないし、影響ないから、と説得したことで渋々に許可を出すことになった。
勿論、ダ・ヴィンチ自身もやってきてロンドン橋を落として帰っていった。
特異点の解決はどこにいった、というモードレッドの冷静なツッコミにより、ロンドン橋を存分に落としまくった麻菜率いるカルデア一行は、ようやくに本腰を入れた。
勿論ロンドン橋はちゃんと元に戻しておいたので問題はない。
「とりあえずサーヴァントを見つけて、片っ端からぶっ飛ばしていけばいつか大元に辿り着くのでは?」
「ご主人様って脳筋?」
「ギリシャの戦士みたいな思考ね」
「先輩……それはちょっと」
3人からの否定的な視線と言葉に麻菜は頬を膨らませる。
「いや、オレは良いと思う」
「モードレッドと意見が同じであるのが少し気になりますが、私も同意見です」
「闇雲に探すより、そっちの方が早いだろう?」
モードレッドとアルトリア達からは肯定的な意見。
それにより、麻菜の取るべき選択肢は決まった。
「よし、決めた。間を取ってロンドンを更地にしよう。そうすれば一番手っ取り早い」
「馬鹿なこと言っているところ悪いけど、麻菜、サーヴァントよ。1ブロック先に佇んでいるわ」
「小柄ですね……子供のような感じです。しかし、確かにサーヴァントです」
なるほど、と麻菜は頷き、さてどうしたものかと考える。
「事情を聞いた方がいいかしら?」
「聞けるなら聞いたほうがいいと思います」
マシュの言葉に麻菜は他の面々を見回す。
異論がある者はいなさそうだ。
麻菜はずんずんと先頭に立って歩いていく。
「……なあ、もしかしなくても麻菜が聞くのか? サーヴァントに任せないのか?」
「え? 私を一撃で殺せる敵なら会ってみたいんだけど……」
「なんなんだよ、お前……」
モードレッドは呆れるしかなかった。
とはいえ、警戒しないという意味ではない。
メディアと玉藻はガッチリと周囲に探知の網を張り巡らせ、また同時に敵味方不明のサーヴァントが不審な動きをした瞬間に先制攻撃をするつもりであった。
アルトリア達とモードレッドは左右を固め、マシュは麻菜の傍らに。
そんな陣形で歩いていき、辿り着いた先にいたサーヴァントは――銀髪の幼女だった。
「おかあさん……?」
ナイフ片手にそんなことを呟く幼女。
そして、一瞬で幼女は麻菜へとナイフを振りかざし、躍りかかってきた。
「……え?」
幼女は目を丸くした。
彼女は宝具を発動していた。
それは対象が女性であり、霧が出ており、夜であるという3つの条件が揃えば対象を問答無用で解体された死体とするものだ。
しかし、麻菜にはただナイフを突き立てただけに終わった。
しかも、そのナイフは彼女の衣類を貫くことはできたものの、その皮膚を貫通することは全くできなかった。
「えっと……」
幼女はとりあえず、ナイフを抜いて、もう一回突き立てた。
ぐい、とまるで壁にでも突き立てるような感触だ。
恐る恐る、幼女は顔を上へと上げた。
そこには彼女を見つめる黄金の瞳。
「……おかあさん?」
「もう、子供が危ないことしちゃダメでしょう」
めっ、と麻菜は叱り、幼女の頭を軽く小突いた。
「あう……」
「あなた、名前は?」
「ジャックだよ。ジャック・ザ・リッパーなの」
「そうなの。私は麻菜よ。玲条麻菜。ジャック・ザ・リッパーって名乗って真似するのはいいけど、危ないから」
「ご、ごめんなさい……でも、本物だよ!」
幼女――ジャックは素直に頭を下げた。
そんな彼女に麻菜は軽く溜息を吐きつつ、抱いて頭を撫でる。
ジャックは抵抗することなく、大人しく頭を撫でられ、心地良いのか、穏やかな顔となっていく。
「先輩……たぶん真似じゃなくて、本物だと思うんですけど……」
マシュの指摘に麻菜は深く溜息を吐く。
「マシュ、ジャック・ザ・リッパーがこんなに可愛い幼女なわけがないじゃないのよ。きっと、こう、もっと変態の大男よ」
「おかあさん、私達がジャック・ザ・リッパーだよ」
「むぅ……それならば……」
埒が明かないので、麻菜はカルデアへと通信を入れ、白い方のジャンヌに見てもらうことにした。
彼女には真名看破のスキルがある。
待機状態にあった為、ジャンヌはすぐに管制室へとやってきて、麻菜が抱える幼女をモニター越しに見た。
『確かに、ジャック・ザ・リッパーですね。ちなみにですけど、子供の怨霊の集合体です』
ジャンヌの言葉に麻菜はまじまじとジャックの顔を見つめた。
見つめられてジャックは恥ずかしいのか、顔を俯かせる。
「ジャック・ザ・リッパーとは、堕胎によって生まれなかった子供達の怨霊が生み出した魔性の者ということになるんですかねぇ……」
玉藻の言葉に麻菜はじーっと彼女を見つめる。
「玉藻、メディアもそこらまで実は探知できていたんじゃないの?」
「ええ、まあ……ただ、先に言ってしまうとご主人様、絶対にやらかすでしょう? 怨霊は浄化するに限るとか何とか言って」
「同じく。ある程度接近したときに分かっていたけど、言わなくてもいいかなって」
2人の言葉を麻菜は否定できなかった。
怨霊だと分かったら、怨霊は浄化だー、と嬉々として魔法をぶっ放す可能性が高かったが故に。
「おかあさん、私達のおかあさんになって」
ジャックの声に麻菜が彼女へと視線を向けると、アイスブルーの瞳とぶつかった。
純粋なその瞳に麻菜の心は揺れに揺れる。
「ど、どうしよう?」
思わず、周りに助けを求めた。
素早く答えたのはジャンヌだった。
『私としては洗礼詠唱でもって、浄化したほうがいいのではないかと思いますが……』
「そうするとどうなるの?」
『あるべきところへ還ります』
「ジャックは目の前から消えるということ?」
『そうなりますね』
「却下」
『ですよね。今更ですし、ぶっちゃけ麻菜さんの好きにして構わないのでは?』
そんな聖女の言葉を聞き、麻菜はマシュや玉藻、メディア、アルトリア達へと視線を向ける。
皆、ジャンヌの提案に異論があるわけではないようで、反論などはない。
故に麻菜は決意する。
「ジャック、なってあげるわ。おかあさんに!」
その言葉と同時にジャックはぎゅーっと麻菜に抱きついた。
「おかあさん! おかあさん!」
「よしよし……私がおかあさんよ」
寒そうなので、麻菜はジャックに無限倉庫から彼女の体格に合いそうなフード付きの外套を取り出し、掛けてやる。
すると、ジャックはすぐにその外套に腕を通し、えへへ、とはにかんだ笑みを浮かべた。
「怨霊? 天使の間違いでしょう、この子」
麻菜はジャックにデレデレだった。
早くも親馬鹿になりつつあるのが丸わかりだ。
「先輩が一瞬で……子供って凄いですね……」
「ちなみにですけど、さっきのジャックさんの攻撃。アレ、特大の呪いでした。最初に殺人が発生して、死亡と過程が後からついてくるタイプの」
「麻菜はその呪いを無効化したのよ」
玉藻とメディアの言葉にモードレッドが驚愕する。
しかし、クー・フーリンやスカサハと麻菜の模擬戦を何度も見ているアルトリア達やマシュにとっては既知のことだった。
麻菜がゲイボルグの因果逆転の呪いをその装備でもって無効化しているのを目撃していた。
彼女は見た目はただの指輪であるワールドアイテム:ファウンダーを常に装備している。
ジャックによる特大の呪いを防いだのも、これを身に着けていることで得られる世界の守りとでも呼ぶべき加護によるものだった。
「おかあさんには私達の攻撃が効かないの?」
ジャックは不思議そうな顔で問いかけた。
「ジャックのおかあさんなんだから、ジャックの攻撃が効くわけないじゃない」
「そっか、そうだよね!」
そんなやり取りを見て、玉藻とメディアはやばいことに気がついた。
「ご主人様の教育で、純粋なジャックさんがやばいことになるパターンですよ」
「麻菜の抵抗の高さや持っている装備やアイテム……これがジャックにとって普通になるとマズイわよ……」
子供がおかしな道に進むのは玉藻もメディアも看過できない。
大人として引き止めねば、と。
「教育方針の話し合いは後にしてくれ。で、この後、どうするんだ?」
モードレッドの問いかけに、麻菜は即座にジャックに尋ねる。
「ジャック、あなたに指示を出したりしていた人っている? ちょっと大事なお話があるの」
「いるよ。まず時計塔を潰した後、スコットランドヤードっていうところに向かうって。Pとかいう人」
「マリー?」
麻菜は通信を繋げたままのカルデアへと呼びかけると、オルガマリーが答えた。
『時計塔って実は大英博物館と地下で繋がっているわ……というか麻菜。ちゃんと最初から見ていたからね? あなたが大英博物館の展示物を全部、倉庫にしまっているところ……あんな短時間でよくもまぁ……』
「そういう機能もついているので」
ジト目で見つめるオルガマリーに麻菜は答えつつも、そっぽを向いた。
そんな彼女にオルガマリーは溜息を吐く。
『それはさておいて時計塔で待ち構えるよりも、スコットランドヤードで待ち構えるというのが最善かしらね』
「敵、どこにいると思う? ロンドン市内に時計塔と大英博物館以外で隠れる場所ってある?」
『ありきたりだけど地下とかかしらね。大規模な儀式を秘密裏にやるのなら、それくらいしかないと思うわ』
なるほど、と麻菜は頷き、とりあえずスコットランドヤードに向かうと宣言した。
「……オレが言うのもなんだけどよ、酷くないか?」
モードレッドはそう問いかけた。
P――パラケルススは現在、絶賛玉藻とメディアによる尋問中だった。
スコットランドヤードで麻菜達が待ち伏せているとは露知らず、のこのこ現れた彼は姿を見せた瞬間に玉藻が呪術的に拘束した上でメディアが魔術的に拘束し、更に麻菜がユグドラシルの拘束系魔法を掛けるという悲惨な目にあった。
しかし、これは序の口だった。
その後の玉藻とメディアの尋問に比べれば。
「2人ともサドの気があるからね。仕方ないわ。あ、死んでも私が蘇生するから」
「お前が一番サドじゃねーか!」
「死はこれ以上苦痛を与えられないという意味でしょ?」
「違うから!」
モードレッドの見事なツッコミを見ているマシュには、是が非でも彼女にはカルデアに来て欲しいという思いがある。
先輩への抑え、足りないんです――
マシュの切実な思いだった。
「機械人形を生み出しているのはB――バベッジという奴で、霧はM――マキリとかいう、まさかの安直なものでした。国会議事堂のあたりに機械人形達を生産する装置が、霧の生産装置は地下だそうです」
尋問の結果を玉藻がそう報告してきた。
パラケルススは見た目は何も変化はないが、精神的にはひどく消耗したのだろう。
ぐったりとしている。
「ちなみに何をやったの?」
「知りたいですか? 幻術系なんですけど」
「何となくわかったわ。じゃ、彼は用済みなので、さくっと処理しちゃって」
無慈悲ではあったが、当然ともいえる麻菜の指示はただちに実行され、残る首謀者2人を打ち倒すべく、行動を開始した。
国会議事堂前でヘルタースケルターを撃破し、そこで玉藻とメディアにより索敵を実施。
ほど近い場所にサーヴァント反応があり、麻菜は無慈悲に2人のアルトリアに宝具を撃つよう指示。
それを回避する術も耐える術もなかったのか、サーヴァント反応は消失した。
そして、いよいよ地下へと麻菜達は潜ることになったのだが、その前に残る全てのサーヴァントをカルデアから呼び寄せた。
準備万端整えた後、麻菜達は地下へと突入する。
「お前、本当に酷いやつだな!」
モードレッドは渾身のツッコミを入れた。
マキリ・ゾォルケンと名乗った最後の首謀者は現れた瞬間に玉藻とメディア、そしてスカディが各々の呪術やら魔術やらで拘束し、そこに間髪入れずアルトリア達の宝具が炸裂した。
その間にも麻菜は警戒を怠ることなく、手元にはマシュを、伏兵対策に哪吒、ジャンヌ、ジャンヌ・オルタを邀撃としていた。
巨大な霧生成装置――というよりは蒸気生成装置と共にマキリ・ゾォルケンは一瞬で蒸発し、後には黄金の杯――聖杯だけが残されたのだ。
余計な邪魔が入らぬよう、さくっと麻菜は聖杯を回収した。
「長々と口上を述べようとする方が悪い」
「そうだぞ。麻菜はよく分かっている。女神もにっこりだ」
麻菜と、そしてスカディはドヤ顔だ。
「ふふん!」
2人して得意げに胸を張った。
そのときだった。
スカディ、玉藻、メディア――やや遅れて麻菜もまた感知した。
「ご主人様、敵です!」
「結構大きいぞ! 女神もびっくりだ!」
「妨害と遅延を行うわ! 目印もつけてあげる!」
3人はそう言い放ちながら、即座に空間転移の妨害及び遅延のそれぞれの術でもって行い、感知及び3人からの言葉を聞いた麻菜は指示を出す。
「令呪全てを以って命じる! アルトリア達は全員宝具を放て! 最大出力で敵を倒せ!」
出てくるのを悠長に待つ麻菜ではない。
ただちに4人のアルトリアはそれぞれ聖剣を、聖槍を撃ち放った。
メディアがつけた目印はでっかい赤い丸を敵の出現地点である空間に投影したもので、非常に分かりやすかった。
空間が歪み、まさに出てこようとした瞬間――その人物が見たのは白と黒い奔流だった。
「なんだと!?」
そんな声が聞こえた気がした。
「……何がいたのですか?」
ランサーアルトリアの問いかけに麻菜は腕を組む。
「敵だった。たぶん黒幕か、それに近い存在じゃないかな」
「……倒したのでしょうか?」
「たぶん倒せてないと思う。なので、反撃が来る前にさっさと帰還しましょう。目的の物は手に入ったので」
「麻菜、あなたは非常に効率的ですね……」
ランサーアルトリアは呆れと感心が混じった言葉を麻菜に掛ける。
「え? これで終わりなの? 私の出番……デュヘイン……できなかった……」
「まぁまぁ、オルタ。私なんてジャックさんの名前を言い当てたくらいですよ……」
「あんたはまだ出番があったと言えるじゃないのよ」
「ボク、出番皆無。不満」
不満そうなジャンヌ・オルタとジャンヌ、そして明確に不満そうな顔で頬を膨らませた哪吒に麻菜は告げる。
「帰ったら私にデュヘインしなさいよ。哪吒も。模擬戦やりましょう」
「承知。主との戦い、楽しい」
「いいわ! 私の炎がどれくらい熱いか、また教えてあげるわ!」
「私はあんまり……と言いたいところですが、オルタを放っておけないので」
「あんたは私の保護者なの!?」
そんなやり取りがなされる中、モードレッドが麻菜へと問いかけた。
「ところで他にサーヴァントがいたりする可能性とか……そこらは大丈夫なのか?」
「モードレッド、実は前にもあったんだけど、ぶっちゃけ聖杯さえ回収すれば特異点は修復されるので、良いみたいよ」
「そうなのか……お前、手際の良い泥棒みたいだな。目的の物だけ……いや、目的の物以外にも取っていたな、そういや」
「当初からそれは目的のうちだったので。あとモードレッド、カルデアに来てね。あなたはなんか、一緒にいて楽しそうなので」
「色々と引っかかる物言いだが、まあいい、行ってやるよ」
何とも締まらない終わり方だったが、とにもかくにも4つ目の特異点は修復されたのだった。