全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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まさかの爆破テロ

「南極って、すごい」

 

 麻菜は感動していた。

 こんな光景、前世では見られなかった。

 彼女は基本的に自然が大好きであり、ちょくちょく転移魔法を使ってはあちこちの自然遺産を見に行っている程だ。

 

「しっかし、どうにも胡散臭いわね」

 

 前世で企業の裏側を司っていた頃に培った勘が告げている。

 

 何か碌でもないものがある、と。

 しかし、麻菜にとって目下の課題はお土産に何を選ぶかというものだ。

 お土産はペンギンでいいかしら、と彼女は呑気に考えながら、カルデアに到着した。

 

 

 

 

 サーヴァントを使った戦闘訓練なるものを無事に終えて、麻菜は感動する。

 コヤンスカヤには秘書としての仕事を任せていることもあって、麻菜が指示を出してコヤンスカヤに戦闘をさせるなんてことはこれまで一切無かった。

 それ故に今回の戦闘訓練は彼女にとってとても新鮮であったのだ。

 

 そして、麻菜がエントランスに行くと白い獣が跳んでくる。

 

「もふもふしている……この子をお土産にしよう」

 

 フォウ、と鳴いているから名前はフォウでいいだろう、麻菜は確信する。

 

 モモンガだったらシロスケとか名付けそうと同時に思い、笑いがこみ上げてくる。

 あのくそったれな世界であったが、元気にやってくれていることを祈るばかりだ。

 

「フォウさん、急に駆け出して……」

 

 すると今度は白衣を着てメガネを掛けた少女が現れた。

 彼女は麻菜を見るなり目を見開く。

 そんな彼女に麻菜は告げた。

 

「玲条麻菜よ。マスターとやらになりにきたの。案内を頼めるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 マシュ・キリエライトと名乗った少女は麻菜の頼みに快く応じてくれた。

 彼女の案内で説明会の会場へ向かう道すがら、レフ・ライノールと名乗る技師に出会う。

 簡単な自己紹介を済ませて、そのときは別れたが麻菜はビンゴだと確信した。

 

 

 メリエルのパッシブ・スキルにレフ・ライノールは反応した。

 すなわち、異形であり敵対的な存在であると。

 

 説明会か、もしくはそれに続くレイシフトとやらで仕掛けてくる、と麻菜は直感する。

 事前に郵送されてきた資料を読み込んではあるが、レイシフト云々の話は眉唾であり、実際は仮想空間か何かだろうと彼女は考えている。

 

 

「ここが説明会の会場です」

「マシュ、ありがとう。これ、あげるわ」

 

 渡されたのはペンダントだった。

 

「わぁ、綺麗ですね」

「ちょっとしたお守りに持っておいてね」

「ありがとうございます! 先輩!」

 

 なぜだか先輩と呼んでくるマシュに麻菜は心地よさを感じていた。

 

 かつて、ギルドメンバーの中には後輩萌えがいたが、今、麻菜はその良さを実感していた。

 

 

「時間ギリギリよ」

 

 説明会の会場には既に全員が揃っており、オルガマリーは怒気をにじませながら、そう告げた。

 

 麻菜は素直に謝罪して席についた。

 説明会が始まったが、話される内容は基本的に郵送された資料に書かれていたものであった。

 要点だけ掻い摘んでくれないかしら、と麻菜は思いつつ、とりあえず周囲を見回す。

 

 パッと見た感じ、アジア系は1人を除いて誰もいない。

 メガネを掛けた黒髪の少女がその1人だ。

 

『暇そうね?』

 

 伝言(メッセージ)を彼女に飛ばしてみた。

 脳裏に響いた声に驚いたようだが、それでもその鉄面皮は崩れなかった。

 

『何か用? っていうか誰?』

『玲条麻菜よ。さっきギリギリに入ってきた』

『ああそう。それで何の用なの?』

『暇だったから。あなたの名前は?』

『芥ヒナコよ。話しかけないで』

 

 怖い怖い、と麻菜は話しかけるのをやめた。

 今度は別の眼帯の女性に伝言を飛ばす。

 

『こんにちは』

 

 ビクッと体を震わせるが、すぐに彼女は返事をする。

 

『誰ですか?』

『玲条麻菜。さっきギリギリに入ってきた』

『……本当にアジア人ですか?』

『一応そうらしいわよ。あなたの名前は?』

『オフェリア・ファムルソローネです』

『良い名前ね。色々お話ししましょうよ?』

 

 

 オルガマリーの説明をそっちのけで、麻菜はオフェリアと会話に精を出す。

 情報収集は基本だ。

 

 そこから得たものによるとオフェリア達はAチーム、麻菜はBチームに所属しており、Aチームは生粋の魔術師達からなる本命とのこと。

 

 当然だろうな、と麻菜は思いつつ、とりあえず自分のサーヴァントが召喚できれば何でもいいや、Aチームのみんな仕事頑張ってというくらいの認識である。

 麻菜がサーヴァントを欲する理由は自分がどれだけ強くなれるか、そもそも英霊に自分の力が通用するのか、という好奇心によるものだ。

 コヤンスカヤが既にいたが、彼女は残念ながら真正面から戦闘をするタイプではなく、搦め手で攻めるタイプだった。

 

 愛歌に頼んでまたちょうどいいサーヴァントを探しても良かったが、この世界における正規の方法で召喚して、何が出てくるかというガチャ的な楽しみを味わいたいと麻菜は思ったのだ。

 

 

 そうこうしているうちに説明会が終わり、オフェリアがAチームの面々に紹介したい、と言ってきた。

 麻菜は勿論承諾した。

 

 

「私は魔術とかそういうのに関しては、ド素人なので是非とも頑張ってほしい」

 

 勿論だ、とAチームのリーダーであるキリシュタリアは力強く頷いた。

 他の面々に麻菜はからかわれたり、ペペロンチーノに対してはペロロンチーノっていう奴を知っているか、と問いかけたりもした。

 

 和やかに会話をしていると、オルガマリーが麻菜を呼んだ。

 

 

「遅刻はしていないけど、それでもギリギリだったから罰として今回は部屋で待機よ」

 

 合法的にサボれると麻菜は内心喜びながら、頷いてAチームの面々にその旨を告げると爆笑されたり、呆れられたりと反応は色々だった。

 

 良い奴らだと麻菜は思う。

 だから助言はしておいたほうがいいだろう、と親切心を出した。

 

「これは私の勘だけど、レフ・ライノールには注意をしたほうがいいわ」

「レフが?」

 

 キリシュタリアの問いに麻菜は頷く。

 

「あくまで勘よ。人の良さそうな顔をしているけど、どうも胡散臭い……ああいうのはどす黒いものを持っているわよ」

 

 説明会ではなかった。

 となると、レイシフトだろう。

 

 おそらくコフィンに入ったときに。

 

 自分がやるならそのタイミングだ、と思うが、どうしてそれを知り得たのか、というとこれはまた証明が面倒くさいことになる。

 

 ユグドラシルの色々なものを披露すれば理屈抜きに信じてくれそうではあるが、難しいところだ。

 

 

「玲条麻菜、早く割り当てられた部屋に行きなさい」

 

 オルガマリーの鋭い声に麻菜は肩を竦ませながら、キリシュタリア達に告げる。

 

「もし死んでも、ちょうどいいところに天使がいるから蘇らせてくれるわ。天使の祝福を、あなた達に」

 

 ウィンクをしてみせ、麻菜はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 彼女が部屋に到着すると何故か先客がいた。

 不法侵入者に溜息を吐きながらも声をかける。

 

「ちょっとそこの不審者。ここ、今日から私の部屋なんだけど」

「え? だってこれからレイシフト実験の筈じゃ……特異点Fに向かうって……」

 

 オレンジ色の髪をしたその人物に麻菜は溜息を吐いた。

 

「説明会に到着するのがギリギリだったから、今回はダメだって私は言われたのよ」

「あー、なるほどね。ということは君は合法的にサボれるんだな!」

「そうだけどいいの? そんなノリで」

「いいんだよ。僕は緩くやるんだ。マリー……オルガマリー所長はカリカリしているからね。まあ、彼女にも色々あるんだ。そこは察してくれると助かる」

「ええ、構わないわ。私は玲条麻菜よ」

「ロマニ・アーキマンだ。医療部門のトップで、皆からはロマンと呼ばれている」

 

 よろしく、とロマニと麻菜は握手を交わす。

 

「しかし、君が驚異のレイシフト適正100%か。写真で見たのよりも本物は美人だね」

「あら、ありがとう。ロマン、せっかくだからカルデアとか魔術とか色々と教えて欲しいわ」

「勿論さ……と言いたいところだが、どうやら仕事の時間だ」

 

 レフから通信が入った。

 すぐに管制室に来て欲しい、とのことだ。

 

 

 

 その通信を受けて部屋から出ようとするロマニであったが、彼の服の裾を麻菜は掴んだ。

 

「へ?」

「まあ、待ちなさいよ。レフ・ライノールが仕掛けてくるわ。私といたほうが安全よ?」

「それってどういうことだい?」

 

 ロマニは真剣な表情で問いかけた。

 

「杞憂ならいいんだけどレフ・ライノールは人間じゃないわ。異形よ、アレ。おまけに敵対的な意思がある」

「……その表情は嘘をついているわけじゃなさそうだけど、どうやってそれを?」

「理由は明かせないけど信じてもらえるように、証明してみせましょう」

 

 麻菜はそう言って転移門(ゲート)を開き、顔を突っ込んだ。

 ロマニは呆気に取られて、彼女の行動を見つめることしかできない。

 

 すると黒い靄から白いスーツ姿のメガネを掛けた女性が現れた。

 

「もう麻菜様ったら! 私がいないとダメなんだから……」

「コヤンスカヤの能力が凄くてダメにされてしまうのよ」

 

 2人が突然イチャイチャしだしたので、ロマニは深く溜息を吐いた。

 しかしながら立場上、問いかけないわけにはいかない。

 

「彼女は誰だい?」

「あら失礼。私、麻菜様の秘書を務めておりますタマモヴィッチ・コヤンスカヤと申します。お見知りおきを」

「はぁ、どうも。その、どういうご関係で?」

「見て分かりません?」

 

 コヤンスカヤはそう言って、麻菜をぎゅーっと抱きしめた。

 

 

 百合だな、とロマニは確信しつつ、セキュリティ上の大問題をやらかしたことについて問いかけようとした、そのときであった。

 建物全体を揺るがすような衝撃が襲う。

 ロマニは床に転倒するが麻菜とコヤンスカヤは転倒などはせず、すぐさま麻菜が各種防御魔法を展開した。

 

 レフによる追撃を防ぐ為に。

 転倒したロマニはぶつけたところを擦りながらも立ち上がって告げる。

 

「信じられないけど、当たってしまったみたいだね」

「ええ。私以外では見抜けないんじゃないかしら」

「君はただの一般人ではないね。魔術師かい?」

 

 ロマニの問いかけに麻菜は答える。

 

「いいえ、違うわ。ただワケアリなだけよ」

 

 

 そして彼女は更に言葉を続ける。

 

「そんなことよりも早く行動した方がいいんじゃない? こういう場合の緊急対策マニュアルは頭に叩き込んであるでしょう?」

「あ、そ、そうだね! あとで詳しく聞かせてもらうから!」

 

 ロマニは慌てて駆け出していった。

 

 さてどうしたものか、と麻菜は思ったが、とりあえず生存者救出と死者蘇生をせねばならないだろう、と判断する。

 

「麻菜様、どうします?」

「何だか面白い展開になってきたので、助ける感じで」

「分かりましたわ」

 

 

 

 麻菜とコヤンスカヤが部屋を出るとそこは地獄絵図だった。

 瓦礫が散乱し、足の踏み場もない。

 

 しかし、麻菜やコヤンスカヤにとってはそんなもの障害にもなりえないし、こういうのは見慣れた光景である。

 大小様々な瓦礫を撤去し、死体があったなら麻菜が蘇生して――もちろん、レベルダウンを防ぐアイテムなどを使用して――管制室とやらに向かう。

 

 

 幸いにも廊下には案内板があったので、地理に不慣れでもなんとかなった。

 

 

 その途上、マシュが麻菜を見つけて合流してきた。

 彼女に渡したペンダントは十分にその効力を発揮しているようで、彼女とその肩に乗っているフォウを薄い膜が包み込んでいる。

 フォウがコヤンスカヤを見て、何だか不思議なものを見たような顔になった感じがしたが気のせいだろう、と麻菜は思った。

 

 

「マシュ、こっちは私の秘書でコヤンスカヤっていうの。詳しいことは後回しにして、とりあえず管制室へ行きましょう……ところで、何か不穏なアナウンスが聞こえるんだけど」

「レイシフト実験がそのまま実行される可能性があります。私と先輩はレイシフトするかと……」

「それによって死亡する可能性は?」

「大丈夫だとは思いますが……」

「やっぱり管制室に行くしかないわね。コヤンスカヤ、救助その他色々と手伝ってあげて」

「畏まりましたわ」

 

 そんな会話をしながらも管制室に向かうもレイシフトのカウントダウンが始まり――管制室に辿り着く前にカウントはゼロになった。

 

 同時に麻菜の視界は光に包まれた。

 

 

 


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