全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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ヒントはアメリカ

 

 次の特異点へのレイシフトまでの間、準備期間兼休暇はそれなりの長さだった。

 麻菜は別にすぐに行っても良かったのだが、今回からはオフェリアもついてくるとのことで、彼女のサーヴァント召喚と連携確認などの為と言われれば仕方がない。

 

 そのオフェリアのサーヴァントはシグルドであった。

 同席した麻菜もついでに召喚したところブリュンヒルデが出てきた。

 召喚されたブリュンヒルデが突如としてシグルドを殺そうと襲いかかったものの、麻菜は華麗に彼女を身動きとれないように拘束した。

 そして事情をシグルドから聞いて、ならばと麻菜はウィッシュ・アポン・ア・スターでブリュンヒルデがシグルドを見ても襲いかかったりはしないよう、大丈夫なようにしてしまった。

 

 ブリュンヒルデは歓喜し、シグルドもまた麻菜に対して深く感謝した。

 そこへ気配を察したのか、やってきたオルトリンデ。

 ブリュンヒルデに喜びつつも、シグルドに対して思いっきり敵意を向けていた。

 

 何か複雑な事情があるらしいので、麻菜はオルトリンデに対して、シグルドに許可なく攻撃を仕掛けたら自分と1対1で戦う権利をプレゼントと言ったら、絶対にしません、と確約する。

 その間、オフェリアは完全に蚊帳の外であったが、麻菜がとんでもないことを再確認した。

 

 

「ということがあったのよ。酷くない? オルトリンデったら、ワルキューレなんだからもっと勇ましくないとダメだと思うの」

「そいつァそうだナ。ますたあ殿と決闘なんざ、誰でも御免被るサ。喜ぶのは、すかさは殿やくー・ふーりん殿とかの、けるとの連中くらいなもんだ」

 

 あちこちに色んなものが引っ散らかった足の踏み場もない部屋。

 麻菜は空中に浮かびながら、こっちを向きもせずに絵をひたすらに描くお栄に愚痴を言っていた。

 

 ロンドンの特異点後、召喚で出てきたのが葛飾北斎だった。

 見た目としては2人組というより1人1匹のサーヴァントだが、フォーリナーというクラスらしく、麻菜は邪神的な気配を彼女達からは感じ取っていた。

 

「ますたあ殿も暇なもんだ。絵描きを見て面白いかい?」

「面白いというか、あなたの知名度的にどうやって描いているのか気になって。意外と普通だった」

「どういう描き方を想像していたのか、気になるところではあるが、やめておくさ」

「あ、ちなみにタコのアレは大変良かったので、ああいう方向でいっぱい描いてくれると私が嬉しい。代金なら言い値で払うし、画材とかも欲しいものなんでも買うから」

「そいつは太っ腹だ。ますたあ殿みたいなお大尽が後ろ盾だと安心できるもんさ。何なら、ますたあ殿を描いてやるよ」

「是非とも描いて」

 

 そんな風に適当に駄弁っていると麻菜のもとへ通信が入った。

 

「おっと呼び出し。じゃあ、また」

「おうよ」

 

 そんな挨拶と共に麻菜は転移魔法を使って出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、次の特異点はアメリカなのですが、何か作戦とかありますか?」

 

 麻菜を呼んだ相手はマシュであった。

 次の特異点がアメリカであるというのは既に判明していた為、どういう作戦でいくのか尋ねたかったのだ。

 マシュの問いに麻菜は答える。

 

「策はある。私の予想が正しければ1日か、早ければ数時間くらいで終わるわよ」

「その策とは?」

「アメリカっていうのがヒントね」

「ヒントになっていませんよ……」

 

 マシュは呆れ顔だ。

 

「問題はその先よ。でもまあ、ちょうど良かったわ。マシュ、あなたは戦うことには向いていないけど、大丈夫?」

 

 麻菜の核心をついた言葉にマシュはどきり、とした。

 

「それは……どうして、ですか?」

「あなたの戦闘時における役割上、私の傍に常にいる。体、少し震えている時があったわよ」

「……ええと、最近の特異点で敵っていましたっけ?」

「敵が現れた瞬間に宝具を打ち込んでいるから、まあ多少はね? ともあれ、ぶっちゃけ怖いんでしょ? しんどくなったり逃げたくなったら、私を頼りなさいよ。あなたには笑顔が似合うんだから」

 

 ストレートに言葉を投げかける麻菜の顔は真剣そのものだ。

 いつものおふざけがなく、こんな顔もできるのか、とマシュは全く見当違いのことが頭を過ってしまう。

 

「先輩って優しかったんですね……」

「当たり前でしょう。あなたは私の後輩よ? 後輩の面倒くらいみなきゃ先輩じゃないわ」

 

 麻菜は微笑みながら、そう言った。

 マシュはその言葉がとても嬉しかった。

 

「もう頼っていますよ。先輩には体を治してもらいましたし……少しくらいはお返ししていかないと……」

「別に戦闘で返さなくてもいいわよ。料理を作るとか掃除をするとか、美味しい店を探して一緒に行くとか、面白い本を教えてくれるとか、そういうのでいいから」

「う……現状では本くらいしか……りょ、料理と掃除は頑張ります!」

「精進しなさい、後輩よ。先輩は楽しみにしているぞ」

 

 ドヤ顔で腕を組み、そんなことを宣う麻菜にマシュはくすくすと笑う。

 

「私、頑張りますね、先輩」

 

 そんな後輩に麻菜は鷹揚に頷きながら、言葉を続ける。

 

「ところでマシュ、話は変わるけれど心霊スポットとか、そういうホラーなお話をしましょうよ」

「構いませんよ。怖い話とかを知っているんですか?」

「そうね……例えばなんだけど、よくある話で幽霊の出る噂がある屋敷なり廃墟のホテルなり病院なりがあるとするじゃない?」

「ありきたりですね」

 

 マシュの言葉に麻菜はうんうんと頷く。

 

「ありきたりなので、大抵は男女数人のグループで肝試しに行くわよね?」

「途中ではぐれて行方不明になったり、変死するパターンですね?」

「さすがはマシュ。ミステリー以外にホラーも?」

「多少ですよ。それで?」

 

 マシュに促されて麻菜は胸を張る。

 

「そこで私が登場するわけよ」

「……はい?」

 

 マシュは真顔になった。

 

「まあまあ、聞きなさいよ。やっぱり行方不明だとか死者が出るのは良くない。物語ではハッピーエンドだけでは食傷気味になってしまうかもしれないけれど、現実ではハッピーエンド以外に望むものはない」

「はぁ……それで、先輩が登場するのはどういう状況ですか?」

「最恐の心霊スポットがある。ならば、この私が一つ、見てやろうと」

 

 何となくだが、マシュは結果がどうなるか見えてきた。

 

「深夜に心霊スポットを前に佇む私。やはり超越的な力を持っていたとしても、もしかしたらクトゥルフに出てくるようなとんでもない怨霊がいるかもしれない、いや、きっといる。そうに違いない」

「いませんから。いたとしても普通のですから」

 

 マシュのツッコミを華麗にスルーしつつも、麻菜は続ける。

 

「そこで私のターン! 軍勢を出して、件のスポットを十重二十重に取り囲む! 5万人くらいで!」

「いきなり大前提が崩れましたよ。1人で行くんじゃないんですか?」

「怖いからヤダ」

 

 マシュは困惑した。

 何でサーヴァントを圧倒できるのに幽霊で怖がるのか、と。

 

「それで先輩。その後は?」

「5万のうち、1万人くらいの兵隊を突っ込ませる。人数で圧倒する。少数で行くからダメなのであって、大勢でいけば余裕。何なら建設機械を持ち出して土地ごと掘り返す」

「もう無茶苦茶ですね。心霊スポットが建設現場に早変わりですよ」

「最終的に私がガチで浄化の魔法を叩き込んだ後、太陽を落として終わり」

 

 マシュは両手で顔を覆った。

 これはひどい、と。

 

「先輩、先輩。もうちょっと何とかなりませんか? 荒唐無稽過ぎますよ」

「じゃあ軍勢は無くして、現実的なラインで考えましょう」

「太陽を落とすのも無しで」

「仕方ないわね。じゃあ私を含めた男女6人グループってことでどう?」

「ええ、それならまぁ……」

 

 マシュは肯定したが、すぐに後悔することになった。

 

「私とスカサハとクー・フーリンと玉藻とコヤンスカヤと……」

「先輩、先輩。幽霊が泣いて逃げますから」

「え?」

 

 きょとんとした顔をする麻菜にマシュは「いやいやいや」と手を左右に振る。

 

「何なんですか、そのメンバーは。特異点でも修復するつもりなんですか?」

「心霊スポット巡りよ」

「既に玉藻さんにコヤンスカヤさんという日本最大級の恐ろしい方がメンバーにいるんですが」

「玉藻とコヤンスカヤなのでセーフ」

「ダメです」

 

 マシュの言葉に麻菜は頬を膨らませる。

 

「じゃあミステリーとかどう? 洋館で起こった殺人事件、けれど当日洋館内にいた全員にアリバイがあるっていう」

「あ、それは面白そうですね」

 

 マシュは表情を明るくする。

 ミステリー好きということもあり、題材を聞いただけでワクワクした。

 

「警察では手に負えない、これは無理だってなるわけよ」

「お約束ですね」

 

 うんうんとマシュは頷く。

 

「そこで私が探偵として出てくるの」

「は?」

 

 マシュは真顔になった。

 しかし、麻菜は構わず続ける。

 

「死者を蘇らせればいいじゃない、という名探偵っぷりを……」

「ダメです。なんですか! そのちゃぶ台返し的な発想!」

「えー……じゃあ、死者蘇生は無しで」

「当然です」

 

 むぅ、と麻菜は難しい顔をした後、にっこりと笑みを浮かべた。

 ろくでもないことを思いついたな、とマシュは直感する。

 

「まずは当日に洋館内にいた人物を全員、個室へと1人ずつ呼ぶわ」

「事情聴取ですね」

「似たようなものね。呼んだ1人1人の頭に銃を突きつけて、お前が犯人か、と私が問いかけて、助手の清姫が嘘か本当かを判別するという」

「ただの脅しになっているんですが……あと助手の清姫さん1人で解決できそうですね」

「清姫は警察官になったほうが成功できそう」

「問題は清姫さんは同僚とかの軽い嘘にも反応してしまうことですね」

「世の中、うまくいかないわねぇ」

 

 ですねー、とマシュも麻菜に同意しつつ話を続ける。

 

「とりあえず、先輩が混ざってくるとどんな話も問答無用で解決してしまうので、面白くないですね。デウス・エクス・マキナってやつです」

「大抵のことができてしまうので。だから、私は日常生活でそんなに能力は使わないのよね。あ、でも移動手段として転移魔法と飛行魔法は使うけど……世界各地を週末は渡り歩いていたので」

「先輩って人生を楽しんでいますよね」

「当然でしょう。人生なんて楽しまないと損だし。苦労しないとダメとかいう輩は苦労を押し付けてくる輩だから。苦労っていうのは自分がやりたいことをやる為にするもので、他人から押し付けられるものじゃない」

 

 なるほど、とマシュは思いつつ、結局麻菜は何の話がしたいのだろうか、と首を傾げる。

 

「先輩、結局、何の話をしたいんですか?」

「暇なので、雑談というやつね。可愛い後輩と戯れるのもまた一興」

「次の特異点まで、まだ時間はありますからね」

「その特異点も、すぐに解決するんだけど。仕事は迅速に処理しないとダメ」

 

 麻菜の自信満々な態度にマシュは頼もしく思いつつも、いったい何をするつもりなんだ、という好奇心が湧き出てくる。

 

「結局、どうするんですか?」

「さっきも言ったけどアメリカなので。それがヒント」

「分からないです」

「実際にそのときになれば答えは分かるから。じゃあ、私は適当にぶらついてくるので」

 

 手をひらひらさせて、麻菜は歩いていった。

 残されたマシュは、素直に自分の気持ちを口に出した。

 

「気になりましゅ……」

「気になりましゅ? 今、気になりましゅって言った?」

 

 地獄耳の麻菜は一瞬でマシュの前に戻ってきて、イジり始めるのだった。

 

 

 

 


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