全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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【悲報】カドック、面倒な奴に絡まれる

 5つ目の特異点を修復したカルデアは楽観的なムードに包まれていた。

 何だかんだでアレコレとやらかしまくっているものの、麻菜により非常にスムーズに特異点が修復されている。

 

 オルガマリーとしても、その成果は称賛するべきものであり、麻菜以外ではこんなに素早く解決できないだろうと確信していた。

 麻菜にAチームの他のマスター達が加われば盤石で、彼女を酷使――当の本人には酷使されているという実感はないが――する必要もなくなる。

 オルガマリーはそう考えたし、ロマニやダ・ヴィンチも他の幹部職員達もそれには賛同した。

 

 他のAチームのマスター達にもどうしようもない状況であった、と証人になってもらうことで人理修復後の後始末をスムーズに行おうという思惑もオルガマリーにはあった。

 

 麻菜は説明会でAチームの面々と交流していたこともあり、大きな問題は起きなかったのだが――小さな問題は起きた。

 

 特に被害を被ったのはカドックである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、カドック」

「玲条麻菜っ……!」

 

 最悪だ、と言わんばかりに廊下で出くわしてしまったカドックは顔をしかめた。

 彼女とは合わない、と彼は蘇生後の早い段階で分かっていた。

 だからこそ、彼はストレートに告げる。

 たとえそれが全く相手にとってダメージとならなくても、意思表示は重要だ。

 

「僕はお前が嫌いだ」

「私は好きだけど。からかうと面白いので」

「そういうところだ。蘇生してくれたことには感謝する。それに見合うモノを将来的に返す。だから、僕と関わるな」

 

 見た目だけなら女神、しかし性格は魔王という神話に出てきそうな性悪だ、とカドックは判断している。

 

「関わるな、と言われて関わらないと思っているの? 私は人間嫌いのぐっちゃん先輩の部屋からの帰り道よ」

「……よく戦闘にならなかったな」

「残念ながらね。ところで知っている? ぐっちゃんって戦う度に最後は爆発するのよ。真祖もどきってみんな爆発オチをしないといけない決まりとかあるのかしら?」

「……僕に聞くな」

「ちなみに、ぐっちゃんに聞いたら顔を真っ赤にして否定してきた」

 

 だろうな、とカドックは頷きながらも思い出すのは蘇生してすぐに見た、あのふざけた模擬戦だ。

 

 まさしく神話の戦い。

 あれを見たAチームのマスター達は全員、顔が引き攣った。

 オフェリアがフォローに回っていたが焼け石に水だ。

 

 無数のサーヴァントを相手にたった1人で互角以上に戦う麻菜に誰も彼もが度肝を抜かれてしまった。

 

 そもそも行使する魔術――それがもはや権能だ。

 過程や理論などはなく、そう定義されているからその効果が起きるという代物。

 

 口が裂けても、カドックは自分達の方がうまくやれた、などとは言えなかった。

 

 とはいえ、彼が麻菜を嫌うのは事情が異なる。

 カドックは魔術師としては平凡であり、天才に翻弄されてきた過去がある。

 だからこそ、天才に対して劣等感があるのだが、麻菜はもう人類の枠を超えている。

 彼女は超越者という立ち位置であり、天才ですら決して届かない領域にあった。

 

 カドックとしても研究対象としての興味はあるが、あまりにも遠い存在である為に劣等感を抱きようがなかった。

 

 彼が嫌いなのはもっと単純で、性格的なものだ。

 

 人をおちょくったり、あるいはふざけたりしなければ死ぬのか、というくらいの麻菜の軽い性格がどうにもカドックは苦手だった。

 とはいえ、彼としても麻菜が本当に悪意があるわけではないことは分かる。

 神霊みたいな麻菜が本気で悪意をぶつけてきたら、カドックなんぞひとたまりもないからだ。

 

 いわゆる身内同士の軽いノリ、ふざけあい。

 わりとノリが良いベリルやペペロンチーノに麻菜が雑に絡んでいくのは最近、よく見る光景だ。

 

「カドック、暇なら私と戦う? もう何も怖くないって感じになれるわよ」

「お断りだ。もうすぐサーヴァントの召喚がある。それに集中したい」

「前に聞いたことがあるんだけど、元々は1人につき1騎だったなんて……ケチくさいわね」

「それが普通なんだ」

 

 話をしていると、こっちの常識がおかしくなる。

 侵食非常識結界でも持っているのか、とカドックは心の中で毒づきながら、さっさと麻菜から離れていった。

 しかし、そこで麻菜が呟くように言った。

 

「カドックは確かキャスターを召喚……そうだ、モモンガを呼んでやろう」

「おい馬鹿やめろ!」

「あ、戻ってきた。地獄耳ね」

 

 一瞬で戻ってきたカドックに麻菜は笑いながらそう声を掛けた。

 

「うるさい! 何でモモンガなんだ!?」

「モモンガってあれよ、私の友人の方よ。死の超越者で、苦労人で……」

「やめろ! 絶対に碌でもないことになる!」

 

 カドックの言葉に麻菜はにやりと笑みを浮かべる。

 

「さてはカドック、キャスターの女の子を召喚しようとか思っているわね? やっぱり男の子だわ」

「お前、頭がおかしいだろ」

「むしろ女の子を召喚しようとしない方がおかしいのでは?」

 

 真顔で麻菜にそう返され、カドックは一瞬自分が間違っているのではと思ってしまうが、そんなことはないと首を横に振る。 

 

「で? どんな子がいいの? 金髪褐色巨乳お姉さんとか? あるいは金髪碧眼巨乳のお嬢様?」

 

 カドックは身体能力を魔術でもって強化し、思いっきり麻菜の頭に拳骨を叩き込んだ。

 人体から出てはいけない音が出たが、麻菜なので問題はない。

 

「いたい」

「痛いで済ますな!」

「痛いだけじゃないわ。たんこぶができたもの」

「たんこぶで済ますなよ! 本当にお前は魔術師に喧嘩を売っている存在だな!?」

 

 麻菜はけらけら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カドックとのやり取りから数日経った、6つ目の特異点に関する情報がちらほらと出てきたある日のことだ。

 

「アナスタシアってこの前の召喚で来てくれたじゃない?」

 

 麻菜は雑に話題を振った。

 

「なんじゃ藪から棒に」

 

 織田信長は自分に対する話題ではなかったので、不満そうな顔でそう返した。

 とはいえ、信長の方から麻菜のところを訪れて、駄弁っていた為に文句は言えない。

 

「カドックもアナスタシアを召喚してWアナスタシアとかいう面白いことになっているのは……まあいいとして」

「なんかアナスタシア同士で盛り上がっていたな。双子みたいだって、はしゃいでおったぞ」

「うんうん、他にもAチームとダブった子とかいたけど、今回はアナスタシアが私の敵にならなくて良かったってことよ」

「つまり?」

 

 問いに麻菜は鷹揚に頷いて告げる。

 

「敵になってたら、私は躊躇なくスターリンを召喚したわ。彼女は過去・現在・未来のソ連を架空や現実を問わず相手にすることになっていた」

「のぅ、麻菜。お主、第六天魔王と呼ばれたことはないか? 鬼畜を超えた所業じゃぞ……」

 

 信長は体を震わせる。

 彼女自身も結構はっちゃけていたが、スターリンははっちゃけ具合とやらかし具合は信長を遥かに上回る。

 ましてや、トラウマとなっているアナスタシアにスターリンをぶつけるなんぞ、もはや悪魔の所業だ。

 

「ソヴィエト・ロシアではロマノフ王家が統治される。是非もないよね?」

「是非もないわけがないぞ……それ、本人には言うんでないぞ。座に還ってしまうやもしれん」

「私の敵になったっていうことは私に何をされてもいい、と自ら契約書にサインをしたようなものよ」

「召喚されてから常々思っておったが、お主って超ポジティブじゃな! わしもビックリ!」

「それほどでもない。とはいえ、アナスタシアは可愛いし面白いので気をつける。彼女の歌声って知っている? 色々歌ってもらったわ」

「ほー……よし、わしも何か歌ってやろう」

「信長には敦盛を舞ってもらいたい」

「死亡フラグが立つから嫌じゃな……」

「本場の敦盛を見てみたいので、是非とも」

「今度な、今度」

 

 手をひらひらさせる信長。

 そこへ新たな来訪者がやってきた。

 

「なんでノッブがいるんですか?」

「なんじゃ、沖田。わしがいてはまずいか? マスターの傍にいるのは当然じゃろ」

「私もサーヴァントなんですが……ともあれ、麻菜、お団子を持ってきました」

「わしの分は?」

「あるわけないでしょう」

 

 沖田にばっさりと斬られて、信長は項垂れた。

 この2人のやり取りはいつもだいたいこんな感じなので、麻菜は気にすることなく、沖田が持ってきたお団子を頬張る。

 

「のう、麻菜よ。可愛いサーヴァントが腹を空かせておるぞ?」

「沖田さんや、サーヴァントってお腹が空くの?」

「食べることはできますけど、空くことはないですね」

 

 今更のことを麻菜は敢えて問いかけ、沖田もまたそう答えた。

 

「ぐぬぬ……悪魔め……」

「悪魔らしいやり方で、お団子を食べてやるんだから」

「カルデアの白い悪魔……!」

 

 そんなことを言いつつも、麻菜は団子を一つ、信長へと渡した。

 もぐもぐと団子を頬張る信長。

 

「で、物は相談なんですが、麻菜……いえ、マスター」

 

 沖田は拝むように麻菜へと両手をあわせた。

 

「何なのよ、改まって」

「次の特異点、是非とも私を……」

「おい沖田。わしを差し置いて何を言うか。ということで麻菜よ、次はわしを連れて行け」

 

 これが目的だったのか、と麻菜は悟る。

 しかし、彼女は溜息を吐き、無言で部屋の隅を指さした。

 

 そこにはダンボール箱が山と積まれていた。

 

「部屋に来たときからあったが、何じゃあれ?」

「次は自分を連れて行け、という嘆願書」

「マジか……」

「マジですか……」

 

 皆、考えることは同じだったらしいと2人は悟る。

 

「そろそろコヤンスカヤを特異点に連れて行きたい気がするけど、やめておいたほうがいい気もする」

「妲己ですからねぇ」

「妲己じゃからなぁ」

 

 現地のサーヴァントや住民と一悶着を起こしそうなのは言うまでもない。

 

「あと次はエルサレムのあたりらしいから、そりゃもう宗教的にカオスなことになっているに間違いない」

「宗教戦争ならパス。一向宗で懲りた」

「あ、それなら沖田さんもパスです。面倒くさいので」

 

 信長と沖田の言葉にそりゃそうだろうな、と麻菜は思う。

 彼女だって前世のリアルで宗教には懲りている。

 

「……やっぱり有名な指導者を召喚して、聖戦(ジハード)を宣言してもらうしかないかな」

「おいバカやめろ!」

「それはまずいですよ!」

 

 とんでもないことを言い出す麻菜に信長と沖田は慌てて止めに入る。

 

「普通にやればいいんじゃないですか? 麻菜は普通に強いので。最近は以前より、技量は勿論、魔力やその他諸々も上がってきていますし」

 

 沖田の言葉に今度は信長が驚いた。

 

「え、まだ成長しとるんか?」

「ええ、麻菜は成長していますよ」

「やっぱりお主、本物の第六天魔王じゃろ」

「……そうだ、私をマスターとするサーヴァントは成長できるようにしてしまえば……」

 

 何やらえげつないことを麻菜は考えていた。

 

「そういえば沖田。お主、病弱だった筈では……? もっとこう、ごほんごほん吐血しとれ」

「あ、それ、麻菜に治してもらいましたよ。噂の何でも願いが叶う魔法で。あと、最後まで付き従えって言われたりもしているので、私としてはそうするつもりです。それに羽織もなんか、戦ってたらいつの間にかありましたし」

「なんじゃそりゃ!?」

「まあ、私以外にも願いを叶えてもらった方は多いですし……己自身に関する問題なら、叶えてもらえますよ。対価は永遠に付き合ってっていうものですけど」

 

 信長も何か願いの一つでも叶えてもらおうと思うが、あいにくと思い浮かばな――

 そのとき、彼女は閃いた。

 

「よし、弟と姪っ子を召喚してくれ」

「よしきた。代わりに信長もずーっと一緒にいなさいよ」

「うむ。わしも世界を見て回りたい故、もとよりそのつもりじゃ」

「弟は分かりますけど、なんで姪っ子?」

 

 沖田の問いかけに信長は神妙な顔で告げる。

 

「わしの勘じゃが、どうも手元に置いておかないと弟にしろ、姪っ子にしろ特異点を作りそうな予感がしてならん……」

 

 信長の表情にどうやらガチっぽい、と沖田と麻菜はそれ以上の追求はやめたのだった。

 

 

 

 

 


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