「……うーん、これ、どっちが悪役なんだろう」
ロマニは困惑していた。
それは彼だけではなく、ここにいる全ての面々の偽りのない思いだった。
6つ目の特異点に投入されたカルデアからの兵力はたった2名。
玲条麻菜とそのサーヴァントである殺生院キアラだけである。
「とりあえず偵察に行ってくる」という軽いノリで麻菜がキアラを連れてレイシフトしていったというだけだ。
しかし、それは正解だったかもしれない。
レイシフトした直後に宝具と思われる黄金色の特大魔力砲撃が飛んできたのだ。
回避するための時間的猶予は僅か数秒しかなかったが、麻菜にとってはそれで十分過ぎた。
とはいえ、カルデアの面々からすると魔術王よりもある意味では危険で厄介な麻菜とキアラのコンビである。
2人の性質を知っていれば、むしろこっちが悪役なのではないか、と思ってしまうのも無理はなかった。
その後も砲撃が飛んできたが、最終的に麻菜がブチ切れて白銀の槍を顕現させ、ぶん投げたら飛んでこなくなった。
相手に当たったのかどうか分からないが、とりあえず脅威はひとまず去ったのは間違いない。
『撃ってきた敵はどこに?』
そして、すぐさま麻菜からの問い合わせ。
「エルサレムの方角ね」
『マリー、私とキアラはそっちへ向かうから。必要に応じて私を目印にして、増援を送り込みなさい』
「分かったわ」
通信が切れ、オルガマリーは溜息を吐いた。
一方で麻菜はキアラをお姫様抱っこして、空を飛んでいた。
エジプト方面は砂嵐が巻き起こっていたこともあり、わざわざそっちに飛ぶことはしなかった。
そもそもオルガマリーからはレイシフトする際に寄り道せずにさっさと行きなさい、と言われていた為でもある。
そんな麻菜はブチ切れていた。
開幕からマップ兵器みたいなものをぶっ放すという真似をしてくれたので、相応の
もっとも、麻菜とキアラを相手にして戦うとなれば、レイシフトした直後の態勢が整っていない段階を狙って、大火力で吹き飛ばすというのは極めて合理的かつ正しい対応である。
不幸であったのは、麻菜にとってこういう理不尽な開幕攻撃は非常に慣れていたことだった。
「麻菜様、どうされますか?」
「実は私が密かに練習して、できるようになっていたアレをアレしてアレする」
「よく分かりませんけど、それは気持ち良いことでしょうか?」
「少なくとも私にとっては気持ち良いわね……あ、なんか地上で剣を振り回しているのが見える」
麻菜の言葉にキアラは地上を眺めてみるが、荒野の中に小さな黒い点――芥子粒と同じくらいの大きさ――がかろうじて見えるくらいだ。
高高度を飛べるのだから、低高度を飛んでやる義務も義理もない――
極々当然の判断により、麻菜はキアラを抱えて高度9000mという亜成層圏を時速500km程度で飛んでいた。
麻菜もキアラも、この高度を飛行することによる大気の薄さだとか寒さだとかそういうものの影響は一切受けていない。
ある意味で2人とも人外であるからこそ、できることだ。
なお、飛行速度に関しては麻菜のこれまでの実験により、魔力を注げば注ぐほどに加速できることが分かっていた。
魔力を全て飛行に回せば極超音速でかっ飛ぶことも理論的には可能であるが、そんなことをすると各国のレーダーに捕捉されてUFOと間違われるのでやったことはない。
特異点ならそういうことを気にせずにできるかもしれないが、オルガマリーの胃を痛めることになるので自重しているのだ。
そうこうしているうちに、エルサレムらしきものが見えてきた。
麻菜とキアラは不思議に思う。
「ねぇ、キアラ。私はエルサレムの歴史にはあんまり詳しくないんだけど、この時代のエルサレムって白亜の城なの? なんか建築様式的にここらの感じではなくて、欧州っぽいんだけど」
「私も詳しくはないので分かりませんが……しかし、城の周辺には難民らしき人々が見えますね」
「税金対策に慈善事業でもやっているのかしら……?」
「国が税金対策というのもおかしな話かと……あと、エルサレム王国は滅んだらしいですから」
とりあえずカルデアに連絡を入れようと麻菜が思った、そのときだった。
城の中心部から見慣れた砲撃が飛んできた。
しかし、麻菜はそれをひらりと華麗に回避するが今度は敵も本気なのか、砲撃が乱射される。
リキャストタイム無しでマップ兵器を乱射とか何それズルい――
麻菜はそう思う程度に余裕であった。
何しろ、砲撃の軌道は直線であり、追加効果などが何もなかったのだ。
追尾してきたり、拡散してきたり、分裂したり、デバフを撒き散らしたりとかそういう追加効果のない単なる砲撃に当たる彼女ではない。
避けまくる麻菜に怒りを覚えたのか、更に激しい砲撃となるが、それでもなお当たらない。
ランサーのアルトリア達が使っている聖槍による砲撃っぽいことに、そこで麻菜は気がついた。
回避しながら、麻菜はカルデアへと連絡を入れる。
「あー、もしもし? 私だけど」
『色々と言いたいことはあるけど、とりあえず……その乱舞しているビームみたいなのは何?』
「敵からの砲撃だけど」
ひらりひらりと軽業師のように避けながら、麻菜は余裕である。
『何でそんな馬鹿げた砲撃を軽々と回避できるのよ!?』
「当たらなければどうということはない」
『カルデアの赤い彗星!?』
ロマニがオルガマリーの横で反応したが、オルガマリーの睨みで一瞬にして沈黙を余儀なくされた。
しかし、麻菜は赤い彗星という単語に、なんかそれっぽい格好でもすればよかったと少し後悔する。
そんなことを思っている間にオルガマリーが尋ねる。
『で? 用件は?』
「ちょっとランサーのアルトリアを2人とも呼んで欲しいのよ。この砲撃、たぶん聖槍っぽい気がする。模擬戦で似たようなのを見た」
麻菜の言葉にオルガマリーは頷いて、指示を出す。
数分もしないうちに、ランサーのアルトリアとアルトリア・オルタが現れた。
『間違いありません。聖槍によるものです』
『地上にある城は間違いなくキャメロットだ』
なるほど、と麻菜は鷹揚に頷いて、そしてにっこりと2人に微笑んだ。
「特異点を作りそうなこと、何かやった?」
『……もしかしたら平行世界の私がやらかしたかもしれません』
アルトリアの言葉に麻菜は再度、頷いてみせる。
オルタの方は諦めの表情だ。
そこでキアラが声を上げた。
「麻菜様! 御覧ください! 人がゴミのように死んでいきます!」
通信はそのまま繋がっており、カルデアの管制室、そのモニターにも様子が映し出されていた。
砲撃を避けていたこともあって、高度は当初よりもかなり低くなっていたおり、その光景は鮮明に見えてしまった。
騎士達が難民達を斬り殺している光景だ。
キアラからすれば痛ましい出来事である。
苦痛からの解放は快楽によるものでなければならない、という意味合いで。
一方でカルデア側は常識的な反応だ。
『そんな……! 騎士達があんなことを……!』
ランサーアルトリアは驚愕に目を見開き、オルタは何も言わずにただ顔を顰めた。
オルガマリーはすぐさま叫ぶ。
『麻菜! 何とかしなさい!』
「何とかしなさいって言っている間に、もう終わるわよ」
麻菜の言葉通りだった。
騎士達は数が多く、難民達を取り囲むように布陣していたこと、そして彼らが全員手練であることから一撃でもって迅速に難民達を処理しており、あっという間に難民達の殺戮を終えた。
しかし、ここからは麻菜のターンである。
何しろ、相手側は無抵抗であり、なおかつ庇護を求めた難民を一方的に皆殺しにしたのである。
何をしてもいい、という最高の大義名分を麻菜に与えてしまった。
故に麻菜は宣言する。
しっかりと眼下のキャメロットにも聞こえるよう、広範囲に自身の声を届かせるアイテムを使用して。
「無抵抗かつ庇護を求めた難民達を一方的に虐殺するということ、これは明確な人道に対する罪である!」
麻菜はノリノリであった。
そして、この後の展開が予想できたカルデア側は溜息を吐く者、コメカミを抑える者など様々である。
「よって、私は虐殺された人々の無念を晴らすべく、正当なる報復攻撃を決意した!」
何をやるんだろう、とカルデアの面々が見守る中、いよいよ麻菜は攻撃に転じる。
敵からの砲撃はまだ収まっていないが問題はない。
ユグドラシルの制限を取っ払い、アレコレと練習してできるようになった魔法を今から彼女は行使する。
麻菜の個人的に使ってみたくてウズウズしていた魔法の上位に位置するものだ。
「あ、キアラ。ちょっとこういう感じで」
「あんっ」
しかし、お姫様抱っこでは撃てないので、キアラの体勢を変える。
彼女を背負う形にしたのだが、そのときにキアラの豊満な胸を揉んでしまうのは仕方がない。
そんなこんなで、麻菜は魔法を強化するバフを唱えた上で、いよいよその魔法を行使する。
「
麻菜は手をキャメロットに向けて突き出して、唱えた。
すると1個の光弾が彼女の手のひらから凄まじい速さでキャメロットの中心へと向けて飛んでいき――そして、大爆発を起こした。
麻菜は告げる。
「1発で終わらせると思った? 残念! 連発だわ! 核の飽和攻撃を喰らえ!」
キャメロットは核の炎に包まれていく。
天高くまで爆煙が届くが、麻菜は構わず核攻撃を継続する。
これまで一方的に砲撃してきたお返しとばかりに。
次々と起こる核爆発によって、まさしく地上に太陽が幾つも現れたかのような状況となった。
「お前が泣くまで核攻撃をやめないっ!」
『泣く前に消し飛んでいるんじゃないの……』
オルガマリーは呆れながらツッコミを入れた。
いくら何でもあんまりな展開だ。
『何というか……ここまでデタラメだともう笑うしかない。あれ、全部魔力によって核爆発を引き起こしているよ。だからサーヴァントとかにも効くよ』
ロマニは疲れた顔をしていた。
『やっぱり麻菜君が黒幕なんじゃないの?』
ダ・ヴィンチの問いにカルデアでは同意する声が多数上がった。
「この品行方正健康優良おやつは300円以内の私が人類を滅ぼそうとするわけがないじゃない」
『おやつは300円以内って何よ?』
「バナナはおやつに入らないらしいわよ。諸説あるらしいけど」
「麻菜様、そのネタは欧米人には通用しないと思いますけど……」
キアラのもっともなツッコミに麻菜はそれもそうだ、と思いつつ、核攻撃を止めた。
キャメロットは砂塵と煙により覆われて、全く何も見えない状態だ。
「どう思う?」
「私の勘ですと……たぶん無傷でしょうね」
「私もそう思う。だいたいこういう展開だと核攻撃って噛ませみたいな扱いなのよね。本来は今の攻撃でここら一帯どころか、中東は人が生存できないくらいになるんだけど」
「分かっているならば、どうして……?」
「核を個人でぶっ放せるなら、ぶっ放したくない? しかもここではなかった事になるし……」
「核よりも、私は自慰の方が……」
緊張感のない会話をする2人に対して、眼下から黄金色の砲撃が放たれた。
『よし! 流石は私です!』
『ああ、そうだ! あんな卑劣な攻撃に負ける私ではないな!』
あんまりな攻撃に意気消沈していたランサーアルトリアとアルトリア・オルタが元気を取り戻した。
「あなた達、どっちの味方なのよ?」
『麻菜が騎士としての矜持を踏み躙るような攻撃をするのが悪いです!』
『そうだそうだ!』
「いや、あなた達の騎士も難民を虐殺していたじゃないのよ」
2人からそう言われて、麻菜は反論する。
するとアルトリア2人は言い返せずにしょぼんとした顔になってしまう。
その顔が可愛かったので、麻菜はそれ以上アレコレ言うのはやめた。
そうこうしているうちに煙や砂塵が晴れてきたが、そこには変わらぬキャメロットが存在した。
キャメロットの周辺、元々は難民キャンプがあった場所は数多のクレーターとなっている為、どうやら何かしらの防御機構でもって核攻撃を防いだのだろう。
「ぐぬぬ……!」
「麻菜様、どうされます? もっと大きいのをぶち込みますか?」
キアラの問いかけに対して、麻菜はここで特異点攻略会議を思い出す。
特異点ごと消し飛ばすとかそういうのは無しで――
自分とキアラが特異点を攻略するにあたり、出された条件はそれだ。
これを破ればキリシュタリア達Aチームが対処することになる。
とはいえ、今回のコレを見てAチームの面々はほとんどが顔を引き攣らせていたのは言うまでもない。
核攻撃を個人で行える麻菜もデタラメだが、それを防ぐ相手も中々にデタラメである。
麻菜は決断する。
「……よし、キアラ。ヤっていいわよ」
「まぁ! よろしいのですか?」
「ただし、ボスは残してね。アルトリアは欲しいので」
「はい、心得ております」
満面の笑みでキアラは答えた。
そして、麻菜は砲撃を避けながら、そのまま地上へと降下していったのだった。