「実はアレ、本当なら私を中心にして核爆発を起こすんだけど……どうにかアレを撃ち出せないかって昔から試行錯誤したのよ」
麻菜は得意げに語り、それはカルデアの管制室に流れている。
さっきの核攻撃ってどうやってやるのか、というロマニの質問への回答だ。
「従姉の愛歌に協力をお願いして、魔力の動きを感じてみたんだけど、核爆発をさせるときに魔力が物凄い勢いで身体の中心に集まっていくのが分かって、爆発する寸前にまで飽和した状態のときにそれを更に魔力で包み込んで、ふわっと取り出す形にしたら、ああなった」
『ごめん、聞いた僕が馬鹿だったよ……』
ロマニは思わず謝罪した。
まず自分を中心にした魔法というところで、麻菜が核攻撃に対する耐性みたいなものがあるかもしれないと判明してしまったのだ。
撃ち出せなければ麻菜が敵陣に突っ込んで核爆発を連発するという、虞美人みたいなことをやらかす可能性もあった。
虞美人が単なる爆発であるのに対して、麻菜は核爆発である為、周囲に与える影響は計り知れない。
呑気に解説している麻菜であるが、彼女の目の前ではキアラによる救済が行われていたのだ。
全身に鎧を纏った騎士達が大勢、キャメロットから出撃してきたのだが――キアラが片っ端からその胎内へと吸い込んでいっている。
教育に悪いというか、魔術師どころか人類や知性体そのものに喧嘩を売っているというか、ともかくそういうデタラメで敵に同情してしまうことが行われていた。
なるべくキアラの戦いを見たくない為にロマニは麻菜へ核攻撃ってどうやるのか、という問いかけをしたのである。
麻菜とキアラ、どっちがマシかというのは究極の問いであるに違いないとカルデアの面々は確信した。
「お、お前! そんなの反則じゃねぇかー!?」
「ふふふ……ソワカソワカ……」
意気揚々と出撃してきたモードレッドがキアラによって瞬く間に捕らえられて、胎内へと収められた。
なお、この時点で特異点の様子はリアルタイムで希望するサーヴァント達の部屋や食堂、レクリエーションルームなどのモニターに対しても映像が流されている。
偶々食堂でラーメンを食べながら見ていたカルデアのモードレッドは泣いた。
食堂に居合わせた他のサーヴァント達は彼女が可哀相過ぎたので、彼女を気遣い、特にスカディは自らが注文したアイスクリームを1つ、モードレッドへと差し出した程だ。
そして、やや遅れて出てきたガウェインは堂々とキアラの前に立つ。
彼はキアラを凝視して――
「……あと10歳、若ければ……」
ぽつりと彼が呟いた声はキアラだけでなく、麻菜、そしてカルデアにも聞こえた。
「私が言うのも何だけど、ガウェインって……円卓って……」
『サー・ガウェイン……』
『もう諦めている……』
麻菜の言葉にランサーアルトリアとオルタが嘆いた。
カルデアの管制室にいるオルガマリー達からは微妙な視線がランサーアルトリア達に送られる。
そして、カルデアのガウェインは幸いにも自室で見ていた為、彼自身が悶絶した程度で済んだ。
なお、ランスロットはセイバーの彼は勿論、理性を失っている筈のバーサーカーの彼であってもこの時点で嫌な予感しかしなかったので、それぞれ自室に閉じこもって鍵を掛けた。
それは正しかった。
麻菜達の前に立ちはだかったガウェインは2人を明確な脅威だと判断し、宝具を放った。
ギフトもあることから、彼の聖者の数字は常に発動状態であり、生半可な輩では防ぐことすらできないのだが――相手が悪すぎた。
「宇宙的なドMのキアラにそんな攻撃が効くわけがない」
麻菜はそう言いつつも、ガウェインが宝具を撃つタイミングに併せてキアラに対して、念の為に防御系バフを重ねがけしていた。
「ああんっ……!」
そんな彼女を盾にして防ぐ麻菜。
転移魔法で回避しても良かったのだが、目の前にちょうど良い肉盾があったので使わない理由がなかった。
宝具の解放が終わったところで麻菜は問いかける。
「SMプレイ的な感じに気持ち良いの?」
「そんな感じです。麻菜様、今度、そちらもやりましょう」
そんな会話をしているとガウェインが斬りかかってきたが、残念なことに既に彼はキアラの掌の上であった。
そのとき、2人の後方よりランスロットが奇襲を掛けるべく疾駆してきたのだが――
「ふふふ、後背位がお好きですか? さすがはランスロット卿ですね。王妃とヤるときもそうだったのでしょうか……?」
「伊達に王妃を寝取ってないわね」
妙なところで感心する2人にランスロットは怒りと羞恥その他諸々の感情が込み上げながらも、斬りかかろうとして――
「さぁ、私の胎内を存分にご堪能くださいませ……」
呆気なくランスロットはガウェインと共にキアラの胎内へと消えていった。
『……最低ですね。わざとじゃないですか?』
カルデアの管制室にいながらも、これまで沈黙を貫いていた――コメカミを抑えたり溜息を吐いたりはしていた――マシュはここで遂に口を開いた。
ランスロットに対する言葉であるのは明白だ。
「今まで黙っていたマシュの第一声が予想外に辛辣だった件について」
『先輩が予想外なことばかり仕出かすので、言葉が出なかったんですよ!?』
「文字通り、絶句するという状態だったのね」
さて、と麻菜は飛んできた不可視の攻撃――空気の刃を一瞬で斬り捨てる。
いつの間に抜いたのか、その手にはレーヴァテインがあった。
「流石のキアラも知覚外の敵は吸い込めないのよね。いやまあ、攻撃が当たっても気持ち良くなるだけで終わるだろうけど」
「いえ、そんなことはありませんよ? 痛いものは痛いですし……それもまた気持ち良いですけど」
「最終的には気持ち良くなるんじゃないのよ」
「ええ、それが私ですので」
頭の悪い会話にオルガマリーは映像による監視をやめようかなと思ってしまうが、それはそれで麻菜とキアラがやりたい放題になる可能性がある。
たとえ精神衛生上多大な問題があったとしても、見なければならない、記録に残さねばならないのがカルデアの辛いところだった。
『麻菜、おそらくはトリスタンですが……どうしますか?』
『頑張れ、トリスタン。せめて一矢報いろ。王の心が分からないお前でも、それくらいは分かるだろう!』
ランサーアルトリアの問いとオルタの応援。
「こうする。オルタは後で覚えておけよ」
今度は核攻撃ではなく、麻菜が放ったという意味合いでは常識的だった。
「
麻菜がトリスタンが撃ってきた方向へ手を突き出して唱えれば、瞬く間にキャメロットの城壁を軽く超える程の大津波が生じて、一気に押し寄せた。
『水のないところでこれほどの魔術を!?』
ロマニの声に麻菜は鼻高々だ。
しかし、そこでキャメロットの防御機構が発動する。
それはキャメロット全体を包み込む結界であった。
だが、いくら結界であっても大津波によってもたらされる運動エネルギーを完全に消失させることはできない。
キャメロットは揺れた。
さしものトリスタンも一瞬、体勢を僅かに崩してしまうが、麻菜にとっては十分過ぎる隙だった。
彼女はキアラの首根っこを引っ掴むと駆けた。
その速度は目にも留まらぬ程であり、トリスタンは体勢を立て直して射撃を開始するも、当たらない。
この光景をカルデアの自室で見ていたトリスタンは「私は悲しい」と小さく呟いた。
あっという間に麻菜はキャメロットの正門へと辿り着いてしまう。
だが、そこは固く閉ざされており、ちょっとやそっとの攻撃では突破できないだろう。
トリスタンは動きが止まった麻菜へと攻撃を仕掛けようとするが――そこで麻菜はとんでもないことをやらかした。
「征くぞ、レーヴァテイン! 担い手たる私にその真価を示せ!」
思いっきりレーヴァテインでもって門を斬りつけた。
普通ならば剣が傷つくか、あるい門に傷がついたとしても引っかき傷程度に終わる。
だが、彼女が振るうレーヴァテインはそのフレーバーテキストが現実化したことで、とんでもない代物になっている。
それこそ、ただ振るうだけでもちょっとやそっとではない攻撃になってしまう。
設定を詰め込みすぎた結果である。
故に、麻菜が力を込めて斬りつければ――まるでバターを熱したナイフで切り裂いたかのように、門は斜めに斬り裂かれた。
「はいちょっとお邪魔しますよー」
「チャイムを鳴らさなくてよかったのでしょうか……?」
「鳴らさなくても、在宅なら邪魔するなら帰ってーって言われるから大丈夫。言われても私は居座るけど」
とりあえずトリスタンは潰しておこう、と麻菜は彼がいると思われる城壁へと向けて、攻撃系魔法を放ちながら近づいた。
トリスタンはキアラに知覚されないよう距離を取り、身を潜めながら射撃したのだが、程なくして麻菜に発見され、即座にキアラが令呪で呼ばれてしまう。
そして、最後まで奮戦したトリスタンもまたキアラの胎内へと消えていった。