全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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獅子王が聖杯を持っているに違いない!

 キャメロットへと突入した麻菜とキアラは真っ直ぐに敵の親玉のところへ向かう――わけがなかった。

 

 難民虐殺という人道に対する罪を行った為、相手は世紀の大悪党であり、世界の敵、いや宇宙の敵である――

 故に、キャメロットにあるものを没収しても問題はない――

 

 民間人っぽい輩がいれば麻菜が魔法で眠らせて、偶に襲いかかってくる騎士――モニタリングしていたダ・ヴィンチは粛正騎士と名付けた――がいれば、麻菜は素手で彼らの剣を受け止めてへし折り、心を折ったところで鎧の上から手刀で切断した。

 

 ランサーアルトリアとオルタは泣いた。

 彼女達だけでなく、食堂で見ていたセイバーのアルトリアも泣き、オルタすらも悲しそうな顔となっていた。

 あんまりな光景だった。 

 

 周囲に誰もいないか、いたとしても意識がない状態にして、麻菜はあちこちの建物へ侵入を繰り返し――扉が閉ざされていてもぶち破って入る――内部を物色して堂々と色んなものを無限倉庫へと収納していった。

 

 実は麻菜もビーストなんじゃないかという疑いがカルデアにてかかるが、あいにくと計測機器は反応を示していない。

 なお、キアラはキャメロットの門前における戦闘開始からビーストとしての本性を隠していないが、大して問題にはされていない。

 

 むしろようやく正体を現したのか、という程度であった。

 勿論、下手にキアラを刺激すると彼女だけでなくマスターである麻菜が面倒くさい絡み方をしてきそうな予感しかなかったということもある。

 

 寄り道をしまくりながらも、順調に麻菜とキアラのコンビは進む。

 この段階に至ってはさすがに敵も砲撃しようとは思わないのか、砲撃は全く無かった。

 

「もしも相手が逃げていたら、カルデアにいるアルトリア達を思いっきりからかってやろう」

 

 悪どい笑みを浮かべて、そう呟いた麻菜にランサーとセイバーのアルトリア達は敵に対して逃げるなよ、と思いつつ事態の推移を見守る。

 しかし、レイシフトして止めようとする者は誰もいなかった。

 

 誰だって火中の栗を拾いたくはないし、麻菜とキアラのコンビが巻き起こすことを面白がっている者達がいるのも事実だ。

 また精神的なダメージを受けているアルトリア達も敵のアルトリアがやっていることには賛同なんぞできない。

 レイシフトせずともカルデアから通信をした方が手っ取り早いし、何よりも麻菜とキアラのぶっ飛んだ行動を直接目の当たりにしなくて済むという大きな理由があった。

 

 

 やがて略奪を終えた――もとい、悪逆非道のアルトリアの領地から物品を没収した麻菜はホクホク顔でキアラと共に城へと向かった。

  

「城内には聖杯だけではなく、金銀財宝もあるはず……」

 

 麻菜の呟きが聞こえたカルデアの面々は溜息を吐いた。

 麻菜も含めて、カルデアの誰もが敵のアルトリアが聖杯を持っていることを確信していた。

 

 

 

 

 

 しかし、麻菜の金銀財宝奪取作戦は呆気なく潰えることとなった。

 王城へと通じる道のど真ん中で、1人の騎士が立っていたのだ。

 

『さすがはアグラヴェインです!』

『やはりお前は出来る奴だ!』

 

 ランサーアルトリアとオルタは彼を見てガッツポーズをしながら叫んだ。

 その発言に麻菜とキアラは目の前に仁王立ちする騎士がアグラヴェインで、王からの信頼が厚いと判断する。

 

 彼は口を開いた。

 

「案内する。ついてくるがよい」

「ここで背後から奇襲を掛けて、ぶち殺すっていうのはやめたほうがいい?」

 

 真顔で告げる麻菜にアグラヴェインは深く、それはもう深く溜息を吐いた。

 しかし、そこでカルデアからの通信が強制的に割り込んだ。

 ホログラムにランサーアルトリアが映し出される。

 

 アグラヴェインが目を見開いて驚く中、ランサーアルトリアは厳かに告げる。

 

『アグラヴェインよ……苦労を掛けるが、色々と頼む』

 

 色んな感情が込められたその声に、彼は朧気ながらも察する。

 

「御意に……ただ、どのような結果になるかは……」

『構いません。過程は酷いことになるでしょうが、おそらく結果は良いものになるでしょう』

 

 2人の会話を横目で見ながら、麻菜はキアラに問いかける。

 

「過程が酷いことになるって酷くない? そんなことしていないのに……」

「ええ、私もそう思います。酷いことなんてしていませんのに……」

 

 過程を酷くしている原因その1とその2の発言にランサーアルトリアとアグラヴェインは思いっきり溜息を吐いた。

 

 そんなこんなで通信を終え、アグラヴェインは2人を王のところへと案内する。

 道中、麻菜は遠慮なくアグラヴェインに質問をぶつけた。

 

 しかし、その質問は意外にも普通の内容であった。

 当時のブリテンにおける社会情勢から始まり、アグラヴェイン個人の経歴、キャメロットの料理が酷かった原因への対策などなど、これまでの振る舞いが夢か幻ではないかと思えてしまう程だった。

 

 アグラヴェインはカルデアに召喚されていない為、彼の視点から見たブリテンというものを麻菜は知ることができて大満足だ。

 

 

 そして、いよいよ麻菜とキアラは王との謁見を果たす。

 

 

 

 

 

「とりあえず思ったことを言って良いかしら?」

 

 麻菜の問いかけにアグラヴェインは何かを言おうとしたが、それを王――獅子王は手で制止して、軽く頷いた。

 

「その獅子みたいな兜って、あなたの趣味?」

「いや、もっと言うべきことがあるだろう」

 

 思わずアグラヴェインがツッコミを入れてしまったが彼は悪くない。

 

「だってカッコいいじゃない、あれ」

「……お前は本当に変わっている」

 

 そう言いながら、獅子王はその兜を取った。

 露わになるその素顔、それはやはりというかランサーアルトリア――瞳の色がライムグリーンであることを除けば――であった。

 

 そして、麻菜は四脚の椅子を取り出し、1つに座った。

 

「よくよく考えたら、私ってばついうっかり(・・・・・・)情報収集を怠っていたわ。だから、あなた方の目的を聞かせてくれるかしら?」

 

 敵の親玉を目の前にして、目的を聞かせて欲しいとかいう中々にふざけた態度である。

 アグラヴェインは頭が痛くなったが、獅子王は違った。

 

 彼女は特に警戒することもなく、玉座から立ち上がり、麻菜が取り出した椅子に座った。

 

「いいだろう」

「王よ、よろしいのですか?」

「構わない。それに奴がどのような言葉を返してくるか興味がある」

 

 我が王が変な輩に興味を持ってしまわれた、とアグラヴェインは心で嘆くが、表情には出さない。

 そんな彼もまた椅子に座り、それを見てキアラも椅子に座った。

 

「まずは名乗ろう。我は嵐の王にして最果ての主。聖槍ロンゴミニアドを司る、英霊の残滓である」

「その名乗りだと、要するに残りカスってことになるけどいいの?」

「訂正する。我は嵐の王にして最果ての主。聖槍ロンゴミニアドを司るモノである……獅子王とでも呼ぶが良い」

 

 麻菜は軽く頷いて自らの名を名乗りつつ、問いかける。

 

 

「私は玲条麻菜よ。あちこちの宗教に喧嘩を売ることをあなたは仕出かしたけど、何でまた?」

「全ては人理焼却にある」

 

 そして、獅子王は語り出す。

 自らの目的を。

 

 人類を愛し、大切にしているからこそ残す。何があっても護る。人類を失うことに耐えられない。

 悪を成さず、悪に触れても悪を知らず、善に飽きることなく、善の自覚なきもの達。

 そのような清き魂を集め、固定し、資料とする。

 永遠に価値が変わらぬものとして、我が槍に収める――

 

 

 目的を語り終えたところで獅子王は静かに麻菜の瞳を真っ直ぐに見据えた。

 

「お前は我が目的をどう思う?」

 

 問いかけに麻菜は溜息を吐きながら告げる。

 

「やっていることは大昔の人種差別主義者と変わらないわね。そういうのは流行らないから、支持を得られないわよ」

「……つまりどういうことだ?」

 

 獅子王は理解できなかった。

 故に問いかけた。

 

「要するに、あなたの基準で清い魂を持つ人間を選んで、それ以外を切り捨てるってことでしょう?」

「そうだ」

「最近は人権団体がうるさくてね。一部の人間を選んで、それ以外を切り捨てるっていう部分がダメなのよ。神様みたいなものになっているんだから、差別することなく全部救えないの?」

「それはできない……私はそれしかやり方を知らない」

 

 獅子王はそこで言葉を切り、問いかける。

 

「お前は私を否定するのか? 過程はどうあれ、お前もまたヒトからそのようなモノになったのだろう」

「やっぱり分かる?」

 

 麻菜の問いに獅子王は頷いた。

 そんな彼女に麻菜は告げる。

 

「色々とあるけれど、一言で言えば混沌なので」

「まさしくお前はそうであるな……質問に戻ろう。お前は私のやり方を否定するのか?」

 

 問いかけに対して麻菜は告げる。

 

「いえ、別に否定はしないけど。そういうやり方もあるわねって感じで」

 

 話を聞いていたカルデアの面々は頭を抱えた。

 獅子王と麻菜が手を組んで暴れ出したら目も当てられないことになるからだ。

 

 だが、あいにくとそういうことにはならなかった。

 麻菜は問いかける。

 

「でも、もっと良いやり方があるって言ったらどうする?」

「良いやり方?」

「ええ。ところでここの会話、盗聴の心配はないとあなたの名に誓えるかしら?」

 

 問いに獅子王は頷いた。

 それを見て麻菜は笑みを浮かべる。

 

「私は何でも願いを叶える魔法が扱えるわ。人類を標本みたいなものにしなくても、私の魔法なら問題なく救える」

 

 獅子王は目を見開いた。

 嘘かどうかなど彼女にはすぐに判別できる。

 麻菜は嘘を言っていない。

 

 そんな馬鹿な、という思いがあるが、しかし獅子王は納得する。

 目の前の存在は文字通りに異世界からやってきた存在、この世界とは別の理・法則で動くモノであると。

 

「星に願いを託せば叶わない願いはあんまりないのよ。何よりも私がこの世界に呼ばれたのは、人理修復をしろって意味だと思う」

 

 麻菜の言葉に獅子王は頷きつつ、問いかける。

 

「魔術王は強大だ。それでもか?」

「その質問を本気で言っているのなら、あなたに対する評価を改めなければならないわね」

 

 麻菜はそこで言葉を切り、獰猛な笑みを浮かべて告げる。

 

「私は奴が気に食わないから、ぶっ飛ばしに行くだけよ。闘いの基本なんてそんなものでしょう?」

 

 麻菜の言葉に獅子王は小さく微笑んだ。

 

 そもそも人理が修復されるのならば、滅びが回避されるのならば人類は存続する。

 獅子王による救済を行う必要はない。

 

「それに私はあなたのあり方を否定しない。むしろ肯定しましょう。それもまた良きものだと。あなたの思いと愛は間違いではなく、尊いものだと。ただ、私がうまくやるから任せて欲しい」

「……お前は本当に変わっている。本来ならばお前は私にとって唾棄すべき悪であるのに……」

 

 微笑みながら告げる獅子王に麻菜は頬を思いっきり膨らませた。

 

「さっきよりも呼び方が酷くなっていない?」

「キャメロットに対する攻撃、騎士達への惨い仕打ちの数々……忘れたとは言わせん」

「人道に対する罪を犯した癖に……」

「私は謝罪しない」

「マスコミに叩かれまくればいいのに」

「そんなものはここに存在しない」

 

 言い合う麻菜と獅子王に微笑ましく感じてしまうアグラヴェイン。

 彼はランサーアルトリアとのやり取りを思い出す。

 

 過程は酷いことになるが、おそらく結果は良いものになる――

 

 王よ、やはりそうなりました、と彼は心の中で告げる。

 

 そのとき、これまで事態を見守っていたカルデアのオルガマリーが告げる。

 

『麻菜、そろそろ聖杯を……』

 

 彼女に言われて麻菜はそうだった、と思い出す。

 

「さて、獅子王。聖杯、持っているんでしょう? さっさと出すもん出しなさいよ。私がちゃんと魔術王をぶっ飛ばして人理修復をしてやるから」

 

 麻菜の言葉に獅子王はくつくつと笑う。

 

「何がおかしいの?」

「いつから私がお前達が欲する聖杯を持っていると錯覚していた? ようやくお前から一本取れたぞ」

 

 神霊化しているわりには麻菜との会話によるものか、妙に人間臭い獅子王。

 彼女はドヤ顔だった。

 

 思わず麻菜はアグラヴェインへと視線を向ける。

 

「嘘偽りなく、断言しよう。我々はお前達が集めているモノは持っていない……どうやらエジプトにいる太陽王が持っているらしい」

 

 麻菜は深く溜息を吐き、獅子王へビシッと指差した。

 

「獅子王、ちょっとエジプトへ行くからついてきなさい」

「分かった。だが、どうやら私に用がある者達がいるようだ」

「……どうやらそのようね」

 

 獅子王の言葉と同時に麻菜もまた彼らを探知した。

 それから程なくして、彼らは玉座へと現れる。

 

「あ、マーリンだ」

「やっほー、麻菜君。ちょっと用事があってね。と言っても僕は単なる付き添いなんだけど」

 

 マーリンと共にやってきたのは1人の騎士だった。

 片腕が義手となっている。

 

 彼は苦笑しつつ、告げる。

 

「はじめまして、私はベディヴィエールです。何というか予想外の展開になりましたが……」

「だから言っただろう? 麻菜君が関わるといつもそうなるんだ。本当に碌でもない奴だよ」

 

 ベディヴィエールの登場に麻菜は驚きつつも、マーリンの言葉に対して反撃する。

 

「カルデアで暇だからって、趣味のネット活動に精を出している癖に」

「さらっと僕の日常を暴露しないでくれ。君に色々教えたりとかしているじゃないか」

「それはそれ、これはこれよ。で、何よ? 獅子王にちょっかいを掛けるっていうなら容赦しないわよ?」

 

 麻菜の言葉にマーリンは微笑みながら問いかける。

 

「そこにいる獅子王が聖剣の返還が行われず亡霊の王となってしまった、本来ならばありえない地上に残ったアーサー王であるとしても?」

「世界の可能性は小さなものではないわ。それもまた良し」

 

 予想通りの答えにマーリンは頷きながら、問いかける。

 

「獅子王は自らここにやってきた神霊だ。特異点の修復と共に彼女はこの地で終わりを迎える。君はどうする?」

「彼女に世界の可能性を体験させてやるわ」

「こういうところでは君は本当に予想を裏切らないね。麻菜君、滅多に見られないものを見せるから、獅子王をうまいことやるといい」

「滅多に見られないもの?」

「聖剣の返還さ」

 

 マジで、と麻菜はベディヴィエールへと視線を向けると彼は微笑んだ。

 キアラもまた目を輝かせる。

 彼女もお伽噺は好きな方であった。

 

「ベディヴィエール卿……まさか……」

 

 アグラヴェインはあることに気がついたのか、驚愕する。

 

「はい、そういうことです。どうか私に王の命を果たす機会を頂きたい……!」

 

 ベディヴィエールの言葉にアグラヴェインは獅子王へと顔を向ける。

 だが、彼女はベディヴィエールのことを覚えていないようであったが、彼の義手に何か良からぬものを感じたらしく、顔を顰めている。

 

「アレは……嫌なものだ」

「注射を嫌がる子供みたいなことを言ってないで、さっさと返してもらいなさいよ」

 

 麻菜はとあるアイテムを使用して素早く獅子王の後ろへと回り込んで、背後から羽交い締めにして立たせた。

 

「はい、痛くないわよーチクッとするだけだからねー」

「離せっ! くそっ! 何だこの青い紐は!?」

「神を封じる系のアイテムよ。神である限り動きを止めるとか何とか……噂によれば胸が大きいと効果が強化されるらしい」

 

 動きを封じられた獅子王、しかし、ここでマーリンが告げる。

 

「聖剣は善き心を持つ者の手で返さないといけない。ちょっと君の後輩を呼んでくれないか?」

 

 マーリンの言葉に麻菜が答え、すぐさまカルデアからマシュがレイシフトしてきた。

 彼の指示の下、彼女はベディヴィエールを支えながら、ゆっくりと獅子王へ近づく。

 

「やめっ! やめろー!」

 

 獅子王の絶叫が響き渡った。

 

 

 こうして聖剣は返還され、それにより聖槍は砕け散り、獅子王は呪縛から解放された。

 同時にベディヴィエールは消滅する。

 

 己の役目を果たしたのだと言わんばかりに、満足げな笑みを浮かべて。

 そして、彼との記憶を思い出した獅子王は消えた彼に労いの言葉を掛けた。

 

 その光景に感動しながらも、麻菜はいつもの指輪をはめて、いつものアレを使ったのだった。

 

 


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