「不敬、不敬、不敬デアルゾ不敬デアルゾ……デマセイデマセイ……デマデマセイセイ……」
「……先輩、何をしているんですか?」
次の特異点が特定できるまでは休暇ということで、マシュは模擬戦に誘うべく麻菜の部屋へ来たのだが――メジェドを模した真っ白い布を被った麻菜が左右に身体を揺らして、変な踊りをしていた。
彼女の奇行は今に始まったことではないとはいえ、ここまで強烈なモノは初めて見る。
本格的に頭がおかしくなったか、とマシュは盾で思いっきり殴る必要性を感じたのだが、麻菜からは意外な言葉が返ってきた。
「ニトちゃんが不敬です! 出ませい! とか色々言っていて、アレいいわねって思ったので真似している。古代エジプトの偉大さを感じられる気がする」
「罰が当たりますよ」
「ファラオの偉大さを理解したみたいにニトちゃんには思われているので問題ない。ちなみにオジマンディアスは大爆笑していた」
「でしょうね」
マシュはそう肯定しつつ、呆れたように告げる。
「というか、先輩って誰とでも打ち解けますよね」
「コミュニケーション能力が高くないとやっていけない業界にいたので。ちなみにニトちゃんに頭を下げて作らせてもらった、ダ・ヴィンチちゃん謹製ニトクリス時計もあるわよ」
「何ですかそれ?」
「目覚ましをセットしておくと、ニトちゃんが起きませい! って言ってくれるし、夜遅い時間になると寝ませい! って言ってくれる。他にもニトちゃんボイス色々実装済み」
「英霊を芸能人と勘違いしているのでは……?」
「ちなみにノッブとかスカディとか色々な英霊のバージョンがあったりする。キアラとかコヤンスカヤもあるけど、こっちは18歳未満には聞かせられないものばかり」
「そんなに色々作ってどうするんですか?」
「ダ・ヴィンチちゃんとロマニ他数人の職員達と共にこれらを一般販売して、小遣い稼ぎをしようと企んでいたけど、カドックに密告されてマリーから駄目出しされた」
「そりゃそうですよね」
「勘が良さそうなパイセンは項羽ボイス付き時計で買収したんだけど、カドックは賄賂を受け取った後に密告しやがった」
「賄賂って何を送ったんですか?」
「アナスタシアボイス付き時計。あいつは信用しないほうがいいわ。秘密を守れない裏切り者よ」
「どう見ても先輩が悪いですよね? 色々な意味で」
マシュに言われて麻菜は頬を膨らませる。
そんな彼女に笑いながら、マシュは告げる。
「で、先輩。獅子王さんから模擬戦のお誘いがありましたよ」
「彼女、最初に模擬戦で私に負けてからほとんど毎日挑んでくるのよね。負けず嫌いが極まるとああなるのかしら」
「そこは分かりませんけど……ともかく、サーヴァント・ユニヴァース出身以外のアルトリアさん達と円卓の皆さんがお待ちかねです」
「サーヴァント・ユニヴァース出身っていう分類ができて、それで分かる時点で色々とおかしいわね」
「ええ、まあ……本当、どういう世界なんでしょうね。サーヴァント・ユニヴァースって……」
マシュの言葉に麻菜は肩を竦めながら尋ねる。
「要するに模擬戦の相手はアーサー王と円卓の騎士達ってことでいいの?」
「あ、はい。私もお相手しますので」
「あなたに宿った英霊がギャラハッドって分かってから、あなたの攻撃って痛いし、宝具は硬いし……後輩の成長を感じる」
麻菜の言葉にマシュは胸を張る。
「私だって先輩に負けたくはありません。せめてツッコミ役くらいはこなせるように日々、鍛錬しています」
「盾でツッコミを入れるとか、斬新過ぎる」
「むしろそうせざるを得ない先輩がおかしいのでは……?」
「気のせいよ。それじゃ、模擬戦に行きましょうか」
「……そのまま行くんですか?」
マシュの問いかけに麻菜は不思議そうな顔をする。
「何か変かしら?」
「メジェド様の格好で行くのはやめてください」
「むしろ、この格好をしていくことでブリテンの連中にエジプトの素晴らしさを布教できる」
「十中八九、開幕に聖剣と聖槍その他色んな宝具が叩き込まれますよ」
「さてはブリテンめ、エジプトに対する宣戦布告だな? 連中、時代が下ってから中東を引っ掻き回しまくって混沌とした状況を作りやがったからな! 汚いなさすがブリテン汚い!」
「はいはい、先輩。ドクターにお薬を処方してもらいましょうね」
「お薬はアヘンでいい」
「駄目です。アヘン戦争とか言いたいんでしょうけど」
「よく分かったな、さすがは私の後輩だ。しかし、アルトリア達を見ていると後の世にブリテンがえげつないことをしまくるとは想像ができない……やはり彼女達にブリテンを任せたほうが世界平和に良かったのでは?」
「さらっと歴史を変えようとしないでください。あとブリテン島はその後に色んな民族が混じり合っているので、当時のアルトリアさん達と同じ民族とは言えませんよ」
「そう考えると凄いのよね。普通なら触れることも声を聞くこともできない過去の存在と会話するどころか、一つ屋根の下で暮らしている上、色々と教えてもらったりしているんだもの」
麻菜の言葉にマシュとしても同意とばかりに頷いた。
「だが、私はこの格好で行く」
「どうなっても知りませんよ。あと離れて歩いてくださいね」
「後輩が冷たい」
「自業自得です」
結局、麻菜はメジェド様の格好をして模擬戦へと赴いたのだが――
「不敬、不敬、不敬デアルゾ不敬デアルゾ……デマセイデマセイ……デマデマセイセイ……」
不敬デマセイダンスと麻菜が道中で名付けた踊りをしながらシミュレータールームに現れる。
マシュは麻菜から距離を取って入ってきた。
獅子王達は何も言わず、各々の得物を構える。
そして、シミュレーターが起動した直後――獅子王をはじめとしたアルトリア達も円卓の騎士達も躊躇することなく宝具を使用した。
しかし、それで終わる麻菜ではない。
ふざけているようであるが、相手がこっちの言葉を理解できる頭があるならば煽りまくって、怒らせて消耗を強いるのが彼女の戦術の一つである。
これは生真面目な連中――特にアルトリア達や大半の円卓の騎士には効果抜群だ。
とりあえず宝具を一発使わせて隙を作った麻菜は転移魔法で逃げつつ
空間をも切断する不可視の刃、その軌道を読んで防ぐ彼女に対して、つくづくとんでもない後輩だと麻菜は思う。
「本当にこのなすびちゃんは……! どうして視えるのよ!?」
「視えていません! 勘です! あと真面目にやってください!」
「真面目にやってるから、怒らせているんでしょうに!」
マシュの言葉に麻菜は言い返し、目に物見せてやると思いつつも転移魔法で一気に距離を取るのだった。
そして数時間後、何だかんだで模擬戦を無事に勝利で終えた麻菜は静謐のハサンに誘われて、ハサン達によるお茶会に招かれていた。
暗殺教団の頭目ということで違いはあれど、麻菜が前世のリアルでやっていた仕事と似たようなことをやっていた彼らとは仲が良い。
また静謐のハサンとは召喚当初から色んな意味で深い仲である。
「ところでこの前の特異点で、大剣を得物に使う変わったハサンに出会ったんだけども」
彼らなら知っているだろう、という軽い気持ちで麻菜はそう切り出した。
すると呪腕は仰天し、百貌は震え、静謐は目を見開いた。
「……私、何か変なことを言った?」
「その御方は初代様かと……」
呪腕はそう前置きし、麻菜に説明をしてくれた。
暗殺教団内の監視役兼処刑人と麻菜は彼――キングハサンのことを理解する。
「オジマンディアスを狙って暗殺を仕掛けに来たから防いだけど……まずかった?」
3人のハサンは固まった。
「初代様の一撃を防いだ?」
「うん。ただあれ、手加減してくれていた」
「いや、手加減されていたとしても防げるものじゃないんだが……」
百貌は呆れと感心が混じった表情で、そう告げる。
呪腕は素直に感心しており、静謐はというと――きらきらした視線を麻菜へと向けていた。
「麻菜様、さすがです」
「うんうん、静謐ちゃんは可愛いわね」
麻菜はそう言いながら、彼女の頭を撫でる。
すると静謐は嬉しそうに笑みを浮かべた。
それを微笑ましく見ながら、呪腕が尋ねる。
「それで麻菜殿、次の特異点はどのような……?」
「なんか神代らしいけど、まあ異教の神とかそういう類は数え切れないくらい始末してきたので……あ、でもそろそろあなた達、特に百貌は仕事してもらうかもね」
ほう、と百貌は不敵な笑みを浮かべてみせる。
麻菜は更に彼女へと言葉を続ける。
「あなたって便利過ぎない? 言い値で雇うから部下に欲しい」
「偵察ならば基本的に私1人で十分だからな。こればかりは他のハサンには真似できないものだ」
鼻高々となる百貌に麻菜は鷹揚に頷いてみせるのだった。