全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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燃える展開

「仮想空間……という感じではなさそうね」

 

 麻菜は特に驚くこともなく、そのように結論づけた。

 五感から得られる全ての情報は紛れもなく本物だ。

 

 特異点Fって何かしら、と麻菜は思いつつ適当に歩く。

 燃え盛る街並を横目に見つつ。

 

 ちょうど良く案内板があった。

 それによればここは冬木市というところらしい。

 

 頭文字を取って特異点Fと名付けたのか、と麻菜は考えていると、ガシャガシャという音が聞こえてきた。

 視線を向けると――

 

「スケルトン? また随分と懐かしいのが出てきたわね」

 

 正確には竜牙兵であるのだが麻菜にはそんなことは分からない。

 また彼女の脅威にもならなかった。

 

 ワラワラと10体程が近寄ってきて麻菜を取り囲む。

 そして、手に持った剣を振り上げて彼女に斬りかかってきたが、そんなものが通用する筈もない。

 

「どうしようかな」

 

 必死に剣を振り上げては麻菜に向かって下ろすという行為をしている竜牙兵達を無視して、彼女はこれからを考える。

 

 レイシフトの説明が事実であったならば、ただの転移魔法で帰ることはできないだろう。

 となると超位魔法を使う必要が出てくる。

 

「もう家に帰ろうかな。あ、でもサーヴァントは欲しいなぁ」

 

 そう言ったときだった。

 

「先輩! 今、助けます!」

 

 妙にエロティックな服を着て、大きな盾を持ったマシュが駆け寄ってきた。

 そして、その盾を縦横無尽に振り回して竜牙兵達を一蹴する。

 

「大丈夫でしたか?」

「ええ、ありがとう。ただマシュ、あなたってそういう趣味があったのね」

 

 え、とマシュは思わず目を丸くする。

 

「あの先輩。何か勘違いをされていませんか?」

「コスプレか何か?」

「違います! 色々と理由はあるんですけど、簡単に言うと私に英霊が力を貸してくれたんです!」

「降霊術とかそういう感じのやつ?」

「そういうものです。先輩、私とサーヴァント契約を結んでください」

「分かったわ。やり方を教えて頂戴」

 

 麻菜はマシュに言われた通りの手順で、彼女とサーヴァント契約を交わす。

 そのとき声が聞こえた。

 

 2人がそちらへと視線を向ければ、竜牙兵達に追いかけられるオルガマリーの姿があった。

 

「ちょっと助けてきます!」

「いってらっしゃい」

 

 マシュが助けに入り、オルガマリーは竜牙兵の脅威からようやく解放された。

 

 

 

 

 

「玲条麻菜とマシュの2人だけなんて……」

 

 最悪だわ、とオルガマリーは両手で顔を覆った。

 麻菜としても気持ちはよく分かるので、何とも言えない。

 ド素人とベテラン1人ずつを残して任務遂行直前に部隊が全滅などという最悪の事態である。

 どんな指揮官であろうが躊躇なく撤退を決断すべき状況だ。

 

「とりあえずカルデアと通信をするわ。そして玲条麻菜、あなたにはサーヴァントを召喚してもらうから」

 

 それでも的確に指示を飛ばすあたりに、麻菜は年のわりにはよくやれていると素直にオルガマリーを評価する。

 

 こういう状況でも冷静さを失わないというのは称賛に値することだ。 

 

 ともあれ、麻菜にとっては正規の方法による初めてのサーヴァント召喚である。

 

「ガチャって良いものね……」

「はい?」

 

 マシュが小首を傾げるが、何でもないと麻菜は返す。

 とはいえ、サーヴァント召喚とは言っても、麻菜が何か特別なことをするということではない。

 マシュが持っている巨大な盾に召喚陣を描いて、そこに魔力を流すだけらしい。

 

 ふと麻菜は思った。

 

 これ、もしかしたら私の知り合いが来るんじゃ――

 

 プレイヤーか、はたまたNPCかは分からないが、それらが来る可能性が無きにしもあらず。

 モモンガあたりは呼ばれればひょっこりとやってきそうだ。

 

「先輩、準備ができました。魔力の流し方は分かりますか?」

「たぶん大丈夫」

 

 転生してから、ユグドラシルではできなかった魔力の使い方に関しても麻菜は愛歌の指導の下に研究していた。

 その為に魔力を体から放出する程度なら簡単にできるのだ。

 

 召喚陣に手をかざし、そこから魔力を召喚陣へと送る。

 すると召喚陣が輝きはじめ――やがて光が溢れた。

 

 光が収まると、そこには尼さんが立っていた。

 

「アルターエゴ、殺生院キアラ。救いを求める声を聞いて参上いたしました」

 

 麻菜は鷹揚に頷いて、告げる。

 何となくキアラからはそういう気配(・・・・・・)を感じ取ったのだ。

 

「とりあえず、どうかしら?」

「ええ、喜んで」

「じゃあ、この状況を解決した後に」

「はい、分かりました。ふふ、とても楽しみですね」

 

 マシュにはいったいそれが何を意味しているか、分からなかった。

 

 そこへカルデアとの通信を終えたオルガマリーが戻ってくるが――思いっきり溜息を吐いた。

 

「これ……大丈夫なの?」

 

 オルガマリーは不安であった。

 どう見てもキアラは強そうには見えない。

 

「こう見えても私、サーヴァントですよ?」

「あー、うん、そうねぇ……」

 

 キアラの言葉にオルガマリーは曖昧な返事をしながら、麻菜へと向き直る。

 

「どうにかできる?」

「問題ないわ」

 

 問いに対して麻菜はそう答えつつ、更に言葉を続ける。

 

「そこに隠れている奴は敵? それとも味方?」

 

 瓦礫の山の方向へ向けて彼女は問いかけた。

 突然の行動にオルガマリーとマシュは目を丸くするが、すぐにその行動の結果が返ってきた。

 

「出るタイミングを見計らっていたんだが、あっさりと見抜かれてちゃ世話ないな」

 

 そう言いながら、フードをかぶった男が現れた。

 彼はフードを脱ぎ、その素顔を露わにする。

 

「ここで行われていた聖杯戦争のキャスター、クー・フーリンだ。道案内が必要なら手を貸すぜ?」

 

 

 

 

 

 現れたクー・フーリンとのやり取りはオルガマリーが行った。

 麻菜は端っこの方でキアラにアレコレ質問していたに過ぎない。

 

 麻菜が聞いた話はキアラの身の上話だ。

 その過程で彼女が肉体的・精神的・魂的に色々な意味で満足したいという願いがあることが分かった為、麻菜はいつものアレで叶えてあげることにした。

 ただし、麻菜と接することによってのみ満足できるという条件付きだ。

 

 キアラはそれを快諾し、どういう方法でそうしてくれるのかとワクワクした。

 

 緊張感というものは残念ながら2人の間にはなかった。

 

 

 

 

 

 クー・フーリンの案内で一行は進む。

 途中出てくる竜牙兵達はキアラとマシュがあっという間に蹴散らしていく。

 キアラの強さにオルガマリーはびっくりしたが、嬉しい誤算だった。

 シャドウサーヴァントと呼ばれる通常のサーヴァントが劣化した存在もいたが、それらも問題なく処理できていた。

 その合間にクー・フーリンとマシュが模擬戦を行い、宝具を擬似的な展開に成功したりしたが些細なことであった。

 そして彼曰く、山の地下にある洞窟に聖杯があり、それの守護者がいるとのことだ。

 

 

 

 

「ここから先は通行止めだ」

 

 その途上、紅い外套を羽織った男が立ちふさがった。

 クー・フーリンがあからさまに舌打ちをしてみせる。

 

「ついに門番になったか?」

「何とでも言うがいい」

 

 問いに外套の男からの答え。

 その答えにクー・フーリンは言葉を返すのではなく、杖を向ける。

 

 

「ここは俺に任せておけ。コイツとは真っ当に聖杯戦争をやっていたときから、腐れ縁があってな」

「私としてはクー・フーリンとの腐れ縁なんぞ御免被るがな」

「ほざけ、弓兵!」

 

 何やらそのまま戦闘に入っていったクー・フーリンと外套の男。

 すっかり自分達の世界に入り込んでしまったらしく、カルデア一行のことなぞ、頭から消え失せてしまったように見えた。

 

「……進みましょうか」

 

 ため息混じりにオルガマリーはそう指示を下した。

 

 

 

 

 

 天然の鍾乳洞をカルデア一行は進んでいく。

 不気味な気配ではあったが、怖気づく者はいない。

 とはいえ、既に麻菜は感じ取っていた。

 

「キアラ、分かる?」

「ええ、分かります。相当な手練がいらっしゃいますね」

「いや、なんで分かるのよ……マシュ、あなたは分かる?」

「何となく嫌な感じはしますが……その程度です」

 

 麻菜とキアラのやり取りにオルガマリーとマシュは呆れと困惑が混じった感情を抱く。

 

「さっきの外套の男……アーチャーとかいう奴とは比べ物にならないくらいには強いわよ?」

「え、それって大丈夫なの?」

 

 そこまでとは予想していなかったオルガマリーの問いかけ。

 

「大丈夫よ。だって私がいるから」

 

 何気なく言われたその一言。

 ド素人の一般人が強がって言った――というようにはオルガマリーもマシュも全く感じなかった。

 むしろその逆で、絶対の自信に裏打ちされた力強い言葉だった。

 

「ふふふ、麻菜様の凛々しいお姿……ますます、この後が楽しみです」

「ぐへへへ、満足させてやるわ……」

 

 そんなやり取りを目にしたオルガマリーはマシュに向かって告げる。

 

「マシュ、あなたはそのままでいて」

「はい、所長……私も、ちょっと先輩についていけるか不安になってきました」

 

 2人の会話を聞いて麻菜が頬を膨らませる。

 

「失礼しちゃうわね。絶望を避けられないのなら、そこに楽しみを見出さないとダメよ? ある程度、楽観的の方が人生は楽しくなるわ」

「麻菜、あなたはちょっと図太すぎるわよ……」

 

 オルガマリーのツッコミを聞きながら、大空洞へとカルデア一行は進入した。

 

 

 

 

 

 

 

 大空洞の中央に佇んでいたのは黒い鎧を纏った少女だった。

 彼女を認識するや否や麻菜は疾風の如く速さで地を駆け、無限倉庫から愛剣を取り出して鞘から引き抜いた。

 そして、勢いそのまま剣士に斬りかかった。

 

 さすがにこれにはオルガマリーもマシュも呆気に取られ、キアラは「あらあら」と微笑んだ。

 当然、剣士の顔も驚愕に染まるが、すぐさま苦痛に歪んだ。

 麻菜の振るったガラスのような刀身の剣。

 脆そうに見えるが、そんなものは見た目だけだった。

 

 事実、剣士の持つ不可視の剣はその剣を折ることはおろか、傷一つつけることはできない。

 また、驚くべきことに麻菜の振り抜こうとする剣を防ぐように合わせた剣士の不可視の剣、それが徐々に押されていた。

 

「なんという馬鹿力だ……!」

 

 剣士の声は綺麗なものであった。

 

「あら、こんなに可憐で美しい私に馬鹿力なんて、失礼しちゃうわ」

 

 よいしょ、そんな掛け声ともに麻菜は簡単に剣を振り抜いた。

 剣士の少女は弾き飛ばされるも、体勢を立て直して地面へと着地する。

 

「名は?」

「玲条麻菜よ。あなたは?」

「サーヴァントである私に、名を尋ねるのか?」

「今、この状況で真名を隠すことに意味があると思っているなら、あなたに対する評価を改めなければならないわ」

 

 それも道理だ、と剣士の少女は頷く。

 もはや聖杯戦争など何の意味もなく、何よりも宝具を使えば嫌でも分かってしまう。

 ならば自ら名を名乗ったところで別に構わないだろう、と彼女は考えた。

 

 

「我が名はアルトリア・ペンドラゴンだ」

 

 アーサー王って女だったのか、と麻菜は思いつつも告げる。

 

「どうかしら? 私が勝ったら、あなたをサーヴァントにするっていうのは?」

 

 アルトリアは目を丸くした。

 この状況で、そんなことを言い放つとは予想外だった。

 

「ちょ、ちょっと麻菜! 何を言っているのよ!?」

「だってアーサー王よ? あのアーサー王と1対1で戦える機会なんて滅多にない。だから、チャンスだと思って」

「あなたどこまで非常識なのよぉ!」

 

 オルガマリー、渾身の叫び。

 しかし、アルトリアは別にそれを非常識だとは思いもしなかった。

 彼女は告げる。

 

「もとより勝者は敗者を好きにできる。貴様が勝てばそうするが良い」

「それは重畳。では、戦いましょうか?」

 

 にこり、と麻菜は微笑んだ。

 まさに女神の微笑みであったがアルトリアからすれば死神の微笑みだ。

 

 瞬間、アルトリアは不可視の剣を振るった。

 金属音が大空洞に木霊する。

 

「下手くそだな」

 

 速さも、力の強さも認めよう。

 だが、技量はアルトリアからすれば稚拙に過ぎた。

 まだ彼女の時代の騎士見習いのほうが良い腕を持っていた。

 

「そうなのよ、そこが私の唯一の弱点。だから技量も欲しいの」

 

 あっさりと肯定した。

 アルトリアはくつくつと笑う。

 

「贅沢なやつだ。この私を剣の師匠にでもするつもりか」

「あなただけじゃないわ。せっかくのこの状況、楽しまねば損。古今東西のあらゆる英雄達に鍛えてもらうことにするの」

「お前の目指す先はなんだ?」

「趣味で世界最強を目指そうかなって密かに思っていてね。てっぺん、取ってみたいでしょ?」

 

 どこまでも純粋な思いにアルトリアは笑い声を上げてしまう。

 ここまでの馬鹿な輩を見たのは初めてだった。

 

 しかし、アルトリアとしても気持ちは分からなくはない。

 

 騎士として、ただひたすらに自らの強さを求めることができたなら、それはそれで満ち足りているだろう、と。

 

「そこまで笑うことはないんじゃないの?」

「貴様が馬鹿なことを言うのが悪い」

 

 会話をしながらも2人は剣を振るう。

 スペックで麻菜は圧倒するが、しかし、アルトリアはその差を技量で埋める。

 刹那の間に交わされる刃の応酬は途切れることがない。

 

 だが、それにも終わりがある。

 

 幾度目かのぶつかり合い、互いに顔と顔が間近に迫ったとき麻菜は小さい声で告げる。

 

「見られているから、こっそりと本気を出させてもらうわ」

 

 アルトリアは小さく頷き、その本気とやらを見せてもらおうと思った直後、両足が地面に沈み込んだ。

 まるで足元が急に沼地にでもなったかのような――

 

 刹那の驚愕。

 しかし、それは麻菜にとっては十分過ぎた。

 彼女は剣を弾き、アルトリアの体勢が崩れ――鮮血が吹き出した。

 

 鎧ごと袈裟懸けに斬られたアルトリア。

 胴体の切断とまではいっていないが十分に致命傷であった。

 

 しかし、そこで麻菜はさらなる一手を打つ。

 すかさずアルトリアに大治癒(ヒール)を掛けた。

 

 鎧を修復する効果などはない為、アルトリアの肉体のみが修復される。

 

「ちょっと死にそうな振りをしていて。面白いものを見せるから。勿論、私の勝ちってことでいいわね?」

 

 アルトリアは小さく頷きながら、それでも言わずにはいられなかった。

 

「魔術師だとは予想できなかったぞ」

 

 小さな声でそう言われた麻菜は、にやりと笑いながら覗き見をしている輩がいる場所――大きく窪んだところへと視線を向ける。

 

 そこは魔力の溜まり場とでもいうべきものであり、いわゆる冬木の大聖杯であったが、麻菜にはそんなことは分からない。

 

「そこに隠れている輩、姿を現しなさい」

 

 麻菜の呼びかけにオルガマリーとマシュは驚き、そちらへと視線を向ける。

 呼びかけから程なく返答があった。

 

「一般人枠かと思いきや、とんだ番狂わせだ。とはいえ無駄な足掻きだがね」

 

 レフ・ライノールが現れた。

 

「レフなの!?」

 

 オルガマリーの問いかけに、いかにも、と彼は肯定しつつ深く溜息を吐く。

 そして、堰を切ったように溢れ出る罵詈雑言の数々。

 

 しかし、麻菜はその罵詈雑言の数々――カルデアという組織に対するものであったり、オルガマリーに対するものであったり――共感できてしまうから困った。

 カルデアやオルガマリーに対する悪意への共感ではなく彼が抱えたストレスに。

 

 

 前世における麻菜の経験からすると、レフのそれは上司から面倒くさい無理難題な仕事を押し付けられて、それをどうにか四苦八苦しながらこなしているけれど、潜入先の連中が予想以上にダメ過ぎて、ストレスを溜めに溜め込んだ、というような悲哀が感じられた。

 

 苦労しているんだなぁ、と麻菜は心で涙する。

 

「とりあえず、オルガマリーは本来はレイシフトできなかったけど、実はもう死んでいるからできたっていうことでいいのかしら?」

「ああ、そういうことで構わない。ついでに絶望をプレゼントしよう」

 

 レフの言葉とともに彼の背後にカルデアスが浮かび上がった。

 地球を模したそれは真っ赤に染まっている。

 

 どういうことなのかちょっと理解が追いつかなかった麻菜だが、レフが簡単に説明してくれた。

 

「時空を繋げて投影している。カルデアスが赤く染まっているだろう? カルデア以外の全ては焼却されたのだ」

「つまり世界の終わりっていうことかしら?」

「そういうことになるな。玲条麻菜、君もさっさと死んだほうがいい。そうすれば苦しい思いはせずに済むぞ? たとえ君が強く、またどれだけサーヴァントを従えようと、もはや詰みだ」

 

 なるほど、と麻菜は頷く。

 しかし彼女には疑問が湧いてくる。

 一般人ではない彼女だからこそ出てきたものだ。

 彼女はメリエルとしては勿論のこと、前世のリアルにおいても世界の滅亡とか危機とかそういうのは慣れっこだった。

 

 前世のリアルに当てはめるなら核テロがあちこちで実行されて、世界は核の炎に包まれたって具合かしら、と麻菜は考えた。

 

 幸いにも目の前に実行犯らしき輩がいる。

 ならば情報収集に努めるのは彼女からすれば当然であった。 

 

 

「おかしいわね。目的が分からないわ」

 

 その言葉にレフは興味深そうな視線を麻菜へと向けながら問いかける。

 

「ならば君の推測を聞かせてもらおうか?」

 

 彼の言葉に麻菜は問いかける。

 

「世界を滅ぼすような力があるなら何でこんなに遠回りをしているの? もっと直接的にやればいいのに」

「急がば回れ、という諺で納得はできないかね? 何分、世界を滅ぼすには色々と障害が多いのだよ」

 

 レフの言葉に麻菜は首を横に振る。

 

「それにしてもおかしいわ。世界を滅ぼすというのはあくまで手段であるはず。とんでもない狂人であれば目的がそうなってもおかしくはないけれど、あなたからは確かな知性が感じられる」

 

 レフは軽く頷くことで彼女に続きを促す。

 

「世界征服ではなく滅ぼすっていうのが不思議なのよね」

 

 麻菜はそこで言葉を切り、小首を傾げつつ更に言葉を続ける。

 

「絶対の支配者として君臨する為に世界征服をするっていうなら、まだ分かるんだけど……滅ぼしてしまうと、そもそも君臨する意味が無くなってしまうもの」

 

 麻菜はそこまで言って、口元に人差し指を1本当てて口元に笑みを浮かべた。

 

「となると答えは一つ。世界を滅ぼして、ゼロに戻した後に望む世界を創ること。どうかしら?」

 

 尋ねる麻菜にレフは拍手でもって応えた。

 

「素晴らしい。僅かな情報で、そこまで推測してみせた。称賛に値する。君がもっと早くカルデアに来ていたならば、私としても計画の修正を余儀なくされただろう」

「ありがとう。ところでレフ、もう詰んでいることは分かったけれど、ささやかな抵抗をしても構わないかしら?」

 

 麻菜の問いにレフは頷く。

 

「無論だとも。私のおすすめは即自害することだが、君達には人類最後の希望として抵抗する権利がある。まあ、実際に矢面に立つのは人類最後のマスターである君だ」

「それは良かったわ。どうかしら? まず万に一つも勝ち目はないけれど、もし私が勝ったなら、景品の一つでも欲しいわ」

 

 麻菜の言葉に対して、レフは万が一にもありえないと確信したからこそ安易に告げてしまう。

 

「いいだろう。何がほしい?」

「あなたを含む、今回の世界滅亡に参加した輩全員を私の使い魔にしたいのだけど」

 

 さすがのレフも呆れながら問いかける。

 

「自分が何を言っているか、分かっているのか?」

「分かっているわ。優秀な部下って得難いものよ?」

「……一応考えておこう。君達の置かれた状況からひっくり返せたならばな」

 

 レフはそう告げて消えると同時にカルデアスも消え去った。

 彼はオルガマリーをカルデアスに吸い込ませるということを最初は考えていたが、麻菜とのやり取りでどうでも良くなってしまったのだ。

 また、オルガマリーはもう死んでいると高を括っていた為でもあった。

 

 

 

 

 

 

「随分と大見得を切ったな。麻菜と言ったか?」

 

 最初に口を開いたのはアルトリアだった。

 そんな彼女に顔を向け、麻菜は微笑む。

 

「負け戦をひっくり返してこそ、英雄でしょう?」

 

 アルトリアは笑いがこみ上げてきた。

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、本当に馬鹿者だな貴様は」

「失礼ね。馬鹿って言う奴が馬鹿なのよ」

「そうか、では貴様は大馬鹿者だ。だが好ましいぞ。いいか? 絶対に私を呼べ。お前が呼んだら私は答える。負け戦のひっくり返し方を教えてやろう」

 

 そして、アルトリアは懐から聖杯を取り出して麻菜へと渡した。

 

「ほれ、勝者の証だ」

「すっごい雑ね。有り難みの欠片もない渡し方」

「うるさい。私はさっさと戻っておく。お前達もさっさと帰れ。そして私を呼べ」

 

 そう言って、アルトリアは光の粒子となって消えていった。

 

「うーん、アーサー王って傍若無人だったのね」

 

 そう言いながらオルガマリーへと麻菜は視線を向けた。

 彼女は地面に仰向けに倒れている。

 どうやら衝撃のあまり途中で気絶してしまったようだ。

 その横ではマシュが沈痛な顔をしていた。

 

『ようやく繋がった! いったい、どうなったんだい!?』

 

 そこでロマニが現れた。

 

「面倒だからマシュに聞いて」

 

 麻菜はそう告げて、オルガマリーの傍へと歩み寄った。

 

「先輩……」

 

 泣きそうな顔のマシュに麻菜は優しく微笑み、告げる。

 

「大丈夫よ。私に任せて」

 

 そこへクー・フーリンもやってきた。

 あちこちボロボロであったが、致命傷という程ではない。

 

「どうなった? 勝ったか?」

「勝ったわよ。色々あってオルガマリーが実は幽霊だったので、蘇生するところ」

「マジかよ」

「マジよ」

 

 どういうことだい、とロマニは問い詰めるが、麻菜は無視して流れ星の指輪(シューティングスター)を取り出した。

 

 そして、超位魔法を発動する。

 麻菜の足元に巨大な青い積層型の魔法陣が展開された。

 

 膨大な魔力が麻菜を中心に溢れ出す。

 

「オルガマリー・アニムスフィアをレイシフトに耐えられるよう、必要とされる適性を全て完全に持った上で、一切の後遺症などなく完全に蘇生しなさい。ウィッシュ・アポン・ア・スター」

 

 オルガマリーの体が青く優しい光に包まれた。

 

 やがて光は消えてなくなったものの、彼女の体に変化はない。

 

「ロマニ、オルガマリーを帰還させて」

『信じていいんだね?』

「信じていいわ。ダメなら聖杯を使うから」

『分かった』

 

 ロマニはそう答えてから数十秒後、麻菜達の前からオルガマリーは消えた。

 

『……信じられないことだが、所長は無事にこっちに戻ってきたよ』

 

 ロマニは驚いた顔で、そう告げた。

 オルガマリーに適性がないことは彼だって知っている。

 適性がなければレイシフトには耐えられない。

 けれど、彼女はレイシフトに耐え、戻ってきた。

 

「それは重畳。色々説明をするから私達も戻して頂戴」

『分かった。ただ、麻菜君……ありがとう』

「構わないわ。困っている人がいたら助けるのは当たり前らしいからね」

 

 そう告げる麻菜にマシュが抱きついた。

 彼女は泣きながら、よかったと連呼する。

 麻菜は彼女の頭を撫でながら、クー・フーリンへと視線を向ける。

 

「仮契約は一旦破棄して、向こうで改めて召喚する形になるかしら?」

「そうなるな。ランサーで呼んでくれ」

「分かったわ」

「んで、麻菜。今の状況と敵はどんなやつだった?」

「状況は世界滅亡の一歩手前。敵はおそらく複数犯で人外。私が人類最後のマスターですって」

「敵も状況も最高じゃねぇか。つーわけで、俺を呼べ。相応の働きはするからな」

「ついでに武術っていうか、そういうの教えて。私は技量が無さすぎてね」

「おう、実戦形式で教えてやるよ」

 

 そう言ってクー・フーリンは笑いながらアルトリアと同じく、光の粒子となって消えていった。

 

「さて、キアラ。出てきたからには最後まで付き合ってもらうわよ?」

 

 麻菜はキアラへと顔を向け、そう問いかけた。

 キアラもまた妖艶な笑みを浮かべ答える。

 

「勿論ですわ。地獄の底までお付き合い致しますので……」

「よし。じゃあカルデアに戻るとしましょうか」

 

 麻菜はそう言いながら、ワクワクした気持ちだった。 

 それはひとえにアルトリアやクー・フーリン以外のサーヴァントも召喚する必要がある。

 世界を救う為なので、それは仕方のないことだ。 

 

 どういう輩が出てくるのか麻菜は楽しみだった。

 

 

 

 


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