「我は行かんぞ」
「僕は行こうかな」
「……待て、どうしてそうなるのだ?」
ギルガメッシュとエルキドゥのやり取りにマーリンはくすくすと笑う。
「彼女って斜め上の方向に面白いから。不敬デマセイダンスとか」
「……いやまあ、それはだな……」
エルキドゥの言葉にギルガメッシュとしても何とも言えない。
くだらないと言って切り捨てるのは少しだけもったいないくらいに、あのダンスはインパクトがあった為に。
思いついてもできないことをやってくるのは中々の根性であった。
「それでだ、花のロクデナシよ。ウルクにてウロチョロしているようだが」
「ロクデナシって……さらっと酷いこと言うね……」
「何か間違っているか?」
ギルガメッシュの問いにマーリンは肩を竦めてみせる。
そんな彼に対してギルガメッシュは告げる。
「確かにお前の懸念も分かる。奴は目を離した途端にやらかす。ましてや次は神代のバビロニアが舞台となる……やらかす規模は大きいものになるだろうよ」
「麻菜って昔のギルにちょっとだけ似ているね」
「……我は神や魔王、果ては邪神なんぞに傅いたりはしない。その尖兵である奴は本来ならば我の敵だ……そもそも、そいつらが制御できているかは別であるがな。アレは誰にも縛られはしないだろう」
「でも性格とか意外と気に入っているよね。異世界のアイテムとかよく見せてもらっていたりするし、彼女もギルに色々聞いてくるし……」
「エルキドゥよ、少し静かに……」
「嫌だよ?」
ギルガメッシュは顔を顰めるが、マーリンは微笑ましく見守る。
その視線にギルガメッシュは思いっきり舌打ちをしてみせながらも、言葉を紡ぐ。
「奴がやらかすのは見ていて面白いが、道化と同じ舞台に我が立つ必要はない」
「……さては、ウルクにいる未来の自分が麻菜に振り回されるのを見たくないんだね?」
マーリンの問いかけにギルガメッシュは顔を逸らしながら告げる。
「そもそも奴が悪い。アレがいるだけで全ては喜劇と化す。故に我が行かなくても、特異点は問題なく解決されるだろう」
「でも麻菜君だしなぁ……絶対やらかすと思うよ。具体的には出会う女神に片っ端から、生まれる前から愛してましたとか言いそう」
「ほう、その程度か。我には女神の胸に飛び込んでいくのが視えたぞ」
マーリンとギルガメッシュの言葉、それに対してエルキドゥはくすくすと笑う。
そしてマーリンは問いかける。
「で、どうするの?」
「我ならば適切な対応をするだろうが……苦労している我にさらなる苦労が降りかかるのは見過ごせない。書状をしたためてやる」
「それじゃ、僕は麻菜についていくから」
「エルキドゥ! 話の流れ的に駄目だろう、それは!?」
ギルガメッシュの叫び。
これがウルクの切れた斧か――そう思いながらマーリンはニヤニヤ笑うのだった。
一方その頃――
「え? マジで? パイセンも行くの?」
「私としては本当に嫌だけどお前を止められる奴が必要だって、オルガマリーに頭を下げられて、項羽様にお願いされた」
「何でキリシュタリアとかオフェリアとかベリルとかカドックとかぺぺとかデイビットじゃないの?」
「オフェリアは何だかんだでお前に弱いだろう。あと彼女以外は皆、お前と行くことを拒否したからだ」
麻菜は衝撃を受けた。
その様子に虞美人はいい気味だ、とけらけら笑う。
「何かあったら援軍として来るらしいから、そこは安心するといい……援軍が必要になるかは知らないけど」
「じゃあその間、パイセンを独り占め……? 私だけのパイセンになってくれる……!」
「死ね」
笑顔でにっこりと告げる虞美人に麻菜は頬を膨らませてみせる。
「パイセンに吸血されたい……されたくない?」
「お前の血を飲むくらいなら、そこらの溝の水を飲んだ方がマシだ」
「私の扱い、酷くない?」
「私にあんなに絡んでおいて、今更どの口が言うんだ? え? この口か?」
虞美人は麻菜の頬を思いっきり引っ張り、ぐにぐにと動かしてみせる。
愉快な顔になる麻菜に大いに溜飲を下げつつ、虞美人は告げる。
「真面目な話、神代だから何が起こるか分からないのよ。そりゃまあ、私も人外の先輩としてお前のことがちょっとだけ心配といえば心配なような、むしろこの機会に暗殺しようかと思ったり思わなかったり」
「パイセンパイセン、後半から本音が漏れている」
「あら、失礼」
咳払いをして誤魔化す虞美人に麻菜は問いかける。
「マスターとしては私とぐっちゃん先輩?」
「とりあえずはね」
「思ったんだけど、この前みたいにキアラを放り込めば解決できるんじゃないの? 駄目?」
「英雄王にお伺いを立てて、許可が貰えればいいんじゃないの?」
麻菜はギルガメッシュにすかさず
『王の頭に許可なく念話を繋げるなど、不敬であるぞ』
『デマセイデマセイ……じゃなかった、ギルガメッシュ、今度の特異点、とりあえずキアラを放り込んでいい?』
『とりあえずで人類悪をぶつけようとするのは、さすがの我もどうかと思うぞ』
『駄目かしら?』
『駄目だ。許可できん。精々真祖もどきと戯れてくるがいい……それとお前が思う道を行け。そうすれば面白いことになるだろうよ』
麻菜はよく分からないが、何だか助言をしてくれたようなので素直に感謝し、
「駄目だって」
「だろうな」
「キアラ、良い女なのに……」
「で、後輩。どのサーヴァントを連れて行くんだ?」
「キアラは駄目だというので、やっぱりここは神にも対抗できる奴を選ぼうと思う」
道理だな、と虞美人は頷く。
「情報収集とか偵察とかそういうのを抜きにして、戦闘のみを考えるなら……カルナとアルジュナ」
「あーうん、そうだな……その2人なら神でも殺せそうだな……」
「アシュヴァッターマンも連れていこうと思うんだけど、どう?」
「お前はバビロニアに恨みでもあるのか?」
「特にはないけど、始皇帝を連れて行くよりはいいかなって」
虞美人はコメカミを押さえた。
神とかそういうのでも始皇帝ならどうにかしてしまいそうだが、最大の問題点は麻菜と始皇帝が一緒にいると、虞美人のストレスが物凄くなることだ。
「もしくは玉藻とか?」
麻菜の提案に虞美人は微妙な顔となる。
コヤンスカヤと比べれば玉藻の性格的に麻菜への抑えが期待できるが――玉藻から麻菜に関する惚気が凄まじいことになる。
最近は特異点に連れて行ってもらえていないことから拗ねているかと思いきや、麻菜はそういうところはマメにフォローしている。
麻菜が玉藻に2人きりで和歌を詠んでもらう、あるいは和歌の指導をしてもらうなど色々やっているらしい。
渋いといえば渋いのだが、玉藻からするとそういうものこそ得意分野である。
虞美人も詩を詠んでほしい、と麻菜からせがまれて仕方なく――しかし、内心は実力をみせてやろうとノリノリで――やったこともある。
「というか後輩。いきなりサーヴァントを連れてぞろぞろ行くってなると、無用な警戒を招くから、まずは私とお前、あとマシュという形だって」
「随時、カルデアから呼び寄せるということね?」
「みたいよ……ところでお前、何人のサーヴァントと直接契約しているんだ?」
虞美人はジト目で問いかけると、麻菜はドヤ顔で答える。
「キアラ、玉藻、ジャック、獅子王とかかしらね。勿論、コヤンスカヤも」
「普通なら干からびるからな。何でそいつらを万全に運用できるんだか……」
「ちょっと星に願いを叶えてもらってね。ちなみに干からびるって性的な意味で?」
「魔力的な意味で。万年桃色頭め」
「桃色とは不敬デアルゾ、デマセイデマセイ」
「そのネタ、本気で流行らそうとしているな!?」
「ニトちゃん公認なので。いつか日本武道館を満員にして不敬デマセイライブしたいよね」
何なんだそのライブ、と思って虞美人は想像してしまう。
メジェドを模した真っ白い布を被った麻菜が左右に身体をくねらせながら、不敬とデマセイを連呼する――
「……邪神召喚の儀式か?」
「邪神なんて私の持っているアイテムを使えば5秒くらいで来るわよ。例えば同僚の這い寄る混沌とか……」
「同僚が這い寄る混沌……? あれか、宇宙人の方か?」
「パイセンの知識の範囲って謎ね。何で知っているのよ……」
「以前にロマニが読んでいたから……暇つぶしに」
微妙な空気になった、そのときだった。
麻菜と虞美人の前方より、ゴルゴーンが近づいてきた。
彼女は麻菜が絡みに行かない限りは部屋に引きこもっているか、部屋を襲撃してきた姉様達に玩具にされているかのどちらかである。
「麻菜、ここにいたのか」
「ゴルゴから私に会いに来るなんて珍しいわね」
「その略し方はやめろ。それはそうと次の特異点だが……姉様達は連れて行くなよ」
その言葉に思わず麻菜と虞美人は顔を見合わせる。
「何で?」
「何となくだ。いいな? 絶対に連れて行くなよ」
ゴルゴーンは言うだけ言って、素晴らしい速さで去っていった。
麻菜と虞美人は互いに察する。
「後輩……分かっているわよね?」
「勿論、ぐっちゃん先輩……ゴルゴーンがもし敵になっていたら、姉様達ぶつけよう」
麻菜は素敵な笑顔でサムズアップし、虞美人もまた同じく笑みを浮かべてサムズアップ。
「で、真面目な話だけど、ぐっちゃんパイセン。もしも神々が敵に回ったら……私も本気、出していいかな?」
にこやかな笑みを浮かべた麻菜の問いかけ。
虞美人はジト目で答える。
「……くれぐれも、目的を忘れるなよ」
「分かっているわよ。でも、仕事にもささやかな楽しみがないと駄目でしょう」
麻菜は獰猛な笑みを浮かべながら、そう答えるのだった。