全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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即堕ち女神

「いやー、ぐっちゃん先輩。魔獣達は強敵だったわね。見てよ、こことかこことか……極めつけは膝に剣を受けてしまって……」

「ええ、後輩。私も5回くらい爆散したわ」

 

 麻菜と虞美人の会話にマシュはおずおずと問いかける。

 

「御二人が戦った相手って……?」

「私の方は色々と拗らせている真祖みたいな受肉した精霊だったわ。危なくなったら、すぐ自爆するのよ」

「私の相手は混沌を煮詰めて人型に押し込めたような奴ね。見た目だけは良いけど、中身は最悪。そこらの汚泥の方がまだマシ」

 

 互いに笑顔でそう答えてくれるが、マシュとしては苦笑するしかない。

 何だかんだで仲が良いとカルデアでも評判である。

 

『喧嘩も済んだところで、空に何か見えないかな? 接近してくる謎の飛行物体があるよ』

 

 ロマニから通信が入ると同時に麻菜達もその気配を察した。

 中々に強大なもので、3人は揃って飛行物体が接近してくる方向へと顔を向ける。

 

『何だか高度が少しずつ低下しているから、気をつけてね』

「UFO!? UFOなのね!?」

『たぶんだけど神とか魔獣とかそういう系じゃないかな』

 

 そんな会話をしているうちに麻菜達はその視界にその飛行物体を捉えた。

 ぶつかるぅ、とかいう叫び声と共にそれは降ってきたが、麻菜は素早く動く。

 彼女はジャンプしてその人物――黒髪の少女を見事にキャッチした。

 腕の中に収まった彼女に麻菜は微笑みかける。

 

「あ、ありがと……その、降ろしてくれると……」

 

 同性ではあるが、お姫様抱っこという形であり、少女はちょっと恥ずかしそうだ。

 麻菜は彼女を下ろす前に虞美人とマシュに向けて告げる。

 

「先輩! 後輩! 空から美少女が!」

 

 虞美人は深く溜息を吐き、マシュはくすくすと笑う。

 

 

 

 やりたいことをやった麻菜は少女を地面へと優しく下ろす。

 彼女は地面に立って告げる。

 

「この私を助けてくれたことには感謝してあげるわ」

「誰かが困っていたら助けるのは当たり前らしいからね。これもまた善行、ソワカソワカ」

「何だか不穏な呪文みたいなものが最後にあったけど……それはそうとして」

 

 じーっと少女は麻菜を見つめ、虞美人へと視線を移し、最後にマシュを見た。

 

「……何というか、色んな意味で変な連中の集まりね」

「はぁ!? 私とマシュは違うだろ!? 変なのはそこのバカだけだ!」

 

 虞美人が怒るが少女は意に介さない。

 

「いやだって全体的に変じゃない」

 

 少女の言葉に麻菜は鷹揚に頷いて、言葉を紡ぐ。

 

「パイセンが変なのであることは皆が知っているからいいとして」

「おい変な後輩」

「そうです、私が変な後輩です……って伝説のネタはいいとして、話を進めましょうか」

 

 そこで麻菜は真摯な顔で少女を見つめる。

 見つめられた少女は身構えた。

 

 麻菜は意を決して告げる。

 

「産まれる前から愛してました! 私だけの女神になって!」

「マシュ、やれ」

「はい!」

 

 虞美人の指示、それに即応したマシュはかつてない程の素早さで盾を顕現させ、盾の角で思いっきり麻菜の後頭部をぶっ叩いた。

 人体から絶対に出てはいけない音が辺りに響き渡る。

 

 頭を両手で抑え、地面を転がって悶絶する麻菜に少女は若干引き攣った表情で、虞美人へ視線を向ける。

 

「さすがの私も、それはちょっとどうかと思うけど……?」

「そこのバカは見なかったことにして頂戴。で、力ある女神のようだけど、どちら様?」

 

 虞美人の問いかけ、マシュは盾を素振りし、麻菜が何かを仕出かしたら即座に追撃する構えをみせている。

 一方の麻菜はでっかいたんこぶができたらしく、どこから取り出したのか殴られた部分を氷嚢で冷やしている。

 

 本来ならば少女のプライド的に突っぱねるのだが――何だかそうすると面倒くさそうなことになりそうだ。

 

「私はイシュタルよ」

 

 すると誰よりも速く反応したのは麻菜だった。

 

「マジで!? 本物? 本物なのっ!?」

「ええ、本物よ」

 

 ずいずいっと迫る麻菜にイシュタルは鼻高々に告げる。

 

「おい後輩……」

「先輩……」

 

 数分前にやらかしている為、虞美人とマシュからよろしくない視線を向けられるが、麻菜は胸を張って告げる。

 

「イシュタルっていえば強力な信仰と強大な力を有しているが故に、他の宗教から罵られるくらいの大女神よ。むしろ会って興奮しないのがおかしいんじゃない!?」

「ふふん、そうよ、もっと私を讃えなさい」

「とりあえず、私からの贈り物を……」

 

 麻菜は無限倉庫から彼女に似合いそうなものを取り出す。

 それは2粒のルビーだった。

 明るすぎず暗すぎず、鮮やかな赤色。

 大きさもかなりのもので、30カラット程度はありそうだ。

 

「あなたの美しい瞳と同じものよ」

 

 イシュタルは仰天し、震える手で差し出されたルビーを指差す。

 

「い、いいの? それ、絶対高いわよ……?」

「いいわよ。だって、あなたとの出会いにはこの宝石以上の価値があるもの」

 

 麻菜の言葉にイシュタルは恐る恐る、そのルビーを受け取った。

 彼女はしげしげと眺め、ぎゅっと両手で握りしめる。

 

「ありがとう、大切にするわ」

「ええ。そうしてくれると私も嬉しい。ところでイシュタル、私達の事情はあなた程の女神なら分かると思うけど……私達は世界を救う仕事をしているのよ。異常なことってないかしら?」

「あるわ。それも含めて色々と教えてあげる。情報交換をしましょう。あ、ウルクには行く?」

「お願いするわ」

「任せなさい! せっかくだから歩いて行きましょうよ。ここらの土地について色々説明してあげる」

「ええ、頼むわ」

 

 イシュタルは上機嫌で、先頭に立って歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 そしてウルクを目指して歩き始めた数時間後のこと。

 マーリンがフードを被った幼女と共に麻菜達の前に姿を現したのだ。

 

「あ、マーリンが幼女誘拐をしている。謎のヒロインXXに通報しなきゃ……!」

「おっと麻菜君、誘拐じゃないからその通信機はポケットにしまおう」

「誘拐犯は皆そう言うのよ」

 

 麻菜の言葉にマーリンの横に立っていたフードの幼女はテクテクと麻菜の傍へと歩いていき、その服の裾を掴んだ。

 

「助けてください」

「ほら! ほらほらほら!」

「おいおい勘弁してくれよ。あとアナ、そこの麻菜君は僕よりもヤバいからね。色んな意味で」

「少なくとも、私の勘ではあなたよりはマシです。色んな意味で」

「酷いなぁ……僕ってそんなに駄目?」

「王の話をする時以外はまるで駄目な男とカルデアの一部界隈では有名よ」

 

 おーまいがー、とマーリンは麻菜の言葉に大げさに落ち込んでみせる。

 そんな彼に対してイシュタルは呆れたように溜息を吐いて、問いかける。

 

「また何か変なのが現れたわね。あなた達が特異点とやらじゃないの?」

「実はよくそう言われるんだけど、私が世界を滅ぼすってなったらこんなまどろっこしいことはしないので」

「それもそうよね」

 

 麻菜の言葉に納得するイシュタルを見て、マーリンはうんうんと頷く。

 

「打ち解けているみたいで良かったよ。ところで三女神同盟って知っているかい?」

「麻菜達にも言ったけど、私は違うわよ。そういうのがあるらしいって聞いただけ」

「イシュタル以外が女神を名乗るなんてけしからんので、叩きのめしてやろうと考えていたところ」

「もう麻菜ったらー」

 

 このこの、とイシュタルに頬を突かれる麻菜を見て、虞美人とマシュは女の子がしてはいけない顔をしていた。

 それは色々な負の感情が混ざりあってできたものだ。

 

「……芥さん」

「みなまで言うな、マシュ。問題児が増えたなんて……悪夢だ」

 

 マーリンはその様子にけらけら笑う。

 

「一応聞くけど……イシュタルは麻菜君と契約を?」

「当たり前じゃないのよ」

「色々と分かった上で?」

「勿論よ。色々な意味で普通じゃないことくらい分かるわ。それも含めて私は受け入れるわ」

 

 マーリンは頷いて、麻菜へ告げる。

 

「いやー、あのイシュタルからこんなに好意を向けられるなんて……麻菜君、何かしたの?」

「ただ敬意を持って接しただけよ。私としては歴史上の偉人や神話の登場人物達と肩を並べて戦えるなんて、至高の栄誉だと思っているので」

「その割には斜め上の方向にやらかしているけど……」

「それはそれ、これはこれよ。あと欲望に素直という設定なので」

「まあ、君みたいな存在に真面目になられると、それはそれで気味が悪いからねぇ」

 

 マーリンの言葉に虞美人は反論する。

 

「おい、マーリン。私とマシュがこの数時間でどれだけ精神的に苦労したか、知りたいか?」

「そうです、マーリンさん。先輩とイシュタルさんは色んな意味で波長が合い過ぎです。いや、先輩の懐がブラックホールみたいに底なしなことは知っていますけども」

 

 2人の言葉にマーリンは笑って告げる。

 

「謹んでお断りするよ。それはさておき、ウルクへは私達も同行しよう。いつ出発する?」

「マーリン院……流石に無理があるわねこれ」

「無理だねぇ」

「それはさておき、出発をする前にやっておきたいことがある」

 

 真面目な顔で告げる麻菜に虞美人とマシュは碌でもないものを感じた。

 イシュタルのときもそうであったのだ。

 今度はアナに愛してましたとか言いかねない。

 

 マシュは盾を、虞美人は剣を用意したところで――麻菜はアナを抱き寄せて、そしてカルデアへと連絡を入れる。

 

「カルデア! 大至急アナスタシアを!」

『ふぁっ!?』

 

 ちょうどコーヒーを飲んでいたロマニは仰天した。

 

『敵かい!? こっちにはそういう反応は無いけど……!』

「違うわ。アナスタシアは氷魔術だけど雪も何とかなる筈」

『……雪?』

「ええ、そうよ。アナスタシアは雪の女王ってことにして、ここにいるアナと並べて、アナと雪の……」

『それ以上はいけない』

「記念撮影ってことで。そのくらいは良いでしょう?」

『仕方がないなぁ……所長、いいですか?』

『……まあ、いいんじゃないの……麻菜、あとで埋め合わせはしなさいよ』

 

 オルガマリーの許可が出たことでロマニはアナスタシアを送り込む準備に取り掛かった。

 

 その後、アナスタシアも交えた写真撮影は1時間程で終わり、ようやく麻菜達はウルクへと向けて歩みを再開する。

 なお、撮影会終了後、アナスタシアはカルデアへと帰還した。

 

 


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