全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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ウルクを堪能しよう!

 用意してもらった住居の内装を整えたところで、麻菜は虞美人とマシュに対して、早ければ3日後に行われる救出作戦について、頭の中で纏めていたことを披露する。

 前世のリアルでの経験に基づいたものだ。

 アナは花を買いに、イシュタルは散歩に行くと出かけていたが、まずはカルデア組の意思統一が先だと麻菜は考えた。

 

「今回の救出作戦にあたって必要なものは速さである。本作戦の目標は残存する住民及び将兵の退避を完了させることであるが、現地では敵対勢力との遭遇戦が予想される為……何よ? 何か文句があるの?」

 

 麻菜はジト目で虞美人とマシュへ問いかけた。

 2人は目を丸くしており、いつになく真面目にやっている麻菜に驚きであったのだ。

 

「……あんた、どっかの軍人?」

「先輩、カッコいいです」

 

 がっくり、と麻菜は項垂れた。

 昔取った杵柄とばかりに、真面目にやってみればこの反応だ。

 

 とはいえ、普段が普段であるので自業自得でもある。

 

「というか、私達だけじゃ人手が足りないわ」

「パイセン、これから色々と説明しようとしたときに水をさされた私の気持ちを答えよ」

「普段からもうちょっと真面目にすればいいんじゃない?」

「それはできない相談ね」

「じゃあ諦めなさい」

 

 虞美人の言葉に麻菜は不満そうに口を尖らせるが、改めて説明を開始する。

 

「ところでイシュタルさんとアナさんはどこへ?」

「イシュタルは散歩、アナは花を買いに行ったわ」

 

 アナはともかく、イシュタルの散歩というところに虞美人とマシュは何か引っかかるものを感じる。

 イシュタルの性格的にただ散歩をしてくるわけではないだろう。

 

「散歩の途中で偶々魔獣に襲われている人を見つけたりして、仕方なく助けているんじゃないのかしらね」

 

 麻菜の補足説明に2人は微笑ましい気持ちになった。

 イシュタルの性格的にありえることだった。

 

「それはさておき、救出作戦において必要な人材は強くて責任感がある奴よ」

 

 そこでだいたい見当がついた。

 故に虞美人が問いかける。

 

「誰を連れてくるつもり?」

「Aチームは万が一に備えて取っておきたいから、サーヴァントで……オルタではない騎士王と愉快な円卓の皆さんに頑張ってもらおうかなと。彼ら、民を敵から護りながら逃がすっていう状況だから張り切ってやってくれると思う」

 

 確かに、と虞美人もマシュも頷いた。

 性格的には勿論、強さも申し分ない。

 

「というわけで、聞いていたわね? ロマニ」

『はいはいっと。いやー、僕としては民を逃がすより敵を殲滅したほうが速いとか言ってカルナとかアルジュナとかを呼ぶかと思ったよ』

「それについてだけど……三女神をぶっ倒してハイ終わりならいいんだけど、本当にそうなのかしら?」

『……どういうことだい?』

 

 麻菜の疑問にロマニは問いかける。

 

「獅子王が言うには、ここにある聖杯って魔術王が自ら送り込んだ……早い話、ガチでやったやつなんでしょう? 私なら絶対に悪辣な罠を仕掛けているわよ。どうあがいても絶望みたいなやつ」

『つまり?』

「簡単過ぎるってことよ。三女神の誰かが聖杯を持っているっていうパターンとは考えにくい……あからさま過ぎるもの。そりゃ女神は強大でしょうけど……こちらにはイシュタルがいる。彼女がグガランナをぶつければ大抵の輩は死ぬわ」

 

 麻菜はそう言いながらも、ウルクへの道中にてグガランナの話を振ったとき、何故かイシュタルが焦っていたような気がした。

 グガランナがどっかいった、なんてことがあったら神話に残る喜劇であるのでさすがにそんなことはないだろう。

 

 ともあれ麻菜にとってはグガランナは保険だ。

 彼女は自信を持って告げる。

 

「ま、問題ないわ。何が出てきたところで私が勝つ」

 

 何をやらかすつもりだ、という視線が虞美人とマシュから送られた。

 ロマニは苦笑するしかなかった。

 

「先輩、結局どういう作戦にするんですか?」

「まず私が現地へ行く。私の位置情報を元にしてカルデアからサーヴァントを投入、同時に転移門(ゲート)を開く。でもって、住民達は門を通ってウルクへ直行」

「先輩にしかできない力技ですね……」

「だけど効率的よ。私は遊んでいるとき以外はなるべく効率的にやりたい」

 

 麻菜は胸を張ってそう宣言する。

 

「堂々と遊んでいるって言いましたね」

「本当にこいつ、馬鹿よね……」

「楽しいっていうのは人生で重要なことよ」

 

 マシュと虞美人によるツッコミであったが、しかし麻菜はそう答える。

 ロマニとしては麻菜の言い分も正しいと理解できてしまうので、何とも言えない。

 そして麻菜はロマニへ依頼する。

 

「ともあれ、ロマニ。ありえないっていうような、一番ヤバい存在を探しといて」

『分かった。僕は君の心配が杞憂に終わることを祈るよ』

「安心して。向こうがヤバいものを出してきたら、私もヤバいものをいっぱい出すから」

『おっと特異点ごと消し飛ばすのは無しだ』

「だが、向こうが特異点ごと消し飛ばそうとするなら致し方ないのでは……?」

『うーん……ともかく、調査してみるから。いきなりドカンは無しだよ?』

「特異点が消し飛ばない程度ならセーフよね」

『……まあ、うん……そうだねぇ……』

 

 ロマニの答えに麻菜は満足げに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦説明も終えたところで、麻菜はウルクのとある場所へと向かう。

 虞美人は項羽をカルデアから呼び寄せることで対処し、ついてこようとするマシュはレオニダスのところへ防衛に関する状況を聞いてきて欲しいと依頼して、うまく撒いた。

 

 麻菜は事前にカルデアにある蔵書やら何やらでこの時代における色々なことをリサーチ済みだ。

 

 そんな麻菜がウキウキ気分で向かったのはイシュタルを祀っている神殿だった。

 その規模は非常に大きく、神殿内部には図書館までもあるらしい。

 とはいえ、イシュタルがそこにいるというわけではない。

 

 麻菜の目的はイシュタルではなく巫女だ。

 目的を果たすべく彼女は手近なところにいる巫女に声を掛ける。

 

「すいません、寄進をしたいんですけど……」

 

 彼女が差し出すのは金のインゴットを3本。

 しかし、巫女は麻菜の顔を見るなり、お待ち下さいと言って神殿の中へ走り去っていった。

 

 5分程すると巫女はシドゥリを連れてきた。

 どうやらちょうど神殿に来ていたらしい。

 

「麻菜様、失礼ですが……女性ですよね? 神聖男娼をお望みですか?」

「特殊な薬で男のアレを生やせるので、神聖娼婦をお願い」

 

 その意味を正確にシドゥリは理解する。

 どうしてそんな薬を持っているのか、などと余計な詮索はしない。

 重要なのは麻菜が神殿に寄進をしたことであり、その対価として神の活力を授けてくれるよう求めていることだ。

 

 これはウルクにおける特殊な慣習というものではなく、バビロニア全土は勿論、ギリシアなどにもある神殿売春だ。

 この時代において性と聖は密接なものであり、神殿売春とは宗教上の儀式であった。

 

「分かりました。では、彼女がお相手を致しますので……」

「ええ、よろしくね」

 

 麻菜は満面の笑みを浮かべて神殿の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 そして数時間後――

 

「神聖な儀式っていうのはいいものねぇ」

 

 そんなことを言いながら麻菜はスッキリとした気分でウルクの通りを練り歩いていた。

 

「というか、シドゥリ。私についてきていいの? 仕事は?」

「今日はもう大丈夫です。あと王からは麻菜様に注意しろ、と言われておりますから」

「警戒されるようなことはしてないんだけど……とりあえず写真を撮りましょう」

 

 麻菜は無限倉庫からスマホと自撮り棒を取り出した。

 シドゥリがそれらに目を丸くしているうちに、麻菜はセッティングを終える。

 通行の邪魔にならないよう、麻菜はシドゥリの手を引っ張って通りの端へ。

 

「はい、笑ってー」

 

 麻菜の言われるがままにシドゥリは笑ってみせる。

 

「どう?」

「これは……魔術の類ですか?」

 

 スマホの画面にある麻菜とシドゥリの写真を見て、シドゥリは問いかける。

 

「ぐへへへ、これは4000年以上先の技術で作られた魔道具、これでシドゥリの魂は私のものだ」

「何と恐ろしい……! 魂を抜き取るなんて……!」

 

 戦慄するシドゥリに麻菜はけらけら笑いながら、答えを明かす。

 

「というのは冗談で、絵と鏡を合体させたようなものよ。簡単に言うと鏡に映ったものを絵として保存できるっていうやつ」

「なるほど……」

「しかも、それなりに安い値段で4000年以上先ではあそこらで遊んでいる子供だって持っているわ。あとこれ、世界中の誰とでも一瞬で連絡が取れる通信機器でもある」

「そんな時代が……!」

「まあその分、魔術とかそういうのは日陰に追いやられて、誰にだって使える技術が世界に広く浸透するわ」

 

 麻菜の説明にシドゥリはしげしげとスマホを見つめる。

 

「あと動画も撮影できるから……」

 

 麻菜はスマホの撮影モードを切り替えて、スマホのレンズを向ける。

 

「シドゥリ、何か言って」

「えっと、何を言えばいいでしょうか……?」

「麻菜様大好き愛してる結婚してって言って」

「それはちょっと……」

 

 シドゥリの拒否に麻菜はしょんぼりしながらも録画を終える。

 

「はいこれ」

 

 そして、麻菜はシドゥリに画面を見せる。

 そこではつい数秒前に行われていたやり取りが動画として記録されていた。

 

「これは凄いですね……」

「他にもこういうのも見せてあげる」

 

 麻菜は保存フォルダから従姉妹であったり、あるいは立香と一緒に旅行をしたとき、あるいは個人的に世界中を回ったときの写真や動画をシドゥリに見せる。

 しげしげと彼女はそれらを見る。

 

「こういう未来になるのですか……」

「ええ、こういう未来になるのよ。まあその分、色々と失ったものも多いけど。要は物質的に豊かになるか、精神的に豊かになるかっていう兼ね合いね。ここは後者のほうが優れている気がする」

「そうでしょうか?」

「そりゃウルクでも表には出ないだけで色々と個々人における悲劇や惨劇、その他色んな問題はあるでしょうけど……私が見た感じ、ウルクのほうが社会の闇みたいなのはなさそう。カネの為なら何でもやるっていうのはウルクの民にはいなさそう」

 

 そこで麻菜は言葉を切って、一拍の間をおいて尋ねる。

 

「話は変わるけど、これからご飯とかどう? あなたが見てきたウルクを知りたいし、私が見てきた未来のことを話したい」

 

 そう言われてしまうとシドゥリとしても興味がある。

 

「そういうことでしたら構いませんよ」

「決まりね。あなたのオススメの店を教えてほしいわ」

 

 シドゥリとの食事ということで麻菜は満面の笑みであった。

 

 

 なお、この会話後、まっすぐに店へは向かわず、麻菜はシドゥリと一緒にウルクのあちこちで動画と写真をめちゃくちゃたくさん撮りまくった。


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